ファーストインプレッション
昔書いたものを発掘したので投下します。原作オープニングの槍弓邂逅シーンを腐らせてみた。…と思ったら、原作改変?続きはありません。安定の弓スキーですのでご了承下さい。 ちなみに、ストックにEXTRA妄想ネタがあるんですが、次回投下するならどっち? どちらも本戦前の主従契約までしかないんですが、投下するとなると手直ししないとなので。残念ながら腐ってはいませんが、よろしければご回答を~。【4/26追記】アンケートありがとうございます!圧倒的にマスターエミヤですね!了解しました。ファイル破損で危うくアンケート取り消しの危機が発生しておりましたが(実際ここに書きかけた)、辛うじて復旧できた!ので、後日上げさせて頂きます~。
- 382
- 302
- 13,584
ヒュウ…と風が通り抜ける。僅かに砂を孕んだ渇いた風だ。
その風を受けて、数メートル先に立つ男の外套が翻った。
じっと相手を観察しつつ、ランサーは全身に力を行き渡らせる。
先程は、声を掛けた途端の素晴らしい反応速度と判断力でその場を離脱されてしまい、よくよく観察する暇もなかったが。
どうやらすぐさま仕掛けてくるような血気盛んなタイプじゃないらしい。背後にマスターだろう少女を庇い、じっとその場に佇む様子をいいことに、上から下へ観察する。
上げられた髪は雪のような白銀。僅かな風に靡く様は、見た目の印象と違って柔らかい髪質なのかもしれない。髪と同色の睫毛は伏せられ、その長さを際立たせる。秀でた額にすっと通った鼻梁は知的さを窺わせ、鋭角な頬のラインに細い頤は精悍さと同時にどこか儚さを感じさせた。褐色の肌が月光を弾き、どこか艶めかしい。身を鎧う黒は身体のラインを際立たせ、存分に鍛えられているだろう身体を惜しげもなく晒し、細く締まった腰を強調させる。纏う紅い外套が、冷静沈着そうな男のイメージに反して挑発的だった。
―――これは。
ランサーは、密かに舌なめずりをする。極上の獲物を見つけた獣のように。
そして、少女が男に告げた。
「あなたの実力、見せて頂戴」
その言葉に応えて、男がふっと伏せていた瞳を開いた。
降り注ぐ月光に似た、灰がかった銀の眼差し。研ぎ澄まされた刃のように鋭い、静かな澄んだ瞳。煙るように美しい―――。
その瞳を見た瞬間、ランサーは息を呑んだ。
そして思わず、こんな闘いの瞬間を目前にしたランサーらしからぬことに、余所事を呟いていた。
「お前―――美人だな……」
向かい合った男が、それまでの鋭い表情を崩して瞬きを繰り返した。
「……は?」
男が背後の少女を振り返る。そして再びランサーに視線を戻す。また少女へ。そしてランサーへ。ランサーはその間ずっと、男を見つめていた。
ようやく、ランサーの視線が自分に向けられているに他ならないとわかり、その瞳にありありと困惑と不審を載せて、おずおずと口を開いた。
「…………………私が、か?」
僅かに首を傾げ、自分を示すように片手を軽く胸に当てて。
―――やべぇ、可愛い……。
「勿論。すげぇ美人」
「……なッ?!」
かくん、と目と口を見開いた男の背後から、少女がひょいと顔を覗かせた。こちらもまた、タイプの違う美少女である。
「あら。あんた見る目あるじゃない」
「凛?!」
無防備に敵に姿を晒すんじゃない、とランサーから視線を外さぬまま腕で押さえようとする男に構わず、少女――凛は、腰に手を当て仁王立ち。
「美人でしょ、こいつ。我ながら良いのを引き当てたと思ったわ。この私のサーヴァントなんだから、実力は勿論、見た目も伴ってないとね」
凛の言葉に、ランサーはうんうんと頷く。
「美人主従で羨ましいこった」
「きっ君達はッ! 先程から一体何を言っているのかね?! よりにもよって私を美人などと…! 目が腐っているのか?!」
羞恥にか怒りにか、頬をうっすら染めて高ぶった感情に灰銀の瞳が煌めく様は絶品。これを美人と言わずして何と言うのか。
どうやら相手のマスターは話のわかる相手らしいし、しばし闘いはお預けと、幾分身体の力を抜く。
「おいおい嬢ちゃん。まさかこいつ、これだけの容姿のくせして、自覚がねぇのか?」
そんなランサーの様子を正確に読み取ったのか、凛も幾分身体の構えを解いたようだった。本当に、話がわかる。
「そのまさかよ。それどころかせいぜい十人並みとか言うんだから、十人並みが笑っちゃうわよ」
「はあ? まさか本気じゃねぇだろう?」
「生憎だけど、こいつは心底本気よ。謙遜してるわけでもないわ。ほんっとーに、本気で、自分は並だと思ってるんだから!」
言い様、どん、と結構手加減なしで傍らの男に拳を当てる。
―――わかる、わかるぜ嬢ちゃん。こんな銀の水晶みてぇな奴が、自分は道端の石ころだとか言ってたら、そりゃあむかつくぜ。
ランサーは内心で凛に同調し、深く頷いた。
「事実だろう…。それに、それを言うなら君達の方が余程美人だと思うが」
「う~む、美的感覚がおかしいってわけじゃあねぇのか…」
「綺麗なものは綺麗、可愛いものは可愛いって感じる感性はちゃんとあるのに、どういうわけか自分には適応されないみたいなのよね」
ランサーと凛が、じっとりと男を見つめる。今この時は、この2人の方が余程主従っぽいその息の合った様子に、うっと男の腰が引ける。
「な、何故私がそんな目で見られねばならん! というかだな、君達…何やら変に意気投合しているようだが、今が聖杯戦争中で君達は敵同士だということを、よもや忘れてはいないだろうな?!」
「「あ」」
同時に声を上げるふたりに、男は心底呆れたといった風に溜息を吐く。
「…あー、なんかやる気が削がれちまったな。それもこれもお前が美人なのが悪いっ」
「またそれかっ。目が腐っているのは君の責任であって私は関係ないっ」
びしっと指を突き付けられ、言い返す男に凛がにっこりと微笑んだ。
「――あら。私の目も腐ってるって言いたいの、アーチャー?」
「り、凛、私は別に――、……君、またうっかりか」
凛の綺麗な笑顔に心なしか顔を青褪めさせた男――アーチャーは、ふう、と息を吐いた。
「ちょっと、話を逸らさないで……って、あら? …あ、あぁっ!」
しまった――!! と、優雅からは程遠い様子で頭を抱える凛。
「ほー、お前アーチャーか」
ランサーはふむふむと頷く。
聖杯戦争で喚び出されるサーヴァントは、伝説に残る英雄達である。そういった英雄達は、大抵弱点から死に様まで伝説中に語られているものだ。つまり、名を知られると言うことはその戦術から弱点までも敵に知られてしまうということだ。故に、彼らはマスターからもクラス名で呼ばれる。真名がばれないようにとの配慮だが、かといってクラス名も大声で吹聴するものではない。当然クラス名からそのサーヴァントの得物はわかってしまうし、各クラス固有のスキルもある。戦争が進めば各々の状況も互いに把握していくだろうから自ずと知られてはいくだろうが、隠せる内は隠しておくに越したことはないのだ。
凛も可能な限り隠しておくつもりだったのだろうに、こんな序盤も序盤からばらしてしまうという自らの失態に悶絶している。
ランサーとしては、別段自分のクラスを隠すつもりはないので、こちらも告げてしまおうかと思ったところへ。
「…まあ、そう気にするな、凛。こちらもこの男のクラスはわかっているしな」
「ほう?」
「えっ」
ランサーと凛が、アーチャーの言葉に同時に声を上げる。
ランサーは、まだ己の得物である槍を出してはいない。見た目でわかることと言えば、まともに喋っていることからバーサーカーではない、ということくらいだろう。以前に顔を合わせたこともない。或いは、どこぞで自分を見かけて、その時にクラスを知ったのだろうか、とランサーは推測してみる。
ランサーは、言ってみろ、とアーチャーへ顎をしゃくる。
「君はランサーだろう?」
躊躇いもなく言い放つその様子に、迷いは一切見られない。万一違っているなどとは微塵も思っていない、揺るぎない問いかけ。
「ふん、正解だ」
それまでのどこかだれた雰囲気が引き締まる。アーチャーを見据えるランサーの瞳は鋭く変わっていた。
だが、ランサーは空手のままで、にっと笑った。
「なんで俺のクラスを知っていたかは興味のあるところだが……お互いのクラスを知ったところで今回は分けってことにしねぇか」
「…このまま退くというのか」
「ああ。殺り合うにゃあどうもタイミング外しちまったし、取り敢えず偵察って役目は果たせたしな。仕切直しが必要じゃねえか? 俺もそっちも」
「……」
アーチャーは凛の答えを待つように黙して語らない。サーヴァント単体のランサーはともかく、確かにこういった場面での判断はマスターの領分である。
「…そうね。そちらが退いてくれるというのならこちらに追う理由はないわ。邪魔された結界の解除をしなくちゃいけないし」
マスターたる凛の判断に、アーチャーは何を思うか瞑目する。
「よし。じゃあ俺はこれで退かせてもらうぜ。次逢うまでやられるんじゃねぇぞ、アーチャー!」
言い放って、ランサーは地面を蹴った。あっという間に凛達の視界から消える。
今宵も満足のいく闘い――どころか闘いすらできなかったが、それでもランサーは満足だった。非常に好みな主従と遭遇できたのだから。特にアーチャーがイイ。口許には笑みが浮かんでいた。
一方、校庭に残った凛は、踵を返して校舎へ引き返す。
アーチャーは校庭の端を見つめたが、何の気配もなかった。今も、先程までも。
難しい顔をしたまま、アーチャーは凛の後を追う。
それから数分後、学校に残っていた最後のひとりが校庭を横切っていった。先程までそこで何が行われていたのか知る由もなく、故に何事もなく。
何も、その夜は起こらなかった。
Comments
- ぬめぬめっちょまっちょ(霧川)June 9, 2024