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The Works "C.P.i.S" is tagged "槍弓" and "腐向け".
C.P.i.S/Novel by もふもふ

C.P.i.S

18,577 character(s)37 mins

カルデアにて、ランサーのランサー()の大きさを確かめたいアーチャーのお話。
えろはないけど品もないです。
しょうもないギャグです。

!注意!
・キャラの乖離や解釈違いがあると思います。口調も怪しい。
 かっこいいアーチャーはいません。
 かっこいいアーチャーはいません!
・ひたすら品がない話です。アレのことばっかり話してる。
・真名出ます。
・マスターはぐだ子ちゃんです。

以上大丈夫そうな方は、お楽しみいただけたら幸いです。


原作についてうだうだ言っていた私ですが、ついに先日、FGOを始めてしまいました…!
すみませんすみません、でもなんかこう、サーヴァントいっぱいいるし?同陣営だし?そこまでギスギスもなく、というか絡み自体大してないのでは?とか思った訳です。
それで基本はストーリーとかバトルとか普通に面白いゲームだなって楽しんでたのですが。

ワンジナイベにやられました_(:3 」∠ )_

えっ何あの人たちめっちゃイチャイチャしてるじゃん…?
急に槍弓スイッチ入ってしまい、体内の温度差で風邪引きそうでした。
やるなFGO…ぐぬぬ…。
そんな感じで、今後はカルデアの解像度が上がる…と…いいな…?
次に書きたいネタは決まっているので、今後もお付き合いいただけましたら嬉しいです^^

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 カツ、カツ、カツ、カツ。
 夜のカルデア、その廊下を歩く男が1人。夕食が終わってそう間もない時間であり、大して静まりかえっているわけでもない。にもかかわらず、足音をやたらと大きく耳が拾ってしまうのは緊張故だろうかと、男―――アーチャーのエミヤは足を早めながら考えていた。
 なにも、悪いことをしようというのではない。恋人の、しかも大層不本意ではあるものの周知の仲となっている相手の部屋に行くだけである。今更顔を合わせるのにどうこうというような付き合いでもない。
 しかし、疚しい気持ちが一切無いかと言われれば、迷わず首を縦に振れるとは言い難く。白日の元に晒すには余りにアレな目的は、万が一子ども姿のサーヴァントに無垢な瞳で「何しに行くの?」なんて聞かれようものならどんな百面相が飛び出すかわかったものではない。如何に日頃ポーカーフェイスで通しているエミヤといえども、である。
(いやだがしかし、確認はしておかねば……これ以上時間を掛ける訳には……!)
 そう、エミヤの本日の目的とは。
(今日こそランサーの、チン……、ペニ……、陰け……、ああもう!アレ・・のサイズを、把握する……!)
 つまり、恋人たるランサーのクー・フーリンとのセックスにあたっての、敵情(?)視察なのである。


+++


 事の発端は数日前。
 ランサーの多少強引で、しかしまあ健気なアプローチにエミヤが折れる形で始まったこのオツキアイは、順調にステップアップを重ねていた。
 デートをして。(実情は素材集めや食料調達のレイシフトだが、2人で出掛けるならデートらしい。ランサー曰く。)
 手を繋いで。ハグも、キスもして。
 ……そこで止まった。
 興味がないのではないらしい。ハグやキスにそういった色が載ることもあるし、あの紅い瞳が情欲を湛えているところも、エミヤは知っている。それでもランサーは、決定的な一線を越えようとはしなかった。
 それが、何かを待ってでもいるのだろうかと、ふと思ったその時。エミヤは雷に撃たれたような衝撃を覚えた。なんならピシャァアン!という音まで聞こえた気がした。
(もしや、私から誘われるのを待っているのでは!?)
 「惚れたら抱く」を公言(流石にここカルデアでは聞いていないが)していた男がどういう風の吹き回しか、はたまた自分の知らないケルトの風習か。もしくは。
『誘ってくんねえかと思って待ってはみたが、やっぱアーチャーには難しかったかァ?しょうがねえよなー、アーチャーだもんな~?』
 とか何とか言ってくるのかもしれない。明日にでも。
 それは何だか、とても―――腹立たしい。
 なんならランサーのにやにやとこちらを煽ってくる顔まで想像できて、エミヤは眉間の皺を深くした。
 ランサーの逸話のように百戦錬磨とまではいかないが、エミヤだって男である。侮られたとあっては、廃るのだ。
(見ていろランサー、貴様が驚くほどスマートに誘いをかけてやるからな!)
 高笑いでもしそうな気分で、エミヤはそんな決意を固めたのだった。

 そして話は冒頭に戻る。
 聞く人が聞けば、―――例えば緑の弓兵なんかが聞けば、「どうしてそうなるんですかい……」と頭でも抱えてしまいそうだが、エミヤとしてはきちんと筋が通っている。
 すなわち。
 スマートに誘うにあたっては、その後もスマートに進めるための「準備」が必要である。「準備」が足りなかったばかりに「穴」に「棒」が入らない、などということは言語道断。つまりは「穴」をどこまで拡げればよいのかを知るため、「棒」の大きさを把握するのは必須である、と。
 ちなみに、どちらが「棒」でどちらが「穴」かはおろか、彼らの会話にはセックスのセの字も出てきたことがない。
 にもかかわらずエミヤが受け入れる側であることを前提に話を進めているのは、「負担が大きい方は自分が」というもはや染み付いた自己犠牲精神の賜物でもあるのだが、敢えてここで一つの名言を挙げておこう。
 恋は、盲目。
 実のところ、エミヤが折れたのは「そこまで言うなら付き合ってやろう」という類いのものではない。誰にも告げるつもりなど毛頭無く、存在すること自体が罪だとでも言うようにひた隠しにしてきた想いを、こじ開けるでもなく、引きずり出すでもなく。まあお前はそうだろうよと(その訳知り顔にはちょっとムカついたが)まあるく優しく大事にされて、与えられるばかりについに耐えられなくなったエミヤが差し出せて、かつランサーが欲しがりそうなものなど、結局はそれ・・―――自分自身と、その心くらいしかなかったのだ。


+++


 そんな状態のエミヤだが、最初からランサーにいきなりナニの大きさを尋ねようとした訳ではない。現代日本人の常識は持ち合わせていると自負している。
 用途を思えば最終的には最大値を知らねばならないのだが、通常時のサイズも参考程度にはなるだろう。そう考えたエミヤは、まず観察することにした。相手は基本全身または下半身タイツの男である。盗み見るのは容易なはず。すれ違いざまにさりげなく、少し視線を落とし―――エミヤは二度見した。何を?ランサーの股間を、である。
(影も形も無い、だと……!?)
 多少は浮き出るものと思われたそこは、びっくりするほどぺったんこだった。思わず自分の物と見比べてしまう。……あるよな。うん。良かった。
(まさかのポーク○ッツ……いや、それはないな。女性との逸話も多々あることだし)
 となれば、半神パワー、もしくはタイツのように見えるあの武装、実はかなりガッチガチな素材なのかもしれない。何にせよこの作戦は失敗だった。
 ちなみに、後でわかったところによると。
 子どもたちに「男の人たちはどうしてもっ○りしてるの?」と訊かれてぴゃっ!となったマスターからの御達しがあり。キョーイクによろしくない!目立つ武装の人は何とかして!との無茶振りがあった結果、ランサーはルーンでちょちょいと誤魔化していたらしい。ルーン魔術万能過ぎる。
 なおエミヤは、「普通のズボンっぽいし大丈夫そう」とのことで対象外となったそうな。ちょっぴり複雑な気分になったことは否定しない。男として。

 続いてエミヤは、記憶を手繰ることにした。
(いつだったか、レイシフト先で風呂が一緒になったことがあったはず……)
 ほわんほわんほわん、とその情景を脳裏に描く。
 しっとりと水気を含んだせいで少し色の濃くなったように見える青い髪。滴る水滴を弾く眩いほどに白い背。鍛え上げられくっきりと陰影の浮いた腹筋と、その下―――が、靄のかかったように思い出せない。
(そこが一番大事だろうが俺!)
 腰掛けたベッドにぼふん!と両腕を打ち付け、エミヤは心の中で叫んだ。頬に触れれば熱を持っているのがわかってしまい、そのまま両手で顔を覆う。きっと耳まで真っ赤になっていることだろう。
(だから思い出したくなかったのに……!)
 ごろんごろん転がりたい気分を堪えてうーうー唸る。まあ、思い出せないのも当然である。
 憎からず思っている相手の裸を凝視するなんてエミヤにはできないし(それでも勝手に像を結んだ鷹の目が何とも恨めしかった)、まして大事なトコロなど、視界にすら入れないように必死だったのだ。エミヤの根底はやはり現代日本人なのである。

 結果、エミヤは間接的に推し測ることを諦めざるを得ず。夕食後にランサーの部屋を訪問する約束を取り付けることとなったのだった。


+++


 さて、意気込んでランサーの部屋へ向かったエミヤだったが。ベルを押そうと手を掲げたまま、ドアの前で立ち尽くしていた。
(……急にアレの大きさを教えてくれだなんて、恋人としてアウトなのでは……!?)
 ここに来てようやくそのことに気が付いたのだ。
(普通に引かれるな、私なら絶対に引く。ランサーがそんなことを言ってきたら……あー、奴ならあり得るな。どこに問題が?みたいなことまで言い出すかもしれん。くそっ、これだから顔の良い古代人は……!)
 ぐるぐる、ぐるぐる。エミヤの思考が明後日の方へ回り出す。
(とりあえず、今日は出直そう。一度戻って、部屋から通信で断りを―――)
 プシュン。
「っわ、」
「いつまでそこに突っ立ってる気だ、テメエ」
 ドアが開いて現れたのは、じっとりと紅い瞳を据わらせたランサーだった。
「なんかあんのかと思って待ってみたが、ちーっとも動きやしねえじゃねえか。あぁ?」
「え。あ、すまない、」
(そうだ、気配でバレていたじゃないか……!)
 自分だってランサーが在室なのをしっかり察していたのに、すっかり失念していたエミヤである。
 バツの悪そうなエミヤを上から下までぐるりと眺めたランサーは、ふっと剣呑な雰囲気を消すと身を翻した。
「晩酌、って訳でもなさそうだな。入れよ。用があんだろ?」
(……?なんで、……あ!)
 自分が手ぶらで、いつもなら持参するつまみの一つも持たずに来たことに、エミヤはやっと思い至ったのだった。

「んで?どした?」
 ベッドにどっかりと腰掛けたランサーに問われ、エミヤはう、と言葉を詰まらせた。ランサーはぽすぽすと隣を促してくるが、それには気付かぬ振りでドアの付近に立ち尽くしている。
(訊く……訊くのか?この状態で?いやしかし出直させてはくれない雰囲気……ええいままよ!)
 エミヤは、覚悟を決めた。
「君に……教えてもらいたいことが、あるのだが……」
「お?なんだ?」
 目を丸くしたランサーを直視できず、エミヤは唇を尖らせた。ごにょごにょ、ごにょごにょ。アレの名前を他人の前で出すのにはやはり抵抗がある。特に恋人が相手で、そんな雰囲気が微塵もない時には。
「その……君の……だな……。チ……いや、ペ……陰……あー……。その……」
 歯切れの悪いエミヤに首を傾げていたランサーは、何かに気付いたようにぽんと手を打った。
「ああ、ソーセージのことか?」
「そっ、ソーセージ!?」
(ソーセージ……ソーセージ!? あれか、肉の棒的な隠語のあれなのか!?)
 エミヤは恐れ慄いた。何故わかったのだこの男!察しが良すぎやしないだろうか?
 しかしあれらの単語を口にしなくて良いというのなら重畳、この機会を逃す手はあるまい。
「あ、ああ、まあ、そうとも言うな……。君、よくそんな言葉知っていたな……」
「はあ?普通に使うだろ?」
「そ、そうか……」
 聖杯知識かとも思ったが、なるほどあの冬木で楽しくナンパに明け暮れていれば「実地で」学んできたのかもしれない。なんとなく胸がもやもやした気がして顔を顰める。いや、もやもやってなんだ。別にかつての現界でのことを気にしてなんか。
 一方ランサーはそんなエミヤには気付かないのか、にかりと歯を見せた。
「いやー、にしても、やっぱりお前には隠しておけねえよな。気になるか?アレがどんなんだか」
 気になることを見透かされているのは癪だが、自信に満ちた物言いに勝手に緊張が高まってしまう。
「……そう、だな」
 咳払いで誤魔化して口を開けば、思った以上に掠れて響いた。
 ランサーは一層笑みを深めると、紅い目でにんまりと弧を描き、なんとも蠱惑的に―――少なくともエミヤにはそう見えた―――声を潜めてこう言った。
「いいぜ。たっぷり聞かせてやるよ」
 ずっきゅん。
(はわわ……!)
 エミヤは見事に心臓を穿たれてしまったのだった。

「それで、その……君の、それは……どんな感じ、かね?」
 立ち上がってすぐにでもブツを見せてくれようとするランサーを押し止め、自分も隣に座ってからエミヤは問いかけた。いや見てしまえば解決なのだけれども!いきなりは!心の準備というものが!必要だろう!?
 うーん、とランサーは視線を斜め上に流し、一つ頷いてから口を開いた。
「そうさなあ。とりあえずはまあ、デカいな」
「デカい、のか……。まあ、そうだろうな……」
 半分神様な訳だし、ご立派であろうことは想定の範囲内だ。問題はどこまでご立派か、である。
 エミヤが納得を見せると、ランサーはきょとんと首を傾げた。やめろ顔が良い自覚しろ。
「そうか?なんかだんだんデカくなっちまってよぉ」
「だんだん……!?」
(成長につれてということか……)
「終いには腕くらいあんじゃねえかとか言われて」
「う、腕……」
(赤子の腕、なんて表現もあるが、誇張ではなかったのだな……)
「そ、女の腕みてえって」
「おん……!?」
 開いた口が塞がらない。事実は小説より奇なりとはこのことか。
「熱が入ると更に膨らむし」
(盛り上がってヤル気になった時の膨張率も良い、だと……?)
「ぱんっぱんになるんだぜ?」
「ぱん……ぱん……」
 エミヤはうっかり想像してしまう。ぱつんと皮の張った先端、びんびんに反り返り、ぼこぼこと血管の浮き上がる幹―――。
 慌てて頭を振って追い出そうとするも、一度浮かんでしまった映像(仮)はなかなか消えてくれない。なんだか体温が上がってきた気さえして、こっそり耳に触れれば見事に熱を持っていた。赤らんでいるのがバレなければいいのだが。
 もにょもにょしているエミヤを横目に、ランサーはああ、と何かを思い出した素振りを見せ。
「そのうち白いのもとろ~っと出てきてなァ」
 衝撃的な発言を繰り出した。
「白っ……!?」
(せ、精液が!? とろっと!? たったっ垂れ流されるとでも!?)
「……勢いは、良くないのか?」
 エミヤは恐る恐る問いかける。突っ込むところがそこなのかと自分で思わなくもないが、気になったら口からでてしまったのだから仕方ない。
「勢いィ?まあ、ギュッとやりゃあビュッといくが」
(まさか、量が多すぎて……?)
 恐ろしい面のある男とは思っていたが、そんなところまで恐ろしいことになっているとは。神代怖い。
 ガクブルとまでいかないものの完全に固まっているエミヤに、何を思ったかランサーはにっかりと笑みを向けた。
「色々言われたが、やっぱ男はデカいほうがいいよなあ!な?な??」
「そ……そう、だな……?」
 エミヤは口端をひきつらせた。
「男」としてはそうかもしれないが。挿れられる側としてみれば、そこそこの大きさに留めておいてほしい気もする。と言うかやっぱりほら、色々言われたってことは、過去の女性たちも同じ感想だったんじゃないか!
 エミヤは薄々勘づいていたものの、本格的に尻が心配になって今度は顔を青ざめさせたのだった。

 赤くなったり青くなったり忙しいエミヤをよそに、ランサーはまた何でもないことのように言った。
「そうそう、普通のでもいいかと思ったんだが、面白くなるって言うからさ」
「……言うから?」
 もはや嫌な予感しかしないが、律儀に聞き返してしまうエミヤである。
 ランサーはにぱっ!と笑って爆弾を落とした。
「粒入れたんだぜ!」
「ごっふぉあ!」
 エミヤは盛大に吹き出した。
「大丈夫かお前?」
 普通に心配してくるランサーが恨めしい。貴様のせいだぞ、貴様の。
 心配無用と手で示し、何とか呼吸を整えてから問い返す。
「つっ……つ、つぶ?」
「おう!結構ごろごろと」
「ごろごろと!?」
(真珠か!? 真珠的な粒なのか!? 面白、というより凶悪なことになっているのでは……!!)
 サーヴァントの体内に埋め込むというのは難しいだろうから、生前から入れていたということだろう。流石のクー・フーリンの伝承も、そこまでは踏み込まなかったのだな。良かった。本当に良かった。
(……いや良くない!全然良くない!主に私の尻が!)
 だって考えてもみてほしい。
 ぱんぱんで、ぼこぼこな上に、つぶつぶがごろごろなのである。
 そんなものがナカに入って抜き差しなどしようものなら、大きさも相俟ってどこもかしこもごりごりと抉ってくるに違いなく―――。
(……ぐぅ……)
 またもうっかり想像したエミヤは顔を俯けて唸った。
 男でもナカで気持ち良くなってしまうかもなんて思ってない。ちょっとキュンとしたりなんかしていない。していないったらしていない!

(なんと言うか……これはもう、どこまで、とか言うレベルではないな。限界まで拡げてもなお無理かもしれん)
 とりあえず今日は帰ろう。明日のことは明日考えたい。エミヤが遠い目でちょっと現実逃避をしていると、ランサーが―――ベッドに上げた片足に肘をつき、エミヤの忙しなく変わる表情をニヤニヤと見つめていたランサーが、ほんの少し声を潜め、なあ、とエミヤを呼んだ。
 エミヤがハッと顔を上げると、紅い瞳がきゅっと細められ。
「お前もさ。味わってみたくなったか?」
 ちろり。薄く開いた唇の隙間から覗く赤い舌から、エミヤは目が離せない。
(味、わう……?体験して、みるか、と……!? いやそんなまだ早……もしや口で!? してみるかと!? そういう!?)
 覗き込まれるように合わせられた視線が外せない。はくはくと口を開閉させるも声にはならず、乾く咥内に口を閉じれば。
 ごくり、と。やけに大きく聞こえた音がなんとも物欲しそうに響き、かっと顔が熱を持つ。
 ふはっと笑いを溢した男を睨み付けるがどこ吹く風、ランサーは快活に言い放った。
「きっとお前も気に入るぞ!タマモキャットやブーディカにも評判良かったんだぜ!」

 すべての音が、消えた。

 一瞬で、顔の熱どころか血の気が引く。
 今、この男は、何と言った?
「……彼女たちが、なんだって?」
「え?評判良かった、って」
 評価を聞くような行為を。少なくとも、アレを彼女たちの目に触れさせるようなことを、した、と?
 ―――私というものが・・・・・・・ありながら・・・・・
「彼女たちと、シたのか?」
 震えもせず、掠れもせず。胸の裡を渦巻くものが声に載らなかったことにエミヤは安堵した。その結果一切の感情が削ぎ落とされていたので、それはそれでランサーに怪訝な顔をされたが。
「まあな。一人じゃできねえし」
 それがどうした、とでも言うような、軽い口調。ランサーにとって、特定の相手―――恋人がいながらそういうことを別の誰かとすることは、特に問題にならないのかもしれない。
 生前の倫理観がそうならば、そこにランサー個人の非はない。エミヤがそれを浮気だと断じるのも、言うならば同じ理由であるのだから。
 しかし。
(あれは、嘘だった、と?)
 ―――此処には確かに良い女が沢山いる。それでも、俺が欲しいのはアーチャー、お前だけだ。
 いい加減に目を覚ませ、私なんかよりもっと素敵な女性が沢山いるだろう、と何度目かの告白を一蹴した時。ランサーはそう言って、ふにゃりと寂しげに笑った。見目麗しく可愛らしい、柔らかな身体の誰かよりも、無愛想で、可愛げの欠片もなく、武骨で固い、そんなエミヤが良いのだと。
 どうせ暇潰しか何かの気紛れかだと思って(というか思い込もうとして)いたエミヤの心に、それはブスリと突き刺さり、錆び付いた天秤を傾かせる一助となったのだが。
 あの言葉も、あの顔も、嘘だったと。エミヤを頷かせる為の方便で、自分はまんまとそれに騙されただけ。もしくは、あの時は確かに本心だったがあっという間に忘れ去ったか、正気に戻ったか。それならそれで良い、騙されるのにも、裏切られるのにも慣れている。

(―――なんて、今更言えるかっ……!)

 知ってしまったのだ、求められる嬉しさを。思い出してしまったのだ、与えられる喜びを。今だけ、此度の現界だけ、この男にだけと、それを許してしまった。知らなかった頃にはもう戻れないと、解っていて飛び込んだのは自分だが、飛び込ませたのは貴様だろうに!
 八つ当たりじみているとの自覚はある。それでも、あの時の自分と、あの時のランサーが。他でもない彼自身に裏切られたことが、エミヤには堪え難かった。
 エミヤが何も言わずに俯いていると、此処に来てやっとランサーが慌て出した。
「あっでもその2人だけじゃないぞ!? ちっこいのも……ジャックとかいたし、あとえーと……あ、ロビン!ロビンフッドも一緒だった!」
「女性も、男も、あまつさえ子どもまで、だと……」
 ゆらり。陽炎のように怒気が立ち上る。浮気相手の人数が多ければ多いほど良いとでも思ってるのかこの古代人。しかも(見た目だけかもしれんとはいえ)未成年に手を出したと?悪びれもせずにそう言ったのか?誰が許しても私が許さん。あとロビンは一回シメる。
 俯いて肩を震わせるエミヤを見て、ランサーはははあ、と何かに納得してから一言。
「さてはお前さん、混ざりたかったな?」
 ……は?
「そういやお前、意外とああいうの好きだもんな。今度は一緒にヤろうぜ。今回はなー、突発的だったし、一応お前に内緒ってことにしてたからなー」
 人を何だと思っているのだろう。具体的には、複数人プレイの好きなド変態だとでも?しかも自分からぶちまけておいて、内緒も何もあるまいに。隠すならいっそ、徹底的に隠し通してくれれば良かった。私が何も、気付かずにいられるように。
 ランサーは立ち上がり、部屋の隅に移動して何やらゴソゴソやり出した。立派なブツを見れば納得もするだろうって?―――馬鹿にするにも程がある。
 古代の狗だということは重々承知していたつもりだったが、そこまで見境も分別もないとは思わなかった!見損なったぞランサー!
「ほら、コレ―――」
「……実家に帰らせていただく!」
 プシュン!バタバタバタ……。
「え、アーチャー?」
 部屋に一人残されたランサーの手には、1枚の平皿。
 振り返った体勢のまま、ランサーはぽつりと呟いた。
「ジッカ……特異点Fの武家屋敷か?燃えてっと思うが……?」


+++


 遠ざかる足音にランサーはぽけっと立ち尽くした。え、なんで?どこがアイツの逆鱗に触れたワケ?
 そこへ反対側から、パタパタと新たな足音。こりゃまた随分とお急ぎで、と暢気に構えれば、開いたままのドアから思った通りの橙頭が駆け込んできた。
「ちょっと槍ニキ!エミヤに何したのさ!?」
「俺が悪いの確定なのかよ」
 ズザザッ!と滑り込んだマスターは最近オキニの黒い礼装のマントを翻し、ジトリとランサーを睨み付ける。
「ママのこと大事にしてくれるって言うからお嫁にやったのに!事と次第によってはウチの子返していただきますよ!?」
「お前の立場は何なんだ?ってか、何もしてねえよ。コレの話してただけだって」
 ランサーはずいと手の上の皿を差し出した。それなりの大きさの白い皿の上には、太くて長い肉の塊が3本、でん!と鎮座していた。
「……それ、何?」
「ソーセージだ!」
「……ハムじゃなくて?」
「ソーセージだ。チーズあんどペッパー……いん……?ソーセージ!」
 どうだ!と胸を張るにランサーに、マスターは訝しげな視線を向ける。
「私の腕位あるそれが、ソーセージ?」
「ちょっとでかくなっちまっただけじゃねえか」
「ちょっとどころじゃないと思うけど……。で、それでなんでエミヤあんな怒ってたのさ?」
「俺ァ何もしてねえぞ?」
「きっと気付かないうちにやらかしたんだよ~。ほれほれ、お姉さんに話してごらんなさい?」
 ちょいちょい、と指でカモンの合図をするマスター。実際の年齢は「お姉さん」などとんでもないが、アーチャーとのオツキアイにあたり現代日本文化の指南役として教えを請うたことを考えれば、そういうことにもなるのかもしれない。
 ランサーはそんなマスターの態度に苦笑しながら、アーチャーのために今回も知恵を拝借することにしたのだった。

+++

「君に……教えてもらいたいことが、あるのだが……」
「お?なんだ?」
「その……君の……だな……。チ……いや、ペ……いん……あー……。その……」
 ははあ。『チ』ーズあんど『ペ』ッパー『いん』ソーセージだな。もうバレたか。まあ子どもらもいたし、一応口止めはしたが仕方ないわな。
「ああ、ソーセージのことか?」
「そっ、ソーセージ!?あ、ああ、まあ、そうとも言うな……。君、よくそんな言葉知っていたな……」
「はあ?普通に使うだろ?」
 むしろ他に言い方あんのか?腸詰め?
「いやー、にしても、やっぱりお前には隠しておけねえよな」
 キッチン使うとわかっちまうんだろうな。キレイに片付けたつもりだったけど、コイツきっちりしてんもんなあ。
「気になるか?アレがどんなんだか」
「……そう、だな」
 やっぱりなー!料理のこととなると気になってしょうがねえんだなもう可愛いやつめー!
「いいぜ。たっぷり聞かせてやるよ」

 早速見せてやろうと思ったがなんでか必死に止められた。楽しみは後に取って置きたいとか、そういうことか?
「そうさなあ。とりあえずはまあ、デカいな」
「デカい、のか……。まあ、そうだろうな……」
 お?なんでバレてんだ?
「そうか?なんかだんだんデカくなっちまってよぉ」
「だんだん……!?」
 もうちょっといけそう、って詰めてったら意外と伸びたんだよな。……羊じゃなくて豚でもなくて、魔猪だったからかもしんねえな。今思うと。
「終いには腕くらいあんじゃねえかとか言われて」
「う、腕……」
「そ、女の腕みてえって」
「おん……!?」
 おお、驚いてる驚いてる。まあソーセージって大きさじゃねえもんな。ハムとかサラミとかも言われたな。
「(焼いて)熱が入ると更に膨らむし、ぱんっぱんになるんだぜ?」
「ぱん……ぱん……」
 皮に焦げ目が付いてぱりっとすんのがうめえんだよな~。試しに食ったがあっという間になくなっちまった。我ながら上手く出来たもんだぜ。肉汁がじゅわっと出て、ああそういえば。
「そのうち白いのもとろ~っと出てきてなァ」
 ちぎって混ぜたチーズ!あれがまたいい味出してんだよ。どっちにしようか悩んだが、溶けるのにして正解だったな。
「……勢いは、良くないのか?」
「勢いィ?まあ、ギュッとやりゃあビュッといくが」
 なんだ?ああ、周りに飛ばねえか心配してんのか。心配性だなーまったく。……いやまあ、中から色々出て来すぎるとか、汁が多すぎて食いづらそうとか、手伝ってくれた面子に色々言われたがよ。
「やっぱ男はデカいほうがいいよなあ!な?な??」
 デカくて食いでがあるのがいいんじゃねえか!

「そうそう、普通のでもいいかと思ったんだが、面白くなるって言うからさ」
「……言うから?」
「(胡椒の)粒入れたんだぜ!」
「ごっふぉあ!」
「大丈夫かお前?」
 え、ダメだったか?粗挽きも良いが、齧った時に弾けて楽しいって言われたんだが。確かに結構衝撃的だったけど俺ァ嫌いじゃなかったぜ。
「つっ……つ、つぶ?」
「おう!結構ごろごろと」
「ごろごろと!?」
 ……入れすぎたか?

「なあ、お前もさ。味わってみたくなったか?」
 思い出しただけで腹が減ったぜ俺は。涎出そう。夜中に肉はダメだとか、固いこと言うなよ。な。な?
 じーっと見つめてたらごくり、と唾を飲む音。良いねえ、そうこなくっちゃ!
「きっとお前も気に入るぞ!タマモキャットやブーディカにも評判良かったんだぜ!」
「……彼女たちが、なんだって?」
「え?評判良かった、って」
 ホントはアーチャーに最初に食べさせたかったけど、手伝ってもらって食わせねえってのも不義理だろ。日頃飯作ってるやつらに味見もしてもらいたかったし。
「彼女たちと、したのか?」
「まあな。一人じゃできねえし」
 勝手にキッチン入ると怒るじゃねえか、お前さん方。それにほら、料理って適当にやってできるもんじゃねえって、お前いつも言うだろ。
 ……アーチャーに食わせんのに、少しでもマトモなモンにしたいと思って頼んだんだよ。言わせんな恥ずかしい。

 なんかアーチャー静かだな?
 ……あ!? もしかして、キッチン組の女2人とつるんでたから!? やべえやべえ、やっぱり女性の方が好きなのでは……なんて思われたら、あっという間にコイツ離れていっちまう!あとカルデア中のアーチャーのファンに殺られる。俺が。問答無用で。
 えーとえーと、疚しいことは何もなくて、だからえーっと。
「その2人だけじゃないぞ!? ちっこいのも……ジャックとかいたし、あとえーと……あ、ロビン!ロビンフッドも一緒だった!」
 子どもらは面白がって集まってきて、ロビンは最初関わりたくねえって顔してた癖、「あーもう肉詰める時はねえ、こうですよ!こう!」とか言いながら結局手伝ってくれてな。アイツもなんだかんだお人好しだよな。
「女性も、男も、あまつさえ子どもまで、だと……」
 うん?あ。もしかして。
「さてはお前さん、混ざりたかったな?そういやお前、意外とああいうの好きだもんな」
 実は皆でわいわいとか、嫌いじゃねえんだよなあ。ピザ焼いてた大学生の?お兄さん?いたし。子どもも好きだし、面倒みながら一緒に作るの楽しそうとか思ってんだろ。
「今度は一緒にやろうぜ。今回はなー、突発的だったし、一応お前に内緒ってことにしてたからなー」
 前に質のいい肉を大量に差し入れたんだが、貯蔵しておくにも限度があるからと、一部を功労者ってことで譲り受けたんだよな。ただ焼くのも芸がねえ、腸詰めにでもしてレイシフトで不在にしているアーチャーに贈りたいと言ったらキッチンのやつらに大層喜ばれて。どうせならびっくり仰天ワンダフル!とかなんとかで、一致団結大盛り上がりに。
 あれはあれで楽しかったが、アーチャーと一緒にってのもまた楽しそうだ。2人きりで何か作るのもいいし、子どもらの世話焼いてんのを眺めてるのも悪くねえ。
 ま、とりあえず今回の成果を見てもらいましょうかね。どこ入れたんだっけか……ぱっとは見えねえとこにと思って……あ、冷蔵庫!
「ほら、コレ―――」
「……実家に帰らせていただく!」

「と、言うワケなんだが」
 俺悪くなくねえ?と首を傾げるランサーに、マスターは顎に手を当てて真剣な表情を見せた。
「おかしい……」
「えっ何が??」
「アニキが悪いところが見つからない……」
「おいコラマスター」
 どういう意味だ、あぁん?と凄むランサーに、そういうとこだよと返すマスターは慣れたものである。
「ところで、エミヤ追いかけなくていいの?」
「直後にお前さんが来たから追いかけそびれたのもあるんだが。そういやアイツ何処に帰る気だと思う?」
 マスターはあちゃー、と額に手を当てた。
「あー伝わってないのか……。あのほら、アレして。ヘイ聖杯!ってやつ」
「知識引っ張ってこいって?いやジッカは知ってっけど」
「『実家に帰らせていただきます』で検索して」
「はあ?んなもん、」
 ランサーは訝しげに眉を寄せつつ、意識を向けた。
 ぴこん。夫婦喧嘩の結果、嫁が出て行く時の常套句。そのまま帰ってこなければ離婚となることもある。
「……」
「あー、アニキ?」
 口元を押さえて動かなくなったランサーをマスターがそろりと覗き込む。ちょっと私の口から言いづらかったんだけど、直球過ぎちゃったかな。自分でオブラートに包んだ方が良かったかも。ほらこんなに顔が青ざめて……ないな?
「アイツ、俺んとこに嫁に来た自覚あったんだな……」
 むしろちょっと赤い。何なら目尻がぽっ♡と染まってる。
「そこなの!? ちょっとアニキチョロくない!?」
「だってアイツいつもそういうの態度に出さねえんだもん……」
「そうかもだけど違うでしょー!? 離婚だよリ・コ・ン!口元ゆっるゆるにしてる場合じゃないよもーっ!」
 最悪エミヤが還るって言ったら座だよ!? と叫ぶと、ランサーは弾かれたように立ち上がった。
「有り得る……!ちょっ、マスター後頼むわ!」
「いってらっしゃーい」
 ランサーは最速の英霊の名に恥じぬ速度で飛び出していった。ひらりと手を振ってそれを見送ったマスターは、よいしょっと腰を上げるとゆったりと扉へ向かう。頼まれはしたものの、オートロックの扉は部屋を出て閉めれば良いだけ。カチャン、とロックが掛かったのを一応確認してから歩き出した。
(それにしても、エミヤは何で怒ったんだろ)
 聞く限り、ランサーのクー・フーリンにしては珍しく普通の愛情表現だったのに(いやいつもエミヤのためを思っているのは明白で、価値観の違いがちょっとしたトラブルを呼んでいるだけなのだけれど)。アニキが原因じゃないとすれば、エミヤが何か勘違い、とか―――?
「もしかして、『ソーセージ』を『ソーセージ()』だと思ってたりして!なーんて……」
 ぱたり、と、マスターの足が止まる。あれ、なんか、辻褄が合う、気が―――。
(いや。いやいやいや……)
 ぷるぷると頭を振って、一瞬浮かんだ不埒な考えを追い出す。気持ちを切り替えるように、半ば無理矢理足を動かした。
 止め止め。大体、エミヤに限って、そんなこと。
(そうだよ、あのエミヤだよ?食堂の守護者で、皆のママで、クー・フーリンの嫁で……つまり人妻……あれ人妻ってなんかちょっとえっちじゃない……?いやいや、でもエミヤだし……)
 マスターはふらふらと、覚束無い足取りでその場を後にした。


+++


 一方、ランサーの部屋から走り去ったエミヤはと言うと。
(何を言ってるんだ俺は……!)
 あの勢いはどこへやら、とぼとぼと廊下を歩いていた。視界を確保できる程度に顔を覆い、人目が無いのをいいことにあーだのうーだの呻いている。指の隙間から覗く目尻と耳は真っ赤に染まっていた。
(つい口から出てしまった……あれではまるで夫婦喧嘩……夫……婦……はっ!? いやいや……意味のわかる者に聞かれていなければいいが……特にマスターには……)
 そのマスターの耳にばっちり入っていて、彼女が自分と入れ違いにランサーの部屋にいることを、彼は知らない。
 そんなエミヤだったが、ふと気配を察知してぱっと顔を上げた。そこはもう食堂が目と鼻の先というところで、当て所なく歩いているうちにうっかり辿り着いてしまったらしい。思わずエミヤは顔を顰めてしまった。
 食事の当番でなくとも手伝いだのメニュー開発だのに勤しんでいるエミヤにとって、ある意味ここは帰るべきホームとも言えよう。しかし今は、彼女たちがいる。彼女たちを責める気は毛頭ないとは言え、素知らぬ顔で楽しく会話をする気分にはなれなかった。エミヤの心は硝子なのである。
 まずい、そう思って踵を返そうとするも、時既に遅く。
「チーフのニオイがするゾ、ブーディカ!」
「あ、エミヤお帰り!早かったねえ!」
「あ、ああ……」
 勢い良く出迎えたブーディカに何故だかそのまま手を引かれ、カウンターの前まで連れていかれてしまったのだった。

「クー・フーリンのところ行ってたんでしょ?どうだった?」
 テーブルに着かせるなりにやにやと訊いてくるブーディカに、エミヤは口端をひきつらせた。
「どう、とは……」
「見てきたのだろう?あのビッグでマグナムな、例のブツを!」
 ああやはり、彼女たちは知っているのだ。ランサーのランサーが、如何程のものか。
「いやー、すごいよね。あの大きさといい詰まり具合といい。もうさ……愛されてる!って感じだよねえ、エミヤ!」
「……はい?」
 キャットもうんうんと大きく頷いているが、エミヤには何のことだか見当もつかない。その時・・・大きかったのが愛されている証拠ならば、それは少なくとも自分に向けてではないのでは?
「それは、違うだろう。奴は、つい先日……複数の女性と、関係を持ったそうだし」
 これを本人たちに、しかも遠回しに言うなんて、随分と嫌味ったらしいと自分でも思わないでもない。彼女たちを直視もできず、落とした視線の先、おやあそこの床汚れているな、後で磨こう、などとすっかり現実逃避していると、向かいでガタガタガタン!と椅子が2脚、盛大な音を立てた。
「はあ!?」
「なんと!?」
 まあそうだろう。まさか本人が不貞を直接恋人に告げるとは、如何に性にオープンな価値観を持っていても―――。
「浮気した!? あの鉄壁のクー・フーリンが!?」
「アレを崩した女がいるとはな。どんなニンジンを使ったのだ?」
「……鉄壁?」
 思いもよらぬ言葉にぽかんと口が開いてしまう。ブーディカたちはテーブルに身を乗り出した。
「エミヤ君がいないと絶対カウンターに座らなくて、他に誰もいないから寂しいしこっちおいでよって言ったら、『アイツに他のキッチンメンバーが目当てなんだって思われっと困るから。悪ぃな』なんて言って端っこのテーブルに座った、あのクー・フーリンが!?」
「え」
「エミヤがいない時に獲物を持ってきたから預かろうとしたら、顔が見たいから出直すとスタコラ去っていった、あのクー・フーリンが?」
「へ」
「エミヤ君と話している時だけ、ぴこぴこ動く耳とぶんぶん振られる尻尾が見えると噂の、あのクー・フーリンが!?」
「うむ。何時から奴はお仲間になったのかと目を擦ったがな。何度見てもあれは忠犬、そして一途な猛犬よ」
「うぁ……!」
 エミヤはぱくぱくと口を開け閉めして、結局何も言えなかった。
 思い返せば。ランサーとそういう関係になってからこちら、奴が女性と話しているのを見た覚えがない。口説いている、粉をかけているとかではなく、まさに「話している」のを、である。まったく見ていないとは思えないから、実際は自分が気に留めるような接触をしていない、ということになるのだろうが。
 それだけで目くじらを立てる狭量な男だと思われているなら心外だが、少しでも気があるように見えればエミヤがどう思うか、すっかり理解わかられているからだとすれば。
 獲物の差し入れだって、そう言えば人伝にランサーからだと聞いたことがあっただろうか。自分がいる時に良く来るなと思っていたが、あれはランサーが何度もタイミングを計った結果だとすれば。
 時折ずいぶんと機嫌を良くして去っていったのが、自分の喜ぶ顔が見られたからだとか、そういうことだとしたら。
 知らなかった。そんなに、大事にされていたなんて。ランサーが自分の為に、如何に心を砕いていたかなんて。
 かあっと頬が熱を持つのを止められない。頭のてっぺんから湯気が出そうだ。
 思わず片手で顔を覆ったエミヤの向かいで、こちらもすっかり熱くなっているのが1人。もちろん違う意味である。
「そんなクー・フーリンが、浮気だって?あれぜーんぶ演技だったってこと!? 最っ低じゃない!相手はどこのどいつよ!」
「落ち着くがいいブーディカ。奴にはキリキリ吐いてもらって、それからキレイに3枚おろしの刑に処せば良いのだ」
 訂正。2人だ。タマモキャットもかなりヒートアップしていた。
「あ、えっと……」
 相手は君たちではないのか?とは、流石に訊けなかった。というかこの剣幕、訊くまでもない。
 そもそも、彼女たちの話と先ほどまでのランサーが、あまりに乖離していて。
(……あれは本当に、浮気の話、だったのか……?)
 もしや何か、根本的にずれているのでは。ランサーとの会話を思い出そうとした、その時。
「うぉいコラアーチャー!テメエこんな所に居やがって!……いやまあ、部屋に居なけりゃここだろうとは思ってたから助かったっちゃ助かったんだが、ここが実家ってお前どんだけ働く気だよ」
「あ、いや、それは」
 忘れてくれ、という言葉は、女性たちが椅子を蹴り飛ばしてランサーに詰め寄る勢いの前に吹き飛んだ。さながら、嵐の中の紙切れが如く。
「ちょっとクー・フーリン!浮気ってどういうことよ!?」
「はあ!? 浮気!?」
「正直に白状するが良い。さすれば爪研ぎと3枚おろし、好きな方を選ばせてやろう」
「白状してもやられんのかよ!おいアーチャー!こりゃどういうことだ!?」
 自分には平然と語ったくせ、彼女たちには本気で焦っている様子のランサーになんだかとてもイラッとして、―――つい先ほど思い至った勘違いの可能性はエミヤの中からすぽんと飛んでいた―――エミヤはむっと口を尖らせた。
「……貴様が、自分で言ったんじゃないか」
「は?何の話、」
「あれだけ惚気と牽制しまくっておいて他の女とよろしくやってるとか信じられない!」
「我等がチーフを弄んだ罪は重いゾ。やはり3枚では足らんな」
「俺ァ魚じゃねえんだよ!いやちょっと待」
「エミヤのこと、クー・フーリンなら大事にしてくれるって思ってたのに!」
「何処かの誰かが許してもこのキャットとあらゆるネコが許さん。覚悟するのだな!」
「待て待てホントに、なあアーチャー!おいってば!」
 エミヤはふん、と顔を背けた。彼女たちを巻き込むのは申し訳ないが、少しお灸を据えてもらえば良いさ。
「「クー・フーリン!」」
「っだー!! だーかーらー!」
 じりじりと壁際に追いやられていたランサーが残像を残し、女性陣の隙間をすり抜ける。一瞬でエミヤの横に辿り着くとその腕を掴み、
 ガブッ!
「いだっ!?」
 エミヤの右頬に噛みついた。
「な!? 何なんだきさ、ま……」
 ズキズキ痛む頬を押さえて凶行の犯人を見上げれば。
 ランサーはビキリと青筋を怒らせ、真っ赤な瞳孔をかっぴらいた凶悪な顔で、笑っていた。否、目が、笑っていない。
「テメエが何を勘違いしてんのか知らねえがな。それ以上ここで目立つ痕付けられたくなかったら、俺の部屋でじーっくりお話しようや。なあ、アーチャー?」
 あ、これヤバいやつだ。
 何かを悟ったエミヤは、反射的にこくこくと頷いた。
「よし。アンタらも、邪魔したな」
 スッと剣呑な雰囲気を鎮めたランサーに掴まれた腕をぐいと引かれ、エミヤはされるがまま、がたがたと椅子を鳴らして立ち上がる。
「クー・フーリン!えっと、」
 ランサーは遠慮がちに掛けられた声に振り向き、何かを言いたげなブーディカの顔にああ、と納得して。
「安心しな、浮気は誓ってしてねえ。アンタらが知ってのとおり、俺はコイツにゾッコンだ」
「ぞっ……!?」
「ったくよォ、あのソーセージの話してただけだぜ?手伝ってもらったヤツ」
「ソっ……うん?」
 またも赤くなったり青くなったりしていたエミヤは、どうにもそぐわない表現に首を傾げた。
「あ、やっぱりそうだよね?あれでしょ、あの『ハム』」
「ソーセージだ!」
「あれはもはや『ハム』だぞ、光の御子よ」
「ソーセージだっつの!腸に詰めたらソーセージだって言ったじゃねえか!」
「うむ。しかし限度がある」
「デケえ分には良いんだよ!」
「男の子だねえ~」

 すっかり生温かくなった2人の視線に見送られ、ランサーに引きずられるように食堂を後にすることとなったエミヤは。
(なんでさ……)
 ズキズキ痛む頬を手で隠しながら、この騒動の原因に思いを馳せていた。
 ランサーが浮気……でも相手はブーディカたちではなく……そういえば、浮気した、とは、聞いていない……?
 部屋での会話を反芻し、はたとある可能性に思い至り。エミヤはしばらくの後に、恐る恐る口を開いた。
「ランサー、もしかしてその、ソーセージというのは……食べるソーセージのことかね?」
 ずんずんと前を歩いていたランサーは振り向き、―――思いっきり怪訝な顔をした。
「そうに決まってんだろ。何言ってんだテメエ」
 そう。ソーセージは、ソーセージだった。
 大きくて、粒が入っていて、白いものが飛び出してくるソーセージ(いやちょっと良くわからないが)。それを女性陣やロビン、子どもたちと一緒に、おそらく作ったか何かしたと。
 それだけだったのだ。
「そっそそそそうだな!食べるソーセージ以外に無いな!」
 あからさまに焦り、視線の合わないエミヤにランサーの眉がぐっと寄る。
「……何か違え意味があ」
「無い!何も無いぞ!ああ無いとも!無い、無いから聖杯に訊くんじゃないっ!」
 訊くなと言われれば訊きたくなるのが人の性。ランサーだって人の子である。半分でも。
 斜め上、虚空を眺めるランサーと、その襟首を掴み頭ごと記憶を吹き飛ばそうとでも言う勢いで振りたくるエミヤ。まあ、英霊たるものそれくらいでどうこうなるはずもなく。
「―――ほおん?」
 にやあ、と紅い瞳が撓んだのを見て、エミヤは自分の敗北を悟った。

 その後引きずり込まれたランサーの部屋には、ランサーが「待っていた」という小さな小瓶が置かれており。(中には粘度の高い透明な液体が入っていて、「初回はエミヤに免じてまけてやる。気張れよ♡」とキャスターのクー・フーリンの字でメモが添えてあって無性に殴りたくなった。)
「これがねえと無理させちまうと思ってなァ。だいぶ我慢したんだぜ。ま、もう良いよな?」
 エミヤは早速その晩、無事(?)にランサーのソーセージ()でお腹いっぱい()になったそうな。

「良かった……」
「お?なんだ、そんなしみじみ噛み締めるほど良かったか?」
「粒が入ってたり、腕ぐらいあったりしなくて……本当に良かった……」
「俺のムスコに対するハードル高くねえ?」


おしまい!


Comments

  • emikof
    November 14, 2023
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