とある『愚かな男』の昔話
『マスター』と『愚かな男』の似ているけど違う話。
マスター名は立香で通しております。
このカルデアにエミヤが居る設定ですが、当カルデアには居ないので呼び名が違ったら申し訳ないです。
エミヤの性格はSN/UBWを参照にしております。
(SN全般のネタバレ(?)含む)
2018/05/11 追記
これだけのブクマといいね、ありがとうございます!!
楽しんで読んでいただけているなら本当に幸いです。
いつぞやの星4鯖配布で見事エミヤをお迎えしたらほとんどアーチャーしか居ないカルデアになってて頭を抱えてますが、また書けたら書きたいと思います……!
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「立香くん、悪いけど次の特異点が見つかったんだ。すぐにでも出られるかい?」
「勿論、すぐに用意してくるよ」
そう答える『マスター』の顔は、笑顔だ。
傍に居るマシュでさえ気付いていない、あの『笑顔』に。
「(ああ、あれは)」
見覚えしかないあの笑顔を見て、立ち去る立香を見送るとそのままロマンの傍に近寄る。
「ん?エミヤ、何か用でも」
「1日だけ、レイシフトを待って貰えないか」
その言葉は意外だったのだろう。
いや、そんな事は当たり前だ。
特異点が見つかった時点で、世界は危機に陥る。
早いほうが良いのは火を見るより明らかだ。
困惑を隠せない表情でロマンは口を開く。
「それは、何か理由があってのことかい?」
「理由も無くこんな事を言うわけが無いだろう」
少し呆れ顔で告げると、ロマンはちらりとカルデアスを見ると、ため息をつく。
「分かった。分かったけど一日待てるかは分からない。長くても半日。それでもいいなら時間は取れるよ」
「そうか、すまないな」
「ま、今回の特異点はさほど大きい規模では無いと思われるからね。それに、英霊様の言うことだ。このぐらいは聞いておかないとね」
「恩に着る」
そう告げると『マスター』の部屋まで迷いも無く進んでいく。
「立香、私だが入ってもいいだろうか」
「エミヤ?いいけど、どうしたの?」
「少し、な」
返答を聞いて部屋の中に入る。
洒落っ気など感じさせない、ただの白い部屋は、やはり。
「エミヤ?」
声をかけられると、『マスター』に向き直る。
「マスター……いや、立香。話がある」
「改めてどうしたのさ?っていうか少しなら良いけど、レイシフトしないといけないのはエミヤも知ってるだろ?」
あの『笑顔』で答える立香に歯噛みする。
「時間なら貰ってきたから気にすることは無い。それより」
少し間を置くと、真剣な眼差しで見つめる。
「ええと、どうし」
「その笑顔をやめろ、立香」
「……え?」
言葉の真意が掴めていないのか、立香は困惑している。
「えっと、笑顔ってどういう……」
「そのままの意味だ」
困惑が取れない立香を座らせる。
そして、勝手に隣に座る。
「ひとつ、話をしよう」
「話?」
「ああ。愚かな男の、愚かな話だ」
自嘲気味な表情を浮かべると口を開く。
「昔。そう、いつのことだったか。『正義の味方になる』と決めた男が居た。その男は『全てを救う』のだと、愚かな考え方をしていた」
立香の事は、見ずに話を続ける。
「そして、愚かな男は本当に『正義の味方』になった。『自分』を犠牲にし、犠牲を最小限に止め、守りきった。しかし最後は」
「最後は……どうなったの」
フッと笑うと立香の方を見る。
「死んだよ。守ったハズの人たちに、殺された」
話を聞いた立香は、まるで絶望したかのような顔を浮かべている。
確かにそれは、狙っていた事でもあるが。
「今のお前は、その『愚かな男』とそっくりだ。自分を犠牲にし、自分にしか出来ないからと令呪を酷使する。身体と心が、かみ合っていない」
「でも、俺が……俺にしか、これは」
あの『笑顔』を浮かべた『マスター』の目元には、少しずつ溢れるものがあった。
「あ、れ?おか、しいな……なんで、涙が、」
隣の立香の肩を引き寄せる。
「全く。こんなこと、今までのマスターにもしたことは無いはずなんだがな」
なんとなくおぼろげな記憶で告げると、そのまま頭を撫でた。
「泣いて良い。泣くことは何も悪いことではない」
「え、みや、俺……」
言葉が続かなくなったのか、止め処なく流れる涙を拭くこともせず、声を出すこともせず、立香は泣いている。
「お前は決して強いわけではない。『普通の人間』なんだ。『愚かな男』などになるな」
「うん……うん……」
今までこらえていたものを全て吐き出すように、『マスター』は泣いた。
泣けることは悪いことではない。悪いのは。
「泣けなくなったらもう手遅れだ。それだけは忘れるな」
立香はゆっくり頷くとそのまま泣き続けた。
「ごめ、ん。みっともないとこ見せた……」
鼻をすすりながら立香は謝るが、私は首を振る。
「泣くように誘導したのは私だ。そこまで気にすることはない」
「でも」
「私は、『愚かな男』と同じ末路を辿って欲しくない、ただそれだけだ」
そう告げると立ち上がる。
「さて、今回は私は残るとしよう。……料理でも作って、待っているよ」
久しぶりに使った、あの時の口調。
嫌いなはずの、『愚かな男』のあの楽しかった日々は、記憶の片隅に。
「じゃあ、久しぶりに和食が良いな。なんとなく、恋しくなった」
笑う『マスター』の顔は、すっきりとしていた。
それに微笑で返すと、部屋を出て行く。
『愚かな男』……衛宮士郎のようにはなってはいけない。
なれば、苦難の道しか残らないのだから。
「今も苦難の道だろうが……きっと、支えになるものが居るはずだ」
マシュやロマン、他のサーヴァント達。
きっと、『俺』のようにはならないだろう。
「さあ、久しぶりに腕によりをかけて和食を作ろう。献立は、何が良いだろうな」
少しだけ、本当に少しだけ私もすっきりした顔で厨房へと向かうのだった。