衛宮さん家の弓兵くんと士郎くん 少年期編 切嗣との邂逅編
衛宮さん家シリーズ六作目。 今回は、視点を切嗣に据えてのプロローグから小学校編までの話です。シリアスな話の展開があります。
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邂逅編
『聖杯』が真っ当な代物ではない事を知った僕は、最後に残っていた令呪でよってセイバーに宝具を使わせて破壊させた。
破壊を持ってしか願いをかなえられないような、そんな代物をとても「聖杯」とは呼べないし、人々の災厄をまくだけで『聖杯』でないのなら必要ないのだから、破壊という行動を選んだのは間違いないと、僕は今でも思っている。
ただ、その事実を僕にしたがってくれたセイバーに説明するだけの時間がなかったから、彼女は誤解したまま現界出来ずに消えてしまった事だけが、少しだけ悔やまれるのだけれど。
でも今は、そんなことを考えている場合ではなかった。
問題の『聖杯』を破壊した際に、中に満ちていた「呪い」が一部こぼれて街を焼いてしまっていたから。
この結果を生み出してしまった関係者として、僕は少しでも生存者を探し出して助けなくてはいけないという強い思いに駆られていた。
それに、だ。
セイバーが放った宝具によって「聖杯」が破壊された瞬間に、中からこぼれ出た『呪い』という名の『泥』。
触れたものを焼き尽くし、呪いを与えていく恐ろしいほどの力が込められているそれに抵抗できるものなど、そうそういないだろう。
その「泥」によって街の一角が蹂躙されていくさなかに、僕はなんとかそれを避けながら確かに見たのだ。
『泥』の進行方向に宝具並の魔力が迸り、きれいな四枚の花弁が花開いたのを。
最終的には、『泥』に負けて花開いた花弁は消えてしまったけれど、どう見てもあれは間違いなくサーヴァントが持つ『宝具』だった。
もし、そうだとしたら……その場には僕が関わった『聖杯戦争』に関わっていないところで呼び出されたサーヴァントがいる事になる。
そう考えただけで、僕は背筋が凍る思いを感じていた。
それだけ、サーヴァントはとてつもない存在なのだ。
本音を言えば、そんなものに関わっている状況ではない。
しかし、だ。
このまま放置することもできないと感じた僕は、問題の宝具らしき花弁が開いた方向に生存者を捜す足を向けていた。
それからしばらくの間、僕はなにも見つけられないままただ瓦礫の中を彷徨うように歩いていた。
魔術による探索がかけられれば良かったのだろうけど、これだけ濃厚な魔力が充満している場では魔力の制御の方が難しいので、目視のみの探査にしたからだ。
なにも見つけられなかった為、探すのを別方向に転換させようとした瞬間である。
視界の端に、巧妙に隠されてはいたが通常ではありえない魔力的な違和感を見つけたのは。
人ではまず持ち得ないような、大きな魔力と人とは微妙に違う気配。
それが、現れたり消えたりする方向に視界を向けた僕は、漸く探していたものを見つけられたのである。
そう、まるで折り重なるように地面の上に倒れ伏している、二人の少年を。
見つけたと思った瞬間、僕は二人の少年が倒れているほうに向けて走り出していた。
本来なら、危険がないか確認しながら慎重に進むべきだったのだろうけど、その時の僕はそんなことなど考えていられなかったのだ。
あからさまに死者とは違う存在を目にして、それこそ生存者を捜し始めてから彼らを見つけるまで、膨大な「死」を見続けていた反動だったのかもしれない。
とにかく、漸く見つけ出した『生存者』に早く触れたかったのだ。
無意識に魔力で強化した脚力をもって、ほんの僅かの間で彼らのもとまで辿り着いた僕は、それぞれに手を触れさせることで最終的に『生存者』であることを確認する。
ちゃんと二人とも脈はあったし、微かにではあるものの呼吸をしているのも確認する事ができた。
まだ、今は生きている『生存者』だ。
たとえ、守るように抱き込まれている少年が全身に火傷を負い、瀕死の重傷を負っていたとしても。
いや……もう片方の少年は僕が先程から感じ取っていた『生存者』と言って良いのか微妙に迷う気配と魔力を、見つけた時点から漂わせていたのだが。
むしろ、その人としては有り得ない魔力と気配があったからこそ、僕はあの死しか見えない場所から二人を見つけられたと言っても過言ではない。
間違いなく、彼が先程僕が見た『宝具』と言うべき花弁を開いた張本人だろう。
多分、守るように抱き込んでいるもう一人の少年を助ける為に。
それなりに強いサーヴァントでもあの『泥』を退けるのは容易ではないだろうに、それを成すほどの力を秘めた存在。
このまま見過ごすには、流石に危険だと思えなくはないのに。
それでも……そんな彼らの姿を発見した時に僕が感じたのは、あれだけの惨劇の中で生存者が居た事に対しての、心からの感謝の念だ。
同時に、人の枠から外れている片方の少年の存在をどうするべきなのか、迷わなかったと言えば嘘になる。
だが、それこそ自分の身を挺してもう一人の少年の事を守っていたのだろうと窺う事が可能な状態で気を失っている姿を見ているうちに、何故か災いの種となりかねな少年にその場で手を下すことを躊躇い、最終的には二人ともそのまま保護していた。
ただ漠然と、二人の少年の間にはきってはならない絆と言う物が存在しているような、そんな気がしたからと言うのが、手を下すのを躊躇い、助けてしまった一番の理由だ。
それに、本当に少年が自分が思い描くような存在ならば、ここまでして守った少年こそが彼の主であり、ちゃんと少年の安全さえ確保されさえすれば、自分からわざわざ問題を起こすような行動を取る事はないだろうと判断したからでもあるが。
何より、例えどのような存在であったとしても、この場でこれ以上『命』を奪うような事をしたくなかったのだ。
『聖杯戦争』が引き起こした大災害で、これ以上ないほどの命が失われた後だったから。
僕はギリギリ命を保っていたのだろう、件の少年に守られている側の少年に対してある物を埋める事によって命を補うと、保護した二人を一度は病院に預ける事にした。
いくらアレを埋めたととは言っても、何の治療も受けさせないという訳にはいかなかったからである。
なので、病院で治療してもらっている間に法的な書類を幾つか揃えるつもりでいたのだ。
そうして、数日の間に必要な手続きの殆どを済ませると、切嗣は二人に正式に会うために病院へと向かった。
病院側に二人の様態を尋ねると、二人と退院が可能な状態だと言う。
まぁ、発見時にギリギリ命を保っていた少年に埋め込んだアレが効果を発揮した結果だろうし、もう一人の少年はサーヴァントならではの回復力を示していて、特に何もする必要がない状態だったのだから、ある意味当たり前かもしれないが。
そんなことを考えながら僕は二人が居る病室へ向かい、それとなく話していると二人は主とサーヴァントの関係ではないと言う。
もちろん、直接そう言われた訳ではないのだが、サーヴァントのような魔力を放つ少年の方が、言外にそう言ってきたのだ。
しかも、何かしらの事情を知っている様子で。
元々、二人とも自分の手元に引き取るつもりだった僕は、病院での退院の手続きを済ませ、最終的な養子縁組の手続きの為の手配を進めながら二人を自宅として用意した山の上の武家屋敷へと連れて行くことにした。
出来るならば、人に聞かれることがない場所でちゃんと話をしたかったからだ。
少し時間は掛かったが、少年達を自宅となる屋敷の前まで連れてきた時である。
サーヴァントと思しき力を放つ少年の方が思わぬ反応を見せた為に、流石の僕も思わずかなり焦ってしまった。
それほど、唐突な反応だったのだ。
まさか、突然彼が泣き出してしまうなど、誰が想像できようか。
その後、招き入れた家の中で本人から聞かされた話は、それこそ僕の想像をはるかに超えた代物だったが、思っていたよりもそれを否定する気にはならなかった。
本人が嘘を付いている様にはとても見えなかったこともあるだろうが、それ以上に色々な意味で納得がいくものがあったからである。
なにせ、初めて敷居を跨いだだろうこの屋敷の間取りや、様々な調理道具などの扱いに何の迷いがなかった。
それらの仕種は、本当に日常的に使い慣れている事がはっきりと判る物で。
知識として知っていた上での行動と実際に使った事があるのでは、やはり僅かな動作に差が出るものだ。
まして、あそこまで何の淀みもなく道具を使いこなし、湯を沸かしてお茶の準備をする様は本当に馴染んでいて、何処から見ても違和感がない。
そんな少年の姿は、どう見ても現代人のものだと断定してしまって問題がない代物だった。
何より、僕自身も件の少年に対して縁のような物を感じていたのだ。
それに……もし少年の存在を否定してしまえば、もう一人の生き残った少年も僕の事を受け入れようとはしないだろう。
既に、二人の間には口では言い表せないような、明確な絆が存在しているのが感じられてしまったから。
ならば、腹を括るしかないのだと僕は決断を下す。
それに、だ。
どちらにせよ、この二人の少年の存在を他に渡すつもりはなかった。
サーヴァントとしての能力を秘めた少年はもちろん、『全て遠き理想郷(アヴァロン)』を埋め込んだ少年を放置など出来るはずがない。
いや、それらは全て魔術師としての建前だ。
本音を言えば、僕の中の人としての部分が、この二人を手放すと言う選択肢を持っていないのである。
理由はどうであれ、あの大災害を引き起こす事柄に関わっていたものとして、生き残る事が出来た彼らの事を引き取るのは当然の役目だと思っていた。
人として、彼らに対して償いきれない事をしたと言う自覚があったから。
~ 邂 逅 編 了 ~