衛宮さん家の弓兵くんと士郎くん 少年期編 小学校に行こう
衛宮さん家シリーズ五作目。タイトル通り、弓兵くんと士郎くんが小学校に通う話。弓兵くんの中身が何歳であろうと、外見は七歳児なので義務教育からは逃れられないのです。(笑)内容的にイジメを匂わせるシリアスな部分があります。
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切嗣との話が纏まり、無事に養子縁組の手続きも済んだ。
俺の名前だが、ニックネームとして「アーチャー」が使えるものを、と色々考えた結果「アーチーボルト・S・衛宮」で決定した。
略したSの部分は、もちろん「士郎」である。
最初は、その名前を名乗るのにかなり抵抗した。
流石に、今の自分が名乗って良い名前だとは思えなかったからだ。
だが、士郎と切嗣が二人掛かりで「アーチャーもエミヤシロウなのには変わりがない」という延々と続く説得を受け、妥協案として「ミドルネームで人には略称で使う」と言う内容で話が纏まったのである。
まぁ‥‥人前でその部分を略さずに名乗るつもりはないし、略称では判らないだろうからと判断して受け入れたのだが。
そんな話があってしばらくした頃、俺にとって次の試練(?)とも言うべき事態が待ち構えていた。
それは、服装についてである。
今の外見年齢は、士郎と同じ7才であるため、用意された服がそれなりに「子供向け」なのは、仕方がないと諦められた。
だが‥‥流石に「半ズボン」は勘弁してほしい。
しかも、わざわざ士郎と色違いの同じデザインの服。
あからさまに「可愛い」を狙っているその服を見た瞬間、俺は無意識の内に手の平の中に魔力を高め、つい聖剣を投影してしまいそうになった。
それも全部、あんな風にわざわざ可愛らしいタイプの服ばかりを選んで来る切嗣が悪いのだ。
うん。
別に俺は悪くない。
ただ、俺から溢れた魔力に切嗣が青褪めていたけど、自業自得なのでフォローする事なく放置する事にした。
そんな割り切った俺の態度に、切嗣は何やら情けない顔をしてぶつぶつ言っている。
いくら文句を言っても、今回ばかりは引いてやるつもりはないぞ?
俺も士郎もれっきとした男だし、可愛い格好など似合わないのだ。
それ以前に、俺は外見年齢では確かに士郎と同じだが、精神年齢は切嗣より少し若いくらいだと言ったはず。
その上であんな服を選んできたのだから、相応の対応をしてしかるべきだと判断した俺は間違っていないはずだ。
きちんとした理路整然とした思考の元、俺は切嗣と交渉を始めた。
これから先、自分と士郎がこの家出世話になる間に着る服に付いての交渉だったから、これでもかと言うくらい気を引き締めていく。
散々交わした口論の結果、俺は極力普通の服を着る権利を獲得した。
ただし、俺の主張を認める条件として、たまには切嗣が選んだ服も着ることを約束させられたが。
あと‥‥半ズボンに関しては、夏場の暑い時期は仕方がないと認める代わりに、それ以外の時期は普通のズボンで居る権利も勝ち取った。
やはり、己の精神の安定を計るためにも、嫌なものは嫌だと主張することが大切だと、俺は本気で痛感する。
うん。
わがままを言ったつもりはないし、これくらいは自己主張しても構わないだろう。
自分の意見の大半が通った事に対し、ひとしきり満足していた俺だが‥‥この後に待ち受けていたある事柄に、そのまま打ちのめされることになる。
そう、まだ小さな子供にしか見えない自分達には、どうやっても付きまとう事柄。
こればかりは、半分は義務として法律で決まっている為、特別な事情がなくては拒否できない物。
そう・・・子供は小学校へ通わなくても行けないと言う、義務教育と言う名の世間の常識だった。
「ほら、二人ともまだ子供だし、ちゃんと学校に通わなきゃ駄目だろう?
僕が、それなりに良い学校を選んで着たよ。
ほら、これがそこの制服だけど、見てみるかい?」
義務教育を盾に、切嗣がいそいそと嬉しげな表情で俺と士郎の元に用意してきたのは、何の冗談かカソリック系の私立小学校の制服。
しっかり半ズボンが指定のそれを見た瞬間、プチッと何かが切れた俺が、そのまま魔術対決と言う名の親子喧嘩を繰り広げたのは言うまでもない。
その結果、切嗣は泣く泣くそれを俺に着せる事を諦め、公立の小学校へ通う事になったのだが‥‥
はっきり言おう。
今の姿になる前の生前、成人した記憶のある俺にとって余りに退屈なそれらに、我慢の限界がくるまでそれほど時間はかからなかった。
これでも、最初の頃は子供特有の行動の微笑ましさに、のんびりとしたものを抱いていたのだ。
だが、それも一月持たなかった。
これが、まだ当事者でなく端から観察するだけの立場なら、幾らでも平気だったのだろう。
事実、サーヴァントとして凛について高校へ行った時も、むしろ懐かしさを感じて楽しんでいたのだから。
しかし、直接当事者としてその場に立つと、どうしても自分の存在が浮いてしまうことに気が付いた。
そして‥‥士郎が問題を抱えていることも。
士郎の中にある、子供の中で浮き上がってしまうほどの歪な一面。
それは、全て無くしたあの災害の日より、かなり乏しくなってしまった感情の揺れである。
士郎が、あの災害の中心部近い場所にいて生き残った数少ない一人だと、子供でもみんな知っていた。
それが、今回は悪い方向に働いたのである。
感情の揺れを表に出せない士郎を、子供独特の感覚が「気味が悪い存在」として認識させた。
だが、表だって彼らが苛めるのには、士郎の身に起きた重い現実が大きすぎる。
色々な面でそれは流石に問題があるため、結果として人目を避けた裏側でのイジメに走る要因となったのだ。
人目に付く位置に、士郎はイジメによる傷を負うことはない。
しかし、人にはなかなか見えない精神的な面では、かなり傷付けられて追い詰められていた。
それは、俺が士郎の側を離れている僅かな隙を付いて行われていた為、気が付くのが少し遅くなった事に関して、俺はかなり後悔している。
俺が居る時に士郎に仕掛けないのは、俺の事が怖いから。
その事実に気が付いた俺が、士郎を守るようにガードに付いた事で大半の嫌がらせは治まったものの、士郎の中に出来たダメージは消えない。
その結果、士郎が酷いダメージを浮けた士郎は、半ば人間不審となってしまったのである。
今の士郎は、俺以外の子供が近付くことすらストレスになってしまう程、精神的に追い詰められていた。
そんな状況で、どうして士郎のまともな成長が望めるだろうか。
少なくても、この地にとどまり続ける事に拘る必要を、俺は感じられなかった。
むしろ、士郎の為には環境を変えてやる必要があると判断した俺は、そのまま切嗣に直談判し、士郎の置かれている状況を話す。
すると、切嗣は何とも言い難い苦い顔をした後、小さく息を吐いた。
「‥‥そうだね。
今の士郎には、ここの環境は辛いかもしれない。
しばらくは、あの子の感情を取り戻す為のリハビリが優先かな。
そうだ‥‥僕の知り合いか海外にいる。
僕もこの間の戦いの養生がしたいから、しばらく家族揃って海外で暮らすのも悪くないかもしれないね。」
そう言うと、件の相手に連絡を取り手早く話を纏める。
先に手を打ち、どうとでも動けるようにした後で、切継は夕食後ののんびりとした会話の中、士郎に件の話を切り出した。
「‥‥あのね、士郎。
しばらくアメリカに行く事になったけど、一緒に来ないかな?
もちろん、士郎が嫌なら無理にとは言わない。
こちらに残るなら、隣の藤村さんに良く頼んでおくし。
だから、好きなほうを選んで良いんだからね?」
笑顔でそう告げられ、士郎は困惑したように視線をさ迷わせ、俺の方に視線を向けると助けを求めてくる。
そんな士郎に、俺は笑みを浮かべながら静かに頷いてやった。
今の士郎は、『自分でしたい事を決めて良い』と言うことすら判らない程、精神的に弱っている。
まだ7才の子供なのだから、こんな風に追い詰められたら、それが当たり前なのだ。
判っていたが、それでも俺の方から何かを言うつもりはなかった。
士郎がどちらを選択しても、俺はそれに付き合うつもりだったからだ。
俺の笑みに、士郎はその意図を読み取ったのか、安心したように少しだけ笑い、再びどうしたいのか考え始め。
顔を上げたかと思うと、しっかりとした意思を乗せた瞳を切継に向ける。
「‥‥アチャ兄も一緒に行くんだよな?
なら、俺、爺さんたちと一緒に行く。
もう‥‥家族と離れたくないから。」
はっきり言い切る士郎に、切嗣俺も嬉しくて笑みを浮かべていた。
自分の気持ちを、ちゃんと口に出して言ってくれた事はもちろん、「家族」だと言ってくれた事が嬉しかったからだ。
俺たちが笑顔を向けた事で、それが肯定されたと理解した士郎は同じように嬉しそうな満面の笑顔になる。
「それじゃ、この話はみんな揃ってアメリカに行くって事で決まりで良いかな?
チケットの手配とか渡航手続きとか色々あるし、実際に向こうに行けるのは来月辺りになるけど構わないよね?
そうそう、どうせ今の学校を辞めて向こうに行く事だし、学校には無理に通う必要はないから。
その代わり、僕とアーチャーが学校で習わないような事を色々教えてあげよう。
学校で習う事だけが勉強じゃ無いし、実際に生きていく事に必要な知識は、学校では教えてくれないからね。」
ポスポスと軽く士郎の頭を叩くように撫でる切誌を見つつ、俺は俺なりにある事を考える。
それは、俺と士郎があの聖杯が起こした災害の中で体験した事だ。
良く考えれば、とんでもない体験をした事は間違いない。
切嗣がその事実を知れば、驚きと悲しみと入り交じった顔になるのだろうか?
その辺りは、予想の域を超えないからまだ何とも言えないが、何となく正解な気がした。
切嗣は、士郎を魔術に関わらせたくなかったはずだから。
既に知ってしまっている(と言うか、英霊を経た為に様々な知識がある)俺に関しては、半ば諦めの境地らしいが。
それでも、極力自分のしている事に俺を関わらせない切嗣に、何度強い苛立ちを感じた事か。
少し論点がずれたから、話を戻すとして。
「魔術に関わらせたくない」と言う考えは、切嗣なりに俺たちを大切に思うから。
関わってしまえば、知らなくても良い裏の世界を知る事になるのと同意語だから。
切嗣のその思いが判っているだけに、伝えるべき事実が告げ難くて、ついそのまま放置した形になってしまったのだ。
だが、このままでは色々な意味で問題が先送りになるだけ。
そう判断した俺は、ほぼ間違いないだろう俺と士郎が体験した事を切継に全て話す事にした。
やはり、切嗣には知っていて欲しかったから。
この後、事実を話した俺の言葉に、予想通りの反応を返した切嗣は、俺と二人掛かりで士郎に魔術を教える事になった。
基礎を切嗣が受け持ち、俺が士郎独特の特化した魔術を受け持つ。
あれ程関わらせるのを避けた魔術を教える事にしたのは、いざと言う時の為。
士郎と俺の置かれた立場を知って、危険回避の術を教える事にしたのだ。
知らないままで居る事の方が、何かそちらの方面であった時に身を守りやすいからである。
こうして、身の回りの必要最低限のものを荷物として纏めると、俺たち衛宮家全員でアメリカへと向かったのだった。