衛宮さん家の弓兵くんと士郎くん 弓兵の意識下での現状考察
衛宮さん家のシリーズ2作目です。この話は、聖杯の泥にのみこまれてから意識が戻るまでの、アーチャーの意識下での思考の流れを纏めたような、それこそ次の話までの幕間のような話です。
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何かが、耳元でざわめいている。
それらが、煩わしくて仕方がない。
だから、わざわざ無視していると、それらは強引に俺の中に何かの鍵を埋め込み、そのまま消えていった。
俺の中で、埋め込まれたそれが脈打つ。
その鼓動と共に、俺の中に流れ込んでくる膨大な知識と、様々な「力」を宿すものたち。
確かに、俺の中には膨大なそれらを受け止められる、世界をも塗り替えられる心象世界があるが、それでも共にもたらされる知識の膨大さに、頭がついていかない。
これが、「」に意図せずに辿り着いた結果だとしたら、もう勘弁してほしい。
そう言いたくなる程の膨大な知識の奔流の中、俺、アーチャーこと「エミヤシロウ」は、自分の身に起きた事を大体ではあるが理解していた。
あの、聖杯戦争によって摩耗させられて歪んでしまっていた俺は、もう一度心の中に答えを得る事ができた。
磨耗した自分の心を打つそれによって、『自分自身を殺す』と言う目的が自分の中から消失し、もう一度得た答えを支えにこれからも頑張っていくと言う決意をしたのである。
もちろん……正直言えばこの気持ちも本体に届く時には唯の記録に成り下がる可能性もあった。
それでも……自分が感じた思いが僅かにでも届けば、何か変わるのではないかと期待する部分がなかったといえば嘘になる。
少なくとも、その気持ちが届く事によって改めて自分の原初の誓いが思い出せれば、『守護者』として呼び出される度に磨耗していくのが少しでも納まるのではないかと思っていたのだが……
だが、俺が期待していた以上の状況が俺の身に起きたのだ。
今回の戦いの結果と、俺が『答えを得た』と言う内容が本体に届き、それが切っ掛けとなって座が消失したのである。
実際は、どうなのかいまいち本当の事は判らない。
だが、何らかの形で座に縛り付けていた「契約」と言う名の世界の束縛が消えたのは間違いないだろう。
守護者の座が世界の束縛によって維持されていたと仮定すれば、契約が無効化された座が消えるのも当然であり、その座に固定されていた本体も輪廻の輪に戻るのも有り得るのだろうが。
(まぁ……このケースの場合、どちらかと言えば座が消えると同時にそのまま消滅すると言う可能性が高かったと思ったのだが)
その仮定を推し進めていくと、世界との契約を無くした俺と言う存在の魂は、ただ転生の輪に入るのではなく、その存在の原点となるべき場所に送り返された。
ただ、既にその元となる存在と言うべき「士郎」とは、記憶などの要因から別個の存在となってしまったため、世界そのものが矛盾を抱え込まないために、新たに別個の固体として今の器を用意したのではないか。
そう考えると、本来ならばこの頃はまだ同一体であるはず士郎と、別の存在として自分があの場にあった事にも納得が行く。
知識などの今まで『守護者』としての過去の積み重ねた経験値は、本体の魂に記録されているからそのままだったし、持っていた魔力も世界からのバックアップは無いものの、基本数値が英霊のままなのも同じ理由だろう。
逆に、身体的な能力に関しては、新しく構成された身体のベースがこの時代の士郎に英霊の俺を混ぜたものである為、かなり下がったのではないだろうか。
これらはあくまで推測の域を出ないが、かなり確信に近い気がする。
もし、この仮定が全て正しいのだとすれば、自分があの原点となる場で士郎を見て何の嫌悪する事無く助ける事が出来たのも納得できた。
既に別個の存在となり、その存在へ感じていた八つ当たりじみた憎悪も消えたのならば、救いを求める幼い命を助けるのは、『エミヤシロウ』としての魂を持つものならば当たり前の考えだったから。
そこまで考えたところで、意識が浮上するのを感じた。
どうやら、今までこうして巡らせていた思考は、深層意識下による思考ルーチンが弾き出した代物だったらしい。
どちらにせよ、このまま眠り続けている訳には行かない。
この後には、様々な出会いが待ち構えているのだから。