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#30-2 interlude/Novel by ちくわぶ

#30-2 interlude

4,057 character(s)8 mins

士弓主従聖杯戦争ifストーリー三十四話目。腐向け。 

版権元:Fate/stay night 
注意(シリーズ共通):
 腐向け(士弓)、ねつ造、設定改変、独自設定、重大なネタバレ、原作程度の暴力表現・流血表現

今年もよろしくお願いします。

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 月は煌々と夜闇を照らし、駆けるセイバー達の影も濃く地を滑るほど。元々夜目の利くセイバーだけでなく、凛が走るのにも苦労がないほどの光量だった。
 森を入るころには警戒してゆっくりとした歩調だったが、今はもう慎重さを度外視した速度で進んでいる。たった一つの妨害もないのだ、警戒を捨てるのも当然だろう。
 そして、イリヤスフィールの陣地に足を踏み入れても何の妨害も入らないこの異常こそが、セイバー達を焦らせる要因であった。

 現況はかなり厳しい。
 最大の問題は、セイバー単独でギルガメッシュに勝利できる確率が極めて低いという点だ。加えて、中立であるはずだった教会の者――言峰綺礼が戦争参加者を裏切り、ギルガメッシュに手を貸している。
 八体目のサーヴァントと、教会の裏切り。
 独力で対処できるならそうしたかったが。しかしそれが適わないことは、ギルガメッシュとの二度に渡る衝突と、左腕を奪われかけた凛の負傷で痛感している。
 打倒すべき敵に勝てない自分の力不足と、陰謀を見抜けなかった不甲斐なさを悔いたところで事態は好転しない。戦いを放棄するわけにはいかないのだから、なんとしても勝利への道筋を開かねばならない――。
 そうして、セイバー達が他者との同盟を決断したのも、半ば当然のことだった。
 三日前の学校の騒ぎで、ライダーが脱落したことは知っている。同盟相手として残されたサーヴァントは、バーサーカー、アーチャー、ランサーのみ。ランサーは未だマスターの所在すら知れず、他方、バーサーカーとアーチャーの陣営の拠点は明らかだ。
 一度シロウとの関係が決裂しているのは痛手だが、凛が令呪を費やし、不可逆の犠牲を負いながらも得たギルガメッシュと言峰綺礼の情報は、もう一度手を組むだけの価値を提供できるはずだ。
 ……何より、このような考えはあまり気分のいいものでもないが、シロウはあの性格だ。真摯に謝罪し、真剣に助力を乞えば、おそらく断ることはしないだろう。その相手が、一度助力を突っぱねた遠坂凛であったとしても、だ。
 もちろんその場でイリヤスフィールの機嫌を損ねてバーサーカーと戦闘になる可能性もあるが、ある程度のリスクを負わねばこの状況は打開できない。そのリスクさえ乗り越えれば、アーチャーだけでなくバーサーカーまで味方につく可能性があるのだから、十分なリターンが期待できる。
 シロウを頼ろう。
 凛と二人、十分話し合って出した結論だった。決めた夜にはこうしてアインツベルンの城を目指しているのだから、決して自分たちの行動が遅かったとは思わないが――。
「セイバー、私は大丈夫だから」
 咎めるように言われる。気づかれないように凛の様子を窺っていたつもりだったのだが、どうやらばれていたらしい。
「どうか無理はせず。傷も癒えたとは言いがたいのですから」
 腹の大穴も千切れかけた左腕もきちんと元に戻っていることはセイバー自身が確認している。しているが、それと心配とは別の話だ。
 いずれも凛が一流の魔術師でなければ再起不能になっているほどの重傷だった。傷が塞がっても失った血液はすぐには回復しないし、兄弟子の裏切りに痛めた心には何の治療もできていない。今が緊急事態でなければ、彼女はまだ休んでいるべき負傷者だ。
「そうは言ってもね。私の冬木であんな奴らがのさばってるんだって知ったら、おちおち寝てもらんないわ。あのクソ神父どもをはっ倒してよーやく、枕を高くできるってもんよ」
「……そうですね。あなたの勝利のためにも、まず彼らをどうにかしなければ」
 セイバーの命運は一度尽きた。
 一度目のギルガメッシュとの遭遇。未遠川沿いでの攻防で敗北したセイバーがこうして五体満足でいるのは、ギルガメッシュの気まぐれと、なにより、凛の献身によるものだ。止まりかけの竜の炉心に火を灯す――たったそれだけのために、彼女は自身の魔術刻印を擲った。
 現代の魔術師である遠坂凛が、自分の受け継いだ家系と魔術の才能をどれほど大切に思っていたか。それを奪い、輝かしい未来の選択肢を僅かなりとも狭めた責任が、セイバーにはある。
 無欲なマスターは、ただ勝利だけをセイバーに願った。ならば彼女に報いるためには、セイバーはただ、勝つしかないのだ。
 だからセイバーは只管に急いだ。へばりつくような嫌な予感を振り払うようにして。

「凛」
 声とともに足を緩めたセイバーに習って、凛も同じように立ち止まった。
「セイバー?」
 城まではあと少し、しかしまだ到着にはほど遠い距離でもある。凛が言外に何があったかと問うてくるのも当然だったが、返事をせぬまま、わずかに迷った末にセイバーは携えていた剣を両手で握り戦闘態勢を取った。
 それを見て凛も顔色を変え、セイバーが真っ直ぐに見据える方向――城の方へと緊張した面持ちで身構える。
 セイバーが何も言わなかったのは、説明するよりも目にする方が早い、と判断したからだ。その予測の通りに、まもなく木々の向こうから男が姿を現した。
「アーチャー……」
 セイバーの索敵能力はそう高くない。おそらくアーチャーの方がセイバーたちの接近に気づくのが早かったはずだが、その歩みはゆっくりとしたものだ。彼の両手には武器がなく、代わりにイリヤスフィールを横抱きしていた。
 凛は相手がアーチャーであるのを確認すると、猫の威嚇のように低くしていた姿勢を戻した。アーチャーとは味方と言える間柄でもないが、少なくともバーサーカーやランサーよりかは近しい相手ではある。
「驚いた、無事だったのね」
 何もかもが手遅れで、すでにこの森には味方となるサーヴァントはいないのではないか――。
 セイバーが抱いていたこの不安を、無言のままの凛も共有していたらしい。
「さて。おかげさまでご覧の通り、少なくとも消えてはいない
 驚いたのは私の方だ。その間の抜けた挨拶からして、我々に挑みにきたというわけでもなかろうから……、」
 アーチャーの灰色の目が、凛から離れてセイバーに向かい、セイバーが握るはずの不可視の剣を通って、また凛へと戻った。
「今更になってお仲間探しといったところか。間が悪いものだな、お互い」
「……ええ、そうみたいね。恥を忍んで力を借りに来たんだけど、イリヤスフィールがそんな状態で、出てきたのはあなた一人。これってそういうこと? バーサーカーは、もういないのかしら?」
「そうだな。もう少し早ければ違う結果もあっただろうが、まあ、言っても詮のないことだ」
 アーチャーの声に批判の色はなかったが、受けた凛は呻くように「……そう」と言った。
 彼女は連日、何もかもうまく回らない現状に打ちのめされている。セイバーとて、後手を取るばかりの自分に嫌気が刺すのだ。感じなくてもいい責任を感じているだろうマスターに何か声をかけたいところだが、それを堪えてセイバーは代わりに口を開いた。
「シロウは、どうしたのです?」
 二つの陣営、つまり二名と二騎があの城にはいたはずだ。バーサーカーが敗れたというのなら、この場にいないもう一人も、あるいは……。
「……やつは、主人の資格を使い果たした」
「資格――令呪を? それでは……、」
 セイバーはその先を迷って言い淀んだ。
 サーヴァントがマスターに従うのは令呪があるからであり、令呪がマスターの資格のように言い表せるのは、サーヴァントを律する手段を失った魔術師では、英霊を制御することはできないからだ。
 セイバーは凛が令呪を失ったとて剣を預ける先を違える気は無いが、多くのサーヴァントはそうではない。身の程知らずにも己を押さえつけていた元マスターに、復讐を目論む者がほとんどのはずだ。
 しかし、一つの結論に辿りかけていたセイバーの早計を、アーチャーの奇妙な沈黙と、突然に滲み出した殺意が否定した。
 無意識に下げかけていた剣の切っ先を慌てて上げ直す。会話に応じてはいるが、まだアーチャーは味方となってくれたわけではないのだ。
「もういいな? 顔なじみのよしみにしては、十分な情報をくれてやったはずだ」
 言うが早いか、剣を構えるセイバーの横を無警戒に通り抜けようとするアーチャーに、慌てた凛が声を張った。
「ま、待ちなさい! バーサーカーがやられたってことは、あの金ぴかが来たんでしょう? あいつについて、こっちからも伝えることが――」
「おまえたちがギルガメッシュに挑むのを邪魔をするつもりもないし、あれを倒すのに手を貸すつもりもない。私はもう聖杯戦争を降りたんだ、戦いは戦う理由があるやつらだけで勝手にやればいい」
「はあ? 何よそれ。戦いを降りたって……じゃああんた、これから何をしようっていうの?」
 気にせず歩き去ろうとしていたアーチャーは、しかし最後に問われた凛の言葉に足を止めた。動揺したようにも見えたし、怒りを覚えたようにも見えた。
 セイバーはアーチャーの背中を振り返った体勢のまま、構えた武器を下ろすか振るうかを決められず、形容しがたい違和感に困惑していた。
 思えば最初から、アーチャーの様子はどこかおかしかった。いつも通りの皮肉げな返し、大切そうにイリヤスフィールを扱う手つき、ここにいない誰かに向けられた殺意、全て諦めたような投げ遣りな態度――。
「意味のあることは何も。……ああ、そうとも。今更何かをしようと思うことが、そもそもの誤りだったんだ」
 吐き捨てるような声は虚飾を捨てて、セイバーの耳には、どこか幼くも感ぜられた。
「最後に、ただ一つ。オレがこの街に降り立った、最初の役割を果たすだけだ」
 ――誰かの声に似ている。
 不意に、そんな思いつきが思考を支配した。
 それが何者のものであったのか探る間に、男はもう立ち止まらず真っ直ぐと森に消えていく。
 セイバーは切っ先の行き先を定められぬまま、彼が行くのをただ見送った。

Comments

  • スラスラ☆ダイスキ

    やっぱり何度読んでも、すてきです。凛ちゃんを思う剣の気持ちや弓のちょっとしたイリヤへの気遣いがいいです。続き、待っております。

    January 1, 2020
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