2023年の米大リーグで、投打の二刀流で活躍する大谷翔平選手がア・リーグ最多の44本塁打を放ち、2度目の最優秀選手(MVP)に輝いた。日本人初の本塁打王となった29歳について、大リーグ公式サイトでデータ分析を担当するデービッド・アドラー氏は「ストライクゾーンを完全に征服した。打者としては21年を上回るキャリア最高のシーズンを送った」と驚きを込めて話す。メジャー6年目で初めて打率3割もマークし、圧倒的な長打力に加えて確実性も向上。投手としては10勝を挙げた。数多くの選手のデータと日々向き合うアドラー氏には今季の大谷がどのように映ったのか、分析してもらった。(時事通信ニューヨーク総局 岡田弘太郎)
MVPに値するRun Value
大谷は9月に故障で離脱しながらも、MVP投票では満票で選出された。ニューヨーク紙ニューズデーのエリック・ボーランド記者が「満票でなければ驚きだ」と語っていた通り、満場一致の評価を得た。投打での大活躍が得票につながったことは間違いないが、特に打者としてのインパクトが大きかった。そのことはデータからも見て取れる。アドラー氏は、一球ごとにどれだけ得点に影響するかを表す「得点価値(Run Value)」に注目する。
「今季、大谷の打者としてのRun Valueは53で、これはMVPに輝いた21年の48を上回る自己ベストの数字だった。昨季は26でこれも上々の数字だったが、それをはるかに上回った。20~30はいい数字だし、40あれば素晴らしい水準。50を超えるのは今季のメジャーで5人しかおらず、ほんの一握りのスーパーエリートだ」
Run Valueが50を超えたのは他に、ナ・リーグMVPに輝いたブレーブスのロナルド・アクーニャ外野手とマット・オルソン内野手、ドジャースのムーキー・ベッツ外野手とフレディ・フリーマン内野手だけ。ア・リーグでは大谷しかおらず、打者としての成績だけでもMVPにふさわしかったことが分かる。
「Run Valueは打者として純粋にどれだけ勝利に貢献したかを数字化しているので、MVP投票の大きな目安になる。大谷は打率や長打率など全てのカテゴリーでリーグトップクラスの成績を残しており、チームにどれだけ多大な貢献をしているかが分かる。打者として大きく進歩した一年だった」
速球への対応力向上
23年の打者・大谷の進化を表す数字が「4割2厘」。これはフォーシームに対する打率だ。
「微修正だが、よりコンパクトなスイングに変えたことで速球を安打にする確率が上がったようだ。もちろん、これまで同様にパワフルで逆方向に長打も打てる。飛距離も健在だった。顕著な違いとして際立つのが、速球を狙い打っていたこと。フォーシームに対する打率4割2厘はリーグトップの数字で、昨季の3割5厘から1割近く上昇した。カットボールやシンカー系を含む速球に対する打率は3割7分7厘。元々、変化球への対応に優れていたが、速い球を仕留めることで確実性が増した」
「本塁打の内訳を見ると、速球を捉えたのが23本で、変化球は21本。全ての球種を長打にできていたということだ。今季は初めて打球速度が全球種で90マイル(約145キロ)以上を記録した。これは彼のキャリアで初めてのこと。これまで以上にバットの芯でボールを捉えている」
ストライクゾーンを完全征服
昨季は外角高めを本塁打にしたことがなかったが、今季は初めて9分割されたストライクゾーンの全てでアーチを記録した。メジャーの投手たちは大きく進化した大谷を打ち取ろうと、どのような工夫をしてきたのか。
「シーズン序盤は流行のスイーパー(曲がりの大きなスライダー)を投げてきていたが、大谷が早々に攻略したことで高めの速球を軸とする配球になった。昨季までは外角高め中心の配球が見てとれたが、今季は高め全般を攻めてきた印象。大谷が外角高めを克服して大きな穴がなくなったため、一般的な高めを攻めるという配球になった。全てのコースの全ての球種をハードヒットしていたのが特徴。ストライクゾーンを完全に征服した。21年を上回るキャリア最高のシーズン。本当にすごい」
投手・大谷も年々進化
大谷は投手としても2桁勝利をマークし、シーズン途中まではサイ・ヤング賞(最優秀投手賞)受賞の可能性も指摘されるほどの内容だった。アドラー氏は次のように評価する。
「投手としても年々、進化している。以前の配球は速球とスプリットという組み合わせだったが、今季は速球とスイーパーで緩急を操っていた。スプリットは空振りを取る確率が高い一方でボールになることも多いため、多投すると球数が増える傾向にある。その半面、スイーパーは制球しやすく、投球をまとめやすい。スイーパーを多く使うようになってから、長いイニングを投げる機会も増えていったように見える。先発で長いイニングを投げて試合をつくる術を手に入れたかのようだった」
夢の大谷対決、勝者は?
「投」と「打」のスター選手2人分の活躍を演じてきた大谷。それならば、23年版の投手・大谷が打者・大谷と対戦した場合、どちらが勝利するのか。最後に、データ分析者を想像の世界に引きずり込んでみた。
「一つだけ確かなことは、みんなが見てみたいということだね(笑)。まさに夢の対決。見応えのある対決になることは間違いないけれど、どちらが勝つか予想するのはとても難しい。でもとても興味深いね。今春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でのマイク・トラウトとの対戦はとても興味深かったが、それを超える注目対決だ。投手・大谷は、打者・大谷が速球に強いことを見越してスイーパー中心の配球で攻めてくるかもしれない。でも、打者・大谷はスイーパーを攻略しているから、本塁打にする確率は高くなる。100マイルを超える速球は打者・大谷としても打つのは容易ではないから、投手・大谷としては100マイルを見せ球に、スプリットで仕留める配球が理想的と考えるだろう」
「しかしながら、今季の投手・大谷はスプリットをうまく制球できていなかったから不安はある。投手・大谷がスイーパーに頼りすぎると、打者・大谷は本塁打にするだろう。投手・大谷が速球とスプリットをうまく配球できれば、三振に仕留めることができる。そのどちらかではないだろうか。23年版であれば、打者・大谷が勝つと予想する。18年版であれば、投手・大谷が打者・大谷を三振に打ち取っていたと思う。では、18年の投手・大谷が23年の打者・大谷と対戦したらどうなるのかな。とても見応えがあるに違いない」