「2人の翔平」が躍動した―。7月13日夜、米大リーグの第91回オールスター戦。コロラド州デンバーのクアーズ・フィールドを埋めた大観衆は、大谷翔平選手(27)=エンゼルス=の「二刀流」に酔いしれた。長い歴史を持つ球宴で、史上初めて投手と打者の両方でメンバーに選出され、特別ルールによって先発投手と1番指名打者(DH)で出場。打者では2打数無安打だったものの、投手では1回を打者3人で抑え、球速160キロ超の剛速球も。味方打線が二回に先制し、そのままア・リーグが勝ったため、野球規則で定められているオールスター戦の規定によって勝利投手となった。
日本選手の先発登板は1995年の野茂英雄(ドジャース)以来の2人目、勝利投手は2019年の田中将大(ヤンキース、現楽天)に次ぐ2人目。先発出場は10年に1番右翼で出たイチロー(マリナーズ)以来。今年の球宴でMVPを獲得したブラディミール・ゲレロ(ブルージェイズ)は受賞の記者会見で、こう言った。「僕だったらMVPに大谷を選ぶよ」。スター選手が居並ぶ中で大谷が主役を張っていた。(時事通信ロサンゼルス特派員 安岡朋彦)
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オールスター戦の前日、正午すぎ。強い日差しが照りつける球場近くの屋外広場に設けられたステージ上に、両軍の監督、ナ・リーグのマックス・シャーザー(ナショナルズ)、そして白いワイシャツ姿の大谷が姿を見せた。大谷はスターティングメンバーを決めるファン投票(投手は対象外)のDH部門で、2位を大きく引き離してトップで「当選」。さらに選手間投票では、先発投手部門の5位に入ってメンバーに選出されていた。
大リーグのオールスター戦では、ベンチ入りした投手が登板せずに試合を終えるケースは多々あるが、エンゼルスのマドン監督は、ア・リーグの指揮を執るレイズのキャッシュ監督と話し合った末に大谷の登板が内定したことを明らかにしていた。さらに球宴の3日前には、起用法について「知っているけど、言えない」とも。DHでの先発出場が決まっている大谷が、どのような形でマウンドに上がるのか。それが注目の一つだった。
記者会見での「サプライズ」
オールスター前日の記者会見には、両軍の監督と先発投手が出席するのが慣例だ。大谷が姿を見せたことは、先発登板の発表を意味していた。マイクの前に立った司会者が口を開いた。
「ご覧の通り、先発投手の発表にはサプライズがあります。歴史に残る選手が登場します。リーグ最高のスラッガーがオールスター戦に先発登板することは、今までありませんでした。これは確実に言えることです。ベーブ・ルースがそれ(二刀流)を成し遂げたのは短期間で、オールスター戦そのものが始まる前でした」
発表されたスターティングメンバーに、大谷は先発投手、そして1番DHの両方で名を連ねていた。野球規則では認められていない起用法で、キャッシュ監督によれば「大リーグ機構にルールの調整をお願いして、この試合では翔平を2人の選手として使うことが許された」。特別ルールによって、異例の形での投打同時出場が可能となった。
キャッシュ監督はこうも語っていた。「これはファンが見たいもので、個人的にも見たかった」。当の大谷は「ピッチャーとして選ばれるとは思っていなかった。そういう意味でも期待に応えられたら、と思っている。期待はしてもらっているので、応えられるように精いっぱい頑張りたいなと思います」と抱負を口にした。
ブルペン、バッターボックス、マウンド
大谷はブルペンでの投球練習を終えてベンチに引き揚げると、慌ただしくバッターボックスへ向かいプレーボールの瞬間を迎えた。
マウンド上には、サイ・ヤング賞(最優秀投手賞)3度を誇るシャーザー。いきなり訪れた注目の対戦を、スタンドのファンは固唾をのむように見守った。大谷は初球の真ん中付近への95.5マイル(約154キロ)直球をファウル。続く91.9マイル(約148キロ)の高めへのカットボールに詰まらされ、二ゴロに倒れた。
「打席に立ったことがなかったので、ずっとテレビで見ていた投手ですし、どういう軌道なのかなとか、どういう球なのかなとか、見てみたかった。実際にいいボールだったし、どの球種も分かっていても打てない球だった。(カットボールには)押されたような感じだった。フォーム自体も独特で、なかなか距離が取りにくかった」
大谷はシャーザーと初めて対戦した印象を、そう語った。球場のあるデンバーは標高約1600メートルの高地にある。一塁を駆け抜け、ベンチに戻った大谷は息を切らせていたという。一回のア・リーグの攻撃は三者凡退。大谷に息を整える時間があったのかは定かではないが、今度はマウンドへと向かった。
「抑える以外ない。打たせない」
球宴は「お祭り」の要素もあるが、マウンドに上がった大谷は「抑える以外ない。打たせない」。持ち味の直球に変化球もうまく交え、と勝負に徹した投球を見せた。ナ・リーグの1番は、前半戦でリーグトップの28本塁打を放った若きスター選手のフェルナンド・タティス(パドレス)。マウンド上でも、いきなりファンが待ち望んでいた対戦が実現した。
初球の96.1マイル(約155キロ)はファウル。2球目の97.1マイル(約156キロ)は外角に外れてボール。変化球を振らせて追い込むと、スプリットはファウル。そして5球目。サインに首を振ってスライダーを投げ、左飛に打ち取った。
続くマックス・マンシー(ドジャース)は96.6マイル(約155キロ)で二ゴロ。そして打席に、本塁打王3度を誇るノーラン・アレナード(カージナルス)を迎えた。予定は1イニングとあって、おのずと投じる球に力がこもる。
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