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#23-1 interlude/Novel by ちくわぶ

#23-1 interlude

6,669 character(s)13 mins

士弓主従の第五次聖杯戦争ifストーリー二十五話目。腐向け。 

版権元:Fate/stay night 
注意(シリーズ共通):
 腐向け(士弓)、ねつ造、設定改変、独自設定、重大なネタバレ、原作程度の暴力表現・流血表現 

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 虫の知らせと言うには強すぎる第六感。己という存在に縄を掛ける術理、その根幹が揺らぐ不快感。
 焦燥、恐怖、悪寒、戦慄――そういったサーヴァントとしての本能的な嗅覚で主の危機を察したアーチャーは、できるだけ戦場を遠ざけようと画策していた今までの方針を一八〇度転換した。衛宮士郎が間桐慎二と対する地点は校舎を挟んだ背後の林。一刻も早く戻らねばならない。
 予感が訪れたのは戦闘の直中。後方へ意識をやったその僅かな気の乱れを動揺と呼ぶのは酷であったが、しかし十分な隙にはなった。ライダーは戦士としての才覚はなく、怪力に任せた乱暴な戦い方はアーチャーとは対極を成すものであったが、敵対者の弱点を嗅ぎ分ける嗅覚は並外れていた。正に蛇の名が相応しいだろう。
 何度目かもわからぬ強烈な突進チャージ。彼が信を置く双剣の片割れは貫こうと迫る切っ先を見事に防ぎきってくれたが、衝突の勢いを殺しきるには至らず、踏みしめていたはずの両足がグラウンドから離れる。下から上へ弾き飛ばす一撃――当然受け流そうとしたのだが、技量を怪力で上回られたのだ。己の不甲斐なさに舌を打つ。人間が地に足をつけて生きる生物である以上、踏みしめる宛のない空中は絶対に不利であった。
 跳ね上げられた速度のまま、まだ落下を始めてすらいない無防備な敵の姿を見上げ、ライダーは残った左腕一本で手にする短剣の鎖を手繰った。生き物のように踊る鉄鎖が周囲を取り囲む。
 捕縛されての力比べでは勝負にならない。莫耶を投げ捨て爆破し、迫り来る鎖を散らせる。そこでようやく体が重力に引かれ出した。
 右手が潰されている以上、武器を握れるのは左手だけだ。空手にはできないと落下姿勢を整えながら莫耶を再投影する。
(あと五本)
 冷静にカウントする。無理に無理を重ねた霊基はいよいよ限界を間近としていた。アーチャーにとっては随一の投影効率を誇る干将・莫耶ですらあとそれだけの投影が限度だろう。それ以上は戦闘どころか現界もままならず消失する。
 昨晩マスターとの同調を経てわずかなりとも回復できたのが唯一の救いであったが、あれはアーチャーから衛宮士郎への記録/感情の譲渡を目的としてのものであって、十分な魔力供給を受けたとは言えなかった。元々魔術師としては貧相な少年から魔力を吸い上げるつもりもなく、どうしても防ぎきれなかった流入分の魔力以外はアーチャーの方から拒絶した結果だ。判断に間違いがあったとは思わない。今アーチャーが存分に戦えるだけの魔力を衛宮士郎から譲り受けていた場合、少年は先ほどの無茶な投影で自滅していたことだろう。

 幻想破壊による爆熱の余波が薄れる。見下ろすアーチャーと見上げるライダーの実体無き視線が交錯した。
 サーヴァントは現界それ自体に魔力を消費している。そこに戦闘行為までもが加わって勢いよく消費されていく残存魔力に相応の危機感は覚えるものの、アーチャーはその焦りを表情にも態度にも見せないよう努めた。宝具の維持を強いられるライダーとておそらく魔力に余裕はないはずだ。敵の宝具内という最悪の戦場においてもアーチャーがほぼ普段通りの動きができていることからも、衰退のほどは窺える。
 薄氷を渡るような瀬戸際での攻防。同じように鎖による捕縛を試みられ続ければアーチャーも魔力切れに陥りかねなかったが、ライダーにはアーチャーの魔力事情までわかるまい。爆破手段を持つアーチャーに鎖は無効と見て取ったか、ライダーは速やかに地を蹴り空中へと躍り出た。
 瞬きの間もなく、間合いが一気にゼロにされる。冷静かつ冷酷。先の手は読みやすいが、それを補うだけの決断の早さがある。嫌な敵だ、とアーチャーは思った。厄介なタイプである、少なくとも好きにはなれそうもない。
 地への到達を許さないと言わんばかりにしなった脚が、まだ宙にいるアーチャーを強撃し、ボールさながらに蹴り上げた。いなしたアーチャーにダメージはほとんどないが、足場のない不利を再び強制される。
 蹴り上げられた体はまだ頂点を迎えていない。しかしライダーの追撃はやむことなく、校舎を垂直に駆け上がった体は最後に強く壁を蹴り、アーチャーのさらに頭上へと躍り出た。遠く地面にまで叩きつけるつもりだろう。わかっていても避けられない類の攻撃だ、受けるしかない。
 受け止められるのは左手一本、莫耶のみ。だが宙にいるからこそ衝撃は流しやすい。見誤らなければほとんど痛手なく耐えしのぐことができるだろう、とアーチャーは予測した。
 ――予測したが故に、そこで寸瞬思案する。焦燥感は未だ胸内をくすぶっており、マスターはまだ危機の中にあるのだろう。本来なら蛇女にかかずらっている場合ではなく、一刻も早く駆けつけるべきだったが、ライダーを一度引き離さなければ困難だ。
(……どうせ右手が使い物にならないならば)
 刹那以下での判断。莫耶を下げた弓兵は、頭上から真下へ叩きつけるような踵落としを、自ら差し出した右前腕で斜めに受けた。
 受け流すことなくまともにくらった蹴撃は、アーチャーの右腕を肩に至るまで破壊した。急激に加速した男の体が地面へと叩きつけられる。
「――!」
 だが、驚愕するのはライダーの気配。
 右腕を犠牲に自ら軌道を調整したアーチャーは、女の想定しない方向へ墜落していた。

 砲弾ほどの速度で落ちた体は、瓦屋根をけたたましく突き破って弓道場へ至った。
 よく整備された板張りの床を破壊し固い基礎部に至るほどの勢い。アーチャーから苦痛の声が漏れた。息に雑音が混ざっている。折れた肋骨が肺でも突き破ったか。
 サーヴァントにも痛みがあるのはなんとも不便なものだ。本能的に硬直した体に鞭打って、無事な左手で地面を押し返し身を起こした。生徒たちは皆意識を失っていて、乱入者の存在にも気づかず無言の苦悶を強いられている。未だ砂けぶる中辺りを見渡し、目当ての少女の姿を探した。
 いた。入り口の傍、藍色の髪を広げて俯けに倒れ伏している。アーチャーは稼働限界を訴える体を無理矢理動かして、間桐桜の元へ移動した。
「――アーチャー!」
 初めてライダーの声に明確な怒気が乗った。グラウンド側から、アーチャーのいる弓道場入り口までを猛烈な勢いで駆けてきている。それを視界の中央に収めながら莫耶を構えた。
「動くな」
 細く頼りない首に切っ先を添える。僅かに刃先が食い込むだけで頸動脈を破る位置。
 ぎ、と喉で怒声を噛み殺したライダーが急停止する。グラウンドの茶土が派手に舞った。
(……止まったか)
 あやふやな記憶に基づく博打であったが、ひとまず賭けには勝ったらしい。
 昨晩の衛宮士郎との同調は大部分アーチャーから士郎へ記録を受け渡すためのものであったが、アーチャーが受け取ったものがまったくないわけではない。少しの魔力。それから、アーチャーにとっては過去とでも言うべき、少年自身の記憶。
 無論、今の衛宮士郎とアーチャーの生前は一致しないことはわかっている。それでも、アーチャーの磨耗した記憶は、自らの少年時代に酷似した主人の記憶を受けて僅かながら復元を遂げていた。
 間桐桜はライダーの弱点として機能する。しかしこれは逆鱗に触れると同義であった。反射的に止まったライダーだが、アーチャーが少女を絶対に殺せないのだと思い出せばすぐにでも襲いかかってくるだろう。
 睨み合う時間はそう長くなかった。何より、アーチャーの方も急がねばならないのだ。莫耶を首筋に翳したまま、じりじりと姿勢を変えて俯せる間桐桜の腹側に爪先を差し入れた。
 怒気が爆発する。突進のため身を低く沈めたライダーが地面を蹴るより先に、意識のない少女の体を女の方へと蹴り飛ばした。害するつもりはなく、放物線でも描きそうなほど緩やかな軌道で人一人が宙を舞う。
「サクラ!」
 思わずといった風に叫んだライダーが抱き留めるため片腕を伸べる。その様子を確かめることもせず、アーチャーは一転身を翻して弓道場から飛び出した。


 最大速。校舎を回り込み裏の林手前にまで到達する。
 目立つ赤毛を探したが見つからず、代わりに人間大の虫塚が気味悪く蠢いている。間桐慎二の姿はない。
 その光景を前に、走る速度を緩めないままのアーチャーの背筋がぞわりと粟立った。主従契約のラインは、主人の居場所をあの虫塚だと指し示している。
「士郎!」
 咄嗟に発した呼名へのいらえはない。
「しくじったか、たわけめ……!」
 悪態を吐きながらも真っ先に蟲の群へと駆け寄ったアーチャーは、直前で足を止め虫塚手前の空間を払うように莫耶を振るう。剣圧で集る虫たちは一瞬吹き飛ばされ、血の赤と肌の色が垣間見えたが、周囲から埋めたてるようにすぐに虫が集ってみえなくなる。
 剣では不向きだ。アーチャーは一度莫耶を手放すと、躊躇せず蟲の中へと左手を突っ込んだ。不快な感触をかき分けて、ようやく人間の皮膚らしき感触に触れる。人体のどの部位かすら定かではないそれを鷲掴んで、口を開く。
同調開始トレース・オン
 本来、他者への強化は高難度に位置する魔術だ。相手が魔術回路を有する魔術師であるならなおさらで、意識の有無に関わらず回路自身が外部からの魔力干渉をレジストするからである。
 しかし、アーチャーと衛宮士郎との二人に関していえばその原則は当てはまらない。自己の強化と同じだけのロスのなさで、衛宮士郎の傷だらけの体に魔力を通して強化できた。食いついていた蟲たちが追いやられるようにボトボトと地面に落ち、背を丸めてうずくまる衛宮士郎の全容がようやく見えた。
 意識を取り戻す気配はない。強化魔術と同時に走らせた解析の目で負傷のほどを確認する。ほとんど瀕死といってよかった。このまま治療ができなければ間もなく失血で死ぬだろう。
 決断を迫られていた。アーチャー単独ではライダーも間桐慎二も打倒できず、このまま時間稼ぎをしていても意味がない。状況を打開するためには――。
 掴んでいた左手を放して立ち上がる。逡巡の暇など許さないと言わんばかりの敵意。振り仰げば、校舎屋上からアーチャーめがけて一直線に落下してくるライダーの姿が目に入る。
 言葉はない。しかし眼帯に覆われた先の両目に渦巻く憎悪が透けて見えるほどの殺意であった。さもありなん、とアーチャーは苦笑した。ライダーにはアーチャーがどうやって間桐桜とライダーの関係を看破したのかわかるまい。ここでこの得体の知れない男を必ずしとめなければと思っていることだろう。
 自由落下よりも早く女の影が迫る。アーチャーは魔力効率も苦痛も全てを度外視して、まず砕かれた右腕を強引に再生させた。治療ではなく、役立たずの腕の中に腕に似た稼働を果たす構造物を無理矢理投影させたようなものだ。中からの破壊に勢いよく血が散った右腕に頓着せず、意志の通りに稼働することに満足して、次は左手に慣れた大弓を投影する。最後に、つがえるための矢を喚び出した。
I am the bone of my sword.我が骨子は捻れ狂う
 宝具投影。比較的燃費のいいアーチャーであっても、これは随一の魔力消費を誇る投影であった。当然、残された魔力ではとても足りない。
 霊核が軋む。覚悟の上だ、無視してさらに魔力を注いだ。最低限確保しておくべきエーテルも全て動員し、この一矢の完成にのみ集中する。
 右腕は痛むがなんとか機能している。揺らぎながらも形を得ていく剣を矢としてつがえた。空を狙う。正真正銘身命を削っての射撃であったが、彼には僅かばかりの気の乱れすらなかった。
偽・螺旋剣カラドボルグII
 乾坤一擲、賭命の一射。
 自らの辛苦すらも置き去りに、弓兵の名に相応しい美しさで放たれた剣は、射線上の全てを削り取って疾走した。地から天へと稲妻が迸る。
 空間諸とも抉りとる一線。どのような英霊であれ、無防備な状態で受ければひとたまりもない威力であった。しかし空中で身をひねったライダーの四肢を射止めることは適わず、女の豊かな紫髪だけを散らすに留まる。そのまま結界の内側にまで達した螺旋剣は、一瞬の拮抗の後に血臭立ちこめる鮮血神殿に風穴を開けて結界向こうの青空に消えた。
 それを、射手は見届けることはできず。上へと走った矢と入れ違うように落下してきたライダーに、射撃直後の隙をさらしたアーチャーはなすすべもなく押し倒された。
「ぐ、ガッ――!」
 赤が舞う。アーチャーの視界の半分が死んだ。咄嗟に顔を横向けて脳髄だけは避けたが、ライダーの短剣は柄の部分まで深くアーチャーの右目に突き立っていた。眼窩から頬骨を砕き、切っ先は右のこめかみにまで貫通している。
 生物として当然の苦悶の声をあげたアーチャーは、その自らの無様さを嫌うかのようにすぐに唇を引き結びそれ以上の悲鳴を堪えた。手放したまま地面に転がっていた莫耶を手探りで拾い上げ、組み敷いてくるライダーに向けて振るう。
 女はアーチャーの顔面に突き刺さったままの短剣を置き去りに、一度男の上から飛び退いた。しかしアーチャーが劣勢を立て直すだけの暇は与えず、右眼に突き立つ短剣に繋がった鎖を手繰って無造作に男の体を振り回し始める。
 太い木々をなぎ倒してもお構いなしに横薙ぎに振り回した後は、地面に叩きつけては振り上げて、また叩きつけるのを繰り返す。二度、三度、四度――七度目にしてついに短剣の方が抜け、勢いそのまま放り投げられたアーチャーの体があっけなく宙を舞い、校舎壁面へと叩きつけられた。コンクリートに大きく罅が入り、ガラス窓が複数割れる耳障りな音が響く。

 ……一瞬意識が飛んでいた。虫の息のアーチャーの思考を引き戻したのは、女にしては低いライダーの声であった。
「いいかげんにしてください、マキリ。アーチャーはここでしまつすべきです」
 ……また、揉めているのか。俺も人のことはいえないが、つくづく相性のよくない主従だ。
 ぼんやりと霞む思考でそんなことを思いながらも、ほとんど機構じみた戦闘本能に従って、アーチャーは武器を求めて投影を試みていた。しかし、干将・莫耶はおろか宝剣にも満たない些細な刃物を作り出すことすらままならない。
「このおとこのつよさはせいしんのつよさだ。したいをつかうのならかんぜんにころしきってからにするべきだといっているのです」
 ライダーの声らしきものがしているが、うまく聞き取れない。全ての感覚が薄れ、自分の体の状態がアーチャー自身にもよくわからなくなっていた。重力の方向すらまともに感じられない中、立ち上がろうと足掻きを続ける。
 時間を、稼がなければ。もう戦えないのだとしても、一秒でも長く生き延びてライダーの気を散らすことが第一であった。ハッタリでいい。こいつはまだ何かするかもしれないと、少しの警戒を抱かせることができればそれでいい。
 極まった魔力の欠乏に、残った左目もいよいよ光を失ってきていた。五感すべてが機能不全に陥っている。周囲の状況が読みとれない。士郎やつはまだ生きているのか。結界はちゃんと破れたのか。誰か、駆けつける人はいないのか。

「■■■■■■――!」

 ……アーチャーが祈るように思った、その時。響き渡る咆哮が、穴の穿たれた結界を揺らがし余波だけで淀んだ大気を吹き払った。
 消失間際の身でもわかる圧倒的・暴力的な気配であった。望んだ第三者の乱入に、瀬戸際で踏みとどまっていたアーチャーの緊張がふつりと切れる。
 味方に付けばこれほど頼もしい存在もない。彼女が来てくれたのなら、衛宮士郎は大丈夫だろう。
 些か無責任な信任であったが、アーチャーにはもう指の一本すら動かせそうになかった。カラドボルグが開いた穴を広げるように結界を突破し落下してきたバーサーカーとイリヤスフィールの姿を確認することもなく、もう目覚めることはないとわかった上で、最後の意識を手放した。

Comments

  • モモンガ
    January 5, 2018
  • 竜床(753周防)
    January 5, 2018
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