2012年02月06日(Mon)
|
(産経新聞【正論】2012年2月6日掲載)
日本財団会長 笹川 陽平 |
|
これぞ新たな“埋蔵金”
休眠口座は独身時代や結婚前に設けられた1万円以下の小口口座が多くを占めるが、その一方で大口の仮名預金口座も多数、存在する。かつて動物名を冠した郵便貯金の仮名口座が新聞報道をにぎわしたこともある。5~10年間、取引がないと、ほとんどの銀行が休眠口座に切り替え、その旨、預金者に通知した上で、口座の金を収益として会計処理している。返還を求めるには通帳や口座開設に使った印鑑、銀行支店名など煩雑な手続きが必要。住所不明のケースや仮名口座のように通知先のない口座もあり、残された金は最終的に金融機関の収益として処理される。 もちろん休眠口座はどの国にもある。米国では州によって3~7年、オーストラリアは7年、カナダは10年間、取引がないと休眠口座に移行する。しかし休眠預金が最終的に金融機関の収益として扱かわれるのを疑問視する声は各国でも強く、休眠口座移行後の扱いに工夫を凝らす国も増えつつある。 英国は2010年、休眠口座基金を設立、15年間、取引のない口座の預金を集め、約530億円を非営利組織や社会起業家の活動に充てている。韓国は08年に休眠預金財団を立ち上げ、銀行や郵便局から請求権の消滅時効が完成した休眠預金の寄付を受け、約140億円を福祉事業に活用している。 わが国でもNPO法人(特定非営利活動法人)フローレンスの駒崎弘樹代表が09年末、いち早く国による休眠口座基金の設立を提案。昨年1月には衆院本会議で新党日本の田中康夫代表が「休眠口座の預貯金を金融機関から国に委譲できるよう法改正すべきだ」と質し、菅前首相も「そうした活用はあってもいい」「他党の皆さんにも検討していただきたい」と答えている。 総額で数千億円に上る? 関連して金融庁は、三菱東京UFJなどメガ銀行3行が収益として処理した休眠預金額を2009年度は303億円、08年度242億円と明らかにした。うち約4割が預金者の求めで返還されたというが、全金融機関の数字は全国銀行協会も把握していない。駒崎代表を含め、全体で1000億円前後とする見方が多いが、私自身は全金融機関と郵便貯金の仮名口座を見込むと、総額で数千億円に上る可能性もあると見ている。 休眠口座基金創設は内閣府の「新しい公共」推進会議のテーマにもなり、金融界は「本人の同意なく預貯金を金融機関の外部に流失させるのは金融システムに対する信頼を損なう」などとして全国銀行協会など7団体連名で反対意見書を提出している。 しかし、これは筋が通らない強弁である。休眠口座預金も多くが国民の浄財であることに変わりはなく、最終的に金融機関の収益となる現状はどう見ても納得し難い。東日本大震災では2万人近い人が死亡・行方不明となった。銀行業界は被災者の照会窓口を設けて対応しているが、震災直前まで使われていた生活口座が将来、休眠口座に移行したのでは犠牲者も浮かばれない。 国の財政は昨年6月時点で借金が943兆円に上り、破たん寸前にある。財源が枯渇する中で福祉や住民サービスを維持・発展させるには、新たな埋蔵金を発掘するとともに、「公」の仕事を「民」が少しでも肩代わりし、乏しい財源を効率的に使っていく必要がある。 金融業界の社会的責任 手前みそになるが、日本財団は東日本大震災で死者・行方不明者に対する見舞金や災害FM放送局18局の立ち上げ、障害者用仮設住宅の建設、被災地で活動する約700のNPO支援、学生ボランティアの派遣など幅広い事業に取り組んできた。法律に縛られる国や自治体の事業はどうしても時間が掛かる。これに比べ民間には柔軟かつ迅速に対応できる利点がある。休眠預金を活用する受け皿が整備されれば、これに十分応えるだけの態勢が既に社会に育ってきている。 政府・金融庁は当面、3月決算で休眠預金が収益として会計処理されるのをストップし、郵便預金や全金融機関の仮名口座も含め、この種の預金がどれだけあるのか、詳細な内訳を公表すべきである。 金融は国の要であり、公的な存在である。それ故に公的資金を導入して金融危機を乗り切ってきた歴史もある。収益として扱われてきた休眠預金を社会的に広く活用すれば、金融業界のCSR(企業の社会的責任)に対する国民の理解も広がり、預金者の同意も得られると確信する。 |
CanpanBlogにトラックバックした時点で本規約を承諾したものとみなします。
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
トラックバックの受付は終了しました