第286話 美雪の気づきと村田の後退

―美雪視点―


 先生との通話は途切れることなく続いていた。私が一方的に泣き崩れているだけで、会話らしい会話はできていない。それでも、電話を切らずにいてくれる先生の温情を思うと、涙が止まらなくなってしまう。


 彼は何も言わずに、ただ私が泣き止むのを待っていてくれた。

 やってしまったこと。自分の周囲のすべての人たちを傷つけてしまった罪の重さ。私はそれから逃げることしか考えられなかった。結局、こんな状況になっても自分のことしか考えられていなかったという事実を突きつけられた。


 私はどうしようもない人間だ。

 自分の欲望と保身を考えて行動した結果がこれ。


 そして、この場所にうずくまって、どうすることもできない。自分から袋小路に入って脱出する方法もわからない。優等生なんて肩書を守ろうとして、たどり着いた場所がここ。結局、自分は勉強以外に何もできない愚か者という事実だけが残って、それを突きつけられているだけ。


 今もそうだ。ただ逃げているだけ。結論を出したくなくて、出すのが怖くて、そこから逃げ続けているだけ。


 裁判の時も、自分なりに勇気を出したつもりだった。自分に不利な証言をして、何かが変われる。そんな風に思っていた。そう思い込もうとしていた。自分の心を助けるために。


 お母さんから「あなたは誰も愛していない」と言われたことを思い出す。あの言葉の意味をわかろうとはしなかった。わかりたくはなかった。


 でも、今の自分を冷静になって考えればよくわかる。だって、浮気をしてから、私はずっと自分を守るためにしか動けていなかった。英治を守るために、自分の評判が下がっても彼を支えようとしていた一条愛とは真逆の行動を取り続けてきた。


 本当の家族と家族のように愛してくれた人たちのことすら守ろうとも思わなかった。ただ、自分を守ろうとしていただけだった。


「変わりたい」

 思わず出た言葉がそれだった。何を言っているのだろう。自分でも不思議だった。

 先生からも何も反応がない。


 この冷たい沈黙の後で、高柳先生はぽつりと言葉を漏らした。それは、彼の人生の苦悩がにじみ出たような言葉だった。


 それは私に向けた言葉ではないかもしれない。自分自身に向けた言葉かもしれない。それでも、私は「はい」とその言葉を受け止める。


 ここからは自分だ。いつまでも甘えることもできない。そう言われているような気がした。


 ※


―村田律視点―


 どうすることもできない。謝罪は拒否されて、学校からの処分は迫っている。

 自暴自棄が心を支配する。


 これも全部、美雪のせいだ。美雪のせいで、私の人生、めちゃくちゃだ。


 許せない。

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