“転生者”   作:ダフネキチ

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【ジャーナルが更新されました】

“転生者” PART2

祝☆夜の王撃破っ!
ご褒美は追跡者のピタパン……じゃなくて、マイラブリーエンジェル復讐者たんの手作り料理であった。
……うん、嬉しかった。嬉しかったけれど……!
なんだろう、火力発電所とか石油ストーブの気持ちがわかったというか……。

まっ、まあ。喜んでばかりじゃいられない。
まだ“ゲーム”で言えば、序盤よりの中盤。考えるべき事は山盛りだ。

……いっちゃん悩ましいのは“素材不足”かなぁ。
これからの事もあるし、もう少し“傑作”の幅を広げたいんだけど円卓にあるものじゃあ限界がある。

どーすっかなーぼくもなー、なんて考えていると――レディから声を掛けられた。重要な話があるそうだけど……顔を見る限り良い話ではなさそう。
………。……よし。

――今は忙しいと断る事にする。


【追憶を開始します】






追憶‐1

 

 

――ぼくはレディに首根っこ引っ掴まれて引きずられていた。

 

 

「今忙しいって言ったじゃん!今忙しいって言ったじゃん!」

「――復讐者に膝枕されてるとこのどこが忙しいのよ!いいからくるっ!」

「ぬわーっ!」

 

ぼくは抵抗を続けた。

だってアレだもん。さっきの話しかけ方が「ちょっと……いいかしら」みたいな言いづらい事あるんだけどな雰囲気だったんだ。今はなんか大爆発だけど……絶対良い話じゃない!

ぼくは嫌な事は避けたい主義なんだよ――避けられない事が多すぎるだけで!

 

助けを求めるべく、辺りを見渡すが――鉄の目は明らかにガンスルーしてるし、執行者はこっちを見た上でガンスルー決め込んだ。無頼漢は笑いながら酒瓶揺らして後で話聞いてやるモードで助けに来てくれない。

なお、頼みの綱のラブリーマイエンジェルは、変に義理堅いせいか、円卓のリーダーが話があるなら行ってこいと気分良さげに見送ってくれました!

可愛かったけどそうじゃないんだぼくが求めているのは!

 

「むっ……?」

 

そこで。

騒ぎを聞いたのであろう追跡者が顔を出してきた。

が、ぼくとレディを見比べてため息交じりで引っ込もうとするのを――バチリバチリと瞬き(ピン)連打で押し留める。

 

頼む 友よ 助け給う !

 

ぼくの魂の込もったSOSを受信した追跡者は仕方なさそうに近づいて来て――

 

「な――「兄上は黙ってて」……ああ」

 

弱い!弱すぎる!もっと頑張ってよ!なんでそこで諦めるんだよそこで!周り見てみ――皆は端から見捨ててたんだったちくせう!

他の夜渡り使った後に君選んだ時の(ああ……なんだかんだ追跡者がイイな……)みたいな安定感のあるドッシリ感はいったいどこに――

 

ってぇ……あれ?

 

「二人とも、()()()()()()()()()()?」

 

いったいいつの間に。

“追跡者”と“レディ”が兄妹であるという事実は――“ゲーム”では重要なファクター。

ストーリーが進行すると、二人は互いに兄妹だというのが分かるんだけど――互いにそれを明かさず、しかし互いを想い、互いの為に行動するというむっちゃ面白い展開になっていくのだ。

……まあ、正直結果は完全なる悲劇になるから、無いに越した事はないんだけど。

これも“ぼく”のせいか……?

 

ぼくの問いに、二人は顔を見合わせ――レディがため息を吐いた。

 

()()()()()()()、あなた」

「………あっ」

 

やっべ。

 

「あっ、ああああのあのあのお二人とも顔立ちが似てるからそうだろうなぁって!」

「仮面で隠れてるわよ」「俺にいたっては兜だぞ」

「……。……超有能チート転生者のカンです」

「「………」」

 

うぅ……いやまあ隠す事は無いかもしれないんだけど――貴方はゲームの登場人物ですよ!……なんて言いづらいし、普通にキモくない……?なんというか……嫌われそうだし?

ここの“円卓”はギデオンご謹製のギスギス円卓じゃないから余計に嫌われたくない。

ギデオン相手だったら言ってた。死ぬほど煽り散らしてた。

 

「……それで、なんでこんな事になっているんだ」

 

追跡者は話を流す事にしたらしい。

とっ、友よありがとう!今度一緒に行った時、マレー家の執行剣とか出たら真っ先に――そうだ。ぼくが触ったら消えちゃうんやった。……感謝の気持ちだけにしておこう。

 

「ちょっと、兄上」

「コイツが話したくないのなら何か理由があるんだろう」

「……そうだけど」

「なら、今は汲んでやれ」

「………。……どうしても話してくれないの?」

「きっ、君の為を思って」

「見え透いてるわ。二点」

「ぐぬっ」

 

レディはしばらくぼくを見て――深い、それはまた深い溜息を吐いた。すっ、すいません。

 

「この人で確認したい事があるの」

「確認?」

「ええ、といっても、まだあんまり大ぴらに出来ないわ。だから兄上には秘密」

「……そうか。何かあったら言うんだぞ」

「ええ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……。……言うんだぞ」

 

……弱い。助けを求めた事が申し訳なくなるくらい弱い。

とぼとぼと去っていく背中を眺めていられなくて、レディの方を向けば――口許は緩んでいた。

 

「さっ、行くわよ。あなた」

「ええっと……」

「あなたも何か言って欲しい?兄上よりもあるわよあなたには」

「あっ、はいすんません何も無いです」

「よろしい」

 

そうして、一切の抵抗をやめたぼくはズルズルと引き摺られていく。

中央室から書庫、そこから下る階段をすすっ――ダンッダンッ、踵がいったい!

――葬儀屋。学者。

階段を降り終えるとそこは、侵食された緑の地面だ。

そこからまた外へと引き摺られていく。

半壊した天井から覗く日の明かりと、そこに照らされる小さな埃はどこか神秘的な風景に見えてきた。

 

それをぼぉっと見ていると、何だか言い淀むように――レディが口を開いた。

 

「……ねぇ」

「うーん?」

「復讐者に膝枕……されてたけど、どうだったの」

「どうって……――固かった」

「かたっ?って、そうよねあの子……」

「流石の“ぼく”でもシリコン系はムズかったんだねぇ」

 

もう何だか忘れそうになるが、“復讐者”は人形である。

それも近世の時代。陶器と木で出来たビスクドールだ。

 

つまりは、そんな彼女の膝枕は――()()()()()()()()()

 

素材不足にうーうーしてる時にコロリと横になったのが丁度彼女の膝だったので、そのまま続いた膝枕。

嬉しかったけど――やっぱり首が痛い。

……次は何とか間にクッションとか挟めないかなぁ。でも心の底から嬉しそうな雰囲気で顔やら髪を撫でてくるのを見ると言いづらくてなぁ……結局、料理も説得出来なかったし……。

あのぼくに対する好意を隠してない顔ずっこくない?何も勝てないよアレ。

 

「……あの、あなた」

「はーい」

「もっ、もしよかったらで構わないのだけれど……わっ、私も――」

 

――()()()()()()()()()()()()

 

その何百回は聞いた事のある特徴的な響きに、首を傾げる。

 

 

「あれ?“声”は聞こえなかったけど、誰か出撃したのかな?」

「………」

「……?レディ?」

「知らないわよたまにああ鳴くのよ霊体とはいえ鳥なんだから鳴きたくなる時もあるんじゃないの知らないけれど」

「おっ――」

「怒ってない」

「っす」

 

……なんか怒ってるから大人しくしていよう。

にしても、そんな事あるんだ。ややこいな。

 

 

 

 

外に出ると――そこは、ぼくが最初にいた場所。途方にくれた大きな砂浜だ。復讐者の伝説的なヤンキー仕草をかました所でもある。

 

こんなとこに連れてきてなんだろう、と思ったら、すでに――守護者と隠者が待っていた。

ぼくたちに気づいた守護者は「来たか」と呟くと、ぼくたちの後ろ、“円卓”に近い位置に待機する。

その位置取りは、部外者を寄せ付けないような陣取りだ。

 

「ふふっ、ずいぶん乱暴」

「そうしなきゃこの人は来ないのよ。変に感じ取りやすいから」

「そう。逃げちゃうのよね。そういう時は最初から何も言わずに捕まえちゃえばいいの。そうすれば、大人しくなるから」

「そうね。参考にする」

 

……なんだか物騒なぼく対策を話す二人。

まっ、まさか……!

 

「ぼっ、ぼく……まだ腑抜けてないよ……?」

「いきなりなによ?あなたが腑抜けてるのはいつもの事でしょう」

「えっ、このまま三人でぼくに焼き入れるのでは……?」

「……入れてほしい?」

「いえいえいえ!!」

 

苛ついたレディがスルリと短剣を抜いたのに、慌てて拒否を示すと――ふんっ、とぼくは砂浜に解放された。

どしゃりと腰を落としたぼくの様を愉快そうに見ていた隠者が、ぼくの視線を合わせて頭を撫でてくる。……いやなんでさ。

 

「それで、お話って?」

 

隠者がレディにそう聞くと、守護者の方に視線を向ける。

守護者が静かに頷いた。

 

「この人に――“夜”が入り込んだみたいなの」

 

うぇ……?

思っても見なかった言葉にぼくが困惑していると、隠者が目の色が変わった気がした。

 

「詳しく」

「今回の“夜の王”……さっき話した“蟲”を倒した時――急に中から“夜”が溢れ出してこの人を包み込んだ。今まで倒した“獣”と“爵”の時は、そんな事無かったわ」

「この事は?」

「私と守護者。それと貴女だけ。貴女なら何か分かるかもしれないから」

 

――()()()()()()()()()()()()!?

 

えっ……えっ……“夜”が入り込んだぁ!?

そんな事ゲームでは無かったぞ。夜の王が死ぬ時はちょっと派手になるくらいで普通に……――ってそうだ!確かに喜んでた時に急にぐわーって視界が真っ暗になってた!それか……。

 

……いや、アレか?一か八かでやった“とっておき”のせい?超強い一撃。

 

あの時、グノスターの中に濃い力みたいなのを感じて――()()()()()()、引き寄せられそうって感じたんだよな。それで一か八かやってみたら出来て、それをボルトに込めるようにして撃った。

 

……なんであんな事が出来たのかはわからないけど、そのせいで“夜”も一緒に引き寄せられちゃったとかだろうか。

 

混乱していると――ふと、隠者と目が合った。

何かを見通すような真剣な瞳は、いつものぽやぱやねーさんの優しげなものではない――魔女らしい、知恵に満ちた色をしていた。

 

「……そう。食いしん坊だものね

「んん?」

「いいえ。ちょっと触らせて」

 

そう言うと、隠者をぼくの頬を両手で優しく触れると――額をぼくのデコにくっつけた。ハーブのような少し爽やかで甘い、落ち着く香りが鼻を撫でる。

 

「……何してるの?」

「今からこの子の中を確認してみるわ」

「……そうする意味は?」

「私がそうしたいから」

「…………」

 

何故か感じる不機嫌オーラに戦々恐々する。なっ、なんやねん。

 

すると――額から暖かなものが流れ込んできたのを感じた。

嫌な感覚ではない。初めてのような、そうではないような……不思議な感覚。魔力的なものかな。

それは、探るように頭、喉を這い、胸の中央――心臓に差し掛か、

 

 

―― 触るな ――

 

 

声無き声と共に、その感覚が霧散した。

えっ、この声って――

 

「“()()()()()”……?」

 

間違いない。

確かにレディの言う通り――ぼくに、“夜”が入り込んでいる。

 

「これが“夜”?……穏やか」

 

隠者は額を離すとむぅ……と口許に手を当てる。

レディはそんな彼女に問いかける。

 

「どうだった?」

「――“夜”の欠片のようなものがある。でも、全てのようにも感じるわ。性質を考えればどっちも、だろうけど」

「……この人に影響は?」

「ない、と思う。ひどく静かで落ち着いてる。触るまで“夜”だとも感じなかった」

 

ええ……。なにしてくれちゃってんのあの“蟲”は。

ゲームじゃそんな事無かったぞ。

 

ぼくは胸に手を当てる。

……何も感じない。何も感じないが――でも、微かに何かを感じるような気がする。つまりはプラシーボ?知らないけど。

 

 

でも、何か――使()()()、ような気がした。

 

 

「二人とも。ちょっと離れてて」

 

ぼくの言葉に二人は顔を見合わせ、言われた通りに離れてくれた。

十分に離れた事を確認して、ぼくは手を前に伸ばす。

 

そして、合図をするように――パチンッ!と指を鳴らしてみた。

 

すると。

 

「うわっ――」

 

目の前に――グノスターとフォルティスが現れた。

“夜”が無理やり象っているのか、霧がった靄で作られた幻影のように見えるが、確かにそれはぼくが戦った“知性の蟲”だった。

 

後ろで身構える三人を制し、ぼくは“蟲”たちを見る。

 

これに意思を感じない。

だが――胸の奥から、声が響く。

 

 

―― かぞく いっしょ ずっと いっしょ ――

 

 

幻影を維持出来なくなったのか、目の前の“蟲”は霧散した。

どうやら力を貸してくれるようだ。でも、またすぐには出せる感覚はない。……これが、ぼくの“アーツ”って事になる……?

 

「“夜”を、扱えるの……?」

「お前は……いったい……」

 

驚愕するレディと守護者の言葉に――ぼくは、()()()()

 

 

(いや、“ぼく”グノスターとも関係あんの!?いったいなにしてくれちゃってんの!?蟲と家族とかもののけ姫の親戚かなにかか!?いや、それをいうならナウシカか……?いやそんなんどうでもいいわい!)

 

ぼくは三人の方を振り向く。

だけど――何故だか三人の顔を見る事が出来なかった。

 

「あの……あなた――」

「――ごめん、ちょっと失礼するね」

 

レディの気遣いの言葉を遮って、ぼくは“円卓”に足を向けた。

 

 

 

……やっぱり、良い話では無かった。

 

“夜渡り”であるぼく。“転生者”。ぼくの“中”にある夜の王。グノスターの言葉。なんでか扱える夜の力。

 

立て続けに出てくる謎めいた事実。

 

ぼくは――

 

 

「おっ。話は終わったか相棒。お前が来て、巫女の嬢ちゃんも良い感じに気が抜けて良かったぜ。変に気張りっぱなしだったからなぁ。にしてもまあ……お前の女運が悪かったのも納得だな。一生分を疾うに使い果たしてたんだろう、アッハッハッハ!」

「………」

「んで、あんま良い話じゃあ無かったか」

「……を……」

「おう」

「――お酒を、ください……!」

 

 

――全てを酒で飲み下す事にした。

 

うるせぇええええ知らねぇええええ!もうなんなんだよ“ぼく”は!?もうなんかぼく自体が厄ネタの塊みたいなもんじゃんか!

ああもう知らん!ああもう知らなぁい!とにかく今は知らないわもう!

 

ぼくは、ヘラヘラ笑う無頼漢から酒瓶をもぎ取って――一気に呷り……その味に、固まった。

 

「……なんですんこれ」

「水で薄めたエールだが?懐かしの味だ」

「なっ……!みっ、水で薄めたエールなんてビールじゃない……!」

「エールだからな。……久しぶりだなぁこの感じ」

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

――“夜”は全てを呑み込み、狂わせ、蹂躙する事象である。

 

どこかにあって、どこにもない。

過去にも現在にも未来にもあって――過去にも現在にも未来にもない。

 

ただ、その悍ましい存在は――不意に現れ、全てに傷跡だけを残して、去っていく。

天災、災厄、暴威、暴虐、残虐。

 

……()()()()()

あんな、穏やかなものは見た事がない。

 

(どういう事なのだろう?)

 

何か条件があるのだろうか。

それを見つける事ができれば。

 

そうすれば、あの子を―――

 

 

「ぐごごごごごごっ!ぐごごごごごっ!」

 

 

……盛大に響く、無頼漢のいびきにペンを止める。

いつの間にやら暗くなった周囲を確認し、随分時間が経ったのだと――“()()”はランプに火を灯す。

 

そうして、先ほどまでの事を思い出し、くすりと微笑んだ。

 

あの子が去った後。

何を言えばいいのかわからない沈黙の中。

とりあえず、あの子を後を追おうと“円卓”に入ると始まっていたのは――あの子が酒瓶片手に騒いでいる乱痴気騒ぎ。

 

困惑していると、安堵しているのか呆れているのかわからない不思議な顔をしたレディと守護者が言うには。

 

あの子は嫌な事があった時、考えが煮詰まった時は――お酒をいっぱい飲んで誤魔化す習慣があるらしい。

 

それも強いお酒が好きで、果実酒、蒸留酒、馬乳酒、蜂蜜酒とか大好物なのだとか。あと、水で薄めたのがすごい嫌なのだという。

 

()()()()()()

 

あの子は小さかったから。

もしかしてあのまま一緒に暮らしていたら、そんな風な可愛らしい姿を見る事が出来たのだろうか。

だめだめな大人のやる事なのに、そう思った

 

(……これなら、あの蜂蜜酒(ミード)。持ってくればよかった)

 

――仮にも母親を名乗っているのだから作れと。

同志であった魔女が煩いから、仕方なく作ったハーブを漬けた蜂蜜酒。成人祝いとして親が作るのが里の習わしだった。

もう、どこに仕舞ったのかも、覚えていないけれど。

 

飲ませてあげたかった。せめて――

 

そうしてぼんやりと物思いに耽っていると――目の前に、()()()()()()()()

 

「………?」

 

その軌跡を辿ると、見た事もない美しい白い蛾が周りを飛んでいた。手の平ほどの大きさで――それを超える、“なにか”を感じる蟲が。

 

「グノスター?」

 

レディと守護者から聞いた、“蟲”の内の一匹。あの子が口走ったその名前。

ソレは此方が気がついたのを察知したのか、ひらひらと羽を羽ばたかせる。

 

すると、目の前に“夜”が溜まり、そこから――ゴトリッゴトリッと何かが複数個落ちた音がした。

 

「……?なあに?」

 

危険を感じないので、それを拾ってみると――やけに重い。

岩や鉄のように見えるがどこか生物を感じさせるもの……殻、蟲の甲殻のようなものの破片だった。

これが何かと思えば……グノスターはそのまま、机の上に置いてあった、実験用のフラスコの前でまた羽ばたく。

ひらりひらりとその中に宇宙色の粉が溜まっていく。蛾であると思えば、それはきっと鱗粉だろう。

 

そうして、何かを訴えかけるようにひらひらとその場で羽ばたく。

なんとなく伝わってきた。

 

「これをあの子に持っていけばいいの?」

 

了解を示すように――グノスターはその輪郭を融かし、消えていった。

 

「………」

 

不思議な“夜の王”がいたものだ。

これまで対した者達とは全然違う。

 

直に相対した事があるのは“獣”だったが――息が出来なくなるほどの苛烈な憎悪を眼に宿し、その存在一片たりとも許容出来ないと言わんばかりの容赦の無い攻撃に、対話など端から選択肢にすら上がらないほどだった。

 

“爵”は夜に狂い、ただ暴れ、何かを求め鳴き叫び続けたという。

 

この差は、いったい何なのだろう?

 

 

()()()……?」

 

 

……試したい欲が湧き上がる。

だが、それはやめておく事にする。今はあの子も受け入れがたいだろう。

 

今は取り敢えず、この“素材”をあの子に持っていってあげよう。

あの武器のように何かを作るのが大好きな子だ、きっと喜ぶだろう。……あの蛾も、それを知っているのかもしれない。

 

(……それにしても、どうしてあの子に直接渡さなかったんだろう)

 

――答えはすぐに分かった。

 

 

 

 

「むっ!ふっ!」

 

あの子が“工房”として使っている部屋。

そこで――手の平より一回りほど大きな蠍、フォルティスと格闘している復讐者がいた。

 

あの子を膝枕しながら、背を正して手刀を構える姿は――健気で愛らしい。

 

蠍があの子に近づこうとするのを手刀で防いでいる。

手の甲が“夜”に濡れているのを見れば、グノスターは撃退されてしまったようだった。

 

……成る程、これなら納得。

 

「くっ……!しつこいぞ貴様、さっさと……と、隠者?」

 

こちらに気づいた復讐者につられて、フォルティスも振り向く。

そして抱えているものに気づいたのか――その姿を融かして、消えていった。

 

「大丈夫?」

「ああ……奴らいきなり出てきたんだ。幾ら蛾を潰しても、蠍がしつこくてな」

 

……グノスターは何回もやられたらしい。弱い。

 

「よくはわからんが、夫の内に巣くったという“夜”の報復だろう。ああ……こんなに顔を歪めて……」

「……これは普通に寝苦しいだけだと思うけれど

「……?何か言ったか?」

「ううん、なんでも」

 

抱えていたものを側に置き、子の頬を優しく撫でる。

大きくなっても柔らかな感触は変わらない。

 

姿は大きく変わっても、自分の事を忘れてしまっても――“夜”に侵されていても。

可笑しくて変で、愛しい子に変わりはない。

 

 

復讐者と別れ、書庫に戻った隠者はペンを取る。

今までの事を記し、考え、研究し――見つける為に。

 

 

――“()()()()()()()()()

 

 

「……やり直すの」

 

 

今でも覚えている。

同志の魔女に抱えられてやってきたあの子の事。

 

『にくたいもっ、まりょくもっ、このめにうつるじょうほうは、あなたをははおやだといっているっ……そしてっ、ぼくのたましいもそれをみとめている――つまりは、あなたはぼくのかあさん!』

『……だ、そうだが。本当にお前の子か?あの変な魔法生物じゃなかったのか?』

『たべられました』

『いったい何の話している……』

 

可笑しくて、変で、愛しい――私の子。

 

もう二度と目を離さない。もう二度と一人にしない。

もう二度と――あの手を離しはしない。

 

その為に――私は、この地にやってきたのだから。

 

 

 

 

 

それが、夜渡りたちと同志の魔女たちへの――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 







【修正アップデート情報】

・“転生者”のアーツ内容の変更。
 【変更理由:転生者の内に存在する“もの”の影響、根幹記憶の欠損(瓦礫の王未撃破のため)、悪魔との契約事項に抵触、夜の王の皆さんのやる気】

☓――記憶にある己の幻影を召喚する。幻影は自動で戦い、一定時間後に消滅する。

◯――“内”に収めた夜の王の幻影を一時的に召喚する。威力は計り知れないが、クールタイムが非常に長い。






―――――――――

フォルティスの甲殻
夜の識、グノスターと共にあった“堅盾のフォルティス”の甲殻。
転生者の傑作に用いる特別な素材。
尋常ならざる硬度を誇るが、有機的な特徴を残している故か加工の余地が十分ある。

人の子の交わりによって獲得した“知性”は、自らの特質に大きな意味を与えた。
――壊れぬ楯の如き殻。
それはただの進化の過程ではなく、我が子を護る誇りとなった。

―――――――――

グノスターの鱗粉
“夜の識、グノスター”が全身に纏う鱗粉。それを集めたもの。
転生者の傑作に用いる特別な素材。
非常に毒性が強く、なおかつ混入している寄生虫の卵がより危険性を高めている為、加工には細心の注意が必要になる。

人の子の交わりによって獲得した“知性”は、自らの特質に大きな意味を与えた。
全てを蝕む寄生の猛毒。
それはただの進化の過程ではなく、我が子を抱きしめられない呪いとなった。

―――――――――

夜が近づいている………

  • “兆し”
  • “調律の魔物”
  • “闇駆ける狩人”
  • “霧の裂け目”
  • “    ”
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