“転生者” 作:ダフネキチ
視界が晴れる。
しょぼくれる目を擦りながら前を向くと、目の前には――
夜に呑まれ、尚も抗うかつての黄金の地。
――“リムベルド”。夜渡り達の戦いの舞台。
勇ましく飛ぶ霊鷹の足に捕まり、空高くから見下ろすこの光景。
転生者として垂涎の眺めだ。ちょっと感動。
ここは、幾つかのロケーションがランダムに生成されるマップだ。
“
簡素に表せば、『三人一組で、自動生成されるマップの中、効率的にローグライクしまくって、装備・ステータスを強化して――大ボスを倒すまでの40分弱のゲームプレイ』といった感じ。“ゲーム”では。
そう、“
「………」
今、ぼくの眼下に在るこの地は――“現実”だ。
断崖が多く存在する草木茂る地。半壊した遺跡の残骸。点在するように在る砦や大野営地、かろうじて維持された小拠点。倒壊した大教会、かつての神だけが残された小教会、隠れるようにそびえる魔術師塔、最早意味も無く採掘を続けている鉱石掘り達の坑道。
そして、夜に侵された――“敵”。
「……っ」
“傑作”を強く握る。
出来得る準備はやった。あとは――やるしかない。
そんな現実が目の前に広がっていた。
不安だ。普通に。でも、策はある。
原作既知転生お馴染みの強み――
確かにここは“現実”だが、全て“ゲーム”に沿っている。
……若干一名の空気読めない転生者くんによってちょっとガタついている気がするが、おおよそそのままのはずだ。おそらく、メイビー。
つまり、ぼくは効率の良い攻略方法を知っている。ロケーションの意味や敵配置、弱点も覚えている。まさに強み。これを活かさない手はない。
これこそ超有能チート転生者の実力!
断じて先人達の知恵の流用とかではない。ぼくはリムベルドの全てを知っているのだ――Wikiに書いてあればな!
さて。まずは、早速セオリー通りに行こうか。
今回のリムベルド、そのロケーション位置を確認する為に、“地図”を開い……開いて、ひらっ……地図、地図……?
あれ?地図って“現実”でどう開くん?何も聞いてな……えっ?
「そろそろ降下するわよ」
わたわたとポケットやらを確認していたぼくはその声に前を向く。
“巫女”改め――“レディ”は静かに眼下を窺っていた。
「転生者、体勢を保つようにしなさい。私たちには“加護”があるから怪我はしないわ」
「降りたらまず、手近な小拠点を叩く。気負うなよ、援護は任せろ」
続く“守護者”の頼もしい言葉にぼくは頷く。
夜渡りの“加護”は便利だ。どんだけ高所から落ちたりしても落下ダメージを受ける事は無いし――本当の死は訪れない。
“ゲーム”通りならばめっちゃ素早く走る事も出来る。……ぼくにも出来るんだろうか、実感ないんだけど。
――霊鷹の嘶きが響く。
それと同時に、二人は鷹の足から手を離し――続けて、ぼくも手放した。
そうして、ぼくらは降り立った。
このリムべぇぇええええ結構たっかいんだけどぉおおおお!?
「だっ……!大丈夫なんだよね!?ほんとに怪我しなっ――ぶべ!?!」
無事不時着した。
たぶん死んだカエルみたいな格好になっている無様なぼくに、痛みは……ちょっとあるが、確かに――怪我をした感じの酷い痛みはない。わかりやすいくらいの重力×質量だったというのに。……ちょっとキモいなこの感覚。
「無事?」
「……たぶん」
「じゃあ立ちなさい。行くわよ」
レディの言葉に、ぼくはのそりと立ち上がる。当たり前だが、二人は無傷だった。はずかしい。
二人はぼくの姿を確認すると、目の前の小拠点へと“疾走”する。加護の力、まるで風のように。
その背に続くようにぼくも足を動かし――自分でもビビるくらい速さに引く。
意識と身体が乖離した、変な感覚だ。ほんとキモいなこれ。
小拠点は、“ゲーム”では着地地点の近くに高確率で存在している。
ここでまず手頃な雑魚を倒して経験値を得て、レベルをあげてねという計らいのロケーションだ。
そんな場所は、小汚くオンボロだった。
そこに骸骨のような痩せっぽちの人々が屯している。
かつての黄金の地に住み、そしていつしか正気を失った“貴人”という名のエネミーだ。かつての謳歌が伺える汚れた黄金の衣や武器が特徴というだけの烏合の衆、雑魚。
緩慢な動きで此方を見やった彼らに、素早く“レディ”が迫った。
「っ……!」
素早い短剣の軌跡に軽やかな身のこなし。
元・義賊であり、その姿やあり様から“レディ”と呼ばれるようになった彼女の早さに、貴人達は反応も出来ずバタバタとなぎ倒されていく中で、少し離れた位置にいた魔術杖を持った貴人がレディに狙いを定め――
「させんッ!」
――る前に、衝撃が貴人を大きく仰け反らせた。
それは疾走の勢いのままに“守護者”が振り下ろした斧槍の一撃。
仰け反った貴人はそのまま彼の斧槍に貫かれ、絶命する。
“
大盾を力強く構え、鋭い鷹の眼光で辺りを見渡し、レディの背中を支えるように敵に対する姿はまさに“守護者”そのものだった。
――流れるような連携だ。
互いに会話も無く、しかし自分の持ち味を活かした戦い方。
それを見て、確かに彼らがぼくの知っていて――そして知らない“夜渡り”の姿なのだと実感したのと同時に。
横から、嫌な呻きが聞こえた。
「……!」
彼らはただの雑魚だ。問題無く対処出来るへなちょこ。たまに囲まれてボコられはするが、何のプレイスキルも必要ない。
“ゲーム”ではその程度の存在だ。そのはずだ。
けれど、向けられているのは“現実”の敵意。その堕ちた姿も相俟ってどろりと重く、強いそれに――
ぼくの心は――
「えっ」
――
バババッッ!と微かな風切り音を残して、連続して三発のボルトが射出され、それはすぐに貴人の腹、胸――頭に着弾する。
貴人は、何も出来ずにそのまま仰向けに倒れた。ぴくりとも動かない。
――倒した。あっけなく。
ぼくが――殺した。
「………」
それを最後に、拠点の制圧は終わった。
力尽きた貴人達、その肉体は霞のように解けていき、そこから黄金の欠片のようなものが溢れ、ぼく達の身体に流れ込んでいく。
“ルーン”と呼ばれる、ゲームでいう経験値兼通貨だ。これを使ってレベルを上げたり、アイテムを買える。
ぼくはルーンが消えた胸を眺め、その後自分の傑作を見やる。
問題なく作動した。想定通り。威力も悪くない。問題ない。
そう、問題なく――ぼくは
「……」
それに。
確かに彼らは“敵”だ。ぼくが夜渡りである以上、排除する必要のある障害だ。褒められる事だろう。
でも……敵、狂人の類でも――“人”だった。それを初めて殺した。
なのに、
「えー……?」
転生者特有の良心の呵責みたいなのを感じない。それにどうしてこんな普通に動けるん?
これも“夜渡り”の加護?
それか、まだ良くわからない転生チートの影響?
「今、身体に入ったのは“ルーン”。私たちの力の源で、商人との取引に使える代物よ。少し気味悪い感覚かも知れないけれど、慣れなさい」
レディの声。ぼくが下を見ていたから、ルーンを不思議に思っていると感じたんだろう。
………。
……まあ、考えても仕方ないか。ぼくこういう“良心の呵責シーン”って結構冗長な感じで苦手だし。
戦えるんなら、それでいいや。
「そういえばさ、“地図”って持ってる?」
それより地図だよ、地図。
まず初めに各地のロケーション位置を把握して、そこから効率の良いルート取りを考えるのがセオリーで、特に必要なものだ。
“ゲーム”では当たり前のようにあったから説明は無かったけど、前もって誰かが用意した不思議な感じのものが――
「
「えっ」
「ないの。このリムベルドは――訪れる度に地形を変えてしまう。……理由はわからないけれど」
「そのせいで地図を作成しても意味がないのだ。最初は何とか記録していたが、こうも全てが様変わりするとな」
「えっ……えっ」
地図無し?えっ、マジ?
高難易度モードだと、ロケーション位置が見えなくなる“マップ欠損”とかはあったけど……えっ、“マップ全損”!?何もわかんない!?
セオリーは?この、超有能チート転生者の活躍は……?えっ、どうすれば……?
慄くぼくに、レディはある所を指差した。
それは離れた場所にある、小さな城塞――“小砦”だ。
「あそこには周辺を記した地図が大抵置かれている。だからまずはそこを襲撃するのが“セオリー”ね」
「三日間は長いが、初動は大切だ。早速向かうぞ」
二人に確認の視線を向けられ――ぼくは、頷く。
とっ、取り敢えず……大人しく二人に着いていこう。
……べっ、別に最初っから躓いたからって怖気ついてるとかじゃないんだからねっ!後進(そのはず)の二人に道を譲ってるだけだから!勘違いしないでよねっ!
“小砦”は、入口に設置された小さな野営だけで外の守りはない。
かつての黄金の地に仕えた“兵士”が付いているとはいえ、彼らも正気を失い、ただ規則に沿うように行動しているだけだ。
ぼくたち夜渡りの敵じゃあない。
すぐに突破し、中に入ると――そこは開けた中庭になっていて、異物の存在に気づいた兵士たちが襲いかかってきた。仲間を巻き添えにするのも厭わない、正気を失っているからこその死を恐れない攻勢。
だが、ぼくの前に立つ“守護者”の背中が、恐ろしさを感じさせなかった。
向かってくる兵士達に向かい――その翼を力強く、
「――ふんッ!」
彼の翼は力を失ったが、限定的に全盛の力を取り戻す。
その翼は一瞬で、風を巻き上がらせ――“つむじ風”となって、兵士達を宙へ吹き飛ばす。
夜渡りとしての守護者の“
「ここは私に任せろ。レディとお前は、兵士長を倒せ」
「わかった。行くわよ」
「あっ、うん!」
守護者が向かってくる兵士を堅実に倒しているのを背に、レディとぼくは屋上へと続く階段を駆け上がる。
登った先には――緑がかったサーコートを身にまとう騎士が立っていた。灰色鬣の兜、色褪せた黄金の大盾、鍛えられた大剣――“君主軍の戦士長”。
ぼくらを見やった兜の下は狂気に呑まれていても、大盾を構えた姿は全盛のまま。隙が見えない。
「転生者」
「――
身体が動く――“傑作”を作動、兵士長に向かって遮二無二に連射する。狙いは胴……当然、それは大盾によって難なく防がれ、じわじわとこちらに近づいてくる。
普通のクロスボウ相手ならきっとそれが正解だろう。だけど、このぼくの“傑作”相手では、兵士長は――
その背に、レディは軽やかに忍び寄る。
兵士長は彼女が近づいてくるのはわかっていただろう。だけど、連射される中、身を変えれば蜂の巣だ。ある意味、始まる前から詰んでいたんだ。
レディの短剣が、背に突き立てられる。
――
華麗な連携だった。
何にも言われてない……名を呼ばれただけなのに、やるべき事が理解出来た。……いや、こう振り返れば思いつく作戦だったけどあんなすぐに出来るほどぼくは――
――その時、兵士長が動き出した。殺しきれていない。
「やばっ……!」
「――大丈夫よ」
すぐに傑作を向けるよりも前、レディが懐からある物を取り出した。
――古めかしい懐中時計。カチリと、それは作動する。
すると、兵士長の動きに合わせるように、彼の幻影が現れ――それは、彼が背に一撃を喰らった場面を“
その瞬間、まるでもう一度ダメージを受けたかのように呻くと、立ち上がる事なく倒れ伏す。もう、起き上がってはこない。
レディの能力――“リステージ”だ。
数秒前の敵の幻影を生み出し、その時に与えたダメージを――“再演”する。どういう理屈かはゲームでも説明されていない。彼女の持つ懐中時計に秘密があるんじゃないかなぁ?程度。
まあ、神も化け物もいるなら、そんな不思議な何かもあるんだろね。
そうして下の敵を掃討し終えた守護者と合流し、あちらこちらから“ルーン”が流れ込んでくる中――兵士長の死体からぼんやりとした輪郭を持つ青いオーブのようなものが現れた。
……“潜在する力”だ。こんな風に出てくるんだ。
「これを“潜在する力”と私たちは呼んでいる。力を持つ、あるいは“夜”に侵食された敵が持っているの。有用なものよ」
見てて、とレディはそのオーブに――手を入れた。そうしてしばらく何かを辿るように手を動かすと、引き抜いた。
その手には――短刀、“脇差”が握られていた。
煌めく刀身は実物そのものだ。
「おおっ」
「口では説明しづらいわ。試してみて」
「ああ、特に危険はない」
守護者も“潜在する力”に手を入れる。だが、すぐに何も手にする事なく引き抜く。だが、青い光が彼の身体を包み込んだ。きっとステータス強化を選んだんだろう。
ぼくはごくりと息を飲む。
“潜在する力”はロケーションのボスとかフィールドに点在する“強敵”とかを倒すと出てくる報酬だ。
幾つかの武器とステータス強化の中から一つを選択出来る重要な機会。夜渡りたちはこれの為に各地を駆けずり回るようなものだ。
“ゲーム”ではただリストが現れて選ぶだけだったけど……。
手を入れてみると生暖かい感触の後――
それは、追い剥ぎの短剣を大盾で防ぎ、返し刀で大剣を叩きつける光景。そして同じ格好した騎士の槍をいなしながら、必死に説得を試みる光景だった。
……成る程。こんな感じか。
ぼくはその中にある、槍を引き抜いてみた。
ずるりと抜け出したぼくの手には――“パルチザン”が握られていた。
「そう、そんな感じでかつての狭間の地にあった武器を手に入れられるわ。私達はそれを――」
――バチィッッ!!
その瞬間、ぼくの手から武器が――
「は?」
からんからんと地面に転がった槍は、そのまま霞のように解けていき、ぼんやりとした黄金の明かりとなってぼくの中に消えていく。
「はぁ!?」
えっ、
ああいや、ぼんやりと身体から“近接攻撃力強化”っぽい感覚は感じるから、武器の付帯効果は得られたみたいだけど……ええ?
ぼくは説明を求めるように二人を見るが、困惑の表情を返される。
レディが持っている“脇差”を差し出してきた。
ぼくはそれを受け取っ――
――バチィッッ!!
――
だが、今回は消える事は無く地面に転がったまま。レディが拾い直しても特に異常は無さそうだった。
「……」
「……」
「……どゆこと?」
答えはない。
えっ、えっ、武器無し?武器無しなんですかぼくだけ?いや、傑作はあるんだけさ……こっ、こんなの“ゲーム”の中に無かったぞ!
………。
「まっ、まあいいし?ぼくにはコレがあるしぃ?色々持ってきたから問題ねぇし?武器なんて必要ねぇんだよ!」
「泣くな」
「泣いてないやい!」
別に気にしてねぇし。“ゲーム”にあったあれやこれや装備してみたかったとかそんなんじゃねぇし。ぼくには工学チートあるし。
ぼくは決して負け惜しみではなく――肩がけしていた、ポケットを複数付けた革のベルトを撫でる。
これは円卓にあった革鎧を勝手に分解して作った“マガジンベルト”だ。
持っている“傑作”の特徴は、クロスボウ特有の装填速度の長さと継続射撃性能のカスさを劇的に改善した点だ。クロスボウというのは機構と形だけで、半ば未来にある“銃”と差し支えない。
弾倉を交換する事ですぐに連続射撃が可能になる。
さらに――弾倉内の“ボルト”を変えれば、複数種類の攻撃が可能!
まさしく革命。文明開化の鐘の音が鳴るんだよなぁ。武器なんて必要ないんだよなぁ!――黄金律とか屁でもねぇぜ!
まあ、まだ作ったのは“通常ボルト”だけだけどね。時間無かったから。
――
そうだ。リムベルドに来る前に気づいたやつ。
「これさ、誰がやったかわかる?」
ぼくは、ベルトに収めていた弾倉を一つ取り出し、それを二人に見せた。
覗き込んできた二人に見せたボルトはただの矢ではなく――青いクリスタル状の石が付いていた。
「“
この石は、この世界の魔法の源のようなものだ。
これを使った輝石魔術というのが“ゲーム”での主流で基本。これを使って魔術師達は色々するのだ。その色々は知らない。ワイ未来人だし脳筋鉄球拳だったし。
後、投擲アイテムとして投げて魔法ダメージを与えるくらい。
守護者はそれを見て、すぐに口を開く。
「……先生か?」
「でしょうね。私たちで魔法に精通してるのは彼女だけだもの」
守護者が先生と呼ぶのは一人だけ――“隠者”だ。
確かにぽわぱや魔女くらいかこういうの作れるの。つかいつの間に忍ばせたんだあの人……。
「見る限り、特に変なものじゃなさそうだし、使えば?」
「うむぅ……」
……つまりは、“輝石ボルト”といった感じかな。
ぼくはマガジン交換して――試しに壁に撃ってみる。
――ぴゅんっ。と青い軌跡を残して飛んでいき、壁に着弾すると破裂した。
壁は少し欠けた跡を残し、青い光が微かに移った。
おお、強力。
流石は隠者先生。魔術系なら何でもお任せな人だけはある。後でお礼言っとこ。
「……まあ、これなら火力の心配は無さそうね」
疑問があるが、悩んでも仕方ない。
そんな風にレディは流すと、屋上から入れる“小砦”の司令室に入っていく。
ぼくたちも彼女に続く。
レディは手慣れたように砦に備えられていた魔術杖を一本抜き取り――机の上に置かれた“地図”を見せてきた。
それは“ゲーム”で見慣れた、リムベルド全域の地図だった。
だけど、どこに何があるかはよくわからない。この砦から見える範囲は記載されているようだけど。
「これを足掛かりにするわ。転生者、覚悟はいい?」
「うん、まあ……頑張ろう」
ぼく達は“小砦”を出る。
こうして、マップ全損、(そう言えば)ボス不明、(ぼくだけ)武器無しの戦いが始まった!
……不安しかねぇ!!!
――と、思ったけど。
特に何も起きなかった。
というのもやった事は――
まあ、そういえばそうだろう。
二人というか……ここの“夜渡り”はロケーションの意味を詳しく把握出来ていない。そんな状態で、“ゲーム”よろしく『あっ、なんかある!よくわからんけど突っ込んだろ!ぐえーっ!死んだンゴ!』みたいな蛮族的な脳無しムーヴはしないよねそりゃ。
高所から、遺跡や大野営地とかの大型ロケーション・フィールドを練り歩く“強敵”をチェック。小拠点は襲う。小砦も襲って、その中の地図を確認して、マップ更新……以下エンドレス。
ぼくがやった事と言えば、二人の後ろからチクチク撃つくらいだ。
……確認出来ている全てのロケーションはぼくの知ってる通り、つまり“ゲーム”のままだったけど――マップ全損の上に何故かぼくだけ武器無しというクソゲー状態なので、一日目は大人しく二人に着いて行った。
やっぱりここはぼくの知る“リムベルド”ではあるようだ。
だからこそ、ぼくの状態が気になるんだよなぁ……。
なんでこんな風になってんだろ。
ぼくが“転生者”だから?超有能チート転生者の上に、産業革命一歩手前の男だから?
うーん……。
そうした疑問の中、時間だけが過ぎていくと――ふと、
「――来たわ」
不意に辺りが暗くなってくる。そうして遠くから微かに聞こえてくる――雨音。
――“夜”の足音。
それが徐々に近づいてきている。
始まった。エリア縮退――一日目の終わり、ボスの時間だ。
空を見ると近くに、白く輝く大樹が浮かび上がる。
それは“霊樹”と呼ばれるもの。“ゲーム”に詳しい説明も何もなくいきなり現れるからなんも知らないけど、あそこが――今の目的地になり、あそこ以外の全てが“夜”に侵食されるとボス戦だ。
「転生者。これから一度――“夜”を押し返すわ。あそこを目指すわよ」
「うん、行こっか」
正念場だ。
けれど、ある意味不安は無かった。
――身体は落ち着いている。“傑作”を携える手にも震えはない。
……やっぱり、変な感覚だなぁ。
………
……
…
果てのない荒野の先。
新緑の灯火は――その“夜”は、確かに感じ取っていた。
古い交わりの先、為された約束。
長き旅路が、ようやっと終わりを迎えようとしていた。
【ステータス更新】
・転生者は自らの“傑作”以外の武装・アイテムを使用出来ない。
・黄金樹の祝福により――武器の付帯効果を取得・譲渡は可能である。その際、武器は失われる。
“転生者”は黄金律を拒絶しているが故、挿し木の娘の嘆願なくば、祝福を得る事は出来ない。
【スキル更新】
スキル:【マガジンリロード】
その場で弾倉交換を行い、使用ボルトを切り替える。
転生者は“通常ボルトと二つの特殊ボルト”を持ち込む事ができる。
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・通常ボルト
“円卓”に貯蔵されていたクロスボウ用短矢を、転生者の傑作に合うように調整された特別製のボルト。
幾つか試作された後は、召使人形が暇を見つけてせっせと作り置きしている。
「転生者サマ。弾幕はパワー?なのはわかりましたから無駄撃ちはあまりなさらないよう。私、見ての通り腕は四本ございますが一体しかおりませんので」
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・輝石ボルト
矢先を小さな屑輝石に交換し、魔術細工を施した特殊ボルト。
か細い軌跡を描いて飛んでいき、着弾時に小さく弾け、魔法ダメージを与える。
“隠者”がこそりと忍ばせたもの。
彼女は覚えている。
せがまれ作ってあげた日の事を。
それを夜空に撃ち放ち、無邪気に遊んでいたあの笑顔を。
そうして描かれた拙い流れ星を同志達と見上げたあの時を。
あの穏やかな“夜”は、もう訪れない。
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