“転生者” 作:ダフネキチ
Pt.1
綺麗な布の上に置かれた――“
暖炉の温かな光に照らされてるせいでどこもかしこも傷が目立ち、良くこの状態で動作しているなと関心し、同時に――納得する。
それは緻密な武装だった。
緻密故に複雑怪奇の機構をして尚も扱いやすく、爆発力による破壊力の瞬間火力しか無いかと思いきや、それを利用したオプション装置を備えている。
傑作だろう。そう、傑作である。
その“傑作”を改めて、見る。
頭の中にある無数の設計図――工学チートの中に該当する武器が浮かび、ぼくは顔を引き攣らせた。
それは本来、はるか未来に開発される工業機械であり、硬い岩盤やらをぶち抜く為の重機の一つ。
しかし、ある時。それを兵器として転用したロボットアニメが流行して以降、その名の意味するものは徐々に変わっていき――こと、フロムのゲームにおいては代名詞すら現れた。
素敵武装、一撃必殺、ロック不可、ガッシャンキュインッドゴーンッッ!!――相手は死ぬ。
まさしく男の子の夢見るロマン武器。
それこそが――
その機構を持つ、武装。
「整備出来そうか?」
その持ち主たる“追跡者”の言葉に、ぼくは引き攣った顔のまま頷いた。
これ作ったのぼく疑惑に発狂が溜まるのを実感し――現実逃避を始めながら、手を伸ばした。
マイラブリーエンジェル“復讐者”たんの爆弾発言が着弾して、“円卓”の空気が焼け野原になって少し。
夜渡り達と食卓を囲むというファン垂涎の体験が消し飛ぶ勢いの――結婚してるしてないエンドレス論争は留まる事を知らなかった。
……いや、もう論ですらないんだよあっち。
「結婚している!してない?私がしているからしているんだ!!」とかいう暴論を通り越したナニカなんだよ。彼女の綺麗なお目々は完全に本気でぼくと結婚していると思いこんでいる。こまる。
正直うれしいけど、こまる。
何とか言い包めようと自分ちの法を振りかざして――婚姻届ってのが必要でぇ……と言えば、書けばいいんだろう、と紙とペンを取ってきたかと思えばぐりぐりとけっこんとどけ、と可愛らしい文字を書き始め、隣で聞いてた隠者が保証人なら書けるよ、と笑顔で悪ノリしだした段階で。
ぼくは逃走を選んだよね。
……いや、いやだってさぁ!
恋人なんてろくにいなかったぼくにはもうキャパオーバーだったんだよ!言い寄られた事なんて一回も無いんだぞこちとら!?恋愛ゲームやっても初回は必ず通常ルートを通るほどのぷーなんだよぼくは!
という事で、復讐者の抗議の声も隠者の笑い声も、「意気地なしめ……」みたいな外野の視線もブッチし……逃げたのは――中央室から先、姿見の鏡が置いてある暖炉の部屋だ。
“ゲーム”では、夜渡り達のコスチュームを変更出来る場所で大変お世話になった所だが――今はぼくの工学チートを発揮する為の工房っぽく使わせて貰う事にした。
火があるので多少の鉄の変形くらいは出来るから丁度いいし、クロスボウから分解した部品から幾つかの工具も作ったので、作業には申し分ないからね。
ぼくは早速――作った“傑作”の調整と、幾つか用意出来る物の製作を始めた。
……夜渡りとして戦う覚悟なんて、正直まだ出来ていない。
だけど、戦うのであれば皆の迷惑にはなりたくない。
なんかわたわたしっぱなしだが――この世界は、普通に危機的状況なのだ。
全てを呑み込む“夜”という
それを食い止める為に夜渡り達が存在し、ぼくもそうであるならば。多少なりとも準備出来るものはしたい。
……あと、単純に皆に失望されたくないというのもあるけれど。“ゲーム”なら「あーメンゴメンゴ!」で終わるんだけどなぁ……
そうして。
黙々と作業を始め、召使人形に幾つかお願い事をしたり、此方を伺う誰かの視線が感じたり消えたりしながら、ぬるりと視界に現れた復讐者が何故か満足げな表情を浮かべたかと思えばぼくの背に寄り掛かってくつろぎ始めたりしている中で――
“追跡者”が例の物を見せてきた、という事である。
「……これ、さ」
「ん?」
「“ぼく”が作ったやつだったりする?」
カチャリカチャリ、と。
慎重に部品を分解しながら、思考の逃避先も無くなったので――“追跡者”に訊ねる。
彼は表情の見えない兜を縦に揺らした。
「そっかぁ……」
まあ、そうだよね。
だって固定されている螺子が――もうまんまマイナスドライバーの螺子だもん。
追跡者の服装は、中世の騎士兜にサーコート風味の旅装だ。彼の時代にはこんなものあるはずもない。
そしてそんなものを作れる犯人は……もう言わずもなが。
「うぅ……」
こっ、こんなとこも介入してんのかよぼく。
確かに“ゲーム”の時から「こんなロマン武器誰が作ったんだよ!」と笑ってたけどさぁ。
でも普通は……普通はさぁ……!
ゴロゴロと出てくる未来技術の数々に呻きながら作業を続けていると、
「……なぁ」
「んー?」
「不服そうだな」
「……不服、というか……――げっ」
ころんっ、と部品の隙間から出てきたのは腐り切って乾いた肉がこびりつく何かの骨片だった。武装が炸裂して飛び散った血肉が入り込んでいたんだろう。
……ぼくは黙って工具で摘んで、暖炉に放り投げる。じゅわぁと火が少し弱まった。カルシファーみたいでちょっとおもしろい。
「
「……教わっていない」
「ふーん、そっか。適当だったんだね、“
アフターフォローがしっかりしていないなんてまさに“転生者”らしいな、と少し笑って作業に戻ろうすると――
――強い視線を感じた。
反射で顔を上げれば、追跡者の兜が目に入る。
彼の鎧のスリットは深くて、その先にある瞳は伺えなかったが――何となく、怒っているような悲しんでいるような。そんな雰囲気を感じた。
どこか――遠くを見ていながら、ぼくを見ている。
その時、ポコリと頭を優しく叩かれた。振り向くと、復讐者が呆れたと言わんばかりの顔でぼくを見上げていた。
何となくわかる。
明らかに、
なっ、なんでや。ただ“ぼく”に呆れただけじゃんね。
そこまで変な事した?
「……そっ、そういえばさぁ!」
何故だかそんな視線に耐えきれなくて、ぼくは話を変える事にした。
「追跡者の時の“ぼく”ってどんな感じだったの?」
「……どんな感じ?」
「どう出会ってぇ、どう過ごしてぇ、とかそんな感じ」
「……うぅむ」
追跡者の兜が俯いた。そして考え込むように少し呻く。
あっ、しまった。
“ゲーム”での追跡者は、他の夜渡りとは違って――より記憶の摩耗が激しいという描写がある。
それは彼の“夜”との戦いの苛烈さと残酷さを表すと同時に物語、その結末に関わる重要なファクターだった。
記憶の話は、話変えにあんまり適さなかったかも。覚えてないで沈黙、即終了で、さっきの復讐者の爆弾よりも空気が死にそう。
「………」
「………」
そうして流れる沈黙。
「あっ、いやぁ……そっ、そんなに思い出さなくていいよ?」
「………」
やっぱりな展開だった。
ぼくは、違う話を必死に考えようとしていると、
「……。……――
ぽつり、と追跡者が呟いた。
「お前は、行き倒れになっているのを、拾った」
そうして何処かを見上げるように、思い出すように続ける。
「それから、俺の従者のような立ち位置になった。その機械の腕を、部族の長……父に買われて」
「おお、流石“ぼく”。ここでも立身出世?」
「ああ……一族以外は毛嫌いするような質だった、と思う。だから出世と言えばそうだろう。……一族で抱き込もうと――婚姻の話が出ていた」
「ほう!」
「むっ」
なんともな話にぼくは思わず声を上げた。
こっ、婚姻!確か“追跡者”は部族……遊牧の民の中では偉い身分だったはず。その従者になって、かつ婚姻なら、長の血筋の娘さんだろう。
まさに成り上がりの極致じゃん!すげぇな“ぼく”!流石、チート転生者!
ぼくは、抗議の後頭部攻撃をグリグリと背中に受けながら続きを促した。
「それでそれで!どんな娘さんと?」
「……。……従姉妹。は、歳が離れすぎてるか。姪……いや、こっちは幼かった。叔母……には、シリンがもういたな」
「……思い出せない?」
「……。……。……ああ。すまん、もしかしたら酒の席の戯言だったかもしれん」
「くっ」
やっぱり都合良く行かないか……!
所詮、ぼくはただの超有能チート転生者……流れ者でしかないという事か……!
だから、復讐者はぼくの肩をトントンするのはやめなさい。振り向けば、私がいるだろうっていう顔をしてるの見ないでも分かるから。
「ふぅ……まっ、いいか」
ぼくは一息吐いてから整備に戻る。変な空気も無くなったからさっさとやりきってしまおう。
思えば、“追跡者”の一族に加わるなんて解釈違いも解釈違いだ。
きっと“ぼく”はそれで断って話が流れたんだろう。……断じて悔しい訳ではない。
「………」
追跡者はまた、ぼくを見ていた。
そうして暫くして。
全ての部品を磨いてから組み直す……分解点検は、そう時間が掛かるものではなかった。
中世辺りでパイルバンカー+αを再現するのだから余っ程無茶な機構をしているのかと思えば、出来るだけ簡素に仕上げてあって――
「どう?具合は?」
「ああ……悪くない」
追跡者は左腕に装着した武装をあれやこれやとチェックしている。
ガッシャンキュインッジャキーンッパシュキュルルデンッ、とかっこいい動作音がバシバシ聞こえるが、これが知らない“ぼく”作だと思うと若干複雑な気分だった。
そんなぼくの表情を見たのか、追跡者が訊ねてきた。
「……なあ」
「うん?」
「さっきも聞いたが、なんで不服そうなんだ?」
「ああ……うーん、なんというか解釈違いというか……」
そう。言い表すのであれば。
「……“
「………」
「ほら、そりゃあぼくは超絶有能チート転生者ですけどさ?きっと君のソレは、違う人が――」
「――俺は」
追跡者の強い声色が、ぼくの言葉を遮った。
彼と顔を見合わせる。相変わらず顔は見えなかったが――わかりやすいくらい怒っている。
「お前が何を悩んでいるのかわからない。だが――」
そうして、真正面から告げた。
「俺は、
「――――」
それは“追跡者”――“ゲーム”では聞いた事もない強い言葉だった。
でも間違いなく“追跡者”自身の――“彼”の言葉だった。
それにぼくは――
「……そっ、そう?」
――ちょっと照れた。
「まっ、まあ?そりゃあね?この超絶最強有能チート転生者作だもんね?そこまで言われちゃあ“ぼく”じゃなくとも受け取らざるを得ないというか?いやぁつよつよで本当にすまないって言いますか?」
「………」
「……なにその褒めたのは悪手だったみたいな表情は。兜越しでもわかるぞ」
「褒めたのは悪手だった」
「表に出せばいいってもんじゃないからね?追撃得意だからって言葉の追撃も得意じゃなくていいんだよ」
「――ともかく。何やら準備していたようだが、邪魔してしまったな」
「流された……まあいいけどさ」
なんか照れるし。
なんか――考えさせられたから。
「ふふん、水を向けたからには聞いて貰うよ。召使人形に倉庫から引っ張り出して来てくれたものを改良して作った諸々を!まずは――」
――
「来たか」
「げっ、タイミングわるぅ」
それはちょっと前のように名前を告げては居なかった。
ただ、中央室に集まるよう――夜渡り達に布告していた。
追跡者が――ガッシャンッと火花を散らしながら、機構を操作する。
「世話になった。いつか礼をする」
「別にいい……いや。じゃあ――
「……あれか?何故知ってる?忘れてるのではなかったか?」
「まあいいじゃん。君が作ったの、食べてみたかったんだよね。お礼はそれで」
「……ふむ、まあ了承した」
変な奴だな、と言いたげに追跡者が部屋を出ていく。
ぼくはそれを見送った後――復讐者に、振り向いた。もの凄い得意げな顔をしていた。
「ふんっ、どうだ。夫の会話を遮らず、それでいて随所で援護をするのが良き妻の習わしだとお嬢様が言ってたからな。その通りだったろう」
「うん、どっちかというと背中から撃ってたけどね。妻じゃないし」
「妻だ」
「エンドレス」
ぼくはまた論争を始めようとする復讐者の――“彼女”の頭を手を置いた。さらりとした銀の髪は人形らしく冷たかったけど、確かに生きていた。
「あのさ」
「なんだ。私の前で――」
「言葉を選ぶなでしょ。わかってるさ。君は“
「嬉しいに決まってるだろう」
間髪入れずに彼女はそう答えた。
「何故聞く?」
「いや、ちょっとね。少し――いや、しっかり。
「ふん?」
「まあ、いいじゃん?ほら行こう。ぼく、ちょっとドキドキだ」
「……まあいいか――夜の王に報いを受けさせる。それに異存はない」
「あっ、“復讐者”だ」
「復讐者だが?」
ぼくは、復讐者を連れ立って、中央室に向かう。
“傑作”と用意した諸々の道具を手にして。
中央室。偽りの大祝福が灯る円卓。
ぼく達が最後だったのだろう、皆が集まっている中で――“巫女”が口を開いた。
――「罪を贖う者よ。三度の夜、この地は衰滅する」――
――「集え、そして殺すのだ。“夜の王”を」――
朗々と語る。
それはこの物語、“ゲーム”……いや、この“円卓”の全てを語る。重要なキーワードだった。
「――“転生者”。これは“姿無き主”の言葉。何度も聞く事になる、夜渡りへの布告よ。頭に入れておきなさい」
「あっはい」
“巫女”らしい言葉……と、なんか冷たい感じがする声色に何だか背筋が正された。
……な、なんか怒ってる?
「怒ってないわ」
「なんも言ってないよ」
「………」
「あっはいすんません。怒ってないです」
なんか怒ってるわこの人。なんでさ。
変な空気になってしまった円卓に切り替えるように――“無頼漢”が腕を振る。
「つっても、“夜の王”は一人じゃねぇ。最初はあの三つ首の獣で終わりと思っていたんだがな」
「……ええ、大勢が来ている。撃滅出来たのは“
「だが、いつかは届くだろう」
追跡者が続ける。
その声ははっきりとした敵愾心にあふれていた。
「そう、届く。連中を倒していけば、必ず――“元凶”とも言える、本当の“夜の王”に」
――
――レディ。守護者。転生者。
呼ばれた二人は、そのまま先へと進んでいく。
ぼくは息を飲んだ。呼ばれた。
本当に――“夜渡り”として、戦う事になった。
「……大丈夫か?」
ふと横にいた復讐者に声をかけられる。
撫でられた腕を辿ると――知らず、武器を強く握りしめていた。
ぼくは努めて、息を吐く。
「うん、大丈夫。行ってくるよ」
ぼくはそのまま中央室から見える断崖へと足を向ける。バシンッと背を無頼漢に叩かれた。いたい。むに、と隠者に頬を摘まれた。なんかはずかしい。
追跡者の前を通り過ぎる、前に。
「お礼頼むよ」
「ああ」
そうして、断崖に近づいていくと。
“巫女”が着ていたローブを脱ぎ去る。
そうして現れたのは豪奢で、それでいて行動しやすい貴族の狩猟服を身に着けた“レディ”だ。腰に差した短剣を抜き、まるで手足のように軽やかに手の内を回る。
「足手まといにならないでね」
「“巫女”殿……いや、レディ。それは少し厳し過ぎるだろう」
彼女の言葉に、守護者が笑う。
鷹の顔をした彼は、羽の意匠が施された斧槍を悠然と構え、身の丈ほどの盾を背負う。
「気にするな。お前は我らの背中を追ってこい。今度こそ、お前の前に立って見せよう」
二人の視線に、ぼくは頷き――諸々の道具を背負い、“傑作”を抱えた。……これ終わったらぼくもカッコいい登場シーンを考えよう。
――霊鷹の嘶きが聞こえてくる。
ぼく達はそれに合わせ、断崖へと走り出し――そのまま、鷹の足を掴んだ。
そうして、空へと進んでいく。
曇りがかった空――その先にある“夜”の気配を感じながら。
ぼくは、静かに持ち込んだ武器を眺める。
頼むぞ、工学チート。産業革命一歩手前の実力を……じつ、うん?
あれ?何か
いったいなんだこれ、と思ったのと同時に――
――淡い光が視界一杯に広がった。
新緑の、“
………
……
…
――大雨の降りしきる、真夜中だった。
その“夜”は突如として部族の住む一帯を覆い尽くし、長く、そして狂わせ――どうしようもない争いの末。
故郷には、惨劇だけが残された。
従弟のファルハドが死んだ。幼いシリンが死んだ。長たる父が、死んだ。
そして――
『遅かったじゃないか……。……ちょっと、そんな顔しないでよ。言いたかっただけさ』
――“
襲いかかる……“夜”の化け物共を蹴散らし、何とか見つけ出した時にはもう、手遅れだった。
辺りには友の残骸が散らばり、まだ生きているのは――降りしきる大雨が、“夜”が。友を呑み込もうとしているその瞬間だったからだ。
『いやはや、参るね。転生者立身出世はこれでおしまいか。こういうのってぼくのせいだったりするんだぜ小説じゃあ。ほんと、参るよねぇ』
何も言えず――手を握ってやる事も出来ない。腕ごと、どこかの腹に入ってしまっている。
『でも、なんとか……男は、見せれたよ』
ふと、友の背の戸から声が聞こえる。か細く、雨音に潰されようとも忘れはしない。
――
『餌の先に、また餌がある。なんてまあ、ゾンビみたいになっちゃったらわかんないよね』
どうしてこいつは。この友は、最後まで。
逃げれば良かったろうに。たとえ逃げれなくとも、部族だけの問題だと背を向けても誰も責めたりはしなかったろう。
そこまでの事を部族に齎してくれたのに。
友は、ふと辺りを見渡した。
『あの、さ。そろそろヤバ、そうだから……本題だけど。その辺にぼくの腰、はないかな。大き、な箱を付けてると思うんだ、けど』
言われた通りに探すと、すぐそこにあった。
箱を開けると――翼の装飾が施された見たこともない武装が収められていた。
『……君に、似合いそうだったから作ったんだけど……なんか、
友を。
『い、もうと……さんに……あやまっ……こんなおと、こで……どう、か……しあ、わせ……』
『――ああ』
せめて、“夜”に連れて行かれる前に。
――その首を
「おい」
――ふと。
我に返ると、不機嫌そうな顔をした復讐者が目の前に立っていた。その手には小麦粉が入ったボウルがある。その横で同じようにボウルを持った隠者が微笑ましそうに立っていた。
「この後はどうやるんだ」
――“追跡者”は口を開く。
「水を少しずつ入れてこねる。粉が纏まるまでだ」
「わかった」
復讐者は水差しを取ると――一気に傾ける。
溢れんばかりの水がボウルに注がれ、粉がグチャリとバラけていく。
「………」
「………」
「……少しだぞ」
「わかっている」
わかってないからこうなったんだろう、とは言えず。
追跡者が自分の分と交換してやると今度は一滴一滴垂らすように水を入れようとしている復讐者にため息を吐きながら、びちゃびちゃの中身を何とかしようと手を伸ばした。
それは“転生者”が飛び立ってすぐの事。
復讐者が「ピタパン、とやらはなんだ」とぶっきらぼうに聞いてきたのが始まりだった。
故郷で食べていたパンだと答えれば、作り方を教えろときた。曰く「夫の求めるものを用意し待つ事が良き妻としてのあり方」だとか何とか。
……元から印象と違い、荒々しかった少女人形のまた違う一面を可笑しく思いながら、特に断る理由もない追跡者が頷くと――じゃあ私もと隠者も話に乗り、他の面々は出来たら食わせろの一言(もない者もいたがたぶん置いておけば勝手に食べるだろう)で思い思いに何処かへ行った。
そうして準備をしていて――二人が並んだ、その光景が。記憶をより強く揺さぶったのだ。
「
「
「
「
幼い日。
こうして妹と母が騒ぐのを見ながら、黙々と作っていたのを思い出した。
まあ。その全て、あの“夜”に塗りつぶされるのだが。
――転生者に武装を頼んだのは、
記憶の摩耗が激しく、深い知り合いだったとしか思い出せなかったが機械に明るければこれも整備出来るだろうというだけの考えだった。だが、話すにつれ――アイツが、“友”を馬鹿にするような事を口にするにつれ、熱い血潮が全身に駆け巡るような形で徐々に記憶が蘇ってきている。
とはいえ、それが“追跡者”として戦い始めた理由であった――その事ぐらいしか鮮明に思い出せない。後は目の前の姦しさから投影してくるくらいだ。
(……あれから、“
思い出したのは――妹の存在もだった。友が死して尚守ろうとした最愛の家族。
あの後、どうなったかはまだ忘れてしまっている。
己が何とか助けられたのだろうか。それとも、駄目だったのだろうか。
――だから、忘れてしまったのだろうか。
(せめて、何処かで“夜”に怯えずに過ごしていればいいが……)
そう願うしか、追跡者は出来ず。
取り敢えず、友が求めたものに集中しようとこねる手を強める。
(……アイツ、これより米が食いたいと騒いでいた気がするが)
それなのに食べたいなど。相変わらず変な奴だ。