“転生者” 作:ダフネキチ
――解せぬ。
チート“転生者”である事が発覚したはずの、今のぼくの気持ちであった。
突如脳内を駆け巡り、浮かび上がった“ナニカ”――それは言ってみれば、ぼくが知らないはずの無数の設計図のようなものだった。
それらから拾い上げるようにあり合わせで作ったこの傑作……まさしく、工学チートと評されるべきの魔改造クロスボウを見せびらかそうとしたら――正座である。
この時代においてオーバーテクノロジーもいいとこな、配慮に欠けた転生者らしさの賜物をお膝に正座である。
――解せぬ。
普通は――なっ、なんだこれはー!この時代の技術力を遥かに超えてるッコイツは大型新人だぜッすごいかっこいい抱いて!……ていう感じのオレツエー状態になるはずなのでは?ふっつうにスルーされたんだが?かまちょの子供相手みたいな流され方されたぞ。召使人形しか褒めてくれてないぞ。
そいつは、明らかになんか話がややこい事になると踏んで「お食事の支度をして参ります」と言って鮮やかに撤退していったがな!
解せぬぅ……!
「それで――」
そうぶつくさ解せていないぼくを尻目に――全員が円卓に座ったのを確認した“隠者”が口を開く。
先ほど、このチート転生者に向けた謎の圧が消え失せ、いつものぽやぱやなおねーさんに戻っていた。……なんだったんだのアレ。なんか上下の圧を感じた。逆らえねぇ圧。
「………」
……
というと、さっきのラブリーマイエンジェル“復讐者”たんが抱き着いてきた件だろうか。
正直死ぬほど嬉しかったが……困惑の方が強い。
彼女は決してああいう事はしない。
見た目は健気な少女風だが、漢な感じというのか……他者に弱さを見せたくないけどそれでも誰かを慮る気高さを持っている。
復讐者の通称は、伊達ではない。それを、ぼくは覚えている。
……どういう事なのだろう。
「――皆、
……ん?
隠者の切り出してきた言葉にぼくは首を傾げた。
「魔女さんには話したが、そうだな」
「……まあ、知り合いではある」
「間違いなく。忘れもしません」
「……確か、そうだったと思う」
「ええ」
「………」
“無頼漢”、“鉄の目”、“守護者”、“追跡者”、そして“
“執行者”も曖昧だけれど、確かに頷いていた。
「ええ……?」
「因みに私もちゃんと覚えている」
でも、と隠者は一呼吸を置く。
「きみは、覚えていないんだね」
彼女の方を向くと、トンガリ帽子の影に隠れた優しげな瞳が悲しそうにこちらを見下ろしていた。
……いやいや、いやいやいや。
「えっ、えっ……」
確かに、確かに。ぼくは“皆”を覚えている。使うスキルもアーツも、キャラストーリーも、その関わりも。
でもそれは――ぼくに、何の関わりもない事だ。
「……忘れちまってたか、やっぱ」
無頼漢が悲しそうにバイキングっぽい編み込まれた立派な髭を撫でる。
「この髭面は死んでも忘れらんねぇと思ってたんだがな」
周りを見れば、皆からも少し惜しむような、そんな雰囲気を感じる。何を返していいかわからず、わたわたと皆を見返していると――
「けど、ありえない」
――“巫女”が切り出した。隠者は頷く。
「私たちは――
「そう。重なり合っているけれど何かもばらばら。誰かと別れてから誰かと会っているには、時が長過ぎる」
「それに――」
ふと、“巫女”と視線が合った。
……いや、目元を隠すお洒落な銀の仮面を被っているからそう見えるだけだけど。
そんな彼女は、静かに呟いた。
「貴方は……
――ひぇ。
その言葉に、場は静まり返った。
それは皆、その言葉に同意しているのだと何となく伝わってくる。
えっ、えぇ……つまり?
ぼくは皆と関わりがあって、そして死んでを繰り返している?
――転生は、これではじめてじゃ……ない?
「うぅ……」
ぼくは頭を抑える。
膝の傑作を取り零したのも気にせずに、呻いた。
「大丈夫……?」
ガタッと隠者がこちらに歩み寄ってくる。周りもこちらを心配そうにしているようだった。
だがそれでもぼくは――頭を抑え、呻く。
「うぅ……うぅ……!」
「わたしがいるわ。落ち着いて」
「うぅぅぅ……!」
優しげな声に振り向くと、隠者の顔に何処か期待を覗かせているのが見えた。
「か……か……――」
「……っ!まさか、きおっ」
「――解釈違い……!」
ぼくの魂の叫びに場の空気が、止まった。
「……ん?」
「解釈違いです!ありえない!確かにぼくは“転生者”だけど!チート持ちのまごうことない“転生者”だけれどもぉ!そういうのもわかってるけどさぁ!それは……それは解釈違い……!解釈違い過ぎる……!!」
確かに原作キャラと関わって、親友になるー!とか恋仲になるー!とか、悲劇を回避してやるー!はまさしく醍醐味だろう。
だが、ぼくは――そういうのはあんまりなんだ。そのままを愛しているんだ。草葉の陰で見守るのが主体でいたいんだ。
フロムゲーらしからぬ、仲の良さを感じるこの“夜渡り”というグループが好きなのであって――ぼくがそれに挟まるのは解釈違いも甚だしい!お友達になりたいという気持ちは勿論あるけども!
ぬわーっ!と叫びたい衝動。
それは“発狂”の叫びだ。正座をしてなかったのならあのポーズをかましている。MADNESS!
「………はぁ」
心配そうにしていた隠者は急にシラーっとして、席に戻った。
いやわかるけどもなんか苦しみだしたと思ったら変な事言い始めたのは自覚してるけど重要な事なんだよぼくにとっては!
「どうして、こうなっている?」
“追跡者”が呟く。
ぼくの魂の叫びの訳を聞きたいのかと思ったが――彼は欠片もぼくの事を気にしていなかった。
「つまり、生と死を繰り返している。まさしく――“転生者”という事なのだろうが」
「……どういう絡繰か、か」
「何らかの神々の加護ってぇのかねぇ?俺等でいう“姿無き主”っていうやつ」
「どうでしょうね。あの方の力を以てしても、私たちの不死性には条件がある」
「………」
あの……完全スルーは……その、草葉の陰とは言ったけどさ……。
「ある意味――“
隠者が尋ねてくるが、無論――わかるわけない。
だがある意味では、ぼくは工学チートを持ちながら転生チートも持ったダブルチート持ちハイブリット転生者。
つまり――!
「ぼくが、超有能チート転生者だから……?」
「………」
「いやあの、聞いた私が稀代の愚か者だったみたいな顔をしないでください……」
「ごめんね」
「謝られるとすごいいたたまれない!冗談、流石に!笑って、せめて!頭を撫でないでください!」
「……まあ、考えても仕方ない事だ」
隠者にどうしようもない子を見る目であやされていると――鉄の目が言った。
「なんであれ、記憶を失っていても――コイツは“見知っている馬鹿”である事がわかればいいだろう。仕事に支障はない」
……よくないんですけど。
「まあ、そうかぁ」
「そうかもしれん。記憶ある無しに関わらず、恩人である事に変わりはない」
「ああ、強力な同志だ。助けとして申し分ない」
「そう、ね。……どうせ、もう終わった事なのだし」
「………」
よくないんですけど!なにその共通認識ぼく=馬鹿!
工学チート持ちなんですけどこっちは!ここにいる誰よりも産業革命近い男だぞ!やろうと思えばこの“円卓”を蒸気溢れるロンドンにできるだぞきっと!風情という風情を台無しにしてやろうか!
「さて、まあコイツの事はもういいとして。嬢ちゃんをどうする?あの感じじゃあ俺達と同じなんだろう」
無頼漢の言葉に、気づく。
なるほど。つまり、ラブリーマイエンジェルはぼくではない、彼女の側にいた“ぼく”を見ていたということか。
納得したけど……。
「その……どうしろと?」
“彼女”の事は覚えている。
そのキャラストーリー……人形の身である理由も――復讐者たる所以も。
だが、空気の読めない何処かの誰かのせいでもうどうなっているかは定かではない。……どうしてこんな事をしたのだろう。わかっていれば、決して……決してぇ……。……。
……いや、復讐者のストーリーって皆と比べてかなり陰鬱だから堪えきれなかったとかかもしれないな。
「彼女は幼い。我らのように“そういう事もある”と納得するかどうか」
「あら、それならきっと大丈夫」
守護者の心配に、隠者はあっけらかんと答えた。
そして、ぼくに向かって手をひらひらと振る。……正座はもういいってことで、いいんだよね?うん。
「ほら、あの子の所に行ってあげて」
「えっ、いやでも……」
「貴方の思う通りにすれば――きっと伝わるわ」
そう言うと、復讐者が走って行った方――庭へと指差す。周りもそれに納得したようで特に止めもしなかった。
ぼくは、
……正直、どうすればいいんだろうか。女の子を慰める事なんて出来んぞ。
………
……
…
“円卓”の中央室から書庫を経由した先に、庭はある。
召使人形が整えた幾つかの花やベンチ、“執行者”が使う絵描きのイーゼル以外は自然を切り出したような体をしていた。
そこに――“彼女”はいた。
豪奢で清楚な衣装を身にまとう少女人形、“復讐者”。
ベンチに腰掛け、俯きがちに丸形のハープのような楽器――リラの弦を弾く彼女は、正真正銘人形の身であるが、手指の節くれや関節部分さえ見なければ――ただの少女に見えるだろう。
悲しげな音色に包まれ、ただ静かに落ち込む、少女の姿に。
「――何の用だ」
ふと、その口からぶっきらぼうな言葉が出る。
復讐者の視界の端には――もう会えないと思っていた男の、情けない顔が映っていた。
「あっ、いや……その……」
“転生者”。
そう名乗った男は、所在なさげに手を惑わせていた。
「えっと……あー……」
「………」
「とっ、隣……座って良い、かなぁ……?」
「……勝手にすればいいだろう」
「あっ、うん。はい、勝手にします……」
なんだか怯えた風の転生者はゆっくりと隣に座る。そうして、何かするのかと思えば――何もせず、黙った。
リラが、静かに響く時間だけが過ぎる。
復讐者は気づかれないように、横目で転生者を見た。
何かを言おうか言うまいかもぞもぞと口を動かしている男、見間違うはずもない男。
もう、会えるはずのなかった――大切で、それでいて、私を忘れてしまった人。
「……っ」
ピンッ、と弦を一際強く弾いてしまう。
己には無いはずの心臓のようなものが、どこか軋むような心地がした。
「あの、さ」
ぼそりと、転生者が呟いた。
「なんだ」
「ぼくは――“君”のことを覚えていない」
「――ッッ!」
復讐者は弾かれるように彼を見る。
――悲しそうな瞳と見つめ合った。
「だから教えてほしい、“ぼく”の事。君とどう関わって、どうなったのか」
「……っ!何故教える必要が……!」
「そうすれば少しでも君を慰める事が出来る、と思う」
「……慰めなんて、必要ない」
「たとえそうでも、ほら。思い出したりするかもだし」
転生者の言葉に、復讐者は静かに黙り込む。
奇しくも見つめ合う形になった。彼女の記憶の片隅に残っているいつもの光景に、それは少し似ていた。
だが、しばらくすると――ふいっ、と男が目を反らした。
それに、
「おい、何故目を反らした」
「えっ、いやなんか……恥ずかしいし」
「この私に対して何の恥ずかしさがある。私から目を反らすな、私を見ろ」
「かっこいいこと言い出してる」
反射的にそう言い募ると転生者は言う通りにしようとするが、やはり目を反らす。それを何度か繰り返していると――復讐者は苦笑した。そうしてリラを懐に抱え、前を向く。
悲しげな音色は聞こえなくなった。
「――お前は“流れの技師”だったと聞いている」
復讐者が語り出す。
そうなる前の、ただの人形だったの頃の話を。
「流れ?」
「ああ、なんでも『度の超えた技術は魔法のようなもの。魔女だの何だのって迫害されるのは勲章みたいなもんだよ』と言っていたぞ」
「ぼくが?」
「お前が」
「そうかぁ……でも、そうか。確かにそんぐらいの年代っぽいもんね……」
復讐者は胸に手を当て、静かに語る。
大切なものを紐解くように。
「そんな時に貴族たるノーザン家に雇われた。私の“中身”の製作の為だ」
「中身?骨組みってこと?」
「そうだ。お家に何の目論見があったかは知らんが、私をより精巧に作り上げたかったのだろう。そこにお前の腕が買われた」
復讐者は掌を握りしめる。
手自体はまさしく人形のソレだが、まるで人のように滑らかに動いた。角ばったような……“物”のような質感を一切感じさせない。
思えば、何らかの加護があるとはいえ、人形の身で他の“夜渡り”たちと轡を並べることが出来ているのは、この男の技術の賜物なのかもしれない。
「お前はその間、よく話しかけてくれていた。綺麗だの美しいだの可愛いだの……当たり前の賛辞だったが欠かしてはくれなかった」
「へっ、へぇ……」
「今にして思えば随分小っ恥ずかしい口説き文句だったな、悪い気はしなかったぞ」
「ううん……そうかぁ、人形相手だもんなぁ、色々明け透けかぁ……」
何故かぼんやりと宙を眺めだした転生者に首を傾げながら、復讐者は続ける。
「私の製作をしながら、お前は家人としても働いていた。当主様にクロエお嬢様、他の家人とも良い関係だった。言われなければ余所者にも見えなかったろう」
「ふむふむ」
「………」
「ん?どうかした?」
よく覚えている。
奇想天外の技術で皆を喜ばせ、あるいは呆れさせ、それでも笑顔をよく届けていた男のことを。そうした事こそがきっとチートの使い道だったんだ、と自分に微笑んだ男のことを。
そう反芻すればするほど――“夜”を思い出すのだ。
それは、何の変哲も無く過ぎ往くはずの日だった。
「喧騒が聞こえた。それがどんどん悲鳴と怒号に変わって、あちこちから何か壊れる音が聞こえてきた」
「………」
「その時、お前とお嬢様が血相変えて私の部屋に転がり込んできた。震えるお嬢様をお前が慰めていると、すぐに扉がひどく叩かれた。お前はお嬢様を私の側に隠し、必死に扉を抑えたが……」
「……そっか。そういう風に……」
すぐに扉は破られ、衝撃で転がる転生者の前に――ソレはいた。
人の姿をしていたが、断じて人ではない。
“夜”に呑まれ、成り果てた――バケモノ。
「お前はお嬢様を守る為に必死だった。何度も何度も向かっていった」
人形のあった部屋は、転生者の工房の役割も兼ねるようになっていた。そこには作った沢山の発明品があった。
それらは壊れ、あるいは力任せの鈍器として振るわれ、争っていく内に――残骸に成り果てていった。
まるで今までの日常を、嘲笑うかのように。
「お前は這々の体で――何とか、
「……っ」
あざだらけで何処からも血の滲む満身創痍の姿だった。
他の連中だったら無様だと笑っただろう。だが、復讐者はそれを思い出す度に無いはずの心臓の高鳴りを感じる。
だから、これ以上。思い出したくなかった。
「お前が、お嬢様に手を差し伸べた時――お嬢様が」
「へ?」
今でも覚えている。
安心した表情を浮かべる転生者の瞳。そこに反射していたお嬢様の顔。
その瞳は――“夜”の色をしていた。
「………」
「……あー、そっか。そうだよね、そうじゃなきゃ……君は」
茫洋とした転生者の言葉を復讐者は聞こえなかった。
この記憶を思い出す度に、彼女の心――魂とも呼べないナニカが、憎悪に駆られるのだ。
――“夜”に。
「そうしてお前は死に。お前の死体の前で――“
全てを呑み込む、あの悍ましい“夜”。
それに奪われたノーザン家、家人、当主様、お嬢様――そして私の大切な人。
その沸き立つ憎悪が、ただの人形を――“復讐者”にしたのだ。
「………」
語り終わっても、男は黙り込んでいた。
慰めたいと言いながら、言葉は出ない。ただ復讐者を見つめていた。
「………」
「………」
少し、沈黙が流れる。
「……喜ばしいなどと、言いたくない」
だからだろうか。
“あの夜”に想い、憎み――
「“あの夜”が無ければ迎える事のなかったこの祝福を、幸運などと……言いたくない」
あの夜の事。お嬢様の事。大切な人の事。
この内に燻る憎悪を、“復讐者”は決して忘れない。
「ただ……――」
ただ、“復讐者”としてではない。
人形……としての声が漏れた。
「――ずっと、こうしたかった」
そうして――
「……っ」
「………っ、っ……」
男の胸に顔を埋め、力一杯抱きしめる。
口に出せない、言えない――謝罪の想いを目一杯に込めて。
そうして、しばらく。
抱き着いたまま、ふと、復讐者が顔を上げた。
「……なんだその顔は」
見上げた先、転生者は――とても表現しづらい微妙な顔をしている。
「あぁいや……その……」
「この私の前で言葉を選ぶな。お嬢様に対する破廉恥な発言とか聞いてるんだぞこっちは」
「なにしてくれちゃってんのぼく」
「だから遠慮するな」
「……その――気まずくて」
首を傾げる復讐者に、転生者は続けた。
「ぼくは……――“君”の知ってるぼくじゃない。こんなに、思われるべきぼくじゃないんだ。
「――なんだ、そんな事か」
吐き出された言葉に、あっけらかんと復讐者は返した。
「気にするな」
「気にするなって……」
「私がそう言ってるのだから気にするな」
「なにそのゴリ押し」
「それに、考えてみたら――お前を助けられなかった情けない私など覚えていてほしくない。忘れたままでいいぞ、ずっと」
「ええ……」
「それに――」
復讐者はじぃ……と転生者の瞳を見つめた。
「――私に好意を向けられるのは、嫌か?」
「――超嬉しいです」
「じゃあそれでいいだろう。よし、話は終わったな」
「いいのかなぁ……」
復讐者はもう一度強く抱きしめると――離れ、立ち上がる。
見える表情は先ほどとは打って変わって、悲しみなど欠片も見受けられなかった。
「さて。では、戻るぞ。これから一緒に“夜の王”に復讐するんだ。あいつらと顔合わせするぞ。悪くない連中だ」
「ああ、その事なんだけど……」
「おっ。終わったようだな」
転生者が何か言う前に――無頼漢の声が聞こえた。その方を向くと、無頼漢だけではなく、それ以外の夜渡りたちも出揃っていた。
転生者は渋い顔をする。
「出歯亀ぇ……?」
「まあ、そう言うなよ。ちゃんと話が聞こえないぐらいには離れてたさ。万が一だ万が一だ。ただまあ、話が纏まったようでよかったぜ」
「うん、心配した」
隠者の言葉に、復讐者は申し訳無さそうにする。
「すまん、だがもう大丈夫だ。それより、皆。紹介する――」
さっぱりとした復讐者の言葉に、問題が片付いた事を悟った夜渡りたちは、大小ともかく、皆安堵した空気を浮かべ――
「――こいつは私の夫だ。仲良くしてやってくれ」
空気が、死んだ。
………。
………。
………。
「皆様、お食事のご用意が済みました。ご歓談なら、ば……。……?」
………。
………。
………。
「なにしたんですか、転生者サマ」
「ぼくじゃないっ!今度ばかりはぼくじゃない!」
「――いや、お前だろう」
夜渡りたちの想いが込もった“追跡者”の言葉が、静かに転生者の胸を貫いた。
その中で、復讐者だけが理由もわからずに首を傾げていた。
………
……
…
――
集中していた絵描きを止め、ゆるりと首を向ける。
召使が食事を供してから数刻は経ったろうが、未だに騒ぎは収まっていないようだ。
「あのね、結婚って互いに承諾し合って初めて成立するのであってね」
「私は承諾したぞ」
「ぼくは承諾してないんだよなぁ」
「いや、してた。お前が忘れているだけだ」
「………」
「してたぞ」
「………」
「……妻の言葉が信じられないのか」
「承諾してないからね」
「私は承諾したぞ!」
「振り出しぃ、何回目かなぁ……!」
「ふふっ、かわいいね」
――会話が聞こえる。
「なんだかおかしなもんだよなぁ」
「まったくだ。亡くなった恩人が戻ったと思えば、人形と婚姻してたとは」
「いや、そうだけどそうじゃねぇだろ」
「……俺は女っ気が無いように思っていたから驚きだ」
「おっ、そうか。俺ん時は騙されまくってた記憶しかないがな」
「私は周りが翼人だったからな。そういった話は聞いた事ない」
「んじゃあ、聞くか?ありゃあ、アイツと一緒に海賊やってた時なんだが―――」
――会話が聞こえる。
「………」
「………」
「……機嫌悪くないか?」
「悪くないわ」
「わるっ――」
「悪くないわ」
「……そうか」
「ええ」
「………」
「………」
「……俺の分も食べるか?」
「頂くわ」
――“ここ”は戰場。夜の王を屠るべくの場所。
しかし、時として流れる緩やかな空気を――“
ふと、海岸線を眺める。
曇った空は、恐ろしいほどに何の気配も感じ得ない。
しかし、また来るのだろう。
――全てを呑み込む、悍ましいあの“夜”が。
ただそれまでの静寂。
――“彼”は、また絵に向き直った。
去りし黄金樹を想い、“いつか”を望むだけでも幸運と思っていたが、また機会を与えてくれるなど。
やはりなんと慈悲深いことか。なればこそ、今度こそ。
今度こそ―――。
籠る想いは筆に乗り、真白のイーゼルを染め上げる。
全てを見下ろす黄金の巨木、そこから注がれる祝福の輝き。その下に置かれた――断頭台。
そこに横たわった、影。
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【ジャーナルが更新されました】
“転生者” Chapter1
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“エルデンリング・ナイトレイン”に転生したかと思えば、何回もそれを繰り返した挙句、原作介入も果たしていた件について。
醍醐味と言えば確かにそうだが、解釈違いも甚だしい。
転生者サポートセンターとかないのか。電凸かまして爆破予告メール送りつけてやる。
それ関係の記憶が一切無いのも不安過ぎる。
何故なら――夜渡りは『何らかの目的があって』円卓に導かれるのだから。
どうして世界は、ぼくをただの超有能チート転生者にしてくれないのだろう。
……あっ!そういえば結局、傑作褒められてないやんけ!
――――――