“転生者” 作:ダフネキチ
転生者……つまりは、ぼくの挨拶に“円卓”は静まり返った。
まあ、散々ごねてたぼくの声とか聞こえてたろうしね。今も召使人形に抱えられているし、ここまで間抜けな夜渡り(仮)は珍しいのだろう。……つうか、安直過ぎないかぼくの通称。“転生者”て。いや、その通りなのだけど。
ただ。ぼくはこの気まずい空気はあまり気にならなかった。
それよりも――
(うわぁ、本物だぁ)
――円卓に集う“夜渡り”達に釘付けだった。
気分はもう観光客。やっぱり既知原作転生の醍醐味と言えば原作キャラとの遭遇、この瞬間だよね。
しかも夜渡り達は、エルデンリング・ナイトレインのプレイアブルキャラクター。常に関わってきたようなもので思い入れも一入だった。
彼ら彼女らは、違う時代から導かれた者達。“夜の王”を屠る為だけに集まった寄せ集めだけど、だからこそ良い意味で統一感が無く、誰もが特徴的で角が立っていた。
こうして一堂に会しても、誰一人見劣りしていな………
(んん?)
あれ?
……ええっと。
素敵武装持ち騎士の“追跡者”と、皆のまとめ役の“
数えて――八人。……二人足りないな。
(“学者”と“葬儀屋”が居ない……?)
そういえば、召使人形に抵抗していた時に、奥の扉――二人の部屋に続くところが空いてなかった気がする。
まだ居ないのか。最近実装されたDLCキャラだから?
(そういえば、“今”はストーリーのどの辺なんだろう。夜の王の最初の一人……というか、一匹は倒していると思うけど)
――ガタッッ!
ふと、思考から我に返る。
乱雑に床を擦った椅子の音。辿れば――復讐者が立ち上がっていた。
豪奢で華やかな衣装に身を包んだ少女人形は、その目をまん丸に見開いていた。
信じられない、そう顔に如実と書かれていた。
「……なっ、な、なんでお前……!」
清楚な見た目に反してぶっきらぼうなその言葉は震えていて、恐る恐るといった風に彼女が近づいてくる。人形らしいつややかな小さな手が、それこそ壊れ物で触るかのように伸ばされていて、僕に触れる……前に。
――
夜渡り達は弾かれたように円卓の中央、宙に描かれた輝く大祝福を見上げる。
それに音も無く、響きも無ければ、意味も無い。
だが確かに、こう聞こえた。
――無頼漢。隠者。復讐者。
「おおっ、出陣かぁ!」
声を張り上げつつ立ち上がったのは無頼漢。巨大な角の兜を被った大男だ。そうして船の船首を切り取った大斧を抱えるとこちらに歩み寄ってくる。
「まっ、積もる話は後だ。連中をぶっ潰した後に宴と行こうや――再会のな、兄弟」
「はっ、はぁ……」
はっはっは!と上機嫌にぼくの肩を叩いてから歩いていく男の背中を呆然と見送っていると――色黒い女性のドアップが視界一杯に映った。
「……っ」
彼女は隠者。まさしく象徴的なトンガリ帽を被った魔女の一人。ゆったりとした緩い服装をしているせいで豊かな胸元に目が行……く前に鼻を抓まれた。
「いふぁい」
「ふふ、よかったね」
くぐもった声になったぼくを笑うように隠者は囁くように言った。
「――“
何の話……と聞く前に、また後でねと彼女は無頼漢に続く。
「あっ……ぐっ……!」
二人と同じように呼ばれたであろう復讐者は、大祝福とぼくの間に視線を左右させる。何か話したそうだったが、この“呼びかけ”には何らかの強制力でもあるのか、それ以上何も言わずに――二人の後に続いていった。
そうしてしばらくすると――猛禽類、鷹の嘶きが聞こえてくる。
鷹の霊体……霊鷹と呼ばれるソレに掴まって向かったのだろう。リムベルド、夜の王に侵食されていくあの土地へ。
“現実”ではこんな感じに表現されるのか、ゲームでの出撃って。なんだか面白いな。
「んんっ」
そこで、話を戻すように“巫女”が咳払いをした。
「それで……その、“転生者”。巫女として、新たな夜渡りである貴方を歓迎しましょう。何か聞きたい事はある?」
………。
まあ。
「帰りたいんですが」
「それは無理ね。申し訳ないけれど――夜の王を打倒するまで夜渡りは“ここ”を出る事は出来ない」
「っすよねー」
知ってた。
“円卓”に導かれた夜渡り達は、諸々の加護が与えられる代わりに――全てが終わるまで、魂が縛り付けられ死ぬ事は無くなる。
ある意味不老不死という訳だけど、永遠に戦わされる事になるし、死に続ければ己の存在が摩耗していくという地獄。
先ほどの声の流れなら、選ばれれば戦う事を拒否出来ないだろう。ふぁっきん。
「……なぜ、貴方が円卓に導かれたの……?」
巫女はぽつりと小さく呟いた。誰に聞かせる訳でもない、つい出たものなのだろうが――それはこっちが聞きたいわ。
「……ふぅ」
ぼくは大きく息を吐いた。
最早、ごねても仕方なし。開き直るのはまだだが、泣き喚き続けるのは時間の無駄だろうか。
ぼくを抱えている召使人形を見上げる。目の無いつんつるてんの顔は、ぼくを見下ろしていた。
「一先ず、武器を探してみようかな」
「それがよろしいかと。見たところ、特に何も持っていないようですし、拳闘に秀でてるようでもありませんからね。訓練場で幾つか見繕ってみましょう」
召使人形はこちらです、と歩き出した。ぼくを抱えたまま。
……。
「あの、もう歩くんだけど……」
「いえ、逃げられても面倒ですので」
「信用ないなぁ」
「ご自分の行動を振り返って下さいませ」
――訓練場は、大祝福がある中央室からすぐ。
リムベルドへ向かう断崖に通じる道横の壁がぶち抜かれた先にある。どうなってんだここは。
結構広いスペースになっていて、数種の的当てカカシがあって、隅の方には、良くわかんない動力で動き出す訓練用の戦闘人形もある。
ぼくらのお目当ては訓練場の奥にあるテントの中。
――雑多に武装が仕舞い込まれた大きなチェストだ。
“ゲーム”では登場している全ての武器や技を好きなように試せる場所だが、現実では流石にそうではないらしく、幾つかの武器以外は訓練用の木で出来たものが適当に収められていた。
ゲームではどんな武器でも扱える自信はあったけど――今の僕自身じゃあどの武器も扱えそうにない。
「やっぱ、ナイフ……短剣とかの方がいいのかな。重いのとか使えないだろうし」
「いえ、貴方さまも夜渡りであらせられるのですから加護がございます。重さは特に問題にならないかと」
「あっ、そっか」
「本職の戦士方と比べれば勿論劣りますでしょうが」
そういや、華奢な少女人形でも一二回りデカい大槌二刀流ブンブンかませたりするんだった。
ナイトレインの元になった“エルデンリング”本編では、武器一つ一つに必要能力値があって、それに達していないと装備出来ない仕様になっていたけど、ここではそうではない。
夜渡り全員が武器全てを持てる。だけど、攻撃力を伸ばす能力補正はあるから、キャラ固有のステータスに合った武器選択も醍醐味であった。
そう、持つのなら出来る。仮にも夜渡りであるぼくに……男の夢である『一度は身の丈ほどあるデカつよ大剣を振り回してみたい』が出来る。
「じゃあ、うん。そうだね。このグレートソードでも試――」
「――クロスボウだろう」
そんなぼくのワクワクに、低い男の声が冷水をぶっかけてきた。
顔を向けると、“追跡者”が兜越しでもわかる、当然だろう?みたいな面をして立っていた。ていうかさっきの全員が着いて来ていた。
……ぼくは何も聞かなかった事にして、また特大剣の柄に手を伸ばす。
「――クロスボウね」
今度は女の声、“巫女”の言葉が後ろから浴びせられた。
顔を向けると、フード越しでもわかる、当然でしょう?みたいな面をして立っていた。
………。
「――クロスボウ以外無いだろう、お前には」
何故か“鉄の目”が追撃してきた。貴方無口なタイプじゃなかったっけ。弓手だけに二の矢ってかやかましいわ。
ぼくは現実主義者共の戯言を無視して、特大剣の柄に手を伸ばすと――横から鎧手甲の腕が伸びてきた。鳥類の特徴を持つ鋭さを見せる手は、優しくぼくの手を掴む。
振り向くと、“守護者”が首を横に振る。
「クロスボウにしておきなさい」
――ずいっ、と。
視界の端から、通常型のクロスボウ――ライトクロスボウと数本の短矢が出てきた。見れば、曇った黄金色の鎧に身を包んだ“執行者”がぼくにソレを押し付けている。
口にしてないがわかる――クロスボウの方がいい、と。
「………」
ぼくは黙って受け取った。
現実離れした加護を持つ現実離れした連中の現実主義に屈したのだ。
それを哀れに思ったのかなんだか知らないが、召使人形も黙ってぼくを的当てカカシに運んでいく。
……にしても、クロスボウ。クロスボウかぁ。
いやまあ、確かに戦闘の経験が無い現代人的にはコレがマストだろうけどさぁ。元々の設計思想が、少ない訓練で一定の戦績を挙げれるように、っていうある意味銃の先駆けみたいなものだけどさぁ。
ロマンがなぁ。雑兵みたいじゃん。いや事実だけど。
的当てカカシから幾らか離れた位置に運ばれると、ぼくは――
そうして矢先をカカシに向けて、引き金代わりのレバーを押した。
――バツンッッ!
引き絞られた弦が一気に離れ、小気味良い音と共に放たれた短矢はカカシの頭中央に命中した。
「おお、素晴らしい」
「まあね。でも、加護があるならこんなものじゃない?」
「ふむ……まあ、そうですね」
「謙遜だったんだけどなぁ」
ぼくはクロスボウを眺める。
正直夜の王との戦いにこれは心許無さ過ぎる。現に“ゲーム”でもサブウェポンにすら選ばないほどの存在感しかない。
仲間がボス相手にド派手に戦っている中で、遠距離からえっちらおっちら、ちまちま撃ってるのは違うだろう。
なんか、もっと………。
「………」
「……?英雄サマ?」
ふと、脳内を駆け巡った――
擦られ切ったミームを使うしかないほど、そう表現するしかない“ナニカ”が頭の中に浮かび出した。
「……ねぇ、召使」
「はい。なんでしょうか」
ぼくはチェストの隅に束になっているクロスボウの山を指差した。
「アレ、バラしても大丈夫?」
………
……
…
――霊鷹の嘶きが聞こえてきた。
大祝福のある中央室。
その一席に座っていた“巫女”は、懐から古びた懐中時計を取り出す。時刻を眺め、呟いた。
「……半日ね」
「早かったな」
近くで自らの剣の手入れをしていた“追跡者”の返しに、巫女は静かに頷く。
夜の王の戦いは、三日間に渡る長丁場だ。
訪れる度に地形や敵、そして存在する建物も変化するようになってしまった歪み狂ったリムベルドで、その三日間、夜渡りは方々を駆け巡る。
それは、過去にあったであろう武具、夜に呑まれた敵が持つルーン、そしてより侵食された強敵が持つ“潜在する力”をかき集め、己を強化する為。そうしなければ、強大な夜の王を打倒出来ない。
加護の影響で不老不死に近い夜渡り達だが、その影響か、強化した力を持ち帰る事が出来ないので、戦いに赴く度にそのサイクルを繰り返していた。“隠者”曰く、『不死の仕組みは、円卓に刻まれている魂の復元』とのことで、優位立つべくの代償だろう。
ともかく。
三日間全てを使い切り、死力を尽くさなければ、夜の王を倒せないのだ。
それが、半日で帰ってきたという事は――
「いやぁ、負けた負けた!」
あっけらかんとした無頼漢が開口一番そう笑った。
「デカい獅子とやり合ってる後ろから忌み鬼の奴が来やがってな!賢いやり方だぜまったく」
「正気は失ってるはずだけど、戦術は一切忘れてない。流石は守り手」
隠者の言葉に無頼漢は鷹揚に頷いた。
「ははは、まあ次会ったらあの気難しい顔を思っきり殴りつけてやるさ」
「……それだけか?」
「あん?」
「確かに難所だろうが、良くある事だろうアレは」
追跡者が問いかけると、無頼漢は急に口を噤む。
「あー……まあ、なんだ」
「――私のせいだ」
不意に復讐者が口を開いた。
大柄な無頼漢の後ろに隠れるように……いや、庇っていた小さな体躯は俯いていた。
「集中力を欠いていた所にやられた。……すまん」
ぶっきらぼうでそっけないがその実、変なところで実直な彼女の謝罪に追跡者は何も言えなくなった。
数瞬流れた沈黙。何だかもの凄く気まずいと巫女は感じた。
「まっ、まあいいじゃねぇか!」
何とか空気を押しのけるように無頼漢が声を上げた。
「そう気負うなよ嬢ちゃん、俺達が負ける事なんて良くある事だろう?なぁ!」
「そうそう。騎士さんも前の戦いの時に、自分から攻撃にフックで飛び込んで死んでたから平気よ平気、気にしちゃだめ」
「おい隠者、何故今そのことを言った」
二人の慰めと、追跡者の些細な失敗に少し口許を緩めながら、巫女も口を開く。
「ええ、私たちにとって敗北は“本当の敗北”ではないわ。また次、頑張りましょう」
「……ああ」
復讐者は慰めがくすぐったかったのか、やはりぶっきらぼうだがそう返す。
気まずい空気が何処かに行ったのを確認したのか、無頼漢が辺りを見渡した。
「――そういや。あいつは何処だ?魔女さんの話の事もあるが、まずは歓迎してやらねぇとな」
「……話?」
「うん、あのね――」
「でけたぁ!見たか!これがぼくのチート能力じゃい!」
どこかの誰かの歓声に、話が中断された。
「召使!めーしーつーかぁーい!カモンなぅ!」
「はいはい、後ろにおりますから……」
「どうだこのぼくの成果を!やっぱり“転生者”にはチートは不可欠だよね!」
「ほう……確かに、これは精緻なものですね」
「だぁっしょ?エルデンリング・ナイトレイン蹂躙編の始まりなんだよなぁ!LESSON1!まずは転生者DLCを買いましょう!」
昔聞いた事のある良くわからない彼の戯言に、巫女は頭を抱える。
自らに残った記憶から――彼が
急にクロスボウの山を抱え込んだと思ったら、暖炉のある部屋を占拠。それを炉のように使いながら、そのままクロスボウを解体し始めて、ナニカを作り始めたのだ。
まったく。そういう所が変わってない、と巫女は嘆息する。
だからこそ、“彼”が夜渡りとして此処に居るのが不可解であると思うと同時に悲しかった。
そうしていると、ドタドタと騒ぎの源が近づいてくる。
さっきまでの微妙な表情とは打って変わって満面の笑顔を浮かべた転生者は、
それに続いて、呆れ顔の残り夜渡り達もやってきた。
それを見せびらかす前に、三人が帰ってきている事に気がついたらしく。
「おっ。おかえり、早かっ……――」
――瞬間。
っと。軽い音が響いた。
それは。復讐者が彼に抱き着いた音だった。
………。
……は?
「お前っ……!生きてたんだな……!」
復讐者の声は震えていた。彼女が人形でさえ無ければ泣いていたと思うほどに感極まっていた。
「へっ?」
「なんて……なんてこと……お屋敷が、お嬢様が――お前が!あんな事になってから復讐の事しか頭に無かったから……!」
「あっ、あー……?」
転生者は抱え上げたナニカ越しに助けを求めるように此方を見てきた。いや、そうされても。
ていうか、貴方。仮にも私の前で良く――――
転生者の反応が無いからか、復讐者は彼を見上げる。
その表情に困惑しかない事に――顔を曇らせた。
「えっ……わっ、私だ!ダフネだ!お前が愛してくれた人形!」
「はい……?」
「そんな……クロエお嬢様は?ご当主様……ノーザン家は!ヘレン、フレデリック、セバスチャンは!」
「あー……ええっとぉ……えっ、これ覚えてるってことでいいのか?……」
言い募った切実な言葉に反応が無い事に復讐者は、しばらく俯くと――ぐいっ、と転生者を押し退けた。
「……もういい」
そうしてそのまま庭の方へ駆け出していってしまった。
………。
先ほどよりも気まずい沈黙が中央室に流れる。
だが、これだけは巫女に言えることがあった。そしてそれは追跡者もそうだったらしく――
「あなたが悪いわ」「お前が悪い」
「なっ、何故!」
責めの言葉に途端に、転生者は狼狽えた。
「いやっ、冤罪!冤罪だと思うんですけど!」
「お前がそう言う時ほど冤罪じゃない」
「んだなぁ。ていうか、嬢ちゃんを腐す訳じゃねぇが人形相手ってお前……」
「種の違いは厳しい事は知っていように……」
「………」
続く容赦ない責める言葉に、転生者はもうあわあわ言うだけの存在になり始めた頃。
――パンッ。
と、隠者が手を叩いた。
「その彼の件でおはなしがあるの。皆もなんとなく気づいているでしょう?」
彼女のその言葉に、皆は静かに視線を交わす。
確かに、なんとなく皆が転生者を知っているのではと思ったが――それはありえないはず。
なぜなら、私たち夜渡りは――
それに――“
隠者は、皆を促すように円卓に座る。
ぞろぞろと同じように座っていく皆が座っていく中――呆然としている転生者に、隠者は告げた。
「きみは正座」
「えっ……」
「女の子を弄んだ……めっ!」
「いやあのそれはよく……というか、ぼくのチートを……」
「後で褒めてあげるから。正座」
「………はい」
普段の隠者からは見た事のない圧に屈した転生者は、その場で正座した。
膝の上に置かれた、彼の不可思議な発明品は奇しくも場違いなまでに目立っていた。
【ステータス更新】
得意武器:クロスボウ
固有武器:上下二連弾倉式連発弩
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【上下二連弾倉式連発弩】
幾つかのクロスボウの部品を組み合わせ、改造し、機械化したもの。
上下に重ねられた二つの弓弦は互いに連動しており、射撃と装填を交互に繰り返す事で連発を可能し、上部に取り付けられた弾倉によって継続射撃と再装填を容易にしている。
これは本来“転生者”が知る由もない古代技術の結晶である。
しかし、彼はこれを覚えていた。
神からの贈り物であると嘯いているが……。
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