“転生者”   作:ダフネキチ

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ただ、流れ行く。川下へと。


Chapter1
Pt.1


 

 

 

目の前に、果てない海岸線が広がっていた。

 

「………」

 

遠くで滞空する猛禽類、不規則に海に突き刺さるように在る石柱――人の営みなど感じ得ない大自然的光景。

それに美しさを見出す……より前に。感じるのは。

 

空の奥の、昏き闇。“()”の気配。

 

「……あー……あー」

 

ぼくは、手のひらに感じる砂浜の滑らかさに嫌な予感を感じながら、ゆっくりと後ろを向く。

そこにあるのは半壊し、自然と混ざりつつある見覚えがあり過ぎる建物。

間違いない、“()()”は――円卓だ。

 

「……うわぁ……」

 

 

――エルデンリング・ナイトレイン

 

それは世界的大ヒットを記録したダークファンタジーRPG“エルデンリング”の設定を用いた、ゲーム性をそのままにシステムを一新した新作ゲームだ。

 

舞台となっていた“狭間の地”が――突如として現れた“夜”に呑み込まれてしまい、その栄光も偉業も何もかもが彼方へ消え去り……“リムベルド”という新たな名となった世界。

そうしてやってくる“夜の王”と、それに抗する“夜渡り”達の――終わりが見えない戦いの物語。

 

そしてその夜渡り達の拠点となるのが、“ここ”。

四方、果ての無い海に囲まれ。半壊し、自然と混ざった建物がある場所。

 

今、ぼくが居る場所。“円卓”である。

 

 

「マジか」

 

ああ、覚えている。ああ、知っているとも。

何せやってたからねこのゲーム、ぼく。フロムのゲーム大好きだからね。発売からずっとやってたよ?ずぅっとね?発売から数ヶ月経ってもやってたよ?

だってこのゲーム――キリが無いんだもの。

毎回自動生成されるダンジョン、突き詰めれば終わらない強化アイテム“遺物”の収集、定期的に更新される新たな“夜の王”・新たな“夜渡り”。

 

なぞるストーリーに大団円は無く。

あるのは、区切り。少しの安息と新たな戦いの気配だけ。

 

そう、つまり、終わりが、ない。

ずっとずっと戦い続ける事が出来る、最高のゲームだったのだ。

 

そう、“()()()”。

 

「ゲーム……だからよかったんだけどなぁ……!」

 

これが現実ならどう?

延々と戦い続ける事が最初からわかっているというどうしようもないネタバレを食らって戦えと?しかも特に何の特殊能力もない現代人で社会人な日本人が?

アホか。

 

「……うぅ」

 

ぼくは、顔を覆った。そうしても波打ち際の漣や遠くの鳥の嘶き、這い寄るような“夜”の気配が、“ここ”が現実であると教えてくる。

 

……普通、転生って神様に会ったりするもんじゃないのだろうか?なんか間違えて殺しちゃったから好きな世界に転生させちゃうよ!チート能力もあげるね!とか言われたりするのが一般的なのでは?

 

なのに、そんな事をした覚えがないし――チート能力的なものを感じない。間違いなく感じるこの身体は少し中性脂肪が気になり出したギリ太ってない己の肉体だけだ。

 

なのに、それでも……()()()()()()()()()が、ただ“夜”の気配だけを伝えてくる。いらんねんそんなのは。

 

 

「はぁぁぁ……」

 

 

ぼくは深い溜息を吐いていると、ふと。耳に砂浜を踏み鳴らす音が聞こえてきた。ぎしりぎしり、と響く音は機械のようにも聞こえる。

 

「お待ちしておりました、英雄サマ。主に導かれた、罪人たる――新たな“夜渡り”サマ。私は貴方方をお世話する人形の召使でございます」

「………」

「一向に円卓に入られなかったので、巫女サマの命にてお迎えに」

「………」

「……あの?申し訳ありません、英雄サマ?」

 

ぼくは砂浜に大の字に寝転んだ。

 

「……かないぞ……」

「……?失礼、声が小さ――」

「――ぼくは!行かないぞ!」

「………」

「絶対に行かないからな!こんな約束されたクソゲー(設定的な意味で)なんて死んでも乗るか!転生したくない世界ランキング急上昇一位だろここ!嫌だ!死にたくない!死んでも死なないからもっと嫌!」

「……失礼しますね、英雄サマ」

「ちっ、近寄るな!やめろ英雄サマとか言っておきながら雑に抱えて運ぼうとするな!敬意がないぞ!やめてぇ!誰かぁ!人浚いが!人さらっ、うわぁぁ!やだぁ!鈴玉狩りも忌み鬼もリブラも素で会いたくなぁい!たっ、助け―――

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

かつての狭間の地。“夜”の襲来によって、抉れ狂い変わり果てたリムベルド。

そこへ臨み、来たる夜の王を狩り続ける夜渡り達の住処である“円卓”

 

その中央室。

巨大な円卓の宙に浮かぶ、再現された黄金の大祝福をぐるりと囲む

ように八人の男女――“夜渡り”が集っていた。

夜渡り達は、常は思い思いに“円卓”の中で英気を養い、時が来ればリムベルドへ向かっていて、集まる事が少ない。

だが――今日は集まるべき理由があった。

 

「また、新たな夜渡りがやってきたわ」

 

そう告げたのは“巫女”。

“円卓”に集う夜渡り達の実質的指導者であり、時には“レディ”として夜渡りと共に夜の王へ挑んでいる。

今は精緻な狩猟服も束ねられた金髪も銀の目隠しも、厚いローブに隠されている。今は“巫女”としているようだった。

 

彼女の言葉に、夜渡り達は反応を示す。

新たな同士を歓迎する者、いったいどんな人物か好奇心を抱く者、足手まといにならなければいいと関心が薄い者にそもそもどうでもいい者と様々だった。

 

「それにしては、姿が見えないが」

 

そう尋ねたのは騎士然とした男だった。側にある刃毀れした大剣や小盾、左腕に取り付けられた異様な武装が、彼の歴戦の意気を感じさせる。

そんな彼――“追跡者”の言葉に、“巫女”は答える。

 

「砂浜にいるようだから、召使に迎えに行かせたわ。すぐに――」

 

すると、遠くの方から騒がしい声が聞こえてきた。

 

『いい加減、諦めて下さい英雄サマ。ささっ、皆様が――』

『――いーやーだぁー!無理に決まってるだろ!戦う事なんて出来ない!そう……そう、そう!ぼくはアレだから!夜の王の部下とか、眷属とかな気がするな!あー!まずいなぁ!このままじゃあスパイを中に入れる事になるんじゃないかな!ここはぼくを諦めるべきじゃないかなぁ!』

『……ほう、これは良い事を聞きました。私、戦闘用でありましたのでヒトの構造には一家言ございます。拷問にて、お話を――』

『――あっ、ごめんウソ!夜の王死ね!ふぁっきゅー!あいつのせいで人生めちゃくちゃ!超憎い!目の前にいたらぶん殴ってる!』

『それは素晴らしい。是非、共に夜の王に抗するべく参りましょう』

『ちくしょうめぇ!』

 

「ふふ、面白い人が来たね」

「やかましいだけだろう」

 

魔女帽を被った色黒の女性“隠者”が小さく笑うと、華やかな衣装に身を包んだ少女人形“復讐者”が憮然と吐き捨てる。

他の者も愉快そうにしているか、これからに頭を抱えているか、興味無さそうにしていた。

 

“巫女”は、姿無き主による謎の人選に頭を抱えている。

 

「まぁ、なんであれ。“円卓”に導かれたのだから共に戦う夜渡りである事に変わりないわ。……仲良くする必要はないけれど、協力するように」

 

皆がその言葉に首肯すると、件の夜渡りが――召使に抱えられて現れた。

 

「ああ、皆様。お揃いで。おまたせしました、駄々っ……んんっ、新たな夜渡りサマをお連れしました」

「完全に敬意を忘れたなこの人形……!」

「敬意を持たせてくださいませ、せめて」

「倒置法!」

 

白のシャツに黒のタイ、黒のスラックスに黒の上着を羽織った黒ずくめの、中肉中背の青年だった。

長めの黒髪が少し目元を隠しているが――覗く、不可思議な色の瞳は一度見れば決して忘れないような色をしている。

 

「自己紹介を。覚えがあれば、名を。忘れていれば、存在に刻まれた通称をお願い致します」

「………あれ、名前が。えっ……?ぼくは……」

「では、通称を」

 

そう、見れば忘れない。忘れられない。()()が、あった。

“円卓”に集っている全員が――目を見開く。

この男は、自分に向けられた視線に気圧されて所在なさげに目をうろちょろさせるこの男は。

 

「えっと……“転生者”、です。戦う術はたぶんないですけど、その……できれば忘れてください」

 

召使人形に抱えられた情けないこの男――“転生者”の事を、ここにいる夜渡り全員が、()()()()()

 

 

 

 

 





ーーーーーーーー

“転生者”

生命力 D
精神力 B
持久力 S
筋力  E
技量  D
知力  E
信仰  D
神秘  S

得意武器:《不明》
固有武器:《不明》

アビリティ:【夜の覚え】
“夜”に侵食された敵と夜の王から攻撃されづらくなる。また、一定時間、敵の近くにいると一度だけ攻撃を強化する。

スキル:【不明】

アーツ:【積み重ねた楔】
記憶にある己の幻影を召喚する。
幻影は自動で戦い、一定時間後に消滅する。



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