異世界のなんちゃってJAPANな国に転生したので鍛治を極める話。   作:シオカラストンビ

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鍛刀③

 

昼食を食べている間に鋼が一旦冷えたので〝素述べ〟をします。

ちなみに昼食は残り物ぶっ込みチャーハンだった。

 

それでだけど〝素述べ〟は本格的に鋼を刀の形にする最初の工程。

その為に鋼の構造確認をしつこいくらいにやり、そして炉に火を入れて鋼を〝沸かす〟準備をします。

 

これからこのホットドックみたいな見た目の鋼を刀に整形していくけど、勿論雑にやったら今までの努力がパーになる。

 

丁寧に丁寧に、芯まで熱くする。

 

そうしてから徐々に打ち伸ばしていく理由は、中まで火を入れず力をかければ鋼に疵がついてしまうから。

 

柔らかい粘土だって冷えた状態じゃ折れたり〝ヒビ〟が入るんだ。鋼だって似たようなこと、それに鋼は精錬も兼ねてるんだけどね。

 

ところで〝造り込み〟で一つにくっ付いた心鉄と皮鉄だけど、同化するのにも相性が良いところと悪いところがある。

 

玉鋼同士 ⚪︎

魔力同士 △

概念同士 ×

 

こんな感じかな。

不思議なことに玉鋼は他の鋼と凄く同化しやすい性質を持ってる。これは前世と今世、その何方の世界の科学や魔術を持ってしても分からない玉鋼の謎だと言われてるね。

 

ちなみに魔術儀礼無し玉鋼でやった場合はこれ。

 

玉鋼同士⚪︎

魔力同士 -

概念同士 -

 

うん、こうしてみると魔術儀礼の可笑しさが分かるね。どうして△と×相性の癖に普通の刀より優れてるんだよ。

鋼へのバフ効果自体が強すぎるんだけど。

 

ついでに古刀がどうなってるかと言えばこう。

 

玉鋼同士 ⚪︎

魔力同士 ⚪︎

概念同士 ?

 

…………なんで…?

どうして本来≒の概念同士がくっ付いてるのが稀にあるんだよ!?

 

教えはどうなってるんだ教えは!?

 

硬くて粘り強い鋼があるってこと!?

〝特殊合金〟でも存在しないのに!?

 

それとも失伝してるって噂の工程のせい!?

 

気が狂いそう…!

 

 

…まぁ、それは置いといてだよ〔冷静〕

炉に突っ込んどいた鋼が沸いたからいよいよ叩き伸ばしていくよ。

 

もちろん目で魔力等のバランスを見ながらね。

 

もし叩き伸ばして更に同化していく間、ここで皮鉄の〝硬い〟という概念が心鉄の〝粘り強い〟より強くなったら〝硬いだけの刀〟になる。

 

逆に〝硬い〟という概念が心鉄の〝粘り強い〟より強くなれば〝粘り強いだけの刀〟になるんだ。

 

この二つの鋼同士が持つ要素を活かしきらなければ〝硬く粘り強い名刀〟は完成せず、それが出来なければ私は『名工』とは認められない。

 

勿論のこと鍛治を極めたなんて言えないし。

むしろ遺物、古刀達の出来栄えを思えばスタートラインにすら立てていない状態だ。

 

〔だからこの素述べという工程はこの世界の鍛治で最も〝刀の性能〟と〝鍛治師の腕〟に直結すると言っていい〕

 

一つのミスが命取りとなる。

 

〝硬さ〟を失えば容易く刀は曲がり。

 

〝粘り強さ〟を失えば容易く刀は折れる。

 

それに刀の〝姿〟も予想して形成していかないといけない。刀身の長さ、茎〔※持ち手のこと〕の長さは?。切先の形、刀身の幅と厚さは?

 

重さのバランス、振った時の抵抗は?

何かを切った時の感覚は?

 

全部を考慮し、最高の物を打ち上げる。

それは一朝一夕で身につく技術なんかじゃない。何年、何十年と研鑽を積んで鍛練し、鋼を鍛錬する毎日を続けて出来上がる。

 

その技術こそが名刀を生み、その名刀が次の鍛治師を育てる一助ともなり得る。

 

昔、お爺ちゃんが打った刀を見た私のようにね。

 

〝透視眼〟をフル動員して様子を見る。

せめぎ合う概念と僅かに溶け合う二種の魔力、しかし玉鋼は完璧に同化している。

 

〔なんて簡単に信じれるか、ほれ見たキチンくっ付いてない場所もある!〕

 

気付いてすぐさま心鉄の方を槌で叩く。

いくら同化し易い玉鋼同士と言っても、気を付けない理由にはならない。

 

それと今、心鉄の方から叩いたのは皮鉄の硬いという概念が強かったからだ。突然を勢いを付けた心鉄の粘り強さは皮鉄の硬さを押し出し、概念同士の均衡が取れていく。

 

概念は打ち消しあう、反発し合っているというよりもただ〝共生出来ていない関係〟にも思える、この少しの違和感か勘違いか解らないものが何かに繋がりそうなんだけどね。

 

それとこの後する工程の事も考えて慎重に刀の形にしていく。

 

執拗な程に注意深く、異常と呼べる程の集中力をもって〝名刀〟は完成する。

 

 

人々はそれを神業と呼び。

 

 

或いは狂気の沙汰だと声を漏らした。

 

 

その行為は確かに鍛治師の心身を削る苦行でもある。往々にして職人は妥協なんてしたくないし、そのお陰でとんでもない金と時間と労力を支払うことになったりするのも理由の一つ。

 

私が今打っている刀もそうだ。

 

玉鋼が二つ合わせて50万。

高級炭がたーくさんで15万。

藁灰の弁天丸が大体5万。

泥水やこの後も使う鉄鋼樹粘土が10万。

 

後はハバキや保管用の白鞘だけで10万…。

拵えに拘るならその倍は掛かる。

そしてかなり重要な研ぎには20万前後掛かるし。

 

性能や美術的価値を考え…グレードが中の上で原価130万円ぐらいか。

魔術儀礼無しの奴でも80万はかかる。

 

んで今回の依頼は前払いで100万、後払いで70万だ。出来が良ければ色も付けると言ってくれた。

 

でも何にせよ鍛治師という職はハイリスクハイリターン。これだけで食っていくのは難しいと言えるし、後継を育てるとなれば更にお金もかかる。

打つだけ打たせて刀や剣を持って依頼人が逃走とかよくある話だからね。

 

腕を認められたり、将来性を見込まれたら武装協会から支援を受ける事もあるけど。

今も真っ当に鍛治師やってるのは古くから続く名家や上流階級の保護を受けた人間ぐらいなもんだろうね。

 

私も早めにスポンサー見付けたいなぁ……。

 

〔と、雑念雑念、もう形は出来上がってる。

ここでミスをしたら笑えない〕

 

手元にある鋼は大分刀の姿になってきた。

 

ここで遂に〝切先〟の整形へと移る。

物を切り、または突いたりするそこはやっぱり強く鋭くしたいもの。

 

というわけで切先となる場所を〝切り落とす〟

ここで気を付けたいのは、斜めに切り落とす部位は最終的な切先になる方向と〝逆〟ということ。

 

切り落としてカッターみたいな刃先になったそこを刃の側から叩いてナイフのようにしていく。

 

ただ切り落とした切先だったらそこは心鉄と皮鉄の二つが丸見えの刃。キチンと心鉄を皮鉄で包み隠してあげるようにしなくちゃならない。

 

そして切先の形にも色々ある。

小さめの小切先や平均的な猪切先や中切先、薙刀のような大切先だってあるんだ。

 

〔ウチは大体中切先か大切先と決めてる〕

 

その中でも私は中切先が好き。大切先も迫力があって良いけど、ちょっと私には高飛車で似合わない。注文されればそうするけどね。

 

 

でもこの依頼は今私が打てる〝最高傑作〟を求められてる。

なんなら使い手の事は考えなくても良いらしいし、多分目的は〝腕前の確認〟

 

 

〔だからイメージするのは私が良く使えて、良く切れると思える姿に刃〕

 

小槌を用いて本格的に刃を形作る。

これは〝火造り〟とも呼ばれ、未だ四角い刃のところを潰し、薄く鋭くしていく工程だ。

 

物を切る刃は三角形に、抜ける刀身の横は平たく。〝平造り〟っていう包丁みたいに平たい刀も勿論あるけど、私がいま狙っているのは〝鎬造り〟

 

ほら鎬を削るって言うでしょう?

あの削られる刀の高く平たい部分ね。

 

あの刀身の高い横腹と三角の刃を今整形してる。

さっきの素述べはただ鋼を叩き、寸法も頭に叩き込みながら延べ棒にしただけ。

 

火造りは叩き込んだ寸法にそって細かく整形する工程の一つだ。

 

〔これで大体OKかな…〕

これからの工程や研ぎを考慮して形作る。

 

完成した刀は反りのない〝直刀〟

 

よくある刀の反りはどうしたって?

 

勿論これなら付けるのさ。

んで早速やりたいところだけど…。

 

「…結構良い時間」

 

懐から取り出した炎中時計を確認する。

針は夕暮れを少し越えたと指し示し、確かに空いた覚えのあるお腹を考えれば確かに丁度いい時間。

 

 

 

明日の準備をして…次の工程はまた集中力が要るから家に戻って休もう。

 

因みに夕食は好物の天ぷらだった、やったぜ。

 

 

⭐︎

 

 

翌朝。

睡眠を8時間も取った私は元気いっぱい、やる気いっぱいで絶好調!

これにはお父さんもニッコリだぜ!

 

朝飯はご飯と味噌汁、シャケに玉子焼きと健康的!

 

ちょっと刀を削って整えてから〝土置き〟をします〔急勾配〕

これから〝焼き入れ〟って超重要な工程があるんだけど、土置きはその前準備みたいなもんだね。

 

でも重要さは殆ど変わらないか。

 

なんせ土置きによって日本刀特有の〝刃紋〟が生まれるんだからね。

 

刃紋は日本刀の美術的要素を構成する物の中で最も分かりやすく華やかなモノだ。

日本刀の美術的観点は大雑把に〝形〟〝地鉄〟〝刃紋〟の三つに分けられる。

 

まず〝形〟

昨日やった〝素述べ〟や〝火造り〟が大きく関わるね。

 

刀身の長さと茎のバランス。

刀身の厚さや幅などが黄金比率か使いやすそうか、どんな印象を受けさせれるかが刀の評価や見方のポイントだ。

 

でも例えば凄く分厚く幅も大きい扱いにくい刀は〝鬼包丁〟とも呼ばれたりするし、別に致命的な欠陥でもなければ順当に評価されるね。

 

太郎太刀とか達人でも使いにくいだろうし。

 

 

次に〝地鉄〟

これはねぇ…まぁマニアックな話だね。

 

鋼の構造を見るんだ。

もうこの言葉だけで日本人の変態性が垣間見えるよね。昔の人あたまおかしい〔褒め言葉〕

 

鋼にも〝肌〟があって、まるで流れる川のような肌から木目のような肌。所謂ダマスカス鋼のような肌もあるんだ。

 

これは〝折り返し鍛錬〟が関わってくる。

何十回と折り返され、何万層と重なり練り固められた鋼。

 

〝地鉄〟はその層に鋼そのものの機能美を見るんだね。

 

 

そして〝刃紋〟

それは鍛治師が送る歴史と文化の結晶にして美の真髄。

 

繊細で優美、時に猛々しく、刀匠それぞれの流派や個性が出る刀身の紋様は刀の価値と美しさを底上げし、相対する者に固唾を呑ますような緊張を与える。

 

言わばそれは刀の顔。

 

親である鍛治師やその者の流派が違えば顔付きは変わり、鋼や親の腕が優れていれば良く冴えて美しい。

 

〔ウチが打つ刀の刃紋は濤乱刃やのたれ刃、海や炎がうねるようなダイナミックな物が多い〕

だからこそ何処か掠れたり、曇っていたりすれば浮き彫りになる。

 

完璧なんてこの世には存在しないとしても、その刃紋を翳らさないように素材を選び、鋼を打つのも名工としてのも条件だ。

 

 

では刃紋を描くためにはどうするか。

 

工程の名の通り〝土を置く〟勿論それはただの土じゃない。

 

木ほど軽く鋼ほど硬い〝鉄鋼樹〟付近の粘土。

炉に使われる高級な〝炭〟

そして未だ神秘と魔力が多く残る〝高天山の湧水〟とそこから採取された〝天然砥石の粉末〟

 

それらを秘伝の比率で練り合わせたものが、刃紋を描く為の〝焼刃土〟となる。

 

〔この焼刃土は刀の出来を左右するものだから鍛治家にとって秘中の秘〕

 

そもそもが刀鍛治の工程全般が秘密の塊などは言ってはいけない。

 

そしてやり方はまず刀身全体に薄く0.1ミリ程で塗り。そこから鎬の方へ厚く1ミリ程塗る。そして厚く塗るほうの〝塗り方〟〝描き方〟によって刃紋は様々な顔を見せる。

 

勿論両面にやる、だから焼刃土は垂れないぐらいに良く粘るんだ。

 

〔そしてこの世界の鍛治にとって土置きは魔力が勝手に霧散しないように〝コーティング〟する意味があるね〕

 

この世界の魔力。

それは生物にとって〝血液〟のようなもので、性質としては〝電気〟に近い。

 

この鋼は言わば〝帯電〟の状態にある。だから時間が経つと勝手に消えてしまうこともあるんだ。

 

そうしないためには〝術式〟として魔力をモノに深く刻みつけるか。

 

他のもので〝覆い隠す〟だけだ。

 

土置きは後者。

それに今まで散々弁天丸の藁灰やら泥水やら魔力を燃やした炉の炎やら使用し概念魔術を活性化、つまり魔力を与え続けていたのは元々持つ魔力が霧散しないようにしていたから。

 

玉鋼が持つ概念は概念魔術という〝術式〟を使って出力された〝結果〟

 

魔力→術式→出力→結果〔※魔力で出来ている〕

 

玉鋼はあくまで〝術式という道具〟で出力された概念を、与えられた魔力で成立させているだけ。

 

つまり玉鋼は結果〔※触媒となる魔力が無いと機能しない〕だけを持っている。

 

なので魔力が消えれば概念も消える。

術式が玉鋼そのものに刻まれている訳でもないから魔力を込め直しても意味が無いし〔※術式を用いて魔術儀礼し直した場合は別〕

 

それは何の手も加えられていない玉鋼と同じだ。

 

 

〔だから一回魔力が消えれば概念はパー〕

魔力が霧散し切るのは大体一月。

 

鍛錬の頃には玉鋼の魔力を究極の一に練り上げる工程に入るので魔力の継ぎ足しはNG、だからそっからは素早さ勝負とも言える。

 

〔でも焦ってミスをしたら見てらんないよねー〕

 

寝ずに完璧な鍛治が出来る人はそうそう居ないんだよ。

そして完成した刀に宿る概念、それを成立させるための魔力を極力逃さないように焼刃土でコーティングする。

 

こうすれば鋼の魔力は霧散せず、概念は冴えたままだ。

まぁ鞘だったり最悪布で包むだけでも守れるんだけどね。

 

 

……え?

そんなメンドクサイ事するより完成した武器に〝術式〟を刻めば良いって?

 

…魔術儀礼済みの玉鋼から作った武器はいわば〝書道の完成品〝だ。

 

術式による〝上書き〟なんてしたら和紙……良く鍛えられた武器じゃないと耐えきれないこともあるし、余分を捨てる派の帝国鍛治師にとっては邪道感が強くてねぇ…。

 

刀身等に〝彫り〟を行って術式を刻み、そこに魔力をこめて結果を出力させる。

 

それは外側だけ強くするようなものだね。

魔術儀礼済みの場合は中身が強い。

 

術式は確かに多様な力を生むけど、あくまで外付けの力だから中途半端な事も多いし。中途半端じゃない〝完璧〟を望んで術式を刻んで出力しようとしても、刀はその望みに応えられずに崩壊する。

 

 

……じゃあ術式を刻んでも崩壊しないような刀を打て…?

 

 

ーーーはい……ごもっともです…。

 

 

わぁっとるんじゃいそんなこたぁ…。

でもそんな良い武器を作れるのは金と技術を持ってる最上大業物様方ぐらいなんじゃい…。

 

大体術式刻むなら〝特殊合金〟製の方が相性良いし…玉鋼製のには向かないし…。

 

でももうちょっと素材が良ければなぁ…刻まれる術式にも耐えられる名刀とか打てそうなんだけどなぁ。

 

…そもそも神秘の薄れた現代じゃ無理か…。

 

 

…。

 

 

……甘えだね。

 

舐め腐ってるわ。

 

鍛治に全然真摯じゃないわ。

 

私このままだと鍛治を極められないで死ぬわ。

 

はぁ…。

 

…………よし。

 

〔勝手に気落ちしてるのは終わり、それじゃあ鍛刀に集中しよう……土置きが終わったからって変な事考えるのは悪い悪い〕

 

既に刃紋は描き切っているし、変な事考えてたりしてる間に置いた焼刃土は少しずつでも乾いてきている。

 

チラリと懐から取り出した炎中時計を確認する。

 

「お、丁度いいお昼じゃん。お父さんに呼ばれる前に切り上げよ、焼刃土乾かないと次に進めないし」

 

というわけでお昼休憩の時間。

 

 

⭐︎

 

 

そうめんと残り物の天ぷらを食べてきて再開です。

 

んで〝焼き入れ〟だけど。

どういう意味があるかと言えば遂に刃紋を生み出してコーティングを本格的な付与することだね。

 

それと更に鋼を強くする効果もある。

 

それじゃあ早速やっていきたいけど…。

まず炉にキチンと炭と火を入れることが大事なんだよねー。

 

鍛治は炎と鋼に向き合う仕事だから、これを疎かにすることは出来ない。適当な量や形の炭は入れられないし、炎の温度と勢いも適当じゃダメだ。

それに焼き入れするためにこれから土置きをした刀を炉に入れるけど、炎の温度によって波紋にも特徴が出る。

 

ウチは〝匂出来〟を狙うことが多いから、炉の温度は低温の方だ。

 

刃紋というものは細かい粒子が連なり重なり作り上げられている

高温で焼き入れを行うと沸出来という小さな粒子が刃紋を作る形となり、低音で焼き入れると匂出来という更に細かく、刃紋の先が火先のように霞掛かる。

 

沸出来はキラキラと粒子一つ一つが光って見やすく派手、匂出来は焔のように揺らめき何処か上品だ。

 

〔特に濤乱刃で沸出来とか派手派手ですんごい、ザ・刀って感じがする〕

 

まぁ私は今回〝匂出来〟を狙うんですけどねー。こればっかしは好みとか趣向、あと得意不得意の問題だし。

 

それでは炉の温度が丁度よくなったので土置きされた刀を土が崩れないよう入れます。もしここで土が崩れようものならやり直し、午前中の時間がまるまる無駄になる。焼きを入れてる途中で崩れてたら最悪だ。

 

でもキチンと刀全体に火を入れないといけないから、適度に動かしたり炉から抜き差ししなくちゃならない。それも勿論土が崩れないように、これがまた神経を使うんだよね。

 

それで刀身が726〜800度まで熱せられたらーーー

 

 

ーーー水の中で一気に冷やす!!!

 

ジュージューと水が沸き立ち、水蒸気が生まれ、ゴポゴポと舟という水槽の中から鋼が強靭になる音が響く。

 

薄く土を塗った刃の鋼は急激に冷やされたことによって〝変態〟し、その刃は〝マルテンサイト〟と呼ばれる硬質な鋼へと変わっていく。これが概念も付与された玉鋼。

 

〝硬い皮鉄〟の最終進化、硬く曲がらない強靭な鋼だ。これは折れず曲がらずの曲がらずを担当する。

 

 

そして刀身の中身や峰である鎬は厚く土が塗られていたから冷やされるのは皮鉄や刃の部分よりも遅く、だからこそ〝パーライト〟と呼ばれる靭性の高く折れない鋼へと変態していく。

勿論これこそが概念も付与された玉鋼。

 

〝粘り強い心鉄〟の最終進化、粘り強く折れない鋼だ。これが折れず曲がらずの折れずを担当する。

 

 

そして冷やした刀身を水から揚げてみると、そこには〝反り〟が生まれていた。皮鉄は変態することによって体積が膨張するが、心鉄はあまり膨張しない。その体積の違いが刀に反りを生む。

そして体積が変わっても概念のバランスは取れているところが私の腕前を表している。

 

しかし何にせよマルテンサイトは曲がらず、パーライトは折れないのが特徴だ。この矛盾し合う二つが支え合い、或いは〝一〟となり、日本刀は成り立っているんだ。

 

もう冷静に考えなくても頭おかしいと思えるし製法を確立させた人は多分変態だと確信出来る。

 

〔でも〝足りない〟よねぇ〕

 

さて日本刀は何と呼ばれるものだった?

 

 

そう〝折れず〟〝曲がらず〟〝よく切れる〟だ。

どう考えても最後の一つが足りていない。

 

 

次は刀鍛治にとっての一旦の〝区切り〟

刀の反りや諸々の調整と〝鍛治押し〟が待っている。

 




魔力…生物だけが持つ便利な謎エネルギー。
血液のような代物で多くても少なくても困る。600年前は全ての生物が今の100倍以上の量を持ち、〝そのことに耐えられる肉体〟も持っていた。

概念…魂や霊的なものに近く、存在値とも言える。ただし無生物、生物両方が持つ。
だが物から取り出すと消滅するので魔力を生贄に無理矢理成立させている事が多い。玉鋼に付与されている概念は儀式によって与えられ、常に与えられた魔力を糧に生きている。
生き物に付与して対象の魔力を生贄にする?…そんな非人道的なこと一部の企業しかやらないよ。

神秘…正体不明。
魔力と概念、二つの要素を持つが何方にも属さない。一説では世界そのものを構成するナニカではないかと考えられている。

オリハルコンなどの鉱物…実は正体不明。
無生物が持つはずのない魔力を保有しており、そのおかげか術式を刻みやすく魔力を込めやすい。一説では神秘と関係がある、または〝鉱物ではない〟のではないかと研究されている。
なお武器職人はそんなの関係ねぇよと使ってる模様。

玉鋼…ただの鉄鉱石から余分を捨て去った玉鋼。
魔術儀礼でもしない限りファンタジー要素はない。

術式…魔力を込めると結果を出力する言葉の羅列や数式。文章に傷が付いたり魔力が足らなくなると機能しなくなる。

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