異世界のなんちゃってJAPANな国に転生したので鍛治を極める話。   作:シオカラストンビ

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孵化

 

 

 

それは茹だるような暑い夏の昼。

 

土壇場岬の葉室刑場跡。

そこに一人の男が抜き身の刀を構え、土壇に置かれた屍体へと向かい合っていた。

 

〝ぴん〟と構えられたその刀。試し切りの為に切り柄が用いられており、その刀身は油と水で濡れている。

 

「一の胴…!」

 

瞬間、その刀身が瞬く。

数秒を置き、気付けば土壇の胴体は皮一つ繋がっていないように割れ、〝ぐちょり〟と中身がまろびでた。

 

(わぁ…)

さてそんな光景を見て言い知れない表情を浮かべる少女が1人。

 

名を『國 アスカ』

アシハラ帝国の鍛治名家、雷家の流れを汲む鍛治師一族の末裔であった。

此度はアスカの祖父が打ちし刀の試し、死罪人の屍体を持って切れ味を試す〝試験〟の見学である。

 

「…見事ですな、流石は浅山殿」

隣に立つ祖父が試刀役、浅山の技前に感嘆の声を上げる。だがその声にはただ感じいる以上の感情が詰め込まれていた。

 

「世辞は結構、鈍でも首や胴を断つのが私達の技であり仕事です」

「して、今回の結果は…」

 

「第三級、甘く見積もり準二級でしょう」

「……そうでございますか」

 

祖父の震えた問いに、浅山が正直に答えた。

 

「重心が手元に寄り過ぎています。素人では少々切りにくい。

使う鉄も幾らかグレードダウンしたでしょう………衰えましたね」

「はは、…最近は老眼鏡が手放せませんよ」

 

肩を落とし、乾いた笑いを漏らす祖父は、昔とは違って弱り切っていた。

もう少しアスカが小さい頃は、カカカと大笑いしながら鉄を打っていたというのに。

 

祖父の娘。アスカの母が病死してからというもの、祖父は普段から俯いて生活する事が多くなっていた。

 

「もう、大業物は名乗れませんなぁ…」

 

世界武装協会の業物位列。 

近年ダンジョン探索が急速に発展した現代において、ダンジョン探索員の剣や槍、盾から鎧なんかまで制作を請け負う現代の鍛治師達。

 

彼らの多くは殆どが協会に所属し、その中でも一流達は〝名工〟として尊敬を集める。

 

最上大業物十二工。

大業物二十一工。

良業物五十工。

業物八十工

 

業物の域にある事ですら充分であるのに、祖父はかつて大業物の地位にまで上り詰めていた。

 

「剣士の間で、帝国の國雉と言えば知らない者は居なかったんですがね…」

「昔の話でしょう。昔は栄えある翼を持っていた雉とて、老いれば色も抜けていくものでしょうよ」

 

確かに色褪せた着物も揺らし、祖父ーーー國 キジトシは自嘲した。

その姿に、浅山は目を細める。

 

「……私は協会より任命された刀剣御試役、使い手の事も考え、厳格に鑑定しなければなりません。ですので…」

「ええ、わぁっとります。國家の炉も一旦冷やさにゃならんという事でしょう。協会には儂から言っときます」

 

「…キジトシ様、後継を育てなさることを進言致します」

 

そこでやっと、浅山はアスカを見た。

 

「わかっとりますよ」

 

するとキジトシは、ずっと話を聞きながらも土壇の上ーーー

 

ーーー泣き分かれとなった胴体の断面に魅入る、アスカをまじまじと見つめた。

 

 

 

⭐︎

 

 

 

18年前、私は転生した。

 

目が覚めたら鉄の匂いでいっぱいの部屋で、目の前にはおっぱいがあった。

 

(ふぁ!?)

むにむに、ふにょふにょ。身体は温かくて柔い物に包まれて、自分の身体も小さく柔らかくなってることへ気付くのが遅かった。

 

(あっ、あかちゃん?これ、私?)

気付いてからは混乱するばかりで、死んだ記憶も無かった私は暴れに暴れた。

 

時にお母さんの腕の中でイヤイヤし、時に抱えてくるお父さんの腹を蹴っ飛ばし、時にヒゲを押し付けてくるお爺ちゃんの少ない髪の毛を引っ張った。

 

「ちょいまっ、儂の髪の毛なくなる!?」

「びぇええええええ!!!!」

「アッハハハハ!、お爺ちゃんのすっくない髪の毛むしりたいって!」

「ぐぉお…(鳩尾を蹴られて唸る父)」

 

でも小学校に上がれば精神も安定してくる。

 

「オラっ!、女の子を虐めんじゃねえよ!!!」

「ぐぇっ!?」

「うわッ、アスカが来たぞ!?」

「美しいライダーキックだ…」

「関心してる場合か!」

 

安定、してくる。

 

うん、中学に入ればまだ……。

 

「シャア!!!」

「ぐぶぉほぉッ…!」

「うわー、相変わらずのえげつねぇ力。あれ剣技として成立してる?」

「残念ながらしてるんだよなぁ…」

「怪力女や…」

 

あーダメだ何にも変わってない。

冷静に考えてみると私ってかなり情緒不安定で女っ気なさすぎるわ。

 

なんかゴメンねこんなのが娘でって思うけど、お母さんは死ぬ前に別に良いって言ってくれたし。お父さんもお爺ちゃんも多分受け入れてくれてる。

 

私も前世のことは全然覚えてないけど、多分性格とかは何にも変わってないんだろーなーとは思う。

 

ところで、私が転生したのは変、変?…な異世界。

 

具代的にはファンタジーに縋る現代ってカンジ、イマイチ分かんない?しゃーないなー。

 

「「ただいまー」」

ハイじゃあ今、お爺ちゃんと帰ってきた家を見てもらいましょか。

 

えぇ、はい。木造建築ですね。

三人で住むには、そこそこ広いだけのお屋敷です。

 

なんかデッカい〝結界〟に包まれてなければなぁ…?

 

「ソウヤ、結界の調整はキチンと出来とるか?

何やら鍛治の音が五月蝿いと近所迷惑になっとるらしいんじゃ」

「え?可笑しいな…。分かりました義父さん。

ちょっと確認してきます。…魔力電池が切れたのかな?」

 

魔力電池。

この世界におけるファンタジー要素、そして一般的に〝遺物〟って呼ばれてる代物。

 

「おとーさん私も手伝うー」

「ん?分かったよ」

珍しいなと思ったのかハテナを浮かべるお父さんの後を追う。

 

そしてちょっと荒れてきた庭と空っぽの池、その隣を通って蔵へと向かい、お父さんと一緒に埃っぽい蔵に入る。

鍛冶屋敷だからか中には無数の武具が仕舞われていて、辺りには口の中が乾くような埃と金属の匂いが混じっていた。

 

「けほっ、ちょっと埃っぽいね…。掃除いるかも、剣とか槍とかにも。アスカ、薄暗いから気を付けなさい」

「キチンと管理が要る魔剣がある訳でもないから、疎かになっちゃうんだよねー。はいお父さん、でも私が目が良いの知ってるでしょ?」

「一応さ」

 

私達は軽口叩きながら蔵の奥へと歩いて行き、一本の柱の前で止まった。

柱は四方にお札が貼られ、巻きつけられた紐には青い液体となった魔力の瓶が吊られていた。

 

「…?魔力が切れてるわけじゃないのかな」

「うーん、まさか壊れちゃった?」

 

「アスカ、見てくれるかい?」

「りょーかい」

 

怪訝の顔をするお父さんが私に振り向いて瓶を指差す。だから私は緑のコンパスみたいな目を見開いた。

 

『透視眼』

それは私が産まれた時から持っていた魔眼。

能力は大体の物を見通す力、友達が履いてるパンツの色から武器の構造まで見抜く目だ。

 

ま、知識が無くてよくわからん時のが多いけどねー。

 

でもこの魔力電池と結界装置がどうなってるのかは分かる。

私は見習いでも職人だから。

 

「あーうん、壊れてるね」

「え゛っ」

「魔力が逆流してる。お札にある残り滓で外面は整ってるけど、機能自体は死んでるよこれ」

「……確かこれ、結構な代物じゃ…」

「ウチの家宝」

 

ガーン。お父さんは大袈裟なショックを受ける。

 

多分、悪さをしてるのは魔力電池だ。

結界を張るお札の方は問題ない、問題は魔力電池が貯めた魔力を流そうとするけどパワー不足で逆流してること。

パワー不足ということは電池の仕組まれた魔術式に異常が起こってるんだろう。

 

…えー、頭ん中の正常な術式と照らし合わせて。

 

「やっぱり一部が掠れてる…」

「直せたりするかい?」

「⭐︎無理⭐︎、大分奥の方が壊れてるし、そもそも私は魔力電池を解体出来ない。お爺ちゃんでも無理だね」

「oh…」

 

お父さんは國家への入り婿で職人でもないから、こういう技術は分からない。もう学ぼうとしても時間もお金もウチにはそんなに余裕が無いし、大体お父さんはお爺ちゃん直々に才能ナシの烙印押されてるから論外でもある。

 

「そもそも〝遺物〟って直せる物じゃないし」

 

〝遺物〟

俗にいうロストテクノロジー。この世界はいろんな魔道具や魔剣がダンジョンから発掘されたり、古い家に伝わってるけど、その再現はまるで出来ていない。

 

どうやら600年前ぐらいから世界規模で〝神秘〟ってモノが薄れちゃって、魔術の出力もガタ落ちして魔道具の質も落ちちゃったらしい。

あと生き物の肉体も弱くなったとか。

 

「若い頃のお爺ちゃんみたいな凄い鍛治師とかは、まだ第一級の〝遺物〟に並べる剣とかを打てるらしいけどね」

 

だがたとえ〝遺物〟の機能を理解出来ても、再現自体は出来ないのが現代。

 

「過去の遺産を食い潰すしかない今は、過去や未来から見ればとんでもなく愚かに見えるだろうねー」

 

この上なく、無力だ。

 

 

 

 

 

 

「ハイ、ES社の魔力電池ね。お値段23000円になります」

と言っても完璧に再現できないだけで、遺物の劣化コピー品なら作れるんだけどね。

 

私はおつかいを頼まれて、電気屋の会計に立つ。

エネルギーセーフ社が造る魔力電池は確かに遺物の物に比べれば見劣りもするし長持ちもしない。

 

でも態々たっっかい遺物の魔力電池買うより安上がりだし効率的。

ウチの家宝である魔力電池も何百年と使ってたらしいし、ぶっ壊れるのも時間の問題だった。

 

「お買い上げありがとうございます」

 

袋詰めされた魔力電池を揺らしながら私は電気屋を出る。空を見れば日は幾らか傾き、鮮烈な日光が肌を焼き付けた。

 

(あぢー)

私が産まれたアシハラ帝国はほぼ日本と言って良い。

色とりどりの四季と刀が特徴の国だ。

 

(何処となーく日本家屋が多いしね)

前世でよく見たコンクリの豆腐ハウスは少なく、あったとしても和風っぽくなっている。昭和モダンな所もあるけど、基本的には日本…この世界で言う帝国古来の文化を貫いている。

 

(服装も着物が多いし、なんだろうね……銀◯?)

 

外国から見た日本、空襲や大地震などが無かった日本、或いはどっかのチーズ蒸しパンになりたいゴリラが描いた江戸。そんな感じの国だった。

 

おそらく日本と決定的に違うのは、団結した愛国心や自国の文化を保存し尊敬する懐古主義〔強弁〕

でも特に懐古主義には鍛治師でもある國家も関わるんだよねー。

帝国にとって優れた刀剣はアイデンティティの一つでもあるから。

 

(転生したと気付いた時には、戦国時代!?とか思ったよね)

 

だって親が鍛治師で家にはテレビも無かったんだもん。注文しに来た人の服装でやっと気付いたわ。

 

まさにザ・サイバーパンクって感じだったのビビったけど。

……恥じらいとかないんですか?

 

そこん所がまだ私には受け入れられてない。

 

「あれ?アスカじゃん。どったの?」

「お?ヒビキちゃん!。いやー結界用の魔力電池が壊れてさぁ…」

「私ん家は結界とか使ってないから分かんないなぁ……」

「消音とか危険人物は入れないとか、色々便利だよ?。

私みたいな透視眼持ちじゃなきゃ見破れないし市街地の鍛治師に必須!お値段なんと50万円!魔力電池も付いてきます!」

「いらねー」

 

曲がり角で出会ったのは同じ高校に通うヒビキちゃん。めっちゃ良い子。あと鬼人。正直それ以上に言うことない。

 

「そういや剣術大会大丈夫?なんか向こうヤバイの出てくるらしいじゃん」

「ほほぉ?この怪力女の國アスカが負けると申すか」

「怪力女って自分で言う!?、相変わらず女っ気が死んでんね…」

「鍛治と剣で生きてきました!」

「武士かよ」

「鍛治師見習いです」

 

軽口叩いて笑い合う。

ぶっちゃけこの世界は大して前世と変わらない。

人も物も、ちょっとファンタジーで偶にオバテクが出てくるだけだし。

 

「因みにヒビキちゃん進路決まった?なんか迷ってるーとか言ってたじゃん。もつ高三の夏でっせ」

「ん、一応かな。ヨルカゼコーポレーションって分かる?」

「最近話題の企業じゃん!」

「うん、大学行ってからそこ目指そうかと」

「うへぇ…流石は私と違って頭が良いヒビキちゃんだ」

 

「アスカには鍛治があるじゃない」

「それは…そうなんだけどさぁ」

「なに嫌なの?よく自慢してたのに」

 

「………最近、お爺ちゃんが鍛治が下手になったって落ち込んでてさ…。私も何十年後にはああなるのかなって…」

 

私は刀が好きだ。剣も好きだし、槍も好き。

武具ってのに、私は転生してからずっと魅入られ続けている。

 

美しい鋼の色、何もかも切れてしまいそうな刃。飽きを覚えない数多の種類ある拵え。機能的で、ただ一つの美術品でもあるような刀剣を見る度、私は思わず感嘆の息を吐いてしまう。

 

もし前世の世界に転生し直したって、将来は刀鍛冶を目指すだろう位には刀剣や武器が好きになっていた。

でもどれだけ切磋琢磨して腕を磨いても、結局おばあちゃんになれば鍛治場に立つ事も難しくなる。

 

「私って諦めが悪い方だからさ、年取っても剣を打つと思う。

そして多分人生最後に打つ物は、老いて酷い出来になると思うんだ。

それで、後悔しながら死んでいく気がする」

 

そんな未来が、少し怖い。

 

 

「……アスカはさ……」

思うことを喋った私を、ヒビキちゃんはチラリと見て、そっぽを向いた。

 

「たまに難しくて、そこそこ〝どうでもいい〟こと考えるよね」

「……そうかな」

 

「何十年後の事なんて、きっと誰にも分からないじゃない。

大事なのは今。それにさ、私アスカのこと羨ましいと思ってるから」

 

「え?」

「言い方悪いけど自分の未来を考える必要無いし、ただ真っ直ぐ進めば良い」

「う、うん?」

「それに、アスカは鍛治が好きなんでしょ?

じゃあ天職じゃない。危なっかしいけど、軍人さんやダンジョン探索員さんにも武器って必要なんだろうし」

 

「きっとみんなに感謝される生き方が出来る。

死ぬ時なんて、生きてきた今までに比べればどうでも良いと思うけど?」

 

それは暴論だった。

とんでもない考え方だった。

 

何なら切腹や辞世の句、死に様を重要視する帝国の人間として有るまじき論理でもあった。

 

しかし、私には特段それが悪い考えだとも思えなくて。

 

「…確かに、私ヘンな事考えてたかも」

「でしょでしょ、アスカに思い悩む姿は似合わないって。だからいつか私に包丁でも作ってよ」

「あはは、國家の鍛治代は高いよぉ〜?」

「む、そこは友達として負けてよー!」

 

ちょっと、救われた。

 

 

 

⭐︎

 

 

 

「お爺ちゃん!!!」

 

家へと帰ったアスカは縁側で黄昏ていたキジトシへと声を投げかける。

珍しくキセルを咥えていたキジトシは肩を跳ねさせ、何やら声を荒げる孫娘を見た。

 

「なんだ…アスカ、電池は買ってきたのか?」

「もう結界は大丈夫だよ、それよりもさ!」

「おぉう…なんじゃい」

 

「私、鍛治師になる!」

「…知っとるよ」

 

顔を近くして宣言するアスカの言葉に、しかしキジトシ驚かない。

 

アスカが剣を持ったのは7歳の頃、鍛治場に立ったのは8歳の頃だ。

金槌を持つ筋力の問題すら気合いと鍛練で何とかしたアスカを見て、キジトシは戦々恐々としながらも将来が楽しみになったのを覚えている。

 

そして今代の國家も安泰だろうとも思ったのだ。

 

「…ねぇ、お爺ちゃん」

「なんだい」

 

「今までの人生、どうだった?」

 

「…」

今までキジトシは剣さえ打てればそれで良い人生だった。

 

三十代までは、自分が良いと思った剣を、売りたいと思った者にだけ売っていた。採算を取れない値で売り渡したこともあった。

 

だが四十代目前にして、やっと國家全体の事を考え始めた。

 

堅実に刀剣を鍛え、売り、貯蓄する。

娘や妻の事も考えて、馬鹿な事は出来なくなっていたのだ。

 

娘は鍛治に興味を示さなかった、それでも良い。

自分がその分稼げば良いだけと考えるだけだった。

 

孫が生まれた。

どうしようもなく可愛かった。  

 

だが同時に、自分が衰えている事実に気付いた。

 

アスカは天性の才を持つ努力家だ。

だがその力を育て上げるには、國家ではきっと不十分だろう。

 

金も、時間も、権力も、キジトシは蓄えることを知らなかったのだから。

なけなしの名声すら、ここ最近は無きに等しいのだ。

 

國家はきっと生き残る。

だがアスカの才が存分に発揮されるとは限らない。

アスカが成人を迎える頃にはもっと國家の力は弱くなる、それはキジトシが更に老いる事と同義だ。

 

キジトシがアスカの養育費などを考えて剣を打っても、その質は前よりずっと落ちて売り物にならない。

 

いや、養育費の為など。

建前であったか。

 

〔浅ましいものよな、未だ國家には儂が必要だと思うちょる〕

 

今日、浅山に〝衰えたか〟と言われた時、もう己は國家の鍛治師として死んでいることに気付き、また未だ鍛治へ縋りついている事を自覚した。

 

かつてキジトシも天才と呼ばれた一人だった。

栄えある、鮮やかな翼を持っていたかもしれない。

 

だがその翼はきっと、さらに上へと飛び上がるのには使えなかったんだろう。飛べない翼、挙句枷まで付いたそれに用はない。

 

もうロクな物も打てないのだ。

それなら鐡や道具をアスカの鍛治の腕を鍛える方に回した方が堅実かもしれないのだ。

 

「…アスカ、剣は好きか」

「うん」

「いつか遺物を……古刀を越える一振りを打ちたいと思うか」

「当たり前じゃん」

 

「そうか…儂も、そういう一人じゃったよ」

 

だがもう、キジトシが炉の前に立つ事はないだろう。

 

悔しい。

妬ましい。

不甲斐なくて堪らない。

 

「お爺ちゃん」

「なんだい」

 

 

「私、ちゃんとお爺ちゃんのこと尊敬してるからね」

 

 

「だって床の間に飾られてたお爺ちゃんの刀を見なければ、私は鍛治師になろうと思わなかった」

 

 

「お爺ちゃんが鋼を打つ背中を見なければ、私は鍛治師に憧れなかった」

 

 

「もしかしたらお爺ちゃんは鍛治が下手になっちゃったかもしれない。

でもどれだけお爺ちゃんが凄い人だったか、今も私は覚えてる」

 

 

「私、お爺ちゃんみたいに國家の鍛治師として恥じない働きをするから…。

 

どれだけの困難があっても、絶対諦めないからさ」

 

 

 

「応援、してくれると嬉しいな」

 

 

…あぁ。

 

 

 

……でも、もう充分だろう。

 

 

 

「勿論さ」

 

 

「それと、ありがとう」

 

この日、國 アスカは師父から刀匠としての名を受け継いだ。

 

『名工』八代目 唐丸國行

未来、そう呼ばれる一人の転生者が帝国の辺境に生まれたのだった。

 

 

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