いつもありがとうございます。
当然のような顔で登場していますが、ユーディト・エフレイムは拙作のオリジナルキャラクターなので原作には登場しません。ご注意ください。
横浜から沖合に数キロ。
大亜連合の艦隊だったものの残骸の上に、3人の魔法師がいた。
国防海軍 榊創一朗。
国防陸軍 大黒竜也。
国際魔法協会 ユーディト・エフレイム。
背格好も見た目も三者三様で、特撮に出て来る悪の幹部などと言われても納得が行くような装いであった。
創一朗は203cm*1の巨躯に装甲スーツ姿*2で、何よりヘルメットが顔を覆うバイザーと一体化する形で顔全体が隠れている。
達也は中肉中背にムーバル・スーツの全身黒ずくめで、見るからに重量感のある創一朗の装甲スーツとは運用思想が違うためにスラリとしたシルエットにまとまっている。ただし、これまた顔は隠れており、外見から個人を判別することはできない。
そしてユーディトはと言えば、長い銀髪・青色を基調とした欧風の服装・上に羽織っている白いケープ……までは一応、伝統的な西洋古式魔法師の装いとして理解できる。
が、ロングブーツ・不思議な形状の帽子(羽飾り付き)・腰から吊り下げている古びた本・大粒の赤い宝石で装飾された長い杖というゴテゴテした要素、そしてこれを着ているのがよくて高校生くらいに見える小柄な少女(に見える人物)であるために、全体としてはコスプレイヤーのような派手な恰好になっていた。
男2人が硝煙の匂いを漂わせる全身ガンメタで顔も隠しているために、結果的に小柄なユーディトの派手な格好が引き立つ状況になっており、そのことが余計「悪の女幹部感」を出してしまっていた。
これは本人に言わせれば「錬金術師としてのフル装備をできるだけお洒落に運用している」に過ぎないのだが、外見の派手さの少なくとも半分は趣味によるところである。
ただ、普通に伝統衣装で正装するのと同等以上の効果は保証されているのと、本当に危機的状況の時に出て来る一種の勝負服であるため部外者から何かを言われる機会はほぼないのだった。
そもそも、この格好を目撃してまだ生きている人間は、恐らく片手で数えるほどしか居まい。日本で該当するのはシナイ危機に従軍していた九島烈ただ1人だったが、今日をもって2人が追加されることになる。
彼らが集結することになった原潜だが、艦隊でたった一隻無事であるとはいえ、それは轟沈していないという意味でしかない。既に達也の「分解」と創一朗の「鉄槌」で沈まない程度にボコボコにされている。
ドローンの展開機能もマイクロ波給電機能も潜水機能も失い、浮いているだけの鉄塊と化した潜水艦の背に降り立った3人は、名目上は「核兵器使用を阻止するため魔法協会によって動員された」ということになる。
実態としては突然に緊急連絡を受けて指揮系統に割り込まれただけだが、国際魔法協会という組織には、確かに無視できない程度の権威が存在した。
放射線を検知したり、既存核兵器の移動を監視することにかけては世界的な実力を有する協会である。「核弾頭を持ち込んで来た」という部分には信憑性があった。
本当に核兵器を使われれば東京一帯が灰になるのは事実。達也と創一朗はとりあえずその懸念を事実と見て、そのまま制圧を再開しようと考えた。
二人は一瞬視線を交錯させた後、創一朗が潜水艦の装甲に穴を開けようと試みる。殺す予定のない他国の人間に「分解」を見せないためだ。
だがそれより、ユーディトが口を開く方が早かった。
「警戒しなくても機密は守るよ……と言っても、まあ信じられないよねえ」
たはは、とわざとらしく頭に手を当てている彼女を見て、二人はようやく彼女が流暢な日本語を操っていることに気付いた。
「……悠長にアイスブレーキングしてる場合でもないことだし、挨拶代わりにひとつ秘密を教えよう」
言いながらユーディトは懐から一冊の古びた本を取り出して開き、その一節に指を這わせると、文章と指がぼんやりと光を帯び始める。
その指で足元の装甲板に優しく触れると、光が円を描くように広がり――直径80センチほどの大穴が開き、そこに存在していた物体は全て砂状の粒子にまでバラバラになって崩れ落ちた。
「これは……!!」
創一朗が驚愕のあまり声を上げる。ムーバル・スーツ姿なので表情はうかがえないが、達也も驚きを露にしているのが空気で感じられた。
無理もない。彼の眼に映った魔法は、司波達也が産まれ持った究極の異能「分解」とプロセスを同じとするものだったからだ。
明らかに古式の術法に属していながら、達也をして「全く無駄がない」と思えるほどに洗練されており、現代魔法をして最高難易度に数え上げられ、未だ研究室から出られていないと言われている収束、発散、吸収、放出の複合――「
達也たちはユーディトと初対面だ。四葉と国防軍の防諜体制を信用するなら、当てつけではなくたまたま技能が被っているのだろう。
魔法も一つの技術体系である以上、頂に近づくほどスキル構成が似通ってくるのかもしれなかった。
「基本的に、交渉は私が担当する。投降したものはできるだけ殺さないでくれ」
無言のまま驚いている創一朗に、ユーディトは平然と声を掛ける。
それで再起動した創一朗は、とりあえず目の前の任務に向けて気持ちを切り替えた。
「出来るだけでいいんですか?」
「
平然とそう言ってのけるユーディトからは、見た目の若々しさからは想像もつかないような割り切りが感じられる。
そのまま、先陣を切って潜水母艦の中へ進んでいくユーディトを、二人は慌てて追いかけた。
◆ ◆ ◆
結論から言えば、大した抵抗は行われなかった。
と言うより、創一朗と達也が「抵抗させなかった」と言う方が正しい。
艦内が既に絶望ムードだったこともそうだが、創一朗にはマルチスコープ、達也には
ユーディトが突っ込んでいったため後ろから追随した二人だが、実際の戦闘は極めて一方的なもの。
艦内の人員も自爆覚悟で艦内全体にアンティナイトのサイオン波をぶつけるなど涙ぐましい抵抗をしたが、「外から全員鉄槌されて終わり」が「中に入って1フロアずつ潰していって終わり」になる程度の違い、時間にして3分と少しを稼いだにすぎなかった。
誰かが敵を見つける。「鉄槌」で四肢をもいで無力化、あるいは最初のデモンストレーションを受けて隠しきれないと腹をくくったか「部分分解」を解禁した達也により身体に穴をあけられ無力化。時々、ユーディトが空気の組成を変化させるなどして相手を気絶させる。
戦ううち、二人は気づいていた。
創一朗と達也の敵発見ペースにユーディトが食らいついている。
元々、雲散霧消を使った時点で「そうでもないとおかしい」という状況証拠はあった訳だが、彼女はどうやら達也と同じ「精霊の眼」を持っているようだった。
(いや。因果が逆だな、この場合は)
達也は思考を巡らせる。
因果が逆。「精霊の眼」を持って生まれたか後天的に開眼したかして、それを鍛え上げた結果分解魔法にまでたどり着いたのだと思われた。
達也の精霊の眼は分解の異能の副産物として備わったものだが、それは視力として備わるケースが多いだけで、「感じる」能力として似たような機能を持つ事例はむしろ古式魔法に前例があるし、後天的にそこへ至ることもある。
例えば、
M機関による身体改造によって虚弱体質を克服して真の力を覚醒させた彼は、今や日本国内ならば発動しようとしている大規模魔法を受動的に感知できるまでに感覚を磨き上げている。この力で彼は、京都と大阪に仕掛けられていた「霹靂塔爆弾」の炸裂を未然に防いでいた。
逆説的に、今達也たちに並んで走っているこの少女の才覚は、完全体となった
(最低でも
推定カテゴリー4、隠し玉次第で「5」も十分あり得る。
原作に存在しなかった、司波達也と同種の魔法の使い手。「雲散霧消」を発動させるのに数秒かかっていたところから見ても流石にマテリアル・バーストまでは使用できないと信じたいが、それも希望的観測に過ぎない。
戦いたくないなと思ったが、後に控えている作戦を考えたら楽観はできない。
創一朗は脳裏でそういう計算を働かせていたが、階下から知っている気配を
「――お前か」
「榊少佐?」
「おい、そっちは司令室じゃないぞ」
創一朗はこの時点で体格を生かして前衛になっていたが、いきなり駆け出した彼を達也とユーディトは慌てて追いかける。
階段を降りた先には、遠隔の「鉄槌」を辛うじて防ぎ切って見せた大柄な男。
「呂――」
達也が「
――艦内に侵入者があるより早く、海戦とも呼べない艦隊の虐殺劇が行われている段階で、呂剛虎は敵を因縁の魔法師であると理解していた。
沖縄戦で自らを破った……否、戦いの土俵にすら乗せてもらえなかったあの日。
叩き折られて行く味方の艦船、散布された毒ガスに苦しむ同胞、何もできずにレールガンで狙撃され、海に沈むしかなかった自分。
若くして対日工作部隊……国軍の特殊部隊に配属されていたエリートとして、白兵戦において最強に近い魔法「
辛うじて命を繋ぎ留め、捕虜交換という名の拉致被害者返還によって本国に帰って以来、ずっと復讐に燃えていた。
メキメキと腕を上げた彼は、東京の邸宅を襲撃し、戦略級魔法師の女を拉致するという重要任務を任された。
それは日本への雪辱戦でもあり、成功の暁には褒章としてその女が与えられるという話もあったが、彼が欲したのは地位や女よりも、雪辱の機会であった。
そして今、その機会は巡って来た。
呂は既に自らの
たしかに戦局は劣勢だ。"鉄仮面"の実力はさらに増してもはや怪獣のごとき有様だし、たとえここを凌いだとしても祖国は国際魔法協会さえ敵に回してしまった。
それでも今は、眼前の相手にリベンジをするまで。
「来い!! 鉄仮――」
呂は足手まといにしかならない部下たちを下がらせ、
――そして、呂剛虎という人間の意識はそこで途切れる。
フィジカルブーストと接触型の
効果は劇的だ。脳からの指令を失った呂の胴体が倒れ込むよりも早く、創一朗が拳を振り抜き着地するよりも早く、呂剛虎の頭部は絶大な圧力に耐えかねて爆散していた。
かの「八仙」の一角、
創一朗はあの土壇場、一発食らっただけのその技の真髄たる部分を理解し、この時点で自分なりにアレンジして使いこなすに至っていた。
「最初からこうしとけば良かったんだ」
全身を覆っている斥力の効果により全く返り血を浴びていないにも関わらず、拳を軽く振って吐き捨てるように呟く。
それから1秒もしないうちに、同階で警備を固めていた特殊工作部隊の人員がまとめて縊り殺される。
血だまりの中を歩む創一朗に屈するように、奥の部屋の鉄扉がぐにゃりとねじ曲がり、やがて破断する。
手を触れるまでもなく開いた扉の向こう、簡素な独房のベッドに、その
「……!」
着衣の乱れ、なし。怪我、手首の拘束痕のみ。顔色・体温・脈拍、共に問題なし。
女性――五輪澪は、扉の前に立った男の正体を察するとまず驚き、その後口に手を当てて涙をあふれさせた。
「迎えに上がりましたよ、澪さん」
白馬の王子様って柄じゃなくて恐縮ですが。
跪き、差し伸べられた手を、澪は震えながら取る。
15時21分。
大亜連合軍に攫われていた五輪澪は、ほぼ無傷の状態で国防軍に救出された。