(政府の)犬です、よろしくお願いします   作:TE勢残党

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86 反撃の一手②

 横浜国際会議場は、パニックとは行かないまでも動揺に包まれていた。

 

 創一朗が行き掛けの駄賃とばかりに会議場へ向かっていた工作部隊を消したために直接の攻撃は受けていなかったが、遠巻きに聞こえる爆発音や振動、そして一時的に通じなくなったインターネットやスマホの電波が生徒たちの不安を煽っている。

 

「……お兄様」

 

「あぁ。以前から開戦の噂は出ていたが……よりによって今日、ということらしい」

 

 そんな中で、事態の深刻さを理解していた者もいくらかいた。

 

 まず、独自に軍とのパイプを持っている司波達也。彼のところには、護衛と監視を兼ねる海軍特殊部隊の兵士・榊創一朗少佐から直接連絡が入っている。

 

 敵が大亜連合であること、海軍が食い止めているが限界があること、遠からず上陸部隊が強引に突っ込んでくるだろうこと、敵が正規軍であり、充足した武装を持つ本気の軍隊であることなど。

 

 それらの情報を一足早く入手していた達也と深雪は、発表が近づいているのを理由として発表校の控室へと足早に向かっていた。

 

「せっかくのお兄様の晴れ舞台を汚すとは……!!」

 

「落ち着け、深雪」

 

 達也は今回、サブの発表者として論文コンペで発表予定だった。が、この状態ではもはやコンペ継続はあり得ないだろう。

 

 それを潰されたことに怒りを露にする深雪を宥めつつ、達也は今後の方針を組み立てる。

 

「客席の方は七草先輩たちにお願いしてある。あの人の名前と立場なら確実に場をまとめてくれるはずだ。俺は発表機材の破壊とデータの破棄をやる。深雪、済まないが手伝ってくれないか」

 

 そして達也は、持ち前の視力により(本来なら)敵の第一陣がこの建物を狙っていたことを知っている。上陸地点にわざわざ横浜を選んだことと言い、魔法関連技術を敵が欲していることは明白だった。

 

(助けられてしまったな)

 

 そして、この場合の「魔法関連技術」には魔法師そのものが含まれる。

 

 現にこの場へ到着しようとしていた一団は、偽装した20トントレーラーに満載された特殊部隊と思われる数十人で、対魔法師用ハイパワーライフルとアンティナイトでフル装備していた。

 

 達也が彼らの存在を知ったのは強大な魔法(創一朗による鉄槌)の気配を察知したからで、それがなければ普通に会場に入られるまで気づかなかったろう。いくら非魔法師と言えど、創一朗がトラックごとぺしゃんこにしてくれなかったらそれなりに面倒だったに違いなかった。

 

「む、司波も来たか。丁度呼びに行こうか検討していたところだ」

 

 達也たちが控室に到着すると、既に十文字克人と何人かの風紀委員メンバーが何やら作業を進めていた。

 

「十文字先輩。どのような状況ですか?」

 

「私がデータ破棄の手伝いをお願いしました」

 

 横から出て来た市原鈴音――今回の発表者も、これまた機材のケーブルのようなものを片手に持ったままだ。

 

「と言っても、十文字君には他の避難誘導などに当たって欲しいと伝えたんですが……」

 

「会場は七草と服部に任せている。敵の目標が魔法に関連した技術あるいは人員であるとすると、最も危険な場所はここだ。であれば、俺はここを警護すべきだろう」

 

 なるほど、と達也は思った。

 

 この貫禄。自らが最高戦力であることを微塵も疑わない自信、それに見合う実力。そして気負いもなく「一番危険な場所を支える」と言ってのける気概。

 

(これが十文字家次期当主か……この人と榊少佐と俺を敵に回すとは、大亜連合兵も気の毒なことだ)

 

 なお達也としては、妹の学校行事を潰された段階で大亜連合との敵対は運命づけられている。相手には沖縄戦で一度は妹に致命傷を負わせた前科もあり、彼は最初の爆発音を聞いた段階から静かにキレていた。

 

「理解しました。俺に手伝えることはありますか?」

 

「いえ、司波君には別のお仕事があるようです」

 

 鈴音が視線を寄こすと、部屋の奥から陸軍の軍服を着た男性が現れる。

 

「やはり、こちらに来るだろうと思っていましたよ」

 

「……!」

 

 真田(さなだ)繁留(しげる)。達也の所属する国防陸軍第101旅団 独立魔装大隊の幹部だ。

 

 その隣には、独立魔装大隊 大隊長、風間(かざま)玄信(はるのぶ)少佐の姿もある。

 

()()、情報統制は一時的に解除されている」

 

 その一言を受けて達也は姿勢を正し、敬礼をした。「一介の学生」としてすっとぼけることを止めた格好だ。

 

「国防陸軍少佐、風間玄信です。恐縮だが、特尉に関する一切の情報について、国防陸軍は諸君に守秘義務を要求する。国防軍秘密保持法に基づき、漏洩が確認された場合にはスパイ容疑での拘束もあり得ると心してもらいたい」

 

 風間の宣言は一方的なものだったが、その場にいた生徒たちが何か言い出すよりも早く、克人が動いた。

 

「師族会議 十文字家代表代理、十文字克人です。守秘義務について承知しました。この場は私が責任を持って情報管理を致します」

 

 この場合の情報管理とは具体的な行動ではなく、「秘密を漏らしたら十文字の看板に泥を塗ることになるからな」という魔法師向けの脅しのことだ。

 

「ご協力感謝します。さて、特尉。先ほど、国防軍特務規則に基づき貴官にも防衛に加わるよう、統合軍令部より指令が下った」

 

「君の考案したムーバル・スーツを準備してあります。それから、皆さんには別の部隊が護衛に付きます。さ、急いで」

 

 風間と真田の二人は軍人らしいテキパキとした指示出しにより、今一つ状況を呑み込めていないその場の機先を制する。

 

「すみません、聞いての通りですので、私は失礼させていただきます」

 

「お兄様」

 

 そのまま、何か言われる前にそそくさと退出しようとした達也を深雪が呼び止める。

 

 達也は妹が何をしようとしているか悟り、その手を取って跪いた。

 

 彼らにとって、魔法力の制限解除は2度目。だが今回は実戦に際してのものだ。国防軍の出動命令もあり、達也は十全の実力を一時的に取り戻す。

 

「どうかご存分に」

 

 2095年10月30日 14時46分。

 

 深雪の見送りを受けて、大亜連合のマークしていない日本の最大戦力が出陣した。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「第二高校集合!」

 

「四高は学年・クラス別で陣形を作れ!」

 

「学校側の連絡まだか!」

 

 客席側では、七草真由美を中心として避難グループの組織が始まっていた。

 

 行われていた発表は既に中止され、代わりに真由美の投影した横浜周辺の戦況図がスクリーンに映し出されている。

 

 各校代表者および一般の避難客の間で持たれた協議の後、何故だか大勢いた腕利きの魔法師たちを2グループに分け、1組を地上から、1組を地下道からの避難ルートの護衛に付けることで合意がもたれた。

 

「まさか本当にお前の言う通りになるとはな……」

 

「何よ、今更怖くなった?」

 

 レオ、エリカ、幹比古、白巳、雫、ほのか等は地上からの避難組に入っている。現在は避難民の行列に混ざり、周囲を警戒しつつ待機している状態だ。

 

 何分人数が多いために、会場から出るだけでも十数分かかる。意思決定がスムーズに行われてなお、戦力の多さを理由に出発順が最後になった第一高校の生徒たちは会場内にとどまっていた。

 

「そう言うんじゃねえけどよ……いや、そうなのかもな。頭で思ってんのと実態は違うっつうか」

 

「あたしもそう思う。でも、動けなければ好き放題やられるだけよ」

 

 レオの漏らした本音に、エリカは今回ばかりはバカにせず付き合う。

 

 幹比古は先ほどから入念に呪具の類をチェックしており、白巳も油断なくCADを構えている。

 

「待たせたな。こちらは概ね片付いた」

 

 そこに十文字克人ら機材破壊組が合流し、いざ出発となる直前、彼らの端末が一斉に警告音を鳴らした。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 15時2分。全国的に最低限の通信が復旧し、政府は第一報としてJアラートを発布した。

 

「なんだこれ、横浜だけじゃないのか!?」

 

「新ソ連!?」

 

「国防軍は何してんだよ……!」

 

 それは、軍の展開している諸地域や今にも爆撃されそうになっている霹靂塔効果地域では絶大な効果を発揮した一方で、比較的損害が軽微だった横浜周辺でも同じレベル感の警報が一斉に出たことで、いっそう不安を掻き立ててしまった部分もあった。

 

 ただ、そのどよめきが連鎖してパニックになるよりも、弾かれたように腕を掲げた中条あずさ新生徒会長が自前の魔法を発動する方が早かった。

 

 梓弓(あずさゆみ)

 

 プシオンの波動で効果範囲内の対象を一種のトランス状態にする精神干渉魔法。暴徒の鎮圧やパニック対策にはこれ以上ない魔法である一方、大人数を一度に対象に取り、かつ属人的な精神干渉魔法で研究が進んでいない点からよほどの緊急事態でもなければ使用を許されないそれが、良くない感情のうねりのようなものを感知したあずさの手によってほとんど反射的に発動された。

 

「ナイスよあーちゃ、んんっ、中条会長!」

 

 真由美のわざとらしい称賛はともかく、その場でのパニック発生が抑制されたのは事実であり、会場に向かっている筈だった部隊がとっくに沈黙していたことも含め、避難は迅速に行われた。

 

 

 

 15時9分。

 

 ようやく会場外に出た真由美たちを迎えたのは、戦場と化した横浜市街と、けたたましく鳴り響く空襲警報のサイレン音。

 

 そして、所々から響いて来る爆発音であった。

 

「酷ぇなこりゃ……」

 

「でも人の気配がない……?」

 

「っ……不自然な光が……!」

 

 実戦経験はないといえど、やはり天性の勘働きがあるのか、この場で最も早く違和感に気づいたのはエリカと美月だった。

 

「シールドを張る! 下がれ!」

 

「結界を張ります!」

 

「ん」

 

 次いで十文字克人、吉田幹比古、そして榊白巳。

 

 克人の対物シールドと幹比古の探知用結界が展開された直後、白巳の「鉄槌」が一見して何もない場所に向かって発動。

 

 すると彼らの目の前で突如として爆発が起こった!

 

「きゃっ!」

 

 七草真由美は戦闘員ではなく令嬢である。流石に鉄火場の最前線では純戦闘員ほどのキレは見せられず、手で顔を庇って可愛らしい声を上げている間に事態は収束した。

 

 もっとも、突然目の前で爆発が起こった状況を大きめの虫を見つけたくらいの驚き方で済ませるあたり、上流階級らしい肝の座り方をしているとも言えたが。

 

「な、何事……!?」

 

「ドローン攻撃だ。しかし肉眼で見えなかった理由が分からん」

 

 気を取り直した真由美に答えたのは、油断なく障壁を展開し続けている克人。

 

 吹き荒れる爆風と金属片が収まると、なるほど地面には破砕されたプロペラの欠片や金属片、基盤のようなものがバラバラになって転がっている。なるほど爆発するまではドローンだったという見立ては正しいようだと真由美も思った。

 

「これは……白巳さん、一機無傷で確保したい。できるかい?」

 

「やってみる」

 

 じゃあ予兆がなかったのは、と真由美が考えを巡らせるより早く、白巳が再び「鉄槌」を2度発動。すると目の前に突如として一抱え程の機械が出現し、バランスを崩してそのまま墜落していく。

 

 落着する寸前、白巳がさらに重力制御魔法を発動。ゆっくりと地面に下ろした。

 

「深雪、爆弾処理お願い」

 

「え、ええ」

 

 白巳に話を振られた深雪は困惑しつつ、「凍火(フリーズ・フレイム)」で炸薬を封じる。

 

 すると幹比古がすかさずその近くに駆け寄り、機材の残骸から白い布のようなものを取り出した。

 

「やっぱり、これは大陸流の呪符、式神化されています! 古式魔法で不可視化……というか、認識を阻害しているんだと思います!」

 

 つまり、爆弾を搭載した自爆、あるいは爆撃ドローンを式神化、不可視化した上で操り、目標地点に攻撃させているということになる。

 

「吉田、対処できるか?」

 

「一人では……白巳さん、力を貸してくれるかい?」

 

 不可視の爆撃に対し、幹比古の選んだ手段は協力技による迎撃だった。

 

「精霊魔法で僕の視界をキミに共有する。白巳さんは見えたドローンを片っ端から撃ち落としてくれ」

 

「了解」

 

 ん、と手を差し出した白巳にゆっくり手持ちの呪符を触れさせると、白巳の視界が一瞬ぼやけ、片目が幹比古の見ている景色と同化する。

 

 

 

 その風景には、空を埋め尽くさんばかりの大量のドローンが沖合から飛来してくる様が映っていた。

 

 

 

「……これ全部落とすの?」

 

「僕が言うのもなんだけどよく平気だね……向かってくるやつと近くにいるやつだけにしよう」

 

「ん」

 

 それはちょっとした正気を削る光景だったが、幸いにして恐怖を感じるという概念があまりない白巳と、血筋の関係で魑魅魍魎の類は見慣れている幹比古だ。

 

 2人の精神はその程度ではブレず、さっそく会議場方向に近づいてきたものから叩き落としていく。

 

 あちこちで爆炎と轟音が響き渡り、仕掛けられている爆薬の殺傷力の高さを見せつけるが、それらは克人の構えたシールドに跳ね返され、避難民の一団に影響を及ぼすには至らない。

 

「十文字先輩は撃ち漏らしに備えてシールドを! 先導します、着いて来てください!!」

 

 そうしてできた「道」を、幹比古は躊躇なく歩き出す。

 

(随分と化けた……これは、将来は三役の器かもしれんな)

 

 その様子を見て、克人は内心で頬を緩める。

 

 一方の幹比古たちは、何やら妖怪でも見るかのように顔を引きつらせていた。

 

(あれはいったい……)

 

 つい先ほどまで空が3でドローンが7という具合だったのが、綺麗に1本、帯を通したようにドローンが捌けている。

 

 それが捌けているのではなく、一直線上に作用した魔法の効果により「消失」したものであると、幹比古は気づかなかったが。

 

「達也……?」

 

「お(にい)?」

 

 はるか沖合まで続くその「道」を辿って2人の兵士が飛んでいくところを、彼らは直感的に把握していた。




 原作世界ならメイジアン・カンパニーの時代になってから出て来る大亜連合製の式神ドローンが5年前倒しで登場しています。こちらも新ソ連からの技術供与と総力戦で出し惜しみできないという事情により実戦投入が早まりました。
 原作では味方側で霹靂塔を使ったおかげで出オチしましたが、ちゃんと使われるとちゃんと強いです。
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