(政府の)犬です、よろしくお願いします   作:TE勢残党

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64 戦略検討会(下)

 市ヶ谷、防衛省本庁舎。

 

 広めの会議室に集まった対魔装特選隊 実働第一小隊の面々は、新メンバー「遠上遼介」を加えて新体制となる。

 

 しかし彼らは、元々この会議室を歓迎会の為に取った訳ではなかった。30席以上ある広めの会場は6人で使うにはいささか広すぎる。

 

「お待たせしました」

 

「あ、お、お邪魔しま~す……」

 

「や、どーもどーも」

 

 丁度話が一段落したタイミングで入口の自動ドアが開き、女性3人が入室してくる。

 

 最初の1人はパンツスーツ姿の長身で、長く艶のある黒髪を後ろで纏めてシャキシャキと歩いている。怜悧で賢そうな顔つき(実際、キャリア官僚なので物凄く賢い)に見合わず、スーツで隠しきれないほどの豊満な肉付きが特徴だ。太っているのではなく、安産型で胸も大きいという意味で。

 

 内閣府情報管理局、通称「内情」に所属する女性エージェント、光賀(こうが)早織(さおり)だ。「国防仮面」という表の顔を持つ官製インフルエンサーでもあるが、今は情報部の人間として真っ当な格好になっており、纏う印象は全く異なる。

 

 体格が同じでもこうも雰囲気が違えば、そりゃあ日常生活で気づかれない訳である。現に創一朗たちは兄*1*2揃って彼女のチャンネル視聴者であるが、少なくとも創一朗はその外見でピンとくることはなかった。目立つ体型や美男美女は諜報員に向かないと言うが、それはそれとして変装技術は有効であるらしい。

 

(……?)

 

 ほんの一瞬だけ、なにか熱っぽい視線を感じた気がした創一朗だったが、視線を向けた先には至って真面目な顔をして「デキる女」感を漂わせているバリキャリ風の女性がいるのみだったので、深くは追及しないことにした。

 

 続いて入って来た2人目は、どことなく小動物のような愛嬌のある女性。さっきの早織と異なり、官公庁の雰囲気が合わないのかどことなく居心地悪そうにしている。

 

 第一高校の自称カウンセラー、小野遥だ。だが今日は「本業」の方、公安の覆面捜査官「ミズ・ファントム」としてこの場を訪れている。

 

 早織と比べると一回り小さい体格だが、早織がデカすぎるだけであって遥は普通体型だし、かなりの巨乳の持ち主でもある。

 

 どことなく小動物感のある彼女だが、仮にもエージェントなのは伊達ではないらしく、今日はタイトスカートのビジネススーツをきちんと着こなしている。当たり前だが、得意の隠形は発動していないらしい。

 

 彼女に続いて最後に入ってきた女性は、それまでと一転して小柄で細身、童顔なのもあって一見すると中高生と見間違えそうになる。

 

 小柄な女性――風鳴詩は、この3人では唯一の戦闘員だ。持ち前の身軽さを最大限生かすため、筋肉を付けるより絞り込む方向に仕上げた身体は、傍目には痩せ体型に見える。そこでモデル体型とは行かないのが低身長の宿痾だった。

 

 そして、飛んだり跳ねたりを主軸とする魔法・スキル構成にもかかわらず、体型が全く動きの邪魔にならないということは……。

 

 ともかく、3人はちょうど身長的にも(早織172㎝、遥160㎝、詩151㎝)体型的にも「大中小」という感じであり、あまりの凸凹っぷりに少し面白くなってしまった。

 

(……小野遥で"中"!? すげーなあの人)

 

 十山軍曹*3よりデカいのでは、としょうもない内容で戦慄している創一朗はともかく、この3人(と十山つかさ)が集まったことには意味がある。

 

 内閣府情報管理局、警察省公安庁、国防陸軍情報部。

 

 政・官・軍それぞれに存在し、お互いに足を引っ張り合ってきた防諜組織の構成員らが一堂に会しているこの絵面は、政府事情に詳しいものが見れば感涙ものですらあっただろう。

 

 縦割り行政の悪弊、十師族体制の歪み、権力者による介入……それら政治的諸問題を経て酷い不統一を抱え込み、それが同じ国内に同じ仕事をする組織をいくつも乱立させるという非効率極まる体制を招いてきた。

 

 だが今日、ついにその一端が瓦解しようとしている。

 

「陸軍情報部長の今埜だ」

 

 各部署から数人ずつとはいえ、跨る範囲が広いために会議室には20人ほどが詰めている。

 

 スクリーンの横に陣取って語り始めたのは、最近になって辣腕を振るい、厳格な綱紀粛正と組織再編でもって国防軍内の情報部門をまとめ上げた――表向きそういうことになっている――陸軍情報部長、今埜(いまの)(がい)部長である。

 

「後の予定が詰まっているため、演説の類は最小限とさせていただく。諸君もこんなむさ苦しい顔をじっと見ていたくもないだろう」

 

 壇上のどことなくラガーマンを思わせるひげ面がニッと笑った。今埜はどうやら、おっさんによくある反応に困るタイプのユーモアを持ち合わせているらしい。

 

「近年の国際情勢の不安定化を鑑み、突発的な軍事衝突のリスクに即応できる体制を構築するため、国防に関する重要情報を迅速に集約・調整するため、2段階に分けて情報部の再編を実施する。まず、陸軍情報部は本日8月17日付で解散し、所属人員は全て、防衛省統合軍令部付の情報部に合流。業務内容については従来通りとする」

 

 陸軍が管轄していた情報部が無くなり、統合軍令部付に一本化され三軍合同での――事実上は防衛省の――管轄となる。指揮系統が変わっただけに見えるが、直上にいる統合軍令部は有事には国軍の最高意思決定機関になる部署だ。ここまで「風通し」が良くなってしまうと、情報部としても昔のように好き勝手できなくなる。この直前まで情報部に吹き荒れていた粛清の嵐は、この変更に備えて都合の悪い人間関係を整理するためのものだ。

 

 出向中に古巣が消滅してしまった十山つかさと風鳴詩はその決定を苦々しく受け止めているが、表情に驚きは見られない。大きな変更であればこそ、事前の根回しと権力闘争の類は既に徹底的に実施された後であり、これはその結果報告としての集まりでもあるからだ。

 

「続けて、有事法制の改正に伴って"国防に関する情報"については政府首脳および国防軍へ遅滞なき共有が求められると定められた。これに対応するため、情報部は内閣府情報管理局と公安警察との間に連絡会を設ける」

 

 もちろん、何の情報が国防に関連するかなんてのは言葉尻次第である。つまり協力するかどうかは事実上両組織の任意にとどまる訳だが、この仕組みが構築された理由はほかにあった。

 

「ついては、合同連絡会の初仕事として、さる重大懸案への検討が必要となった。海軍特選隊の面々はその参考人として招集したものである」

 

 荒事専門の特殊部隊が何の参考になるんだよ、と創一朗が心の中でツッコミを入れているうちに、そそくさと席に戻っていった今埜に代わって光賀早織が前に出て、マイクを持った。

 

「――単刀直入に申し上げます。大亜連合が動員を開始したとみられます」

 

 発言を受けて、会議室内の空気が剣呑さを増すと同時に、各自が抱えていた疑問が氷解する。

 

 この強引な組織のまとめ方は、眼前に迫った脅威になんとか対抗するためのものか。

 

「予備役の招集と国債の増発が始まっているほか、民間でも製造・軍需大手数十社が国外からの受注を一斉に絞っており、時期を同じくして物流網の麻痺が各所で報告され出していることから、政府による経済動員が始まったものと見られます。同時に、内陸から沿岸部へ向けた通常にない量の物資・車列の移動が観測されており、同時に兵士20万から30万人が移動しているのも衛星画像から確認しています。当局は沈黙を貫いていますが、規模から見て2ヵ月から3ヵ月後に大規模な軍事行動を起こす可能性が高いと判断しました」

 

「標的は?」

 

「日本の可能性が高いと考えられます。まだ艦隊の集結が確認されていないため断定はできませんが、インド・ペルシア連邦(IPU)のサプタ・リシ*4からの密使により、南方・西方の大亜連合軍が急速に弱体化している旨が警告されています」

 

 口を挟んだ今埜も、元々日本以外が狙われているとは思っていなかったのだろう。早織の反論を受け、それ以上話を混ぜっ返そうとはしなかった。

 

「詳しい状況が不明であるため、戦力規模はもちろん、作戦目標やそもそも本当に開戦する気があるかも不明ですが、分かっている範囲でもかなり巨大な戦力が動いている以上、我々は対策を練る必要があります」

 

 静かながら確かにざわめいているその場の面々を制するように、早織は言葉を続けた。

 

「三軍は明日から戦時体制に移行し、迎撃・沿岸防衛のため動員を開始する手はずになっていますが、仮に大亜連合軍が総動員であれば、海軍で約3倍、空軍では約5倍の戦力差が生じます。米海軍が規模を減じている現状では苦戦を免れないでしょう」

 

 大亜連合軍は相変わらず、質の上では日本や周辺諸国に一段劣ると言われている。とは言え相手はUSNAに次ぐ工業力を持つと言われる大国だ。多少の練度の差ではどうしようもないほどの物量と国力が相手にはある。

 

「それを踏まえ、統合軍令部より一つの作戦案が提示されました」

 

 会議室のモニターに、一つのスライドが提示される。

 

「通常兵器での制海権確保が困難と判断された場合、戦略魔法兵器"深淵(アビス)(かい)"の()()()使()()によってこれを奪取、同時に発生する津波被害をもって継戦能力を破壊するというものです」

 

 スライドに映し出された地図のうち、日本海と東シナ海沖にいくつかつけられたバツ印は、つまり戦略級魔法の発動予定地点だった。

 

 "それ"の発動に伴う市街地への無差別攻撃は明確な国際法違反であるが、第三次大戦以来、それが最早建前としてすらロクに効力を持たない死文であることは公然の秘密である。現に3年前の沖縄海戦の時も、大亜連合は宣戦布告をしなかった。

 

「特選隊の皆さんをお呼びしたのはほかでもない、この"最後の手段"を現実的な作戦案として構成するため、具体的な見解をお聞かせいただきたい」

 

 顔を真っ青にしてカタカタと震え始めている小野遥を尻目に、早織の瞳はまっすぐに創一朗のバイザーを捉えていた。

*1
前世時代の配信フォーマットを最も色濃く残しているため

*2
隙あらば敬愛する兄を褒めてくれるため

*3
最近階級が上がった

*4
インド・ペルシア連邦の最精鋭魔法師部隊。対大亜連合を主任務とする関係上、日本とは(秘密裡に)良好な関係を築いている

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