(政府の)犬です、よろしくお願いします   作:TE勢残党

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今回からしばらく夏休み編をお送りします。

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夏休み編
63 戦略検討会(上)


 流石の軍人と言えど、盆の時期は交代で休暇を取る。だがそういう俗世間の慣例に全く影響されない「例外」的な部隊もいくらか存在する。

 

 特殊部隊として常時即応が求められる対魔装特選隊と、世間が緩んでいる時ほど気張っていなければならない情報部は共に「例外」だ。

 

 九校戦も無事に閉幕し、世間が盆休みを謳歌している頃。創一朗ら対魔装特選隊の面々は、前世紀から変わらず市ヶ谷に所在している防衛省本庁舎へと出向いていた。

 

「と言う訳で、今日から第一実働小隊に合流する遠上(とおがみ)遼介(りょうすけ)伍長です。はい拍手~」

 

 その会議室のひとつ。

 

 官公庁特有の超然とした清閑さでじっとりとした陰湿さを包み隠したような――悪く言えば沼底のような――空気を意にも介さず、創一朗の音頭に合わせて隊員3名+オペレーター(十山つかさ)によるまばらな拍手が浴びせられる。

 

 旧型の電子ボードの前で所在なさげに立っているガッシリした男は、この春国防海軍に入隊したばかりの新兵だった。

 

遠上(とおがみ)遼介(りょうすけ)伍長です。本日より対魔装特選隊に正式配属になりました。よろしくお願いします」

 

 緊張した様子で挨拶する男は、「本来の歴史」ならば大学進学後に留学先で政治結社「FEHR」に吸収されるはずの人物だ。その名が示す通り「十神」の数字落ち(エクストラ)であり、特有の障壁魔法「リアクティブ・アーマー」を受け継ぐ魔法師でもある。

 

 ただし、他の数字落ちと違い、彼らは「防衛用に開発したのに特攻用の魔法が出来てしまった」ために数字剥奪の憂き目に遭ったのであり、出来上がった魔法の性能自体は申し分のないものだった。

 

 そのため他の数字落ち同様に軍に目を付けられており、この度ついに使い手をスカウトしてくることに成功したのである。

 

「遠上伍長は玲さんとか隆サンの数字落ちネットワークにかかったところを真砂少将(うえ)がスカウトしたわが隊最初の生え抜き人材です。燻ってたとは言えカタギ出身なんで、戦闘経験値と身体能力を補うため、通信制で高校相当の勉強をしてもらいながら3年、卒業してから4か月、富士と佐世保でみっちり経験を積んでもらいました」

 

 創一朗の説明により訓練(じごく)の日々を思い出したのか、遼介は苦い顔をしている。

 

「それで、使えるのかい?」

 

「詳しい所は本拠地(横須賀)に帰ってからですけど、ちょっと試したところでは中々のもんですよ。流石十の血を引いてるだけあって周りが良く見えてる*1、競技ルールではともかく、実戦での白兵戦ならこの中で俺に次ぐんじゃないですかね」

 

 山田の問いに、創一朗が感心したように答える。

 

 この前日、創一朗は新配属予定の遼介を事前に紹介され、自己紹介と教育を兼ねて何度か組手を実施していた。魔法師はより強い魔法師に従うので、統率力の維持には結局この工程が不可欠なのだ。

 

「富士ってことはレンジャー課程か。アレしんどいんだよねえ、若いのに結構なことだ」

 

「佐世保……海軍か?」

 

「いえ、水陸機動団(水機団)です。あそこは戦闘魔法師もいくらか抱えてますんで」

 

 上から山田、龍征、創一朗。創一朗以外の二人は陸軍にある程度顔が利くので、出身部隊について気になるようだ。あるいは苦労話を共有したいのかもしれない。

 

 ちなみにだが、水陸機動団は第三次大戦中の対馬奪還作戦で大活躍しており、同じく対馬戦の英雄である真砂少将とは団長以下高級幹部の多くが戦友、その縁で部隊単位で親密な関係にある。今回のような無茶な人事が通った(なんなら海軍にも魔法師を抱える揚陸部隊があるのに)のはそのあたりの兼ね合いによるものだろう。

 

 しかし、ただの縁故で使えない人員を抱え込むほどこれらの特殊部隊は安くない。遼介がそこに入るのを許されたのは、最終的には本人の実力が部隊に相応しかったからだ。

 

 高校在学中の訓練で頭角を現し、3年生に上がる頃には特例で参加したレンジャー課程を突破、佐世保での評価も(少なくとも戦闘面では)非の打ち所なしと来ている。戦闘センスという意味では間違いなく天凛があると言えた。

 

 原作でも「戦略級魔法師だろうが近づけるなら殴り倒して見せる」と豪語するほどの戦闘技能を持っており、そこに世界最先端の体系的訓練を経た今の遼介は、至近距離の白兵戦なら千葉修次・呂剛虎・風鳴詩に並ぶ世界屈指の実力と言える。

 

「自分のリアクティブ・アーマーを素手で割られたのはアレが初めてです」

 

「まぁ俺のパンチって対魔法師用のハイパワーライフルと同レベルの威力だし」

 

「えぇ……」

 

 創一朗は調整体だが、同時に強化人間でもある。身体スペックは素の状態でヒグマのそれを上回っており、そこへ鍛錬で身に付けた技術が乗る訳だ。殴る蹴るの威力は特に、硬化魔法やボディアーマー、低レベルの障壁魔法などの上から致命傷を与えられる水準が求められ、創一朗はそれにきちんと応えていた。

 

 ドン引きした様子の遼介だが、同時に確かな尊敬のまなざしを創一朗に向けている。彼は魔法師の中でも特に純粋というか、影響されやすい節があるらしかった。

 

 彼は魔法力が偏っているため魔法科高校に進学しなかったが、かといって持ち前の「リアクティブ・アーマー」を制御する訓練をしない訳にはいかない。世間は魔法科高校卒業生こそが魔法師だと思ってる訳で、その中途半端な状態は「本来の歴史」において遼介を大いに苦しめ、やがて過激派組織へ身を投じる遠因になった。

 

 だがこの世界では違っていた。

 

 士官学校生がエリート扱いされていることと連動して、軍属の魔法師は全体的に尊敬の的となっており、数字落ちである遼介もまた軍ではそれなり以上に珍重され、足りない自尊心を「推し活」で補う羽目にならずに済んだと言う訳だ。ちなみに彼が所属するはずだった「FEHR」は、原作より1年ほど早く設立され、そして九校戦の裏で行われた捜査に巻き込まれて壊滅している。

 

「まー気にすることないよ。その人3階の窓までジャンプしたり戦車持ち上げたりするバケモンだから」

 

「いや、持ち上げたのは戦車じゃなくて装甲兵員輸送車(APC)……」

 

「アレ装軌式だったろ、一緒だ一緒」

 

 玲と龍征の機甲科に聞かれたら殴られそうな論調で分かる通り、創一朗は部隊では一番若いためか比較的イジられる側に位置している。だが逆に、隊で最高階級(少佐)に位置し、殴り合いの実力でも部隊最強の実力を有する創一朗があえてこのポジションにいる事が、部隊としての風通しの良さを象徴していると言えた。 

 

「スペック自慢してもしょうがないでしょ、大事なのは戦闘能力ですよ。特殊作戦団(特戦団)*2なんか非魔法師なのに俺から撃破判定取った人いますからね」

 

「いやあ、その通りなんだけどチーフを引き合いに出されるとねえ」

 

 創一朗の言に納得半分呆れ半分なのは、自身も特戦団に属していた時期がある山田だ。

 

 チーフと呼ばれている兵士は山田の在籍当時から団にいる古参兵で、魔法師が取りざたされる世情と所属部隊の機密性から表舞台にこそ出ていないが「非魔法師としては世界最強では」と一部界隈でささやかれている白兵戦のスペシャリストである。

 

 対魔装特選隊の設立以前から直後にかけて、創一朗の武者修行時代に戦った達人たちの筆頭格で、証言を総合すると山田宏文、風間玄信、柳連、千葉修次、榊創一朗の全員から一度以上の撃破判定(一本)を取っていることになるという都市伝説に片足を突っ込んだ人物だ。

 

 あだ名の由来は有名なビデオゲームに出て来る歴戦の強化人間だと言うが、USNA海兵隊では中将と同じ席次で扱われ総司令官の顧問役を務める最先任上級兵曹長(マスターチーフ)から来た呼び名を付けられて特に指摘や陰口を貰わないという事実が別格の存在であることを示唆している。鳴り物入りで軍に入った天才魔法師に世界の広さと戦いの奥深さを教える高い壁であり、司波達也と並んで創一朗から慢心を奪った元凶であった。

 

「ああ、あの方には自分も鍛えてもらいました」

 

「お、遠上くんはどうだった? 戦績」

 

「……あの方は本当に人間なのでしょうか?」

 

 そしてどうやら、その男の「魔法師殺し」伝説はもう一つ白星を積み上げたらしい。創一朗も当時の訓練を思い返して身震いしたのを、わざとらしい咳払いで誤魔化した。

 

「ともかく。遠上伍長にはポイントマン、つまり特攻役になってもらいます。俺は部隊で行動する場合は現場指揮に砲台役に忙しくて最前線を張れないことも多いので、そういう時の切り込み隊長としての仕事を期待してるという訳。俺単独での行動も多いしね」

 

 気を取り直して説明する創一朗の言う通り、特に彼は単体でこなせる役割が非常に多いために、部隊の中で行動するだけでなく特命を受けて単独行動することがある。

 

 そういう場合に前線を支えられる兵士として、遼介が持つリアクティブ・アーマーに白羽の矢が立ったのだ。それまでも十山つかさの遠隔シールドによって一定の防御力は確保できていたが、前衛に攻撃が集中するか否かでは戦闘の効率も全く違う。

 

「実際、防御力はどのくらいなの?」

 

「戦車砲や短距離弾道ミサイル程度であれば戦闘に支障ありません。しかし障壁の範囲が自分にしか及びませんので、榴弾などの広範囲を攻撃する手段から皆さんをお守りすることはできません」

 

「さっき隊長のパンチで割られたって言ってなかった?」

 

「は、自分のリアクティブ・アーマーは特殊な魔法で、最初に張った障壁が破られたことをトリガーとして、後ろの障壁に"それと同種の力への抵抗力"が付加されるように出来ています。この時のフィードバック・障壁再展開には十文字家のファランクスと同じメカニズムが流用されているので、基本的に間に合わないということはなく、干渉強度での勝負になります」

 

「へぇ~つかささんのシールドとは考え方が違うんだ」

 

 遼介の魔法に一番興味を示したのは、やはり玲だった。対魔装特選隊における現代魔法のスペシャリストとして、彼女は山田と並ぶ知識と技術を誇っている。

 

 なお、持ち前のスタイルの良さを全く考慮せずにグイグイ聞きに行っているため、18歳の遼介には刺激が強いらしく若干しどろもどろになっているが、当人は気づいていないようだ。

 

「ええと、十の障壁と一口に言っても、中身は2種類あるんです。十山家で使われている"1枚モノ"の障壁は比較的原始的な形で、強度が高く展開も容易な代わりに展開中も術者とのパスが切れておらず、無理矢理突破されると魔法演算領域にダメージがフィードバックするという弱点があります」

 

「だってさ、言われてるよつかさちゃん」

 

「我が家の魔法は特殊部隊の突入用ではなく、政府要人を護衛するための魔法なんですよ? "非魔法師であろうと魔法障壁で守れる"ことのメリットを忘れないで欲しいですね」

 

「実際、アンジー・シリウスの収束プラズマが直撃しても多少は耐えてたし"空中で爆発した戦術核の火力に耐えられる"っていう触れ込みは正しい訳だ」

 

 TNT換算15キロトンで現代の核兵器たちと比べたら「弱い方」と分類される広島型原爆でも、爆心地周辺は3000~4000度の熱線と爆風に晒されたと言われている。が、核兵器の場合エネルギーは爆発として全方位に広がっていくのに対し、リーナのビームは一点収束型で明確な指向性があった。比べるのも烏滸がましい程度にエネルギー量に差があったが、沸点5555度のタングステン製ダーツを一瞬で蒸発させるだけのエネルギーを一か所に集められたら、局地的な攻撃力では核兵器のそれを大きく超越するということだ。

 

 核と言えば、有名な先輩魔法少女(高町な○は)の必殺技は戦略核5.5発相当で、それを防ぐために展開された魔法障壁5層を容易く貫通した訳で。

 

 1枚であの威力を出せるなら、それをほぼ無限に展開し続けられる十文字克人ならば全力全開のスターラ○トブレイカーでさえ防ぎ切れるんだろうな、と創一朗は思った。もはや物理攻撃で突破するのは無理だろう。

 

 四葉家は斜め上の成果物なので、日本魔法技術の最高傑作はどっちかというと十文字家なのでは、とも。

 

「ええ。克人さんのファランクスなら核兵器や戦略級魔法が相手でも生存可能でしょう」

 

 つまり、障壁1枚当たりの防御性能では十山家が、フレキシブルさと展開の速さでは十神家が勝っていて、その両方をいい所取りできたのが十文字家なのだろう。

 

「そう言われると味方に欲しくなってくるなあ。あと十文字がいれば第十研コンプリートだし」

 

「試したらしいですが、結局首を縦に振って貰えなかったですね」

 

 気軽に話を振る玲だが、実はM機関上層部は「それ」を手に入れるため動いたことがあった。

 

「何と言うか、義妹(いもうと)がすみません」

 

「えっ妹?」

 

 思いがけない切り口で話に食らいついてきた遼介に、玲が髪の毛を置いていくほどの速度で向き直る。

 

伊庭(いば)、いえここでは十文字アリサと呼びますね。アリサは訳アリで遠上家に引き取られて来た養子なんですが、訳というのがどうやら……」

 

「どうやら?」

 

 遼介は創一朗と山田の方をちらりと見やる。

 

 二人が頷いたのを確認してから、話の続きに戻った。

 

「十文字家当主の隠し子、ということらしく」

 

 発言を聞いて、玲は「あれまあ」とでも言いたげに目を見開いた。

 

「あの厳格そうなおっちゃんがねえ。人って見かけによらないわ」

 

「身内なので一応擁護しておくと、母親の方が何も告げずに身を引いたそうですよ」

 

「にしたってねえ? やらなきゃできないんだから、()()()()があるんならちゃんと囲っとかなきゃ」

 

「玲さん、はしたないですよ」

 

 それは十師族の遺伝子管理について大いに疑問の残る不祥事であった。

 

 魔法力は遺伝することが分かっている以上、魔法師は常に海外からのハニートラップを警戒していなければならないし、そのあたりのゴタゴタを防ぐために強固なイエ制度で管理されているのである。

 

「もっと言うと、その母親って亡命新ソ連人なんだよね。しかも"アンドレエヴナ"。知ってるでしょ、"イグローク"の部材の」

 

「存立危機事態じゃん。第二の九島になりたい訳?」

 

 第一の九島こと烈の弟は、USNAのハニートラップに引っ掛かった挙句向こうに骨を埋めた。

 

 その報いは2世代を経て「アンジー・シリウス」となって日本に牙を剝いている訳で。同盟国アメリカの時ですらこれだけ揉めたのに、こと十文字家のファランクスが明確に敵国である新ソ連で定着でもした日には、国防軍は未曾有のリスクに晒されることになるだろう。

 

 ただの下半身の不始末と侮るなかれ、ことが十文字家の遺伝子流出となれば、玲の吐き捨てた「存立危機事態」は何も大げさではないのである。

 

「この件については順番が逆なんですよ」

 

 この手の不始末に厳しい龍征などは露骨に機嫌が悪くなり始めており、見かねた創一朗が事態の説明に乗り出した。

 

 曰く、対魔装特選隊が出来る当時、つかささん、もとい国防陸軍情報部がいっちょかみするにあたり、十山家は人質と手土産を兼ねて旧第十研(みうち)の一番エグい厄ネタをこっちに開示して寄こした。それが今回の件の発端、"十文字家当主の隠し子"問題であった。

 

 曰く、その問題を受け、十文字の血筋と魔法を確保するため機関長の真砂大輔は数字落ちに顔が利く市原友哉と屯倉隆、そして情報源の十山つかさ本人を連れ立って遠上家へ向かったが、問題の"アンドレエヴナ"らしき推定工作員は既に死去しており、忘れ形見であるアリサは当時9歳、戦力化するにも無力化するにも若すぎる。

 

 曰く、そこで真砂は一家の長男で魔法的素養もあった遼介に目を付け、「補償」と「監視」を兼ねて彼をスカウト。そして今に至るのだと。

 

「アンドレエヴナと十文字の血縁。個人的にはかなり気になったんだけどね」

 

 死んでたものは仕方ない、という山田の言がその場の問題を代表していると言え、その場の会議は未だ本題にすら入っていないというのにどんよりとした空気に包まれた。

*1
領域防御魔法を使いこなすには高い空間認識力が必要になるため、十文字家に限らず"十"の作品はそのあたりが重点的に強化されている

*2
陸軍の特殊部隊。第一空挺団をも超える精鋭部隊であると見なされているが、機密性が高すぎて具体的な活動内容は不明瞭。2026年に特殊作戦群から増強・改組されて団に昇格した

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