(政府の)犬です、よろしくお願いします   作:TE勢残党

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57 軍靴

 九校戦も後半に差し掛かり、成績がある程度出揃い始めた。

 

 創一朗も完璧に結果を覚えている訳ではなかったが、現時点でも大きな相違点がいくつもある。

 

 まず、バトル・ボード中の摩利の事故が起こっていない。彼女は問題なく試合を勝ち進み、下馬評通りの優勝を果たした。

 

 そして、アイス・ピラーズ・ブレイク本戦に司波深雪と榊白巳が出場し、決勝が一年生同士の同校対決になるという前代未聞の事態を発生させた。これに伴い、本来新人戦で行われるはずだった北山雫対司波深雪のカードは消滅している。

 

 これによりアイス・ピラーズ・ブレイク女子は、出場した計5人が本戦1・2・3位、新人戦1・2位(3位:十七夜栞)というパーフェクトゲームを完遂するに至った。男子新人戦での一条将輝圧勝が霞むほどの戦果である。

 

 司波深雪がアイス・ピラーズ・ブレイク本戦に出た余波として、原作ではあくまで「負傷欠場となった渡辺摩利の代理」としてエントリーするはずだったミラージ・バット本戦に、司波深雪は初めからエントリーされている。「アイス・ピラーズのそれが通るなら、ミラージ(こっち)でもやっていいと思わない?」とは、この九校戦で容赦なく他校を潰すつもりの――年度初めから種々のストレスに晒された結果攻撃性が増している――真由美の言葉だ。

 

 結果として新人戦のミラージ・バットは原作とほぼ同じように推移し、バトル・ボード女子に続き光井ほのかが二冠を獲得している。

 

 そして今。

 

 創一朗の眼前では、新人戦モノリスコードの()()()が行われている。

 

(攻撃は完全に止んだが……こういう時が一番危ないからな)

 

 創一朗ら対魔装特選隊の面々は引き続き会場を固めている一方で、数日前にジェネレーター一体を鹵獲したのを境に不審者や危険物の流入はピタリと止まっている。

 

 こちらがジェネレーターを確保したことを何らかの手段で把握し、撤退を決断したと推測されたが、そう見せかけて油断させておいて閉会式などを最後っ屁的に襲撃する可能性はまだ残っている。第一小隊およびミッドポイント人員を投入しての警護は続けられ、即応戦力としての第三小隊も待機を継続。同時並行で実施されている「今よりも人間的な暮らしと社会を実現する会」への襲撃は手すきだった第二実働小隊を招集して実施させている。

 

 第二小隊は強力だがピーキーな魔法の持ち主をとりあえず収容しているジャンク屋のような部隊だが、高度な連携訓練と潤沢な装備を与えることによって「魔法も使える特殊部隊」として再編された一芸特化型の集団だ。第三小隊と同じく白巳や創一朗のようになれなかった「鉄槌」使いも一部混ざっており、全員がアンティナイトとハイパワーライフルで完全武装であることから、無頭龍や反魔法主義者のような犯罪組織レベルの相手であれば戦いにもならないだろう。

 

 後は恙なく大会が終わるまで警護を続けるだけだ。

 

 そう思い直していると、ちょうど試合終了のブザーが鳴る。

 

 どうやら第三高校の勝利であるらしい。まあ、向こうは一条家の嫡男とカーディナル・ジョージを擁する超高校級の戦力だ。原作では相手が悪かっただけで、九校戦という舞台で彼らとまともに戦える相手はいないだろう。

 

()()()()には悪いけれど、順当な結果ね」

 

 隣で総括している一色愛梨も、どうやら創一朗と同じ意見であるらしかった。

 

「まあ、一条家の後継ぎとガチンコ出来る奴がポンポン出てきたら困るわな」

 

 創一朗は「三高の応援席に居なくていいのか」というツッコミはとりあえず後回しにし、ついでに自分の存在も棚に上げてその意見に同調した。

 

「……本戦を見た後だと耳が痛い話ね」

 

 愛梨の反応は芳しくない。本人の言う通り、数日前に行われたアイス・ピラーズ・ブレイク本戦決勝の衝撃は、創一朗が思っている以上に大きいようだった。

 

「そんなに反響デカいの?」

 

「デカいわ。一条家嫡男とほぼ同レベルの魔法の応酬が()()()()()()()な、それも1年生同士によって行われた事実は大きい。昨日は臨時で師族会議まで開かれたそうよ?」

 

「はは、言われてみると確かに……」

 

 四角四面に見える愛梨だが、彼女に近しい人間は、案外こういう茶目っ気を忘れないタイプだと知っている。

 

 言葉尻を取った結果当人らしくもない言葉を使う愛梨に苦笑しつつ、創一朗は前提の違いを自覚する。創一朗やそのバックにいる研究所の面々は司波兄妹が四葉家の直系だと知っているが、本来その一件は極秘事項。上の方がどういう話になっているかはともかく、師補十八家レベルには情報が降りてこないのも当然と言えた。

 

「愛梨ちゃんから見て、白巳……妹はどうだった?」

 

「正直戦慄したわ。というかあなたに妹がいたの、私知らなかったのだけど」

 

「そりゃそうだろうな、俺も3か月前まで知らなかった」

 

「はぁ……?」

 

 妹という重要な情報を知らされていなかった愛梨は、目の前の存在が「そういう仕事」であることも忘れて苛立ち半分困惑半分の声を出す。いわゆるジト目になっており、彼女にしては珍しい露骨な表情の変化だった。

 

「まぁ、色々訳アリでな。腹違いの妹を引き取ったんだ」

 

 言外に「これ以上は機密に触れる」と言われては詮索する訳にも行かず、愛梨は求められた問いに答えることにする。

 

「同級生として、将輝さんの強さはよく知っているつもりだけれど……アイス・ピラーズのルールだったら勝負は分からないと思うわ。ある意味ルール変更に助けられた形ね」

 

 愛梨が言っているルールとは、新人戦の男女区分のことだ。

 

 実は去年度まで、九校戦の新人戦は(男子のみのモノリス・コードと女子のみのミラージ・バット以外は)男女混合で実施されていた。あくまで魔法力を競う場で、男女に魔法力の差はないので問題ないとされていたのだが、露骨にテニスであるクラウド・ボールなどで体力差から成績に偏りが見られたため、今年からきちんと分かれることになったのである。

 

 もし今年も男女混合だったら、アイス・ピラーズ・ブレイク新人戦の決勝リーグが一条将輝VS司波深雪VS榊白巳になっていたり、スピード・シューティング新人戦が吉祥寺真紅郎(不可視の弾丸)VS北山雫(能動空中機雷)VS榊白巳(鉄槌)になっていたりした可能性もあった訳で。

 

 後者はともかく前者の対戦カードが実現した日には、今よりずっと各方面の胃にダメージが行くことは請け合いだった。

 

 そうならなかった現在ですら、一条将輝と直接戦った訳でもない白巳と深雪の存在によって魔法界は震撼しているのだから。

 

「……これから、魔法界は荒れるでしょうね」

 

 創一朗から視線を外し、勝利の余韻に湧く会場の方を見ながら愛梨は言う。

 

「気づいたかしら。将輝さん、ずいぶん張り切ってたわよね?」

 

「ああ、確かに」

 

 先ほどまで行われていた試合――第一高校対第三高校のカードでは、将輝はひとり突出し、まるで自身の実力を誇示するかのように一方的な砲撃戦を繰り広げた。

 

 圧倒的な同時展開数と出力からなる「偏倚解放」の連打は、さながら一人で砲兵陣地を構築しているようだと称される。

 

 たった一人で第一高校の三人を圧倒して余りある飽和攻撃を敢行した将輝は、結局チームメイト2人に何もさせないまま対戦相手の無力化による勝利をもぎ取った。

 

 ――そう、四高によるフライング+オーバーアタックは発生することなく、一高代表の森崎ら3人は順当に予選を勝ち進み、準決勝となったこの場で第三高校に当たり、そして順当に敗れたのだ。

 

「さしづめ、十師族の威厳を知らしめるような試合をしろとでも言われたか」

 

「そんなところね。勝負に水を差されて彼、荒れてたわよ」

 

「曲がったこと嫌いそうだもんな」

 

 一拍、沈黙。

 

 再び視線を寄こした愛梨の圧に耐えかねてか、創一朗は言葉を続けた。

 

「……三高は確か、一年次から壁抜き攻撃のカリキュラムがあったよな」

 

「ええ」

 

「知ってると思うが、あれは市街戦や塹壕戦を想定した攻撃訓練だ。三高は昔から軍事教練に片足突っ込んだような教育内容で知られてる」

 

 これは事実だ。尚武の三高という呼び名の通り、第三高校は実践的な魔法師育成を謳い、特に体育会系の気風が強いと言われている。

 

 立地的に対大亜連合・対新ソ連の最前線であることも手伝い、駐屯している軍人の子弟が多いのもそれを後押しし、実際のカリキュラムは半ば軍事教練に近いものになっている。

 

 もちろん、高校生向けにかなり優しく作られているものの、選択科目にライフル射撃や自動車の運転(3年限定)、測図学や弾道学が入っていたり、武道と水泳が必修だったり、日本史・世界史のほかに戦史なる科目が存在したりする。魔法科高校の学習指導要領を基本に、選択科目や課外授業を軍事訓練側に大きく広げている形だ。

 

 魔法教育も軍事色が強く、1年通うと原始的な毒ガスが分解できるようになり、2年通うと建物に入った時脱出経路と遮蔽物の確認が癖になり、卒業する頃には戦車を運転できるようになると冗談交じりに語られる。実際、選択科目には特殊車両の運転課程もあるので、流石に戦車は無理だが軍用トラックくらいならクラスの半分は動かせるようになると言うので恐ろしい話である。

 

「これはオフレコだが。向こう10年くらいかけて段階的に、魔法科高校全校の教育カリキュラムに"三校式"を取り入れる段取りが内々で決まってるそうだ」

 

 それは、これまで各校ごとに特色を有してきた魔法科高校の在り方に手を入れ、魔法師全体の軍事化を推し進めるということ。

 

 これまでの世情では不可能だっただろうが、現在は違う。

 

「ドッキリ津波事件」を経て支持を増す国防軍。止まらない国民の武断化。現在の魔法師の立場の向上は、「国を守って欲しい」という期待に立脚するものだと、皆が薄々気づいている。

 

 だから可能になった改変。国防軍の意向が民意という大義名分を経て、遂に教育の場にまで手を届かせたのだ。

 

「軍は」

 

 言いかけた愛梨を手で制する。

 

「まぁ、そういうことだ」

 

 創一朗は、急速に軍事に傾倒していく日本の情勢を最前線で見ながら、一つ思い至ることがあった。

 

 自分を使役している獅童尚久は、その展望あるいは野望を創一朗に語ったことはない。

 

 それは創一朗がノンポリで、自分の存在が与える影響に内心であまり頓着していないことを見抜いてのことだったが、流石に何年も付き合っていれば、自ずと何を目指しているかも見えて来る。

 

 

 ――独立だ。

 

 

 西側(アメリカ)にも東側(ソビエト)にも脅かされない、日本自身を盟主とする独立勢力圏。

 

 もとより日本は、通常戦力では米ソどころか大亜連合にも一方的に蹂躙される程度の軍事力しか持たないが、国がまともに手綱を握れていない状態の魔法戦力だけでこれら大国と渡り合ってきた魔法偏重国家だ。

 

 榊創一朗というイレギュラー。これをもって十師族を屈服させ、国内魔法戦力を一本化すれば、米国の顔色伺いを脱却するに十二分。獅童は沖縄海戦でそれを認識し、続く暗闘での圧勝によって確信し、そして静かに動き出していた。

 

 正気を保つコツは、「できる」と気づかないことだと言う。

 

 実際「本来の歴史」において、獅童尚久は表の歴史に現れることなくひっそりと消えた。

 

 だが今、彼の手元には「手段」がある。

 

 獅童が地獄から甦らせようとしているのは、今から150年も前、第三次のもうひとつ前に起こった世界大戦で潰えた夢の残骸。

 

 その名を、「大東亜共栄圏」と言った。




獅童「貸せ、軍靴の足音はこうやって出す」

TNO入れてHoI4やってるヤツがいますね……
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