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「よし、じゃあ始めよう。かなり長くなるから、世界情勢や独自設定に興味のない人はここまで飛ばしてくれるといいよ」
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「これはキョンシーだね。中華ゾンビ。それを外科手術と投薬を併用して現代式に改造したものだ」
検体として入手したジェネレーターの解析を突貫工事で終えた山田。
特選隊メンバーを集めた報告会の、第一声がそれであった。
「大陸系の、それも北京語じゃなくて広東語の文化圏だったんで解読苦労したけど、具体的には魔法式のここ、この部分とこの部分の組み合わせで動作制御、つまりお札に相当してて、事前に設定した相手の命令を聞くようにプログラムされている。やっぱり効果時間の長さで古式に敵う相手はいないね」
投影したPC画面を操作し、3Dモデルやスキャンした古文書の画像などを出しながら説明していく。
「つまり、
問いかけた龍征に対し、山田は人差し指を立てて「半分正解」と返す。
「今のご時世、どこからか流出した技術をただ使ってるだけ、という可能性はゼロじゃない。でも、術式の系統としてその辺の可能性が高いのは確かだ。もっとも僕の知ってる、いわゆる正当な道教の術式と比べると改造されすぎて最早別物だね。中身の無国籍・無秩序さと言い、独学と思しき癖の強さと言い、何よりこの偏執的な隠蔽工作と言い、術者は僕の
その発言を受けて、場の空気が一気に引き締まる。
山田の同類。つまり、古式魔法の継承者でありながらその伝統的なあり方をよしとせず、現代の技術をもって「合理的」な成果を追求した魔法師ということ。別のサブカルから用語を借りるならば「魔術師」ではなく「魔術使い」。多くの場合1代で終わるが、代わりに世界レベルの厄介さだと相場が決まっていた。
「この辺詳しく説明するにはまず、大亜連合に限らず世界の魔法事情を理解してもらう必要がある。長くなるよ」
「"教育課程"使うほどの情報量じゃないんでしょう? なら余裕ですよ」
軽口半分で合いの手を入れた創一朗の言に玲とつかさが吹き出し、場の緊張感が多少ほぐれた。
この文脈での「教育課程」とは、古くは米国のMKウルトラ計画を祖とする洗脳技術の副産物として生まれた、脳に
しかし複数の非合法な措置が含まれる上、脳に大変な負荷がかかり調整を間違うと廃人化もあり得る。そもそも非人道的な実験の産物であるため、国内では海軍M機関の他に陸軍魔兵研と四葉家関連施設でしか導入されていない。
創一朗は一刻も早く戦略級魔法使用に必要な知識を得る必要があったことから、これを使った魔法理論の注入を何度も経験している。当人なりのブラックジョークであった。
ただ彼らの手元に置かれているコーヒーが示す通り、この場はあまり堅苦しい会合でないのは確かだった。「非公式の組織だとこの辺融通利いて助かるね」とは山田の弁である。
「よし、じゃあ始めよう。かなり長くなるから、世界情勢や独自設定に興味のない人はここまで飛ばしてくれるといいよ」
「誰と会話してるんですか?」
――前提として、今の世界で”魔法技術が高い国”と言われているのは5か国。
5年前まではデバイス開発でドイツが、遺伝子操作で新ソ連が日本に先んじていたが、今はトーラス・シルバーと、そして榊少佐がいるからね。建前はともかく、魔法は日本が世界一というのはどこの国も認識してる所だろう。
で、各国の状況だ。まずイギリスだと、調和を重んじ隠形に長けるドルイドが政府諜報機関、いわゆるMI6に抱えられて世界中で暗躍してると言うし、白巳ちゃんの隣の組にもいるゴールディ家みたいに一族単位で魔法を継承する家もある。現代も古式もバランスよく強いわけだ。あそこ
それに、EUが分裂する前の時代に「オゾンサークル」の原型を作り出した実績もある。開発者のマクロード卿は調整体製造の権威でもあって、こないだ捕まえたオージーちゃんもそこの系譜になる。
劣化コピーでよければオゾンサークル使いを安定生産できるわけで、今も「イギリス連邦」あるいは「大英帝国」が健在だなんて話があるのは、イギリスとその傘下の国々がこの絶大な戦力供給源を囲っているせいだね。ドイツは相変わらず協調性ないしアメリカはモンロー主義に戻るしで、ヨーロッパ人の栄光はウィリアムズファミリーにかかってる訳だ。
でそのドイツだけど、魔法黎明期に例のちょび髭の「反動の反動」で極右政権による軍拡路線を突っ走ってたからねぇ。しかも当時のドイツは新ソ連側からのエネルギー供給に深く依存していたから、いざ大戦が近づいて来ると新ソ連の圧力に逆らえずに西側の体制を維持したまま東に転んでしまったんだ。
その影響で東欧諸国がドイツを旗印に纏まって、イギリスは一抜けしようとしてたEUからべったり頼られて抜け出せなくなりあれよあれよと西側欧州の旗印に。気づいたらヨーロッパが東西に割れてたって訳。
東側の強みっていうのは一貫して「容赦のなさ」と「リソースの一点集中」にある。ドイツはもともと科学力が高かったし、シュバルツバルトの魔女連中の「協力」もあって古式も強い。
周りの国が自分のことで精いっぱいでいつものドイツ潰しができなかったのも痛い。おかげで今やドイツは西側の国力と東側の統制力を併せ持った怪物になってしまった。
……今の歴史では、魔女たちは快く協力を願い出たことになってるが……実際のところどういうやり取りがあったのやら。まぁ、そうやってなりふり構わず国力を増大させてたおかげで、第三次大戦でEUが崩壊しても国体を保てた訳だけど。
さて、新ソ連は昔から秘密主義だからよくわからない所が多いけど……
「情報部によれば、旧ソ連時代に古式魔法師を絶滅させたため100%現代魔法のみに振り切り、国策としてソビエト科学アカデミーを中心に教育・研究を推し進めています。新ソ連赤軍には戦略ロケット軍と同様に『魔法軍』が存在していることでも知られますが、内実としてわが国のような血族構築が上手く行っていないため、技術の運用が属人的なものにとどまっており、モスクワ周辺のスペツナズや戦略級魔法師らとそれ以外の魔法師で兵質の差が極端なようです。ただし、軍に所属する戦闘魔法師の人数が、人口比に照らして異常に多いとの報告も上がっています。魔法軍は花形であるため、多くは組織の腐敗によって生まれた"名簿上にのみ存在する魔法師"と考えられますが、国内統制の厳格さを活かした極めて大規模な魔法師開発が行われているのは事実であり、その物量は明確な脅威となり得ます」
……流石は情報部、仮想敵国のことはよく調べてるね。補足ありがとう、つかさちゃん。
まぁ要するに、新ソ連は古式に頼れない分のノウハウ不足を科学力のゴリ押しでどうにかしようと四苦八苦してるわけだ。あそこは特に、国家のイデオロギーとして宗教を否定してしまってるから、ほとんど宗教そのものと言っていい古式魔法の力を借りられないんだろうね。
そして、古式を持たないことによるノウハウ不足は、新ソ連ほど極端じゃないにしろUSNA(アメリカ)でも問題になっている。あそこも大概歴史の浅い国だ、移民としてやってきた中にどうやら魔法師一族はほとんどいなかったか、居たとしても地元の文化基盤と違う生活を強いられるうちに魔法を失ったと考えられている。古式はその辺繊細だからね。
ただ、アメリカはその辺「自覚」があるから、世界のどこより早く科学力と経済力に任せて「才能を買ってくる」方向に舵を切った。
有力な魔法師ってのは「個人」だからね、ありとあらゆる厚遇を提示し世界中から魔法師を引き抜きまくって今の「スターズ」の原型を作ったんだ。現にスターズは9割が3親等以内に入ってきた移民で構成されていると言われてるし、総隊長も日系だしね。
悪名高い「フリーセックス時代」なんかは、彼らの国家ぐるみのハニートラップ戦略を批判するための宣伝戦という趣が強いんだ。
日本でも九島烈の弟を始めとして大量の有力魔法師が流出したのを教訓に昭和時代以前の強固なイエ制度が復活して、それが現在の十師族体制に繋がってる訳だ。当時に大暴れしたハニートラップ専門の魔法師部隊は、その末裔が今も稼働してるって話も聞くけど……実際あり得ない話じゃないと思うよ。
そして、日本だ。曲がりなりにも先進国で、十字教が国内を制圧してなかった上に、国そのものの歴史が長い。そして「血」によって才能を受け継ぐ魔法のシステムと、日本ではギリギリ生きてたイエ制度が奇跡的なかみ合いを見せた。その結果生まれたのが今の十師族であり、世界一と言われる魔法技術でもある。
ついでに言うと日本の場合、一応憲法上で戦力の放棄を宣言してたから、大っぴらな軍拡が難しかったという事情もある。
とは言え時は第三次世界大戦、いつ自国が戦火に巻き込まれるかわかったもんじゃない中で、官僚たちがひねり出した答えが「魔法関連予算」って名前の、合法的なマネーロンダリングだった。
魔法師は民間人って建前の元、対GDP比で数パーセントにもなる天文学的予算を魔法業界にぶち込み、その9割が実質的には軍事に使われたと言われてる。当時の自衛隊を丸ごともう一つ持てるくらいの予算を、10,000人も居ない魔法師のために割いたんだ。
古式に目を向けても、古来の神道や仏教だけでなく、各地の信仰が残ったままで、そのうちのいくつかは「本物」だった。海外ほど確執を抱えている訳でもない彼らは、比較的政府の協力者になる者も多く、古式のノウハウを世界でどこよりも多く吸収した国内の研究所は、世界に例のないスピードで成長を続けていった。
大戦前夜から大戦中にかけ、異常なスピードで技術を発達させ十師族が生み出されたのには、①政局の悪戯で生まれた莫大な予算と人員、②前提となる国力の高さ、そして③民間の古式伝承者との連携、この3点が背景にあると言われている。
さっき言った魔法先進国の例で行くと、イギリスではケルトの古式魔法師(ドルイド)、ドイツではシュバルツバルトの魔女たちが黎明期の魔法開発に大きな功績を残したと伝わっている。アメリカはノウハウを金で買った。例外は新ソ連だけだね。
さて、前置きが長くなったが大亜連合の話に移ろう。彼ら……というより、彼らが吸収した大漢って国が中華大陸南部に昔あったんだが、大漢はここまで言及した英・独・米・ソ・日5か国に並ぶ魔法先進国だった。
今でも大亜連合は人口における魔法師の比率で日本に匹敵する数字を叩き出しているし、そもそも圧倒的な人口を抱えているから「世界一魔法師が多い国」だと見積もられている。それでも、そのポテンシャルを全く活かしきれていない。
本来なら大亜連合は、さっき言った3つの条件を全て満たしているんだ。国力だけなら既に新ソ連を追い抜いてるとも言われているし(あそこは統計が不正確だから参考記録扱いだけど)、国と民族の歴史は長くて国中に古式魔法師を抱えているし、国家として魔法を重視し、急速に研究を進めてきている。
何故それで先進国になれていないかというと、あそこは新ソ連の逆で、現代魔法の知見を全く持っていないんだ。
と言うのも大戦中、中華は大亜連合と大漢という二つの国に分裂していたんだが、大陸の魔法研究の総本山だった崑崙方院が大漢に付いたことで大亜連合は現代魔法のノウハウを失ったんだ。
しかも例の四葉家大暴れの影響で、崑崙方院の蓄積していた現代魔法のノウハウは根こそぎ無くなって……後を継いだ大亜連合は未だ「在り物(古式魔法)を使う」ことしかできない状態にある。どうやら崑崙方院は現代魔法を主軸に研究していたようで、古式魔法師は用済み気味に追放されていたのが幸いして四葉家の虐殺から逃れたというのが情報部の見解だ。
だから情報部は、大亜連合が新ソ連と組むのを警戒してるんだ。「古式魔法しかない」大亜連合と「現代魔法しかない」新ソ連がもし合体したら、理論上は日本を超える魔法超大国が現出しうる。まあ、イデオロギー的にあそこは敵対状態だし、一時的な協力はあっても同盟まではあり得ないだろうけどね。
さらに、大亜連合が抱える問題はほかにもある。失ったのは研究機関だけではないんだ。中華らしく高度な官僚機構を備えていたのが災いして、大漢の官公庁が四葉家に襲撃された時に管理・運営のノウハウと情報が芋づる式に根絶やしにされた。
その影響で、今の大亜連合はそもそも国内の魔法師を半分も把握できていないと言われている。この数字は大国としては最低クラスだが、無理もないだろう。誰だって崑崙方院の二の舞は御免だし、本気で隠れた古式魔法師を探し出すのは現代文明には不可能だ。
残った連中は今も大漢崩壊の再来を恐れて大多数が身を隠し、自衛のための戦力と金を調達するため、魔法絡みの犯罪組織……というか、魔法軍閥に近い組織を作り上げている。この流れで生まれた中で一番デカかったのが、香港マフィア「無頭龍」だった訳だ。
だが、捕捉率半分以下の状態で、30年前に崑崙方院だけで3,000人近く魔法師を殺され、現代魔法技術の全てを破壊され、それでもなお「世界一魔法師が多い国」。化け物じみてるだろ? 四葉家が暴れてくれなかったら、今頃は国力でUSNAに、魔法技術で日本に匹敵する世界帝国が君臨してた可能性もある訳で、その意味ではあの一族に感謝だね。
――一連の解説を終え、山田は手元に残ったコーヒーを一息に飲み干し、コップをテーブルに置く。
「そういう事情があって、大亜連合は自前のポテンシャルを腐らせたことで、世界に類を見ない犯罪魔法師の一大産地になってしまってる。数は多く、統制はされず、政府を信用しておらず、日本への憎しみを抱えた魔法師が、特に旧大漢の支配領域、大亜連合南部全域に散らばってるんだ。こういうテロリストの後ろにそこの連中がいるのは不自然じゃない」
彼らは犯罪と抗争を繰り返し、時に同胞を人間兵器に変え、そして日本にまでやってきた。
ホログラムで映し出された東アジアの地図に、華僑系犯罪組織の拠点と思しき場所が映し出される。その大半は大亜連合南部と東南アジア連合諸国、そして日本に集中している。
「でも、無頭龍自体は壊滅したはずだ」
龍征の指摘の通り、この年の5月に犯罪シンジケート「無頭龍」を潰したのは他ならぬ対魔装特選隊だった。
「そうだ。そしてここからが本題なんだがね、あの時殺害または捕縛した無頭龍構成員の中に、このレベルのジェネレーターを作り出せる道士は確認できていないんだ。メンテナンスや品質管理、改造なんかができる道士は何人も押さえたし、実際それでジェネレーターの流通量は激減してる。新規製造はできなくなったと見てたんだが、いざジェネレーターをバラしてみると驚くほど術式が高度でね。捕まえた連中程度でこのレベルの魔法兵器を製作できるとは思えない」
山田の発言に、にわかに空気がザワつく。
「それは、取り逃したってことか?」
「そもそも組織に居なかった可能性が高いね。皆知っての通り、あの襲撃はあらゆる中枢拠点を片っ端から潰している。それで痕跡ひとつ見つからないとなると、あらかじめ最低限しか関わらないようにしていたと見るべきだ」
「裏に黒幕がいたってことか……」
「いや、無理でしょ。改正安保を盾にCIA締め上げて流通経路から何から全部吐かせたんでしょ? それ全部改竄して逃げおおせるとかあり得る?」
上から江藤龍征、山田宏文、榊創一朗、岬玲。今までは「山田先生による世界情勢講座」として何となく微笑ましさすら感じるやり取りだったが、ここにきてことの重大さが明らかとなった。
無頭龍の拠点襲撃に当たり公安の捜査能力だけでは限界を感じた特選隊は、極秘でUSNAの中央情報局(CIA)と渡りをつけ、半ば脅迫する形で協力を取り付け、捜査情報を吐き出させて既存の捜査資料と照らし合わせた。
世界最強国家の諜報能力は未だ健在であり、公安の捜査と三矢家が築いた武器売買市場からの情報と合わせて、ブラックマーケットにおける無頭龍絡みのヒト・モノ・カネの流れを丸裸にするに至っていたのだ。
ジェネレーターとソーサリー・ブースターは(ブラックマーケットにおいては)無頭龍の専売特許。
「だが事実だ。方法も理由も不明だが、日米の合同捜査を受けて捜査線上にすら上らせない隠蔽能力を持った凄腕の古式魔法師が少なくとも1人いて、しかも日本が嫌いらしい」
下手人――顧傑にとって幸運だったのは、彼が情報工作の拠り所としているフリズスキャルヴはNSAの中でも開発者本人とその息子くらいしか知る者のない極秘技術であり、NSAではなくCIAを協力者に選んだ日本側ではその存在に気づけなかったこと。
顧傑にとって失策だったのは、フリズスキャルヴ以外の全てを塗りつぶして空白部分から輪郭を割り出せるほどの実力が、今の日本には備わっていたこと。
かくして特選隊は、本来の歴史より1年以上の前倒しを経て、シリーズを通して敵対することになる黒幕の一人を把握するに至る。
なお、作中で語られている国際情勢については9割が作中設定に基づく独自設定なので
本作を読んでから原作を履修する方などはお気を付けください。
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