(政府の)犬です、よろしくお願いします   作:TE勢残党

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53 優等生

 新人戦は滞りなく進んでいる。

 

 新魔法「アクティブ・エアー・マイン」と新型CAD――照準補助システム搭載の汎用型という、これひとつとっても従来の魔法の常識がひっくり返る画期的なもの――をひっさげた北山雫は、いざ競技が始まると圧倒的な精度と威力で次々にクレーを粉砕していく。

 

 一時、第三高校の選手が食らいつく場面もあったものの、結局は雫の優勝で幕を閉じた。

 

(……十七夜(かのう)?)

 

 だが、「本来の流れ」を知る創一朗は敏感に反応した。

 

 原作九校戦編では、新人戦の試合模様は比較的あっさりと流された部分。「いい勝負をしてくるライバル」みたいな話は、一条将輝と吉祥寺真紅朗以外にはなかったはずだった。

 

(俺が第一研と関わってるのが影響してんのか?)

 

 創一朗は複雑な心境で勝負を見届ける。第一高校の面々に追いつけ追い越せと言わんばかりに活躍する三高の生徒たちは、彼の「原作知識」には存在しておらず、その存在は明確に原作からの乖離であると言える。

 

 一方で、十七夜(かのう)家をはじめとする金沢魔法理学研究所(旧第一研)と創一朗には関わりがある。第一高校潜入前から度々「上」が共同研究をしているからだ。

 

 当時、「金沢ならそりゃ"一"の関係者がいっぱいいるよなあ」位に思いながら関わってきた者たちが九校戦に出てきて、新人戦で雫を相手に善戦したとあって、創一朗はなんだか複雑な気分になっていた。 

 

(まぁ、悪いようにはなってないようだし、いいか)

 

 その場ではそう結論付けた創一朗だったが、続くクラウド・ボール新人戦で一色愛梨が圧倒的な実力を見せつけ優勝。

 

 さらにバトルボードでも光井ほのかが原作通り優勝したものの、三高も四十九院沓子が準優勝に付けており、いよいよ第三高校が原作以上の猛追を見せていた。

 

(バタフライエフェクトって奴なのかねえ)

 

 会場警備と並行して競技の様子をチェックしていた創一朗は、全日程にわたって「盛り上がりそうなところ」――原作で描写されている試合が行われる場所周辺の観客席に張り込んでいる。戦局に影響を及ぼす大一番には、なんやかんやで全て立ち会っている。

 

 そして今はアイス・ピラーズ・ブレイク新人戦の真っ最中。競技場では一条将輝と、彼の操る「爆裂」による蹂躙劇が繰り広げられている。

 

 試合開始、12本の氷柱(ひょうちゅう)が爆散、試合終了、ここまで約1秒、この繰り返し。

 

 こと氷柱相手では白巳の「鉄槌」とほぼ同じ挙動を取る「爆裂」を相手取れるほどの実力者は他校におらず、もはや優勝は確定的だろう。

 

(やっぱり、脅威になるとすれば「十」・「四」・「一」か……)

 

 推定カテゴリ3。人体へ直接干渉する魔法を専門とするからには、干渉されることにも耐性がある。それは一条家にも言えることで、いざ向かい合ったらお互いに「鉄槌」も「爆裂」も通用しない可能性が高い。

 

 「鉄槌」がなくとも十師族並の魔法力を持つ創一朗だが、逆に言えば十師族を鉄槌抜きで相手するとなると、相手と同じ土俵に乗ってしまうということ。やりようはあるが、やりたくはない相手だ。その魔法を直に見ることができたのは、創一朗にとって大きな意味があった。

 

 ――司波達也を巻き込んだ「電子金蚕事件」以来、それまで定期的に現れては捕らえられていたジェネレーターやテロリストの出現がぴたりと止まっており、創一朗の見回りで何かが引っかかることはなくなった。

 

 それで警戒を緩めるなどと言うことはないが、解析に回したジェネレーター等からも情報が入ってこない分、試合状況について考えることが増えていた。

 

(つっても、学生レベルじゃどうにもならんよなあ……白巳でも厳しそうだぞあれは)

 

 軍……というより、M機関の関係者として、協力関係にある旧第一研に関わることの多い身の上。その「完成形」である"一"の魔法のことはよく知っている。

 

 第一研の研究テーマは「対人戦闘を想定した生体に直接干渉する魔法」。「深淵改」が第五研から来た魔法だったように、「鉄槌」の源流は第一研にある。

 

 対象の内部にある水分を強制的に気化させて常温下で水蒸気爆発を起こす「爆裂」は、その性質上人体へ直接干渉する必要がある。

 

 必然、「敵魔法師の干渉装甲を抜く技術」のノウハウが最も蓄積されているのは一の各家だ。一条家よりもそれを支えるナンバーズ達と、彼らが管理する金沢魔法理学研究所の協力によって、創一朗の「製作」にも大いに役立てられている。

 

 元より第一研はその性質上、時には人体実験を伴う後ろ暗いデータを必要とする。それゆえ、軍の暗部としてその手のデータに事欠かない軍(具体的には、海軍M機関や陸軍魔兵研)との関わりは、表立って言われているよりもずっと深く、長い。

 

 創一朗自身詳しくは聞いていないが、人体へ直接「鉄槌」を投射することへの極端な適性の高さから見て、遺伝子上の両親の少なくとも片方は「彼ら」だろう。創一朗の中で、ほぼ確信に近い推測が成り立っていた。

 

「お隣いいかしら?」

 

 考えを巡らせながら観客席前方の廊下で腕を組んで立っていると横から声がかかり、創一朗は思考の海から一気に浮上する。

 

 マルチスコープがあるので顔を向けなくても様子はわかるが、礼儀として声のした方に向き直ると、第三高校の制服に身をまとった女子生徒3人組が廊下に繋がる階段を上ってきたところだった。

 

 先頭に立ち代表して声をかけた女子生徒は、原作との乖離の張本人らであり――そして、創一朗にとっては顔見知りだ。

 

「どうぞ……ああ、愛梨ちゃん達か」

 

「……ご無沙汰しているわ」

 

 髪の両サイドを纏めるリボンと日本人らしくない金髪が特徴的の女子生徒は、創一朗の馴れ馴れしい……というより、姪っ子か何かのような扱いに何か言おうとして結局口を閉ざした。

 

 彼女こそが一色(いっしき)愛梨(あいり)、先の新人戦クラウド・ボールで優勝を飾った三高の女子エースである。

 

「お久しぶりです、創一朗さん」

 

 後ろに控えているうち、長身で落ち着いた印象の、ウェーブのかかったショートヘアの方が十七夜(かのう)(しおり)

 

「なんじゃ、折角何年かぶりに会ったと言うに、挨拶が無難すぎるじゃろ」

 

 小柄でぴょこぴょこしながら「もっと情熱的に」と適当なことを言っている超ロングヘアの方が四十九院(つくしいん)沓子(とうこ)

 

「1年ぶりくらいか? 3人とも大活躍だな」

 

 創一朗が最後に金沢の研究所を訪れたのはおよそ1年前。

 

 当時から研究所を拠点としていたこの3人とは、対魔装特選隊の創立以前、武者修行的に全国を回っていた頃からの付き合いだ。

 

「ええ。あなたに鍛えて貰ったおかげだわ」

 

 愛梨は一色家に連なる者として、家の携わった後ろ暗い研究と、その顛末について把握していた。

 

 彼女にとって人生初となる、数字を持たない明確な格上たる創一朗を紹介されて、自分の実力が期待されていないような気がして多少荒れた愛梨だが、最終的には実家の背負った業なら自分も飲み下すまでと覚悟を決める。

 

 以来、愛梨は創一朗を「自分より実力の高いライバル」ではなく「正しく利用すべき戦闘エキスパート」と見定め、上に立つ者の責務の一端として戦闘面で教えを乞うようになり今に至る。

 

「んまあ、大したことはしてないけどな」

 

 正面から言われると照れるな、と頭を掻いている創一朗は、確かに本人の主観では「武者修行時代に戦ったエキスパートたちの一人」でしかない。

 

 術式相性もよく、現在の判定でなら「一」の魔法師に特有の鉄槌耐性込みでもカテゴリー2。始めこそ持ち前の「電光石火(でんこうせっか)」に後れを取ったが、いくらか模擬戦を重ねるうちに実力で追い抜いて行った。

 

「少なくとも、あなたの"電光石火"の使いようは十二分に参考になるものだったわ。()()()()()使()()()に師事することなんてほとんどないもの」

 

 比較的微笑ましい話題のはずだが、愛梨の表情はどこか強張ったままだ。彼女らとしても、一族の誇る秘術を一番うまく使いこなす人物が一門の管理下にないのは苦々しいらしい。

 

 ――彼女ら一色一族は感覚神経と運動神経をショートカットして身体を動かす魔法「電光石火」を操る。それは世間には公開されていない秘術であり、その理由は「強力だから」というのはもちろん、「出所が血塗られているから」も含まれる。

 

 生体神経の操作・攪乱を主眼とする魔法というのは、もちろん動物実験でその成果を試すことは可能であるが、対人間を念頭に置いている以上、深い理解と繊細な操作には人体実験を避けては通れない。

 

 それは対人戦闘を専門とする「一」の魔法師全体が持つ宿痾であり、やりすぎていた「一花」一家だけをスケープゴートにして政府と魔法界からお目こぼしされる程度の成果を誇ってきた。

 

 世間は、というより魔法か医学にある程度詳しい者なら、それがどんな知識と経験に依って立つ技術か理解できる。皆薄々分かっていて、日本の沿岸防衛に「それ」が不可欠だから声を上げない。

 

 彼らが蓄積した技術は魔法師の兵器転用の過程で極めてクリティカルな内容で、だから「一」の代表として表に出る一条は研究の前線から距離を置いていて、だから拠点が政府中枢から離れた最前線に置かれ、だから新ソ連に狙われた。

 

 その系譜が「鉄槌」と「榊創一朗」という形で結実することは、ある種の必然だっただろう。そもそも、「白い地獄」もとい秩父先進技術研究所の現所長は、市原と名前を変えた一花家の人間なのだから。

 

「……ところで。その恰好ということは軍は辞めたの?」

 

 愛梨は冗談めかして問うが、その視線は鋭い。

 

 一色家の専門は「神経へ干渉する魔法」。長らく秘密裡に協力してきた「白い地獄」からの要請に従い、創一朗の「人間を超えた認識能力」を実現するため秘術を持ち出して力を貸した一族。

 

 遺伝子工学のエキスパートを輩出した六塚家、戦略級魔法を教示した五輪家、マルチスコープのデータを提供した七草家らの比ではない、いわば「主犯格」だ。

 

 それはひとえに日本の国防能力を憂いてこそ。創一朗という最終兵器の存在が少しでも国防の助けになるなら、ひいては自分たちが担当する日本海側沿岸の防衛の足しになるならと考えてのこと。

 

 創一朗の運用は獅童を中心とする国防軍右翼タカ派が取り仕切っており、「製造元」の影響力は排除されている。それを承知で国防軍に利する彼らは、28家では最早少数派となってしまった国益を最優先に考えられる人間だと言えるだろう。

 

「まさか。俺くらいになると引退する時ゃ死ぬ時だ」

 

 それは一見するとただの生涯現役宣言だったが、それが首輪の強固さに由来することを愛梨は知っている。

 

「残念。勧誘し損ねてしまったわね」

 

「俺ぁ社畜だよ。運用に関する問い合わせは真砂サンにでも入れといてくれ」

 

 無責任に見える態度だが、創一朗に何の自由もないことは事実だ。

 

 彼に与えられているのは現場判断の裁量と殺し方を選ぶ権利だけで、誰をいつ殺すか決める権利はない。

 

 それを理解している愛梨だから、「あの日」に創一朗が北陸ではなく沖縄にいたのを責めることはしなかった。

 

「はは、残念じゃったなぁ」

 

「沓子、混ぜっ返さない」

 

 貴族らしいというか何というか、人材マニアの気がある愛梨らしく、周囲を固める2人もそうやって見いだされた者たちだ。

 

 師補十八家ひとり、百家本流ふたり(片方は養子で、血筋的には数字落ち)。尚武の気風が強く、防衛大への進学者数でなら第一高校をすら上回る第三高校にふさわしいメンツと言える。

 

 だが、こうしてじゃれ合っている限りはただの女子高生三人組だ。あるいは愛梨ひとりなら創一朗も澪の時と同じように扱ったかもしれないが、彼が金沢魔法理学研究所に赴いた時には沓子が横で混ぜっ返しており。

 

 その様子を微笑ましく思った創一朗は、彼女らに対する扱いが「仕事先の御令嬢」ではなく「親戚の女の子」になったのだった。

 

「ああそうだ、浩美ちゃん*1も元気か?」

 

「ええ。でも寂しがっていたわよ、また研究所にきて頂戴」

 

「おー、スケジュール調整してみる……月末の休みでなんとか……」

 

 製造年からすれば創一朗は愛梨と同い年だが、創一朗には前世があり、また体格や戦闘能力から年上として振る舞うことに違和感がない。

 

 愛梨は正確な製造年までは知らず、他の大多数の魔法師たち同様、創一朗の年齢を実態より5歳から10歳ほど上に見積もっている節があった。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「――よしっ」

 

 創一朗が別の会場へ移動した直後。

 

 また金沢の研究所に訪れてくれると約束を取り付けた愛梨は、持ち前の凛とした印象を崩し、小さくガッツポーズを作った。

 

「ふふ、良かったのう」

 

 当人らしくもない喜色満面の様子に、沓子は微笑まし気に応じる。

 

 付き合いの長い沓子は、「親戚のお兄ちゃん」や「尊敬すべき師」に留まらない気持ちを抱えていることを知っている。親友の恋路とあって彼女は一貫して協力態勢であり、そもそも創一朗に砕けた印象を与えて「愛梨ちゃん」呼びを勝ち取ったのは沓子の助力によるところが大きい。

 

「ええ。貴女のおかげよ」

 

「うわぁびっくりした、急に落ち着くな! そんなんだからあの御仁に気づかれんのじゃ」

 

 愛梨の持ち前の真面目さというか、仕事に私情を持ち込まな過ぎるせいで創一朗も気づいていないのだが、彼女が創一朗を「一」の側に引き込もうと動いているのは、その実そういう訳だったのだ。

 

「……え、愛梨ってそうだったの」

 

 隣で固まっていた栞は、全く気付かなかった風で驚愕している。

 

「朴念仁はここにもおったか……」

 

「いや、あの……わたしはそういうの分からないから……」

 

 呆れ顔で両手を顔の横まで持ってくる沓子。愛梨の期待に応えるべく自己研鑽に全てを注ぎ込む栞には、まだこの手の機微は早かったようだ。

 

「愛梨も愛梨じゃ、今までも研究所で触れ合うことくらいあったろうに、私心が態度に出なさすぎじゃろ。もっとグイグイ行かぬか」

 

 言いながら、これは男の方にガツガツ行ってもらわないと「親戚の女の子」扱いからは逸脱できなさそうだと、内心で溜息をつく沓子であった。

*1
緋色浩美、現在小6。浩美の父は緋色家に養子に入った一色家当主の弟なので、愛梨とは従姉妹の関係にある。その縁で電光石火を習得しており、マジック・アーツの使い手として知られる




・榊創一朗ゥ! 何故君の主兵装は「鉄槌」なのか、何故人間を超越した認識速度を得られたのか、何故ああも簡単に加重系基本コードマイナスを発見できたのかァ!

・その答えはただ一つ……榊創一朗ゥ! 海軍M機関が、旧第一研究所こと金沢魔法理学研究所の暗部と繋がっているからだ!!


・「こいつ深淵行けんじゃね?」って思いついた奴が国防MVP。

・これは一色愛梨と四十九院沓子じゃなくてエーデルガルトとソティスなのでは?
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