【腐向け】交わらない背比べ【士弓】
診断メーカー【おばかなことする2人が見たい】より
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『どちらの運勢がいいかを競うべく張り切っておみくじを引くも「吉」と「中吉」で、なんとも言えない空気のままとりあえず木に結んでみる風雅の士弓』のネタツイを清書したものです。
士弓要素は少し薄めかも?
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【交わらない背比べ】
「へぇ、こんな所に神社なんてあったのか」
バイト終わりの帰り道。散歩がてら適当な道を通ってる時に小さな神社を見つけた。
今は社務所に誰もいないのか人気は無いものの、掃除や手入れが行き届いており、年季の入った建物は小綺麗に見える。
それにしても、神社に来るなんて何年ぶりだろうか。
ここ最近の初詣は、新年のお節料理作りの時間を確保するために行けず仕舞い。帰ってきた姉のような存在から貰う御守りが、僅かばかりに神社の気配を漂わせるだけ。
折角だからお参りでもして行こうと足を向けた。
「寄り道か、らしくないな小僧」
途端、後ろから声が掛けられる。
「別にいいだろ、今日はもう急ぎの用事とか無いんだし」
「フン、だからいつま経っても未熟なんだ。帰ってするべき事など山ほどあるだろう」
確かにこの時間を鍛錬や家事に使うほうが有意義かもしれない。遠坂の課題だってまだ終わったわけじゃない。けれど。
「…誰にも来てもらえないのは、寂しいだろ」
我ながら、らしくないと思う。
声をかけた時に霊体化を解いていた従者らしからぬ男も同じように思ったのか、微かに驚いたような表情を浮かべていた。それがなんだか恥ずかしくなって、顔を逸らして止まっていた歩を進める。
「…なんでお前まで着いてきてるんだよ」
てっきり呆れてまた霊体化でもするのかと思った従者は、同じように石畳を踏んでいた。手水屋で隣に並ぶ長身を半ば睨むように見上げると、小馬鹿にしたような鋼の瞳と視線が重なる。
「いや、なに。久しぶりだろう貴様に作法でも叩き込んでやろうと思ってな」
そのまま言葉を受け取ればなんて出来た従者だ、と周りから賞賛されるだろう。
しかし、このどこまでも捻くれた従者はそんな事はしない。
精々手順を間違えた時に指摘して馬鹿にしてくる程度だ。それまでは何も言わないだろうし、ややこしい茶々を入れてくる可能性のほうが高い。
そこまで簡単に想像出来てしまうのは、コイツの事を少しでも知ったからだろうか。それとも日々の積み重ねだろうか。
概ね、後者だろう。
その証拠にこちらを見下ろす顔には揶揄が滲んでいるのだから。こうなったら完璧な参拝をしてやる、と意地になってしまう。
手水屋にある柄杓を手に取ってまずは左手。持ち替えてから右手を洗い、再度持ち替えて口をすすぐ。柄杓を縦にして残った水で柄を流したら一礼。これで合ってる、はず。チラリと見上げれば視線に気付いたのか小さく息を吐き出した後、顎で手水屋の横の方を指した。
なんだと思ってその先を辿ると、僅かに釘の錆びた看板。そしてそこには手水屋での作法が簡単に描かれていた。
「…あ゙っ」
つまり、作法を知らずともこの看板に倣えばいいわけで。
「注意力散漫だな、小僧」
馬鹿にするような相手にこればかりは反論出来ない。悔しさに奥歯を噛み締めながら、その場を離れ社へ向かう。
社も所々老朽化してるのか脆くなっているように見えるが、枯葉や蜘蛛の巣などはなく大事にされているのだと一見して分かる。ポケットから財布を取り出して五円玉を一枚、放り投げないようにして賽銭箱へと落として一息つく。そうしてる間に手洗いを終えた従者が隣にきていた。
試すような視線を睨み返し、正面に向き直ってから手を持ち上げる。神社は確か二礼二拍一礼。先程手を洗ったせいか、柏手は僅かに湿った音を響かせる。それに自分自身で納得はいかないものの作法の間違いは無く、そのまま胸中で小さな願いを呟いた。
些細な願いを祈り終わり、閉じていた目を開けようとした刹那。
パシンッ、と乾いた音が響く。そしてもう一度、清涼さすら含んだ音は微かな余韻を残して境内に響き渡る。ハッと目を見開いて隣を見れば、最後の一礼をしているところだった。
腰から背筋を伸ばし真っ直ぐに礼をする姿勢は見事なもので、いっそ芸術品か何かのように見えてしまう。そして、そんな己の貧相な発想に呆れる暇もなく見入ってしまった。
静かに目を伏せたその胸の内で、彼は何を願ったのだろう。
暴いてみたい欲求と、汚してしまいそうな恐れが渦巻く。
「おい、何を惚けている」
声を掛けられてようやく我に返った。慌てて何でもないと顔を逸らし背を向ける。怪訝そうな雰囲気が背中に突き刺さったが特に問い詰められることもなく、その事にホッと安堵の溜息を漏らしながら石畳を進んだ。そして、数歩進んだ先でとある物が目に止まる。
「…なぁアーチャー、おみくじ引いていかないか?」
「は?」
指差した先には小さな箱と、その程近くにある紙の巻かれた木々。手書きの看板に書かれた文字を見て、従者はまた溜息を吐き出した。
「箱入りおみくじなど確率の話になる、指標にすらならん。まぁ貴様如きでは大吉を出す事なんぞ出来んだろうな」
「そんなのやってみなきゃ分からないだろ。それとも俺より悪い結果を出すのが怖いのか?」
挑発には挑発を。
お互い容赦も遠慮もしないせいか、売り言葉に買い言葉が白熱する。剣呑な雰囲気など日常茶飯事で、むしろこれが俺達らしいとまで思ってしまう。そこに先程までの清涼さは、無い。
なんやかんや文句を言いながらも、結局揃っておみくじを引くことになった。二人分の代金を賽銭箱を模した箱に入れて、一枚ずつ折り畳まれた紙を引く。
せーの、なんて可愛らしい掛け声が無いにも関わらず同時に紙を開いたのは何の偶然だ。
いや、必然か?
「……吉…」
「…中吉……」
結果は、まぁ。なんとも言えない微妙なもの。
良くもなく悪くもなく、至ってありきたりな結果。しかも、俺よりもコイツのほうがいい結果なのはどういうことだ。幸運値低いんじゃなかったのか。なんて子供みたいな文句をギリギリで押し止める。
「…日頃の行いの差だな」
「…そーかよ」
微妙な結果に馬鹿にしきることも出来ず、それでも嘲笑を含みながら呟かれた言葉に短く不満げに返しておいた。締まらないな、と溜息を吐きながらざっと書かれた事を読むもてんで的外れ。特に恋愛運が酷い。
「(共に外出すると吉で距離が縮まるとか、どこの漫画だよ…)」
思わずそう思ってしまうほどにベタな結果に、もはや苦笑すら浮かばない。普段しないことをしたせいだろうかと考えながら、これまでおみくじを引いた人達に倣い近くの木に適当に結びつける。
「……満足したなら帰るぞ、そろそろ夕食の仕込みをするべきだ」
隣でおみくじを結び終えたらしい従者の言葉に空を見上げれば、西の空が赤く染まり始めていた。意外と長居をしてしまった事に驚きつつ境内を後にする。恐らく、二度と来る事はないだろう。
徐々に夕日に染まり始める道を無言で歩く。自分の半歩後ろを歩いてくるのは、一応は従者としての自覚があるからか。それとも、自分と並んで歩くのはそんなに嫌なのか。
「…なぁ、アーチャー」
肩越しに振り返りながら歩を止めると、距離を保ったままピタリと止まる。
なんだ、と視線で問われ口を開いた。
「…神社で拍手打つ時、なんであんなに綺麗に音を出せたんだ? 手が濡れてたら難しいだろ」
「そんなもの、コツを掴めば誰にでも…いや、待て。もしかして英霊になったせいか…?」
顎に手を当てて思案する様に首を傾げる。
英霊の身であることに何か関係があるのか、と次の言葉を大人しく待っていれば、一通り整理がついたらしい鋼の瞳と視線が交じる。
「小僧、そもそも拍手の意味はなんなのか知っているか?」
「え? 参拝の時の作法だろ?」
そう返せば未熟者と嗤われた。なんでさ。
歩きながら話すと言われ、こちらの返事を待つことなく歩き出した長身を慌てて追い掛け隣に並んだ。
足の長さが違うのに並んで歩けるのは、コイツが歩幅に気を遣っているからだと気付いて、それがなんだか少しだけ悔しかった。しかし、それを気にしていない従者は話の続きを始める。
「確かに拍手は神道に置ける作法として最も有名なものだ。その起源は…まぁ、今回は省く。今の貴様に説明したとしても理解出来んだろう」
明らかに馬鹿にされてるが、確かに小難しい話を歩きながらされても覚えきれない。不機嫌さを露わにしながらも、無言で続きを促した。
「元々音を出す、という行為には邪気払いの意味が込められている。手水屋で手や口をすすぐのも不浄を清める行為なのは理解出来るだろう」
「まぁ、何となく。でもそれとお前の拍手が綺麗な音だった理由は何の関係が……あ、」
そこで一つの可能性に、気が付いた。
「反英霊とて英霊だ。反転しているのならばともかく、それが不浄であることは少ない」
だから不浄を祓うものである拍手も、それを示すように鳴ったのではないか。
確かにそう言われれば納得出来る気もする。元々生きてる人間ではないのだから、神社にとっては神霊寄りなのかもしれない。
「ふーん…なら欲まみれの人間の俺じゃ綺麗な音は出せないってことになるのか」
「たわけ、コツがあると言っただろう。そもそも貴様に欲など………」
息を呑むように言葉が途切れた。その先に続く言葉は容易に想像出来る。
普通の人が抱くような欲を、"俺達"が抱くことはないのだから。
そして、気まずい沈黙が降り注ぐ。自分から切り出した話題とはいえ、このまま自宅につくまでこの空気のままでいるのは流石に堪える。何か話題はないものかと考えて、苦し紛れに口を開いた。
「あ、そうだ。参拝の時、お前は何を願ったんだ?」
わざと明るく振舞ったのは、コイツにはバレてるだろう。
「…そういう貴様はどうなんだ」
微かに眉を顰めながら問い返される。これはこちらが答えるまで教えてくれない雰囲気だ。問い詰めるのは諦めて視線を前に向けた。
自分が願ったのは些細な事だ。
「俺は皆の健康と幸せだ。あ、あと無事に高校卒業も出来るように成績のこともちょっとだけ」
後半は半分嘘だが誤魔化せただろうか。しかし、横からの視線が見定めるように刺さるので、恐らくバレているのだろう。
自分自身の事を願うなんて、らしくない。
だが従者は珍しく俺の気持ちを汲んだのか、その事には触れず小さく溜息を吐き出した。
「全く…貴様と同じ事を願ったのが腹立たしいことこの上ない」
「ああ、お前も皆の事か。藤ねえとか遠坂は特に怪我しそうだしな」
コイツのそういう対象になるだろう人物を挙げながらちらりと隣を見上げ、思わず固まってしまった。
複雑な色をした鋼の瞳と、優しさを含んだ表情。
初めて見るそれに、俺は言葉を失った。
「…どうせお前の事だ、そう言うと思ってお前の事も含めて祈っておいたぞ。精々、それに報いる努力をしろ」
柔らかな声音で話すコイツは、本当にそう願ったのだろうかと疑う余地を与えてくれなかった。
頬が、耳が、熱い。
俺の顔は夕日のせいに出来ないほど、赤く染まっているだろう。
固まる俺にフッと笑ったアーチャーはさっさと歩き出してしまう。どんどん開く距離が嫌で、走って追いかけた。隣に並べばまた歩幅を緩める素直じゃない従者に擽ったさを覚えて、先程までとは違う沈黙が流れる。でも、それが嫌なものではないのは先の言葉のせいだろうか。
『共に外出が吉』
不意におみくじの結果を思い出して、自然と口角が持ち上がる。いい結果とは言い難いものの、全くの的外れというわけではないそれ。今度から少し占いを気にしてみようか、と柄にもないことを思いながら僅かに歩く速度を緩めた。
出来ればもう少しだけ、この時間が続きますように。
【完】
⇒補足&あとがき