※キャプション必読
「というわけで、今が時期なので張り切って売ってください。以上!」
花屋のミーティング。
店長が大量発注してしまったという花の苗を売るべく、いつもより念入りに説明をされた。
「気にいったんですか?」
ミーティングが終わってからも資料として貼られた花畑の写真に魅入っているランサーに、同僚の人懐っこい女性が声をかけてくる。
「ああ、この時期に見る故郷の空の色だなって……」
「綺麗な空色ですよね。あ、でもこの花の花言葉にぴったりかも」
「ハナコトバ? ああ、花言葉か」
「そうです、花言葉は……」
それを聞いたランサーは、すぐさま店長と交渉するべくその姿を探した。
衛宮の和風な家に似合わない、可憐な花が刺さった水差し――ではなく、お猪口――を凛はじっと見ていた。
花からあの狗の臭いがしそうで、おもしろくなさそうにため息を吐く。
「はい、ほうじ茶……遠坂?」
「あ、ありがとう」
「はい、桜も」
「ありがとうございます」
今日はテストの対策で勉強会をしている。
今は小休憩中で、士郎は煎餅の入った器と湯呑みを台所から持ってきた。
反応が無い凛の目線の先にある花を見て、何かまずかったかな?と考えを巡らせる。
「その花、嫌いだったか?」
「いいえ。好きよ。魔力も含んでいて、そういった意味でも興味深い花だから」
「へー魔力があるんだ?」
「ドイツではちょっとした呪いにも使われるの」
「そうなんだ? だから、植えていったのかな?」
「……誰が?」
「ランサーだよ。バイト先で大量に在庫があって、かなり割り引きしてもらったとか言ってたけど。何かに使うつもりなのかな?」
「はあ、あいつどんだけ買ったのよ」
「10程度だったかな? 勝手口のそばに植えてあるよ。夏を越せないから、どんどん切って家の中に飾れって言われた」
それを聞いて、凛の顔が渋くなる。
そして、あいつめと呟いた。
「なんだよ、はっきり言えよ」
「別に士郎に怒ったりしてるわけじゃないわよ。同じ花がうちにも植えてあるの。しかも、玄関周りに。あと、アーチャーに任せている家にも小さな鉢植えがベランダいっぱいにあるんだから」
「ああ、あのアパート……」
魔術師協会側から面倒を見てほしいと言われている物件があり、学生であり最近では衛宮邸に居ることが多い凛は自分のサーヴァントにその役割を押しつけた。
広い遠坂邸に四六時中いるのもよくないと思っての判断だったが、ランサーを連れ込んだりしてなんだかんだと楽しく過ごしているらしい。
とにかく、ランサーが同じ花を大量に購入しているのを士郎は理解した。
「バイト先に強制されているのか?」
「そうじゃないわよ」
「先輩。この花の名前知っていますか?」
「これ? わかんないな」
「勿忘草っていいます」
それまで静かにお茶を飲んでいた桜が、イライラしている姉に変わって説明を始める。
言われて初めて、士郎は花の名前さえ知らなかったことに気がつき、教えてもらってもいまいちピンと来なかった。
「わすれなぐさ……?」
「はい。今の時期の花で、主に日当たりの良く水はけのいい湿地を好みます。ヨーロッパやアメリカでは人気の花で育てやすい花で寒さに強いのですが、日本の夏は暑くて大抵枯れてしまいます」
桜が指先で弄る花は可憐で、暑さに弱いのも頷けた。
しかし、それがなぜ凛の不機嫌に繋がるのかが解らない。
顔に出ているのを桜は察知して、説明を続ける。
「日本で有名な花言葉は……私を忘れないで」
「……ったく、どこまでも気障なんだから」
「それも、呪い?」
「英霊だってなんでもそうだけど、人がどれだけ知っているか、信仰しているかによって神格とかそういったものが変わるの。花言葉も勿忘草ほど一般的だったら、効力が無くはないんじゃない?」
「人であれば神に祈るのでしょうが……」
「サーヴァントの上に父親が神の半神とか、祈られた神社仏閣の方がびびっちゃうわよ。かといって、ついこの前バイト先で聞いた程度の俄知識で私のアーチャーをどうこうしようなんてっ!」
「店長が大量発注したから、売るために色々知識を吹き込まれたらしいです」
唇を突き出してボソボソと文句を言っている凛は怒っているというより、拗ねている。
様は先ほどから彼女本人が言ってる通り、イケメンな光の神子が自分では思いつきもしなかった手を使って気障ったらしく、一分霊だけでなくアーチャーという存在そのものを口説いているのがマスターとして面白くないのだろう。
「ああ、それで機嫌が悪かったのか」
「先輩、しー」
余計な一言を口にする士郎を慌てて桜が嗜める。
幸いにも凛は一睨みするだけで、空になった湯飲みを士郎に突きつける。
「それにしても、あいつが良く部屋に置いてるな?」
「きっと本来の意味をなにも説明してないのよ」
「でも、姉さんはそれをアーチャーさんに伝えないんでしょ?」
「あったりまえでしょ! 敵に塩を送るようなまねしないんだから!」
私のアーチャーと言って憚らない凛の様子は敵と言うよりも、娘を大切に思う父親のようで、士郎と桜は本人のめの届かないところで目配せして仕方がないと笑いあった。