プルシャンブルーの矜持(槍弓/槍誕)
槍誕生日おめでとうございます!!
久々にちゃんとお祝い小説が書けて大満足でございます。
我が家にしては珍しくすれ違うようですれ違わなかったあまあま槍弓小話です。
イベントもう今週なんですね!?楽しみと緊張でいっぱいです…!
当日はめいっぱい楽しもうと思います!お品書きはこちらから!
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プルシャンブルーの矜持
このカルデアには不可思議な制度があって、それは毎年マスターの誕生日に贈られる。そう、彼女からサーヴァント達へ贈られるのだ。
期限はその日から一年間。全ての英霊たちに確かな記録があるわけではない。
そのような催事がない時代の者だって様々。だからこそそれが彼女なりの誕生日プレゼントであるのだ。
「もちろん全ての願いを叶えられるわけじゃないけど、祝ってほしい日が来たらこれを使ってね。全員ちゃんと一年の内に使い切ること!それだけが条件!恥ずかしいなら誰かと合同でもいいし、宴は遠慮したいって言ってくれてもいいから」
マスターが一枚一枚丁寧に自力で作った誕生日カード。この日に誕生日会を開きたいと言えばその日がその英霊の誕生日になる。
当日ではなく前以って言うことだけが条件。宴はすぐに準備は出来ないし負担になるのだ。
だがその日だけはだいたいの我儘は通してもらえるし、食堂には好物のリクエストだって通る。
今では召喚された英霊が多過ぎるから、同じ顔は一括りにされるし勿論○○組として誕生日を設定する空気の読む英霊も多い。
今日はインド組の誕生日です~平安組の誕生日です~なんてのもこのカルデアだけの異色な光景だろう。
けれどそれを誰しもが尊び慈しむ。普遍の日常を愛するに相応しいマスターらしいからだ。
(ま、新参者にとっちゃ目新しいイベントかもしれねぇが、古参組にとっちゃいつもの催事なんだよな)
このカルデアに喚ばれてから数年をここで過ごしてきた。一度は退去させられもしたがまたこうして戦闘の矢面に立つことを許されている。
いい戦いといい食事といい基地、これだけあれば俺はまだまだマスターの旅路に付き合えるだろう。
ここには俺の運命も居ることだしな、といつものように食堂に顏を出す。
「――そういえば今年の夏至は21日らしいぞ」
「あ、あー…そうらしいな。毎年実感沸かねぇけどよ」
「ふ、もう大分慣れたのかとは思っていたが、君にも気恥ずかしさくらいはあるのかね?」
「そんなんじゃねぇけどよ、いやそう言うならてめぇだってそうだろうが」
いつものように慣れた会話を交わして彼は煽るように笑う。変わらぬ日常茶飯事だ。周りが楽しめるような宴は良い。
だがその中心に居座るべきではないといつだってこいつの方こそが遠慮しているのだ。
どこでだって縁の下の力持ちを演じておきながらも誰しもがその戦闘の腕も料理の腕も認めているというのに、今になってもそれを堂々と受け止め切れない。
まぁそんな所が彼らしいと言えばらしいのだが。
「否定はしまい。で?今年のリクエストを承ろうか。準備も必要なのでな」
「あー…いや、今年はいいわ」
「は?」「えっ?」「えぇっ!?」
「それは…今年は何も用意しなくていい、という返答で間違いないか?」
「おう、なんだかんだ俺もここで長ぇ方だからな。まぁ当日はオルタや杖持ちや、最近来た修行中の俺との合同誕生会とやらが開かれるだろうが…新参者の幼い俺に席を譲るわ。てめぇもいい加減飽きたろ?」
「――…そうか、了解した。では今年はそのように開催させてもらおう」
馬鹿みたいに騒ぎ倒すこと数年、もう充分腹も胸も満たされた。宴の開催自体は否定しないが今年は俺を立てなくともよいだろう。
キッチン組はいつだって宴の最中は大忙し。不要と跳ね除けてもどうせ開かれるのだから、ならば最近加わった修行中の俺にこそそれを味わわせてやりたいと思う。
他のキッチン組が驚きの声を上げる中、やけに冷静な弓兵の声音だけがどこか耳の奥で消えないまま。
それでも表情に何も変化は見られなかったから、今年はのんびり宴を楽しもうとそう穏やかに弾んでいた。
***
そうしていつもの賑やかな宴が開催される。参加者は様々、何も英霊全員が参加必須なわけではないのだ。
だが顔なじみたちが楽しそうに食卓を囲んでいるのを見るのは悪くはない。せかせかと働いているキッチン組だけにはいつだって意識を割いてしまうのだが。
「よう、槍持ちの俺。珍しいな、こんな所に一人で」
「おう、杖持ちの俺。まぁな、たまには俯瞰的に眺めるのも悪くはねぇってな。てめぇの真似をするつもりじゃねぇが」
一人静かにその光景を眺めていたら、たらふく飲んで喰ったのだろう杖持ちの俺が隣に座る。
今日の主役の一人だ。かちんとグラスを合わせていつものように盃を交わせば、その手元にあった料理が少しばかり気になった。どこかで見た気がする料理だ。
「それは?」
「おう、俺の今年の一品。あいつまた腕を上げたんじゃねぇか?最近喚ばれたインドの英霊と競い合った結果か…」
「へぇ?相変わらず爺臭ぇ料理だな~」
「っせぇな、これが美味いんだよ。で?お前さんは何を望んだんだ?」
「いや俺は今年辞退した」
「……は?」
「ほら、今年は新参者の俺が居るだろう?そっちに席を譲ってやったってわけ。おうおう、まるで子供みてぇにはしゃいでら」
日本の古き良きつまみのように見えたが、俺の好みではなかった。まぁ歳を食った俺好みの味ではあるんだろう。
あの赤い弓兵がそれを誤るわけがない。だから別段それを羨ましいとは思わず、ゆるりと皆に囲まれている修行中の俺を見つめた。
なんだかんだ戦士ぶってはいるが、美味い飯と共に贈られるたくさんの賛辞。それを満面の笑みで受け止めている姿は子供そのものだ。
少しばかり擽ったいが、それを充分に甘やかしている赤い弓兵の姿に自然と笑みが浮かぶ。
「はぁ~~~…お前さん馬鹿なのか?何そんな年長者ぶってんだよ」
「いやなんだよ、別に主役の座を譲るくらい構わねぇだろ?俺たちは数年間主役だったんだし」
「違ぇ違ぇ、そっちじゃねぇ。どうして欲しい一品を告げてやらなかったんだって話」
「あぁ、そっちか。だからそれも修行中の俺を思う存分構ってやってくれていいっつー意味で、」
「やっぱり馬鹿だ。あいつの性格分かってんだろ?なら施させてやれよ、じゃなきゃまた拗れんぞ」
「拗れるって、何で」
「――あいつは好きなヤツに尽くし施し、相手の喜ぶ顔にこそ満足する。そういう英霊だったじゃねぇか」
望めばいつだって好きなメニューを作ってはくれるし、敢えて今日この日にまで願う物ではないと。
そう温情のつもりだった発言が、もし彼にとっては違う意味に捉えられていたのだとしたら?
あの勘違い野郎のことだ。もう自分の飯には飽きたかと勝手に誤った方向へ思い詰めてしまう可能性はある。
それに行き当たり一気に酒の味がしなくなった。そういう面倒くさい所を好きになったが、傷付けたいわけじゃない。
「あー…後でフォロー入れとく」
「おう、そうしとけや。何か相手に望んでやるのも愛情の証だぜ」
「ハッ、それは経験談か?」
ニヤリ、不敵な笑みを零し杖持ちの俺が去っていく。宴もそろそろ終わる。きっとあいつは影の弓兵の元へと帰っていくのだろう。
見ればオルタの俺はオルタの弓兵と一足先に部屋へ戻ったようだ。
若い俺と修行中の俺が赤い弓兵に懐き片付けを手伝う姿を眺めながら、これからが二人の時間だと宴の終幕を静かに待った。
***
「よぉ、お疲れさん」
「ん、あぁ、まぁ今回も腕の奮い甲斐のある宴になったよ。特に新入りのビーマ殿、彼の手腕を思いっきり隣で堪能出来たからな」
「ふはっ、そーかい。まぁてめぇが楽しそうなら何よりだわな」
片付けがほとんど終わり一人また一人と部屋へと戻っていく中、キッチンのカウンターに居座った。
その場を後にしていくキッチン組の睨む視線が痛い。あれは絶対俺に恨みを向けている。このキッチンチーフの心を傷付けた俺に。
だからこうして労おうとしてるんじゃねぇか。いや俺がもう少しこいつと一緒に居たかったのだが。
「それで?まだ飲み足りないとかいう案件かね?」
「あー…まぁ、な。毎年この日はてめぇから酌してもらわねぇと帰れなくなってんだわ。習慣だな」
「どんな習慣だね、それは…いいだろう、少しばかり付き合おうか。ほら、」
「おう、ありがとさん。ん、美味い酒だ」
「だろう?今日という日のためにとっておきを保管しておいたんだ。君の口にあったのなら何よりだ」
洗い物を終えたのか彼が隣に腰掛ける。そこには秘蔵の酒が並んでいて、望み通りグラスに注がれる。
それをカツンと重ねて乾杯と仰げばその味に素直に酔いしれた。あぁ、美味い。俺のために用意してくれたのならそれはなんて幸福なことだろう。
俺は彼の厚意を無下にしてしまう所だったとそればかりを謝罪したい。
「あー、あのよ、アーチャー。今回俺が特別な一品をいらねぇって言ったのは、別にてめぇの食事に飽きたとかそういうんじゃなくてだな?」
「…あぁ、分かっているよ。私の負担を減らそうとしてくれたんだろう?」
「へっ?」
「それと後は、セタンタに主役の座を譲ったか。ふふっ、おかげで彼をめいっぱい喜ばせてやれたと思う」
いつだって俺の発言を変に馬鹿みたいな方向へ勘違いしてみせる彼が、正しく俺の意図を汲み取っていたことに唖然としてしまう。
その笑みはしてやったり、酒で上気した頬がほんのり染まって可愛らしい。
「それくらいには私にも分かるさ。だがまぁ、何もしないという選択肢は取れそうになくてだな。これは私のちっぽけな我儘に過ぎないのだが、」
「えっ、ッ、あ?」
「私が君に贈りたいと思って作ったものだ。迷惑じゃないのなら受け取ってもらえると有り難い――誕生日おめでとう、ランサー」
そっと奥から出されたのは見たこともない名も知らぬ料理であった。だがどこか懐かしささえ感じる。
故郷の物か、それとも共に過ごしたあの街の物か、どちらでも良かった。
彼が俺に贈りたいと素直に自然に思ってくれたそれをどうして跳ね除けられただろう。
「――頂きます」
「君の好みじゃなかったらすまない」
「ん、いや美味ぇよ、こいつは美味ぇ!また腕を上げやがったな?本当どこまで料理人極めるつもりだ」
「フ、気が付けばこんなにも長い間ここのチーフを務めてしまったからな。それこそ行き着く所までかな」
両手を合わせて俺だけのご馳走を啄む。俺好みの味に間違いはなくて箸が止まらない。
もっとと強請りたいのにゆっくり味わってもいたい、相反する想いが胸を占める。
そんな俺に満足しながら、彼は回りをきょろきょろと確認してこっそり俺に耳打ちする。
「その、君さえ良ければ、この後、私の部屋に…」
「んぐぅっ!? ハァッ?」
「きょ、今日くらいはいいだろう、その…き、君と一晩中、い、イチャイチャしたって…」
「いちゃいちゃ????」
「なんだ、不要かね?」
んなわけねーだろ全部食い尽してみせるわその身体。良かった、なんてふにゃり笑うものだから食欲は全て性欲に変換されてしまったみたいだ。
なんだこの最高の誕生日プレゼントは。今までただ宴の名目でしかなかったけれど、捻くれ者のこいつがこんな自然に笑えるというのなら、これほどの喜びはないと思うから。