【槍弓】もしかしなくてもプロポーズだった
突然花屋にされた槍が浮気相手を殺そうとする話。ギャグ。
▽前投稿した浮気テーマの槍視点の話を2パターン書いてたので勿体無い精神で投稿(前作でストック尽きたとか大嘘ついてすみませんでした)
▽槍弓くんハッピ〜ライフ
▽3行くらいの狂王黒弓
▼評価等ありがとうございます。
前作のスタンプとかも嬉しかったです!
10/13
▼タグで祝福されてて笑いました、ありがとうございます。
槍くんはちゃんと弓くんに責任取って結婚してもらいます!(槍弓です)
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浮気されてる。
ランサーは決めていた。浮気されたら相手を殺すと。
今日はアーチャーの家には寄らない。ランサーの進む先は日本の玄関である空港だ。ひとっ飛びでアメリカに渡りこれからオルタにショットガンを借りるつもりなのだ。
▲▼
話は少しだけ遡って、切っ掛けは先週の日曜日。
何かと忙しいお互いのたまの休みに、ランサーとアーチャーは恋人らしくアーチャーの家でお家デートなるものを敢行していた。
言い訳させて欲しいのだが、本当に出来心だった。
アーチャーが風呂に入っている間に、いつもはどこかにしまい込んで見せないスマートフォンがサイドテーブルにほっぽり出されていたのだ。
あれ、珍しいなと思ったところまではよかった。
そこで気がついたのだ、アーチャーのスマートフォンは何故かガードが異様に固い。
今まで気にもとめてなかったが、ランサーがアーチャーのそれを見るのは連絡先を交換した時くらいだった。流石に可笑しいと連鎖的に思い至ってしまう勘の良さを自分で恨んでしまう。
過去に帰れるなら、ランサーはここでやめておけと自分の肩を叩いてやりたい。
その先は地獄だぞ、と。
見なかったら、気が付かないふりも知らないふりもできる、アーチャーと今まで通り恋人として毎日楽しく過ごせるのに。
手に嫌な汗をかきながら電話帳を呼び出し自分の番号を検索する。
出てきた名前はランサーの長ったらしい本名でも、クー♡でもハニー♡でもなかった。
『フラワーショップ・アルスター』
ぶっ殺すぞ……。
脱力してもはやそんな感想しか出てこない、お前何を勝手に人をフラワーショップにしてくれてんだ。
しかもアルスターときた。
キャスターやオルタ、プロトもまとめて花屋だ。
恋人の一族郎党を花屋にする動機はなんなんだ、と浮上した疑問の解を導き出すのは簡単だった。
急に花屋に就職させられた衝撃で思わず思考が別の方向に飛んでしまったが、アーチャーはランサーの存在を隠している。
本当に良心的にコペルニクス的転回で解釈するとフラワーショップ・アルスターとは『花が似合う私の恋人♡』という意味に……いや、ならない。これはどう見てもカモフラージュだ。
アーチャーは何か隠蔽している。秘匿している。それはきっと都合が悪いからだ。
こんなふざけた真似をする理由。本人の見えない場所で人の事を揶揄う様な暇な奴ではない。そこは信頼している。
じゃあ答えはもっと始末の悪いことになる。
浮気だ。
頭を殴られたような衝撃だった。一瞬で息を詰めてしまう。
ランサーの名前が偽装されている時点で間男が自分の可能性すらある事に、意外と冷静な脳みそが理路整然と気付かせる。
馬鹿な……。
一番始めに思ったのはそんな感想だった。
こんな顔も体も家柄もセックスもA+と名高い自他共に認める程優良物件である自分を置いて、あの野郎、本命が他にいるだと?
アーチャーと終わりたいわけではないため、ランサーはめちゃくちゃに糾弾したい衝動を持ち前の忍耐力で押しとどめた。
その後、アーチャーと普段通りの顔で別れるのは大分苦労が要ったが、自宅にたどり着く前に今後の方針は決まっていた。
アーチャーの彼氏を突き止めて消す。
繰り上がってランサーが本命になれば、電話帳の名前だって自然と花屋からハニーになるだろう。名案だった。
▲▼
ランサー本人は気がついていないが、完全に頭に来ていた為、彼は全くもって冷静ではなかった。
スマホと財布しか持っていない身分で国際線を目指し、到着した受付窓口で搭乗する為のパスポートが無いことに気が付いたくらい冷静さを欠いていた。
途方に暮れたのは数秒で、ランサーは雑踏の中でアメリカにいる弟の番号を呼び出してすぐさま通話ボタンをタップする。
30コール目でようやく電話口に出た久方振りの弟は開口一番に『Do Not Callには登録したと思っていた』と皮肉げにいった。
「オルタ、銃貸してくれ。取りに行く」
『……馬鹿か?』
「お前相手にこんな冗談言ったことあるか?」
『恋人に振られた腹癒せにそこら辺で乱射するつもりなら先に言え。通報後に縁を切る』
「お前が振られたらそうするつもりなのはわかった。あと乱射なんかする程下手じゃねえよ、知ってるだろ」
そこで不自然な沈黙が落ちる。
ランサーが訝しがって「オルタ?」と呼ぶとややあって末弟が口を開いた。その内容はランサーにとってあまりに衝撃的なものだった。
『たった今、テメェの彼氏にこの会話とGPS情報を送った。迎えがくるまで大人しくしてろ』
続けざまに『You’re welcome.(どういたしまして)』と嫌味たっぷりに吐き捨てられる。同時に、無口が過ぎる末弟がこんな皮肉を言うようになるとは、とどこか感心してしまっていた。アメリカで恋人でも見つけたのだろうか。
色々と意表を突かれ絶句するランサーに溜飲が下がったのか、オルタは一方的に通話を打ち切った。ただの薄っぺらい板となったスマホに、ランサーは思わず力を込める。
「ふざけんじゃねえぞ!!!!」
クソッと口汚く罵ったランサーが周囲の人間を多いに驚かせていた頃、
日付変更線の向こうのオルタはアメリカで出会った褐色肌に白髪の恋人の「誰からだ?」という問いに「マットレスのセールスだ」と、のたまっていた。
「マットレスか、変えてもいい頃だ。買うのか?」
「……ああ、もう買った。週末運ばせる」
▲▼
オルタの宣告通りそこで大人しく待ったのかというと、ランサーは借りてきた猫のように大人しくアーチャーの迎えを待った。
逃げても仕方がない。出来れば静かに事を済ませたかっただけで、相手に全面的に非がある為、徹底的に争う用意もあった。
迎えに来たアーチャーの車に二人で乗り込むまで、二人の間に会話らしい会話はほとんどない。
アーチャーは眉間に皺を寄せて難しい顔をしていたし、ランサーも何から説明すべきか迷った為に助手席で彫像のように沈黙を守る。
「その、どうしたんだ」
銃がどうとか言っていたが、とアーチャーが戸惑いながら切り出した。
オルタの送った会話の内容を問いただされているのは分かるが、アーチャーを待っている間に大分平素の落ち着きを取り戻したランサーはもう銃なんて欲してはいなかった。もっとずっと合法的にやる。
そしてどうした、と言われても困った。ランサー的にはアーチャーお前がどういうつもりだ?という事なのだが。
「お前の彼氏を殺そうと思ってな……」
「気は確かか」
正気を確かめられてしまった。
まあランサーもアーチャーの立場だったらそう言ったと思う。銃を銃で迎え撃つ必要のない日本で銃火器を人に言えない理由で欲しがるやつは大体正気を失ってる。
「脊髄以下の反射で生きてるみたいな君がなんで自殺なんか思いつくんだ。何かあったんだろう?誤魔化さないで話してくれ」
「俺がこの世を儚んでるように見えるか?というか、自殺と言ったな。お前の恋人は俺か?」
「全く見えないから聞いてるんだ、今まで知らなかっただけで何か深い闇とか抱えているのかと。あと私の恋人が君じゃなかった場合、ここ3年の時間を返して欲しい」
そんな事実は全くないので、アーチャーの見解は正しい。
ランサーは好きな事を好きな時に好きなようにして日々を満足に生きており、最近の悩みといえばアーチャーとどう同棲に漕ぎつけようかと誘いあぐねていたくらいだ。
あと3年も返す気はない。全てランサーのものだ。
「なにか辛いことがあるのなら言ってくれ。私も出来る限り協力しよう」
恋人として模範的な姿勢を示すアーチャー。その表情に嘘はなさそうだ。
浮気してたとして、こんなザルな誤魔化し方はせずに『ああ、したが?』と潔く開き直りそうなのがこいつだ。
「浮気じゃないならなんなんだ……」
「……浮気?」
「これだよ」
おもむろにスマホを取り出したランサーが、アーチャーへとコールを掛ける。
無機質な着信音と同時に画面に浮かび上がったのはランサーに怒髪天を衝かせた『フラワーショップ・アルスター』の文字だ。
「これは……、その、」
「なにがフラワーショップだ。転職してやっから面接してくれよ、オーナー」
「……いや、すまん、その……、……君の着信がしつこいから凛に怪しまれたんだ!しょうがないだろう!」
なんだって。
絶対に逆切れする立場ではないアーチャーが耐えきれなくなったように叫んだ。その顔が朱を刷いたように赤いのは珍しいのだが、ランサーもそんな場合ではない。
「ハア?!」
思わず、アーチャーに引けを取らない声を上げていた。
浮気したアーチャーも浮気されたランサーも最初からいなかったのだ!なんて大団円!な訳がなかった。
なんだそのバカバカしい理由は。
一連の己のバカバカしい行動は全力で棚に上げてランサーは憤った。この邪智暴虐のアーチャーを必ず論破しなければならないと心に誓った。
それに、こいつの言っていることはそれはそれで大変問題がある。
「紹介すりゃいいだろうが!俺はそんなに恥ずかしい男か?!」「違う!!!!」
ランサーの語尾に被せるようにアーチャーが叫ぶ。
「……わかった、私が悪い。君にこんな馬鹿みたいな真似をさせたのも納得はいかないが私のせいなのだろう」
「おうその通りだ。肝に銘じとけ」
言いながら、ランサーはアーチャーのスマホを気づかれないように弄り、電話帳の自分の名前を『Sweet heart』に変えてやった。
あの嬢ちゃんに『アーチャー、あなたのスイートハートから着信がきてるわよ』なんて今から想像しても笑える。その時アーチャーがどんな反応をするのか、絵面のあまりの面白さに『よし、アーチャー、これで手打ちってことにしといてやるよ』とご機嫌にすらなってしまう。
「……凛の追求から逃げたのもそうだ、どこか覚悟が足りなかったんだろうな。」
シリアスに言うアーチャーを横目に、ランサーは肩透かしの種明かしをされてほとんど鎮火していた。
浮気もなかったしアーチャーは反省しているようだし、オルタに弱みを握らせたのは痛かったが概ねこの結末には満足していた。面倒になってきたとも言える。
そして「もういいぜ、なんか食って帰ろうや」と言いかけたところだった。
意を決したみたいに、アーチャーがランサーの手を鷲づかんだのだ。
「ランサー、結婚してくれ」
「…………お、おう」
アーチャー同棲してくれねえかな、と呑気に考えていたランサーも、これはちょっと予想していなかった。