スペイン首相、米主導の対イラン攻撃に反対表明 「国際法と平和の側に立つ」演説全文(日本語訳)
スペインのペドロ・サンチェス首相は3月4日、モンクロア宮殿からテレビ演説を行い、中東で拡大の様相を見せ、欧州を含む他地域にも波及しかねない米国とイスラエルによるイラン攻撃について、スペインの立場を明らかにした。
首相は、自らの姿勢を要約する言葉として、2003年のイラク戦争時に国内で広がった反戦スローガン「No a la guerra(戦争反対)」を引用。歴史の教訓を踏まえ、「一つの違法に別の違法で応じてはならない」として、外交と国際法の尊重を軸とする姿勢を強調した。
その語り口は、今年1月20日にマーク・カーニー首相が世界経済フォーラム(ダボス会議)で示した国際協調重視の演説にも通じる。たとえドナルド・トランプ大統領が相手であっても、国際社会の一員としての責任と自国の利益を守る覚悟を明確に示した点は重い。国家指導者としての意思を言葉で示す姿勢が、強く印象づけられた。
演説の全文(日本語訳)は以下の通り。
親愛なる同胞の皆さん、おはようございます。
本日は、中東で発生した危機、スペイン政府の立場、そして私たちが講じている対応について皆さんにご報告するためにお話しします。
ご存じのとおり、先週土曜日、米国とイスラエルがイランを攻撃しました。これに対しイランは、地域の9カ国および欧州国家キプロスに所在する英国の基地を無差別に爆撃しました。
まず何よりも、スペイン国民を代表して、イラン政権によって違法に攻撃を受けた国々に連帯の意を表します。
その後も敵対行為は続き、あるいは激化し、家庭、学校、病院で数百人の命が奪われました。国際株式市場は急落し、世界のガスと石油の20%が通過していたホルムズ海峡の航行も混乱しています。
今後何が起きるのか、誰にも確実なことは分かりません。最初の攻撃を行った側の目的すら明確ではありません。
しかし、推進派が言うように、私たちは、これが長期戦となり、多くの犠牲者を出し、経済面でも世界規模で深刻な影響を及ぼす可能性があるという事態に備えなければなりません。
この状況に対するスペイン政府の立場は明確かつ一貫しています。ウクライナやガザにおいて示してきた立場と同じです。
第一に、私たちすべて、特に最も無防備な市民を守る国際法の崩壊に反対します。
第二に、世界が紛争や爆弾によってしか問題を解決できないと受け入れることに反対します。
そして最後に、過去の過ちを繰り返すことに反対します。
要するに、スペイン政府の立場は四つの言葉に集約されます。戦争に反対する(No a la guerra)、です。
世界も、欧州も、スペインも、かつて同じ場所に立ったことがあります。23年前、別の米国政権が私たちを中東の戦争へと引き込みました。当時は大量破壊兵器の排除、民主主義の導入、世界の安全保障の確保のためだと説明されましたが、振り返ればその結果は正反対でした。ベルリンの壁崩壊以来、欧州が経験した最大の不安定を引き起こしたのです。
イラク戦争はジハード主義テロの急増、東地中海における深刻な移民危機、エネルギー価格の高騰、そして生活費全般の上昇を招きました。それが当時の「アゾレスの三人組」が欧州にもたらしたものでした。より不安定な世界、より厳しい生活です。
イラン戦争が同様の結果をもたらすかどうかは、まだ分かりません。アヤトラ体制を崩壊させ、地域を安定させるのかどうかも未知数です。
しかし確かなのは、この戦争からより公正な国際秩序も、賃金上昇も、公共サービスの改善も、より健全な環境も生まれないということです。見えているのは、経済的不確実性の拡大と石油・ガス価格の上昇です。
だからこそ、スペインはこの惨事に反対します。政府の使命は人々の生活を良くすることであり、悪化させることではありません。
職務を果たせない指導者が、戦争の煙幕で失敗を隠し、一部の者の懐を肥やすことは断じて容認できません。世界が病院ではなくミサイルを造るとき、利益を得るのはごく一部の者だけです。
政府はまず、中東にいるスペイン国民の支援と帰国支援を進めています。外交当局と軍が昼夜を問わず避難計画を実施しています。
さらに、必要に応じて家計や企業への経済的影響を緩和する措置も検討しています。スペインは経済の活力と責任ある財政運営により、この危機にも対処できる資源を有しています。
また、平和と国際法の遵守を訴える地域諸国と協力し、欧州の同盟国と連携して効果的な対応を図ります。ウクライナとパレスチナにおける公正で持続的な平和の実現にも引き続き取り組みます。
そして政府は敵対行為の即時停止と外交的解決を強く求め続けます。スペインはEU、NATO、国際社会の一員であり、この危機は私たちにも影響するからです。
違法行為に違法で応じることはできません。それが人類の大惨事の始まりだからです。
1914年、第一次世界大戦の勃発時、当時のドイツ宰相は開戦理由を問われ「分からない」と答えました。大戦はしばしば誤算や連鎖的反応から始まります。
歴史から学ばねばなりません。何百万もの人々の運命をロシアンルーレットのように賭けにしてはなりません。
関係大国は直ちに敵対行為を停止し、対話と外交を選ぶべきです。私たちもまた、ウクライナやガザ、ベネズエラやグリーンランドで掲げるのと同じ価値を守らねばなりません。
私たちはイランの抑圧的で残虐な体制を拒絶します。しかし同時に、この紛争にも反対し、外交的・政治的解決を求めます。
暴力が解決策だと考えることこそが幻想です。民主主義や国家間の尊重は廃墟からは生まれません。
スペインは自国の経済的、制度的、そして道義的な強さを信じています。困難はあっても未来は決まっていません。暴力の連鎖は回避可能です。
スペインは憲法の価値、EUの創設理念、国連憲章、国際法とともにあります。すなわち平和と国家間の平和共存とともにあります。
私たちは同じ考えを持つ多くの政府とともにあり、欧州、北米、中東の何百万もの市民とともにあります。人々が望んでいるのは戦争ではなく、平和と繁栄です。
前者は一部の者だけに利益をもたらし、後者はすべての人に利益をもたらします。
ありがとうございました。
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