UNDER WARKS
平和時空日常ネタ。
ほぼオールキャラ、会話文が多くなっております。
始終下ネタで盛り上がってるアホ話になりましたごめんなさい。
*
前作があまりにもアレだったので、今度は違う方向に走ってみたら何の因果か落とし穴。もうこのまま人生死ぬまで準備運動で終わろう。アーチャーの裸について本気出して考えてみたら、いつもムダ毛がなくなるんですよね、すね毛とか好きなのに…。兄貴?兄貴は生えてます。モッサモサです。
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「入るぞ」
それは、突然の来訪だった。
珍しく自室で勉強をしていた士郎の背後で、スパンと勢いよく障子が開かれる音がしたかと思えば、そこには仁王立ちしたアーチャーがいた。
眉間の皺を普段より二割増しで深くし、今にも罵詈雑言の嵐が吹き荒れるのではないかと身構えた士郎に、彼は一瞥をよこしただけで別段何も言ってこない。
「…お前、何か悪いものでも食べたのか?」
「貴様じゃあるまいしそんなわけがあるか」
訂正、振ればいつも通りの皮肉が返ってきた。
部屋から出て行く様子もないアーチャーは全く挙動不審で、慎重に外の気配を伺っていたかと思うとひとまず満足したのか、今度は渋々とこちらに向き直る。
どうやら居座ることに決めたようで、その場に音もなく腰を下ろす姿はさながら山門のアサシンのようだ。
「な、なんだよ、本当にどうしたんだ、お前」
「煩い、耳障りだ、黙っていろ」
言うなり、アーチャーは目を閉じて気配を殺す。
その見事な気の操作に思わず感心した。
少しは説明が欲しいところではあるが、ここまで存在が薄いと邪魔とは感じないし、士郎に用があるわけでもないらしいので、これ以上の追求はせず手元の宿題へと戻る。
この選択が間違いだと分かるのに、十分もかからなかった。
「投影開始(トレースオン)」
「え?」
参考書のページをめくる音にまぎれて、何やら物騒な詠唱が聞こえた気がする。
次の瞬間、屋敷中の結界がけたたましく鳴り響くのと同時に、士郎の部屋は戦場と化した。
まるでいつぞやの再現のように天井から振ってきたアロハシャツの槍兵と、それを二振りの夫婦剣で迎え撃った弓兵。
いくら手加減しているとはいえ、サーヴァント同士の衝突だ。
衝撃に耐えられず障子が桟ごとバリバリバリと不吉な破壊音をたて、士郎は悲鳴を上げる。
「テメェ…坊主の部屋に逃げ込むたぁ、誇りはねぇのか!」
「そんなもの、犬にでもくれてやれと言っただろう!下策だろうと有効と判断すれば、この世で最も不快な場所だろうと構いやしないさ!」
確かに誇張表現ではなく、アーチャーにとって衛宮士郎の部屋は、最も忌避すべき逃亡先であっただろう。
行方を追っていたランサーも流石に盲点だった様子で、やすやすとアーチャーへ回復の暇を与えてしまったことを悔しがっている。
「犬と言ったな!上等だゴラァ!表出やがれ!!」
「断るッ!散歩なら一人で行け!!」
「いや出て行けよ!部屋がめちゃくちゃだ!!」
「黙れ衛宮士郎!元より散らかるほど物もなかろう!」
「散らかるとかの前に、家が壊れるぅーーー!」
士郎の絶叫もむなしく、戦いは始まってしまった。
ランサーの槍が閃き、アーチャーに襲い掛かる。
勿論、日本家屋に彼の長物を振り回す広さなどあるわけがなく、穂先が隣室との襖を横一線に切り裂いた。
さらには避ける空間もないので、アーチャーは忍者もかくやとばかりに畳を引っぺがし、それを盾と目眩ましに使用する。
人数も増えたため年末の大掃除の際に新調した畳は、藺草をまき散らして真っ二つに引き裂かれ、本来の役目を全うする前にその生涯を終えた。
「た、畳ーーー!!」
「悪ィな坊主!あとでそこの弓兵に請求してくれ!!」
「たわけ!貴様の飼い主である極悪神父に割増しでふっかけるに決まっているだろう!第一、貴様が追ってこなければ発生しなかった被害だ!」
「そっちこそ、テメェが逃げなければいいだけの話だろうがよォーーー!」
狭い室内でよくもこれほどとばかりに激しく打ち合い、器用に立ち回る二人に、士郎は自分の身の安全を第一に考えることにした。
どこかの誰かさんのおかげで、随分と器用に生きられるようになってきた士郎である。
男たちの足元を潜り抜けてなんとか戦線離脱を成功させる、その心は。
「あんたら…人の家の中でなにやってんのよーーー!!!」
赤い悪魔の逆鱗を逃れるためだ。
結界が反応した以上、誰かが聞きつけてやってくるのは当然で、やってきたのが間桐桜でなかっただけ幸運だったというべきだ。
最悪、英霊の座へ強制送還である。
こめかみに強烈なガンドをくらって一瞬目を回した二人は、しかしすぐに復活し、思い思いの言い訳を述べようとした。
「凛!誓って言うが、私はこの男の下らん好奇心に巻き込まれただけで、一切合切終始全てこの犬が悪い!」
「嬢ちゃん、この野郎の頭の固さは何とかならねぇのかよ!ちょいと構えばすぐこれだ!!」
「ええい黙りなさい!!取り落したケーキの恨みは…こんなもんじゃないんだからーーー!!!」
*
「それで、二人はなぜ戦っていたのですか?」
先の戦闘の衝撃で、凛がキッチンにぶちまけてしまったフルールのショコラケーキを片付けた後。
本来なら士郎の分であったショートケーキでなんとか怒りを鎮めた少女の前に、アーチャーとランサーは神妙な面持ちで正座していた。
ちなみに、先ほど凛のガンドがサーヴァント相手に効いた理由は、桜の虚数魔術によるものである。
実体のない存在に対し有効な桜の魔力を、血と聖杯の繋がりを利用して一時部分的に凛の魔力弾であるガンドに上乗せしたのだ。
そんなものを食らい続ければ、さすがの英霊も何かしらの体調不良を起こしかねない。
衛宮邸の政権はもはやこの姉妹に完全に掌握されていた。
閑話休題。
セイバーはしっかりと守りきったミルフィーユとチーズケーキを啄みながら、この騒動の原因について訊ねた。
問われた方はというと対照的な反応で、アーチャーは困惑の表情を浮かべ、ランサーはケッと舌打ちをする。
「その…セイバー、君が気にするようなことではない。この犬が言い出した、下品極まりなく低俗な話だ」
「だが男にとっちゃあ重要な問題だろう。つまりチビの騎士王様には関係ねぇ話だ」
「……私を愚弄する気か、ランサー!」
「セイバー落ち着いて。どうせ貴方を挑発して、この場をうやむやにしようって魂胆だろうけど、そうはいかないわよ、お二人さん?」
赤い悪魔の目はごまかせない。
セイバーを制し一瞬で場を支配した凛に、ランサーの方も分が悪いと悟って、あー、と意味のないうなり声をあげた。
アーチャーはというと、我関せずで、ランサーに丸投げしてそっぽを向いている始末である。
だからよぉ、とやや言いにくそうにランサーが口ごもっていると、ちょうど桜が台所から人数分の茶を淹れてやってきた。
「みなさんお茶が入りましたー」
「下の毛も真っ白なのかって聞いただけだ」
その瞬間、時が凍りつく。
動揺した桜が取り落としかけたお盆を、咄嗟に反応した士郎が支えて事なきを得た。
今や全員の視線はアーチャーに集まっており、彼はその中心でフンと鼻を鳴らすものの、いつものような威圧感はなかった。
一見すると分からないが、褐色の耳は確かに少しだけ赤くなっており、後方からそれを見てとった士郎は少しばかり彼に同情する。
「下世話すぎて聞くに耐えないな。茶の間で話すことでなし、凛、この犬を教会へ突き返してやれ」
「いいや、この際はっきりさせようぜ。テメェが逃げたせいで、ここまで大事になっちまったんだ。こっちも意地ってもんだろ」
ちょっと、ランサーさん、と桜のとがめる声がささやかに響く。
士郎が興味なさそうにずずっと茶をすする中、凛が事もなげに答えた。
「そんなの、白じゃないの?」
「ね、姉さんまで…!」
「だって魔術焼けで髪の色が変わったのなら、体質全てに影響がでたはずよ?アーチャーの場合、体毛全部真っ白でしょ」
極めて魔術師らしく冷静に述べられた説明は、彼女なりのアーチャーへ対する助け船であったが。
残念ながら、それを巧く乗りこなせる程の騎乗スキルと幸運値が彼には足りていなかった。
「…だそうだ、満足したかね」
「いいや、まだだ!何よりテメェがそうだと認めてねぇ。確認するまで信用できねぇな!」
「確認って…!貴様と話していたら埒があかん!凛、教会に連絡を!」
「待ちやがれ、逃げるのか貴様!…ほう、そんなに自分の物に自信がないってことか!?」
「たわけ!貴様の戯れ言に付き合ってやる道理はないと言っている!そんなに気になるのなら衛宮士郎でも剥いておけ!」
「ちょ、急に俺を巻き込むなよ!」
「そ、そうですよ!先輩を巻き込まないでください!!」
立ち上がりかけたアーチャーの足首を、そうはさせまいとランサーが掴む。
士郎へと論議が飛び火して、桜が煽られ、凛も混乱しかかった場を納めるのが面倒になりはじめてきたちょうどその時、ケーキを完食したセイバーが立ち上がった。
「待ちなさい、ランサー!私も妻帯の身、殿方の矜持というものは分かっている。だが、それを横から面白半分で暴くべきでは…」
「うるせぇ!立ちションの一つもできねぇで何が男よ!」
「この石器人め!現代では軽犯罪に含まれると、聖杯に戻って一から知識を入れなおしてこいッ!」
「くッ…確かに私は、騎士たちと連れだって小用を足したことはありませんでした…!」
「当たり前だ!セイバーは女の子なんだから!ていうかランサーの言葉を真に受けなくていいんだって!」
結果、ますます混乱が加速した。
意地になってアーチャーのズボンを引っ張るランサーと、当たり前だがそうはさせないと必死になって抵抗するアーチャー。
意識がカムランに戻っているセイバーを、士郎がなだめ、その士郎に魔の手が及ばぬよう庇う桜。
凛はこの場にイリヤスフィールがいないことを感謝した、この手の話を(実年齢はいくつであれ)幼気な少女に聞かせるわけにはいかない。
頭を抱えてい間に、事態はさらに進んでいく……主に悪い方に。
「大体君も成人した男ならこんな思春期の餓鬼のような真似はぅわぁあぁぁ!?貴様どこを触っ……や、やめッ……ぐぅ!!」
「んあ?なんだよ、短小かと思ったらなかなか…」
「な、なかなか?なかなか、何ですか!?ランサーさん!」
「な、なに聞いてんだ、桜!?」
「見損なったぞ、ランサー!嫌がるアーチャーを無理矢理手籠めにしようとするなど!」
「手籠め!?セイバーも何言ってるんだ!?」
「い、いい加減離せこのたわけ!ひッ……と、遠坂!遠坂ぁーーー!」
「ああああたしのアーチャーになにしてんのよこんのセクハランサーーー!!」
アーチャーの切羽詰まった助けを乞う叫びに、凛の剛腕が唸り『とっておき』が弾けた。
ランサーの頭と居間半分を吹き飛ばした後、凛はもう一度場を仕切りなおした。
ただし今回は、事情聴取ではなく断罪の為である。
ランサーの背後には不可視の聖剣を握ったセイバーが控えて立ち、凛、桜、士郎の後ろでアーチャーが今にも死にそうな顔で座っている。
数呼吸ごとに嗚咽のような唸り声のような、思わず身が重くなる悲痛な音を出し、絶賛摩耗中だ。
さらに被告人側と裁判員側を隔てる机の上には、言峰綺礼と繋がっている電話が置かれ、状況はまさしく『好奇心は犬を殺す』。
「それで、斬首と自害と、令呪による自害。どれがいいかしら?」
「ど、どうもモウシワケゴザイマセンデシタ……!」
「ええ、だから、どれがいいかしら?」
『ふむ、迷うというのならばいっそ…"令呪を以って命ず…"』
「待ちやがれッ!言峰貴様ぁぁぁぁ!!」
死刑以外の選択肢なし、現実は非情である。
士郎もアーチャーも、普段は女性陣に振り回されているように見えるが、本当に振り回しているのは彼らの方だ。
彼女たちは、衛宮士郎という馬鹿な男のためなら、人道に背かぬ限り割と何でもする。
こんな女性たちに囲まれておきながら、よくアーチャーは道を踏み外せたものだと逆に感心すらしてしまう。
ので、ランサーは往生際悪くそのあたりをつつく手に出てみた。
「本ッ当に悪かった!嫌がってんのに無理矢理聞き出そうとすんのはよくねぇよな。第一、嬢ちゃんだって知らねェんだろ?それを俺が先に見ちまうなんてのは良くねェよなぁー、嬢ちゃんも知らねェのに」
「え、ええ…そうね…」
凛の目つきがやや鋭くなる。
「間桐の嬢ちゃんもだ。いやー、別の未来つっても、自分でも見たことない惚れた男のことを、他の奴が先に知ってたら悔しいよなァ?自分は何時見れるかわからんのにな!本ッ当、考えが至らなくて悪かった!」
「そ、んな…私は……」
桜は躊躇いがちに顔を伏せた。
「…そうよね、私はマスターなんだし……」
「…少しくらいなら…許されますよね……」
チョロいもんである。
流石はアルスターの英雄クー・フーリン。
毒舌のブリクリウ、コナハトの女王メイヴ、さらには戦の女神モリガンまでを相手取ってきた経験は、確かに彼の中に息づいていた。
…なぜそれを他の場面で活用できなかったのかと、電話口から盛大なため息が聞こえる。
じりじりと進行してくる現衛宮邸の覇者姉妹。
新たな窮地に立たされたアーチャーを、最後の砦たる士郎が庇った。
「ちょ、ちょっと落ち着けって二人とも!アーチャーが嫌がってるし、俺だって何か嫌だ!それに、女の子がそういうことしちゃダメだ!」
「いいねぇ坊主、こんないい女二人に言い寄られるなんざ、男冥利に尽きるってやつだ!」
「ランサーもいい加減にしろって!」
「…シロウ、この男の甘言、我が終生の敵モルガンを彷彿とさせます…どうか、宝具の使用許可を!」
「出すわけないだろ!今度こそ家が消し飛ぶ!お願いだからみんな落ちつい―――」
「全員、座ってもらおうか」
―――この男の命が惜しいならな。
アーチャーを庇っていたはずの士郎の首には、艶やかな黒剣が宛がわれる。
背後には、アーチャーが空恐ろしいまでの笑みを浮かべて立っていた。
再び、時が凍りつく。
「ひ、卑怯だぞ!?正義の味方が人質をとるなんて!理想が俺を裏切ったー!」
「黙れ!貴様になんと言われようが、俺は勝率の高い方法をとる。それに業腹だが、俺が貴様を人質に取ったところで犠牲者は出まい?」
衛宮士郎に対してだけは、とことん容赦のない男である。
これには凛と桜も二の足を踏んだ。
「アーチャーさん、先輩を放してください!」
「そんなの、こけおどしでしょ!あんたは士郎を殺さないわ」
「重要なのは、過去に明確な殺意をもっていた、という点だと思うが?例えば今、撃ち込まれたガンドを『運悪く』食らって衛宮士郎が死んだとしても、私には興味のないことだ」
アーチャーの恐ろしいところは、それが全くの真実である、という点だ。
渋々と言った様子で、二人は席に戻った。
ランサーが戦闘続行と仕切り直しのスキルを遺憾なく発揮し態勢を立て直せば、今度はアーチャーが心眼(真)にて活路を導き出す。
一進一退の見事な攻防だ、キャスターあたりが見ていたら失笑を禁じ得ないだろう。
(「坊やの所は随分と暇なのねぇ。他に考えることがなさそうで全く羨ましいわ。私なんて先日宗一郎様が以下略)
「アーチャー、もういいでしょう、シロウを開放しなさい!いくら貴方でもこれ以上の狼藉は許せない」
「勿論開放するさ、セイバー。だがそれはここにいる全員が『金輪際この話題に触れない』と誓ってくれたらだが」
「でしたら私から。ブリテンの王アルトリア・ペンドラゴンの名に懸けて、今後あなたの体毛、および男性的象徴についての関心一切を捨てると誓いましょう!」
後程、凛はこの時のアーチャーの表情を『豆が鳩鉄砲食らったような顔』と例えた。
「ま、まぁ君はそれでいいか……冷蔵庫に白玉あんみつがあるぞ」
「わーいあんみつー!」
すっかり餌付けが完了している獅子の化身は、冷蔵庫に頭を突っ込むようにして、戦線離脱。
むしろアーチャー側についたと見ていいだろう。
「大鍋に入っていますが、配分はどうしますか!?」
「早い者勝ちだ。残っている分には御代わりして構わないぞ」
「アーチャー!あなたに幸があらんことを…!」
さっさと降伏しないと貴様らのあんみつはないぞ、と言外にセイバーを焚き付ける。
ちなみにあんみつは、あらかじめ食後の甘味としてアーチャーが仕込んでいた物だ。
最後の切り札だが、惜しんでいる場合ではない。
「…わかった。確かにちょっとはしたなかったわ、もうしないわよ」
「困らせちゃってごめんなさい、私ちゃんと反省します……」
「………………」
「おい、ランサー」
「わーったよ!オメーの勝ちだ、もう聞かねーよ!」
姑息ではあったが、アーチャーの完全勝利である。
ここまで頑なな態度をとったら、全員が何か理由があると確信を抱くが、とにかく勝ちは勝ちである。
試合に勝って、勝負に負けているが。
ちなみに言峰教会と繋がっていた電話は、随分前から『エリーゼのために』を繰り返すだけの楽器となっている。
全員が降参の言葉を言い終えたところで、ちょうどライダーがバイトから帰ってきた。
「おや、皆お揃いでどうしたのですか?」
「あ、お帰りなさい、ライダー!実は…」
かくかくしかじか。
「はぁ…そのようなことが……」
便利なものである。
誓った手前、説明は大分ぼやかしたのだが、聡いライダーは事の全貌を正確に把握した。
キラリと眼鏡の奥の魔眼が光る。
「……わ、私はあんみつを取りわけて来」
「いやアーチャーは座ってろよライダーのお茶とみんなのお代りも欲しいだろセイバー人数分の皿を用意してくれないか!」
士郎の顔にはありありと、これ以上巻き込まれたくない、と書いてあった。
アーチャーが士郎に対して裏切り者なら、士郎はアーチャーに対して薄情者だ。
起源を同じくする者同士、実に息の合った足の引っ張り合いである。
「アーチャー。あなたは確か、生前中東の方にいたと聞き及んでいますが」
「……記憶が定かではないな」
「とても暑い砂漠地帯だったでしょうね」
「……そうかもしれないが」
「ところで話は変わりますが、英霊になると髪が伸びないですよね」
「ライダー、君の望みを聞こう」
急に殊勝な態度を取り始めるアーチャー。
え?え?と目を瞬いている桜。
ライダー優勢に目を付ける凛。
電話の向こうで令呪を使われるんじゃないかと、さっきから気が気でないランサー。
実に多種多様な反応を見せる面々に、ライダーがふむ、と一つ頷いた。
「それでしたら、ぜひKA○ASAKIのNinjaを…」
「だ、ダメーっ!ライダーそれバイクだろ!?無免許で公道爆走なんて、絶対許さないからな!」
「というか…大分趣味が渋いな、君は……」
「いえ、冗談です」
とてもそうは聞こえなかったが。
ライダーは少し残念そうにした後、でしたら、と言いかけ、アーチャーをじっと見つめる。
ぶつぶつと呟かれる血だの味だのという単語と、蛇が蛙を見つめるような不穏な眼つきだ。
悪寒を感じつつも口を噤んでくれるらしいライダーに、ひと時胸をなで下ろしたアーチャーだったが、伏兵とは予想していない場所に潜んでいるからこそ、伏兵と呼ぶのである。
「ハハハハ、聞いたぞ贋作者!貴様、下の毛が生えなくて悩んでいるらしいではないか!」
三度、時は凍りつく。
『ち、違う!!』
否定の言葉は、士郎とアーチャー両方からあがった。
庭から直接、半壊した居間へ乗り混んできたのは、勿論英雄王ギルガメッシュである。
全員が、突然の登場に驚いていいのか、それとも投下された問題発言に突っ込んでいいのか決め兼ねていたところ。
「お、俺はあるからな…ッ!」
士郎の呻くような自己申告に、自然と全員(桜以外)の視線はアーチャーへ向かう。
彼は至って冷静に、落ち着き払った様子で。
「いいかね、金曜日には礼拝で髭と胸を除くコーランが脱毛であり」
「ちょ、落ち着きなさいアーチャー!」
完全にテンパっていた。
見かねたライダーが説明を請け負う。
「西洋、中東の文化圏では珍しくありませんよ。特にイスラムの経典であるコーランには、金曜日の礼拝前に、男性は髭と胸を除く、女性は首から下の体毛を処理するよう記されています。砂漠地帯ですから、衛生面を考慮してのものでしょう。ちなみに古代ギリシャでも、美しい女性は処理をすべきと考えられていましたから、かくいう私も」
「ら、ライダー!?そこまでは別に…申告しなくてもいいんじゃないかな~…」
「ところで男性はどうだったのよ、ライダー」
「そうですね、性犯罪者の陰毛を抜き、直腸にラディッシュを詰めるという刑罰がありました」
「ぐはぁっ」
フォローかと思いきや、完全なボディブローを決められ、アーチャーは膝を折った。
郷に入れば郷に従えとはあるが、やはり生まれた国で培った感性は代えがたい。
おまけにそのまま本国に戻ってしまったら、それはもう完全アウェーである。
「つまりお前、パイp」
「黙れランサー自害しろ」
「ぎゃぁぁぁやめろよお前令呪持ってねぇだろ!冗談でも言って良いことと悪いことがあんだぞ!!」
「ハッハッハ、無様よな、雑種ゥ!」
「大体、英雄王!貴様どこでそのことを……ハッ!そもそも貴様とて中東の生まれだろう!」
「雑種の尺度で物を測るでない。我は最古の王だぞ?後の世で我以外が定めた法になど従うわけがなかろう!それに我が王国ウルクは、水源豊かで肥沃な土地であったのだ。…まぁ、杉はなかったが」
「つ、つまり………」
「フ、無論。ボーボーだ」
「ガハァッ」
「ヤム……アーチャーッ!!」
地面にめり込むように倒れたアーチャーに、士郎が無茶しやがって…と台所から敬礼を送った。
絶対に中東に行くのはやめよう、そう心に決めて。
「セイバーよ、貴様にだけは褥で我が黄金を拝謁することを許すぞ、どうだ?」
「あんみつうめぇ」
「ぐぬぅ…!」
見事なオウンゴールを決めてギルガメッシュも早々に倒れた。
四次五次Wアーチャー夢の共演などと言っている場合ではない、軽く地獄絵図だ。
オレはな、セイバー、英雄などならなければよかったんだ…と、答えを見つける前に逆戻りしつつある赤い方のアーチャーを助け起こしたのは、事の発端でもあるランサーだった。
「アーチャー…分かる、分かるぜその気持ち!」
「ら、ランサー…!」
「いくら実益だとか文化だとか言われてもな…、男には失くしたくねェもんがある!苦しかったよな…辛かったよな!まるで半身を失ったみたいだったろう!!」
「い、いや、そこまでは……」
「その悲しみ、我が友フェルディアを失った俺の心のようだぜ…!」
「友人と陰毛を同列に扱っていいのか君は」
「よっしゃ!今日はとことん付き合ってやるよ、飲もうぜ!サシで!おまえんちで!朝まで!」
「え、え、ちょ、り」
最速の英霊は伊達ではない。
ランサーは、アーチャーが凛に助けを乞う前に、疾風のごとく駆けだしていた。
なんでさー…というアーチャーの叫びが、すでに山彦のようにかすかに聞こえたのみで、全員が心の中でヤム…アーチャーに敬礼を送る。
「では桜、私は居間を直します」
「あ、うん、お願いライダー。私はお夕御飯の準備をしようっと」
「桜、俺も手伝うよ。今日は何作るつもりなんだ?」
「シロウ!鍋は片付けておきましたよ!」
うろたえない、衛宮家の人間はうろたえない。
いつもの日常に戻るため、凛はため息交じりに、とっくに通話の切れていた電話へ同じ番号を打ち込んでいく。
3コール、うろんげな神父の応答の声。
「ああ、綺礼?あんたのとこの金ピカ、外に出しとくからさっさと回収に来てちょうだい。それと……」
「さっきの令呪、使っていいわよ」