【リク感謝】砂漠の王子槍と、囚われの王子弓【槍弓】
お、遅くなりました! 忘れていらっしゃるかもとおののきながら、リクエストいただいた砂漠の王子槍と、囚われの王子弓です。ざっつ・お約束。ギル様が安定の悪役ですいません。大好きなのに……!
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「あ……あ、あああ……ッ!」
悲痛な声はまるで慟哭で。
自制心が強く、幼い頃より一度も上げた事の無いそれを、上げざるを得ない光景がそこにはあった。
燃えている。
燃えている。
――彼の、国が。
愛した同胞が。
守るべき民が。
(何故だ――何故っ!)
魔術師が映し出す鏡の中の映像は、彼の故国が無残にも踏みにじられた姿であった。
そう、しないために王と王妃は自害し、国の正式な跡継ぎである彼は囚われの身になったというのに。
「おお、その絶望に塗れた表情――それが見たかったのだ」
どんなに打ち据えても、表情も変えぬ亡国の王子。つまらぬ、というその理由だけで、王は約束を破った。
「ギルガメッシュ! 貴様、約束が違うだろう! 私が従えば民には手を出さないと」
ぎ、と己を捕らえる大国の王を睨めつける。
「――ぐぁっ」
途端に側に控える従者に剣の柄で後頭部を殴られ、地に伏せる。じゃら、と奴隷の印である首輪から繋がり、両手を拘束する枷を繋ぐ鎖が高い音を立てた。
けれどもその瞳は光を失う事はない。尚もギルガメッシュを鋭く睨みつけていた。
視線でもし人が殺せるのなら。この王は何千回もこの王子に殺されているだろう。
尚も振り上げられたそれを、黄金の王はゆるく手を上げて止める。
「良い。小国とはいえ王子、誇りを傷つけるのには暴力ではかなわぬ」
もう少し見目が麗しければ閨で泣かせてその誇りをずたずたにしてやれたのにな、とそら恐ろしい事を言い、その背後に控える小姓たちと嘲笑い合う。
「あいにく我はそなたたちのような花を見慣れている。獣には食指が動かぬ」
「王よ、奴隷たちの中にはそのような趣味の者もおりましょう。今夜の酒宴の席での報償としてはいかが?」
滅ぼした国で捕らえた兵士を奴隷とし、その者たちに戯れに殺し合いをさせるのが最近のその小姓の楽しみであった。王も悪趣味な、と笑いながらも止め立てはせず、小姓の好きなようにさせている。
「ふむ」
「屈強な奴隷に犯されてもその矜持、保てたらそれはそれで一興」
小姓は少女のような美しい顔に、淫猥な笑みを浮かべる。
「亡国の王子が衆目の中辱められる――面白うございましょう?」
「黄金の王よ、そのような事で私が屈するとお思いか」
例えどんな辱めを受けようとも。その魂までは汚せぬと、王子は静かに言い放つ。
「私を今すぐ殺すがいい。でなければ――その御首、どんな事をしても貰い受ける」
生きる意味はもうなかった。
愛する民のためにこの王に傅く事も、もう必要ないとなれば。けれどももしも生きることを許されるのなら、己の全てをかけて、この王に報いを与える。
「ふむ、その言葉が誠か否か、今宵が楽しみになって来た」
せいぜいがその身を飾り立て、勝者の褒美となるが良い。
王の戯れ言に、小姓たちが笑いさざめく。
(では花嫁の格好をさせてはいかが?)
(いやだ、似合わないにもほどがある)
くすくす、くすくす。
王子はきつく唇を噛んで、己を嘲笑する言葉に耐えた。
体中に香油を塗られ。
女ものの衣装を着付けられ。
それでも屈することだけはしまいと、王子は誇り高く頤を上げたまま、衆目の前に晒された。
似合わぬその衣装に失笑が漏れても。
奴隷たちが好色な、あるいは軽蔑した視線を向けて来ても。
千載一遇の機会が――ギルガメッシュに一太刀でも浴びせられる機会が来ると信じて、王子はじっと耐えた。
「何だァ、いきなり呼びつけて来たかと思えば――あんまり趣味がいいとは言えねェな」
(――ッ!)
王子の身体が震える。
あれは。あの声は……。
「おお、来たか。貴様にもぜひ楽しんで貰おうと思ってな――貴様もずいぶんとこの男には苦しめられただろう」
剣を交わした。
一国の王子と、その敵対する王子として。
誇りを持って。
幾たびも戦場で――互角に戦った。
蒼き疾風。
その槍捌きは神話の領域で――その男と互角に戦える己にかつてない程の誇りを感じた。
決して、決して――こんな場所では会いたくなかった。
こんな姿、見られたくない。
嫌だ。
――嫌だ。
(クー・フーリン……何故……)
ギルガメッシュの国とは同盟国である王子が訪れてもおかしくはない。けれども何故、よりにもよって今夜なのだ。
「まあそうだが――ふうん、今宵の勝者への褒美って訳か」
はあ、と呆れたように溜息を付いて。
クー・フーリンは王子をちらりと見やった。
「ずいぶんと落ちぶれたモンだな――見る影もねェ」
(………ッ!)
「なあギルガメッシュ、オレもそのお遊びに参加してもいいか? こいつを辱めるってのなら、奴隷よりも敵国の王子の方が適役だろ?」
「――まあ、そいつの様子を見るに、それは正しいか」
クー・フーリンが現れてから明らかに動揺している王子を見て取り、ギルガメッシュは笑う。
「なるほど。かつての強敵に蔑まれるのが一番堪えるという訳か。さすが王子、誇りの持ちようが違う」
「だろうな。戦場でのこいつはまさに鬼神もかくやってんで――かなり苦しめられた。その相手を好きに扱っていいっての、結構燃える」
「悪趣味な」
「――オマエが言うかぁ?」
くく、とギルガメッシュは笑い、従者に合図する。
「そうだな、クー・フーリン。この者は貴様にくれてやろう――ここの奴隷で光の御子に勝てる者などおらぬ、最初から無駄な戯れだ」
「お、いいのか? ラッキー。じゃあお礼にこれやるよ」
クー・フーリンは腰に下げていた宝剣を掴むと、ギルガメッシュに放り投げる。幾つもの宝剣を所有しているギルガメッシュにはそう珍しいものではないが、小さな国のひとつくらいは買える程の価値はある。
「後で返せ、なんて言わねえから。オマエも言うなよ?」
「ああ、了解した」
「で? 皆の前でこいつを犯せばいいわけ? オレ、繊細だからあんまりそういうのは見せたくないんだよね」
ちょっと特殊な性癖もあるし、と笑うクー・フーリンに、ギルガメッシュも肩を竦める。
いいから行け、と軽く手を振るギルガメッシュに、クー・フーリンは従者から鍵を受け取った。
身体を堅くする王子の元に大またで歩み寄ると、その身をいきなり肩に担ぎ上げた。
「じゃあ貰って行くぜ」
「や、いや……だっ」
暴れる王子の腰を、軽く叩く。
「オマエはもう、オレのもんなんだから。大人しくしろってぇの」
ゲラゲラと笑う酔客たちに軽く手を振ると、クー・フーリンは王子を担いだまま退席した。
(……酷い)
こんなのって、ない。
たとえば見知らぬ奴隷がこの身を犯しても。王子は耐えられただろう。
けれどもこの男は嫌だ。
きつく噛みしめた唇が切れて、血が滲む。枯れ果てたはずの涙すら、滲んで来た。
クー・フーリンは王子を担いだまま、屋敷の裏手まで急いだ。
「ったく、あのヤロウ……いつか絶対殺す」
そうぶっそうな事を呟きながら、そっと王子を地面に下ろした。
すぐ外してやるからな、と言われ、枷をガチャガチャと外される。
「ああ、酷ェ。痣になってやがる」
そっと労るように首筋を撫でられ――王子はびくりと身を竦ませた。
「ンな顔すんなって。何もしねェよ」
「――わ、たしを、辱めると……」
「悪かったな。ああでも言わなくちゃ、あの場は納まらなかった――誇りを傷つけて、すまなかった」
「…………っ?」
深く頭まで下げられて、王子は戸惑う。
「あのヤロウ、一国の王子にこんな格好までさせやがって。ふざけるにもほどがある」
「私は、もう――王子では……」
「あんたの国は、滅びちゃいねェ」
低い囁きに、え、と王子の眼が見開かれる。
「確かに王都は焼かれたが、あんたの民はそんなに弱かねェよ。今は力を溜めて――王様の帰りを待ってる。オレはあんたを迎えに来たんだ」
「でも、私たちは、敵どうしで……」
クー・フーリンの国はギルガメッシュの国と同盟を結んでいる。
「親父もようやくオレに国を譲る気になってな――オレはあいつの国よりも、あんたとの同盟を選ぶ」
「なぜ……?」
もう滅びかけた小国と、強大な国。どちらを選んだほうが良いかなどと、子供でもわかることだ。
「大丈夫だ、オレは光の御子だぜ? オレが呼びかければばらばらだった小さな国がぜんぶ纏まる。そうしたら、あいつの国だってそう手は出せない」
だから、帰ろう。
あんたの国へ。
「……これ、は、夢なのか……?」
自分は今もう死にかけていて。幸せな夢を見ている、のではないのか?
だとしたらなんと甘美な夢なのだろう。
あんなにも焦がれた敵国の王子が、こうして己を迎えに来てくれる、などと。
「夢じゃねェけど――まあ、ちょっとだけ、眼をつぶってろ」
なんだ、と言いかけた唇を、そっと塞がれる。
(――っ、な、何を……っ)
「あんたにこうしたかったってのは、本音だからな。ちいとばかり役得」
ちゅ、と音を立てて離れた唇にそっと指で触れ、クー・フーリンは笑う。
「な、何をするか、たわけっ」
あはは、悪い悪い、と王子の拳を避け、その腰を抱いて馬にひょいと乗せる。ひらりとその後ろに飛び乗ると、逞しい愛馬の腹を軽く蹴る。
「帰ろうぜ――エミヤ」
小さく耳元で囁かれて。
王子は――エミヤは頷くと、こぼれそうになる涙をぐっと堪えた。
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- January 25, 2023