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鏡像崇拝/Novel by ちくわぶ

鏡像崇拝

3,488 character(s)6 mins

版権元:Fate/Grand Order
注意事項:腐向け?(クー・フーリン・オルタ×弓) ネタバレ ねつ造

ツイッターの投票機能で遊びましたがオルタニキ弓人気強いですね。これが旬というやつか……。
しばしばツイッターとかで目にする、「ぐだーずが行くより前に守護者としてタニキと戦闘して人知れず敗れてるエミヤ」って最高だよなっておもって書きました。2時間クオリティ。
腐向けってつけたけど多分腐向けを期待する人には物足りないです。

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 いつもそうだ。
 瑞々しく、朗らかで、獰猛で、伸び伸びとした野を駆ける君の美しい本質が、誰かによって歪められる。そうして、それを潔しとして受け入れて、捻じ曲げられてもなお凛として立つ我が英雄。君の生き様が、立ち姿が、すべてが私を愚弄し糾弾している。
 運命を受け入れよ、決めたのならば一片の悔いも残さず走り切れ。人生を賭してそう生きた人。よく覚えてはいないが、それに憧れを抱いた日々も確かにあったはずなのだ。だけど今、奴隷の身となって、叶わぬ過去の残滓を追って這いずる醜悪な怪物となって、頓に思う。
 なんで、君はサーヴァントになんてなってしまったんだ。
 なんで、そこまで弄ばれても割り切ってしまうんだ。
 いつもそうだ。俺にはお前のことなどこれっぽっちも理解できない。憧憬は憎悪へそのまま反転し、その愚直なまでに真摯な姿に、今はただひたすら吐き気がする。
 正しく、律儀で、自分の道を省みない男。誰もが憧れた大英雄。
 だから貴様とは気が合わない。

「――だからお前が嫌いなんだ、クー・フーリン」

 負け犬の遠吠えである。
 聖杯により王の形で拵えられた男と、人類により人の形をとった剣と。くだらない代理戦争だ。今まさに千々に引き裂かれ終焉を迎えようとする人類史という総体の、最後の断末魔が私だった。
 崩壊が止まらない右腕は諦めて、片手では弓は引けまいと半身たる大弓を消して霧散するエーテルを埋める慰めとした。左手は、次に握る剣の設計だけ表層に置いて空手のままにしておく。どう転んでもこれが最後の投影になる。無駄は避けたい。
 いつか私を殺した青い軽装とは真逆に、装飾が増した黒く赤い異形はひび割れの一つもなく聳えていた。削っても削っても魔力の制約などないものとして鎧ばかりが厚くなっていくのだから冗談ではない。敢えて擁護的に判じるなら一騎で彼にここまで着込ませただけ上出来なものなのかもしれなかったが、戦争に敢闘賞などはなく結果が全てだ。愉しみも生きがいも大義名分すら全て捨て去った狂王は、馬鹿みたいに強かった。
 ……それが、本当に腹が立つ。
「そうかい。俺は案外お前のことは嫌いじゃないぜ」
 聞き慣れた声、知った口調が何の感慨もなく言葉を放る。舌を打つ代わりに返答した。
「馬鹿馬鹿しい、今の貴様に好きも嫌いもあるものか」
「フム、それもそうだな。しかしオレがこの殻を纏うのは此度が最初で最後だと認識しているが、小賢しい立ち回りといいやけに俺に詳しいやつだ」
 どこかで会ったか? などと余裕ぶった口ぶりでとぼけてくる。もう少し余力があれば与太話に付き合ってやってもよかったが、ひどい寒気が起こす震えが左手にまで波及してきたので開きかけた口を閉じた。時間があまり残されていない。
 目標を見据えたまま、彼我の距離を測る。今は遠すぎる、もう少し接近せねば話にならないが、瓦解する四肢が歩行という動作にどれだけ耐えうるものか――一度きりしかない機会で試すにはあまりに分の悪い賭けだった。
 それよりは、と信じて待つ。どれだけ狂って見えても、底に根差すものは変わりないはずだと……いや、変わらないからこそ狂った・・・・・・・・・・・・のだと、信じていた。戦いを是とし強者を称えるケルトの戦士たちの気風。ほとんど隠されたそれがまだ暗い荊棘の下で潰えずに残っているのなら、最後のとどめは必ず自分の手を汚す。私が最期の機会を窺っているとわかっていてもそうせざるを得ないはずだ。
(――私が彼に敬うべき強者と思われていたら、という注釈がつくが)
 思い上がりも甚だしいが、ここに至ってはどこかの聖杯戦争での男の賛辞を信じる他ない。この一点が賭けだった。路傍の石として捨て置かれても、そのまま消えて終いだろう。彼に私の知る英雄としての要素が一かけらも残っていなければ、あるいは彼が私に戦士の素養を見出していなければ、そういう終わりも十分あり得る。理性的には寧ろその可能性の方が高いと叩きだしていながら、ここまでの因縁で散々苦渋を味わわされてきた精神だけがここで待つ判断をよしとした。一呼吸ごとに終わりがちらつく。それでも、敵を信じるという愚行をあえて犯してただ待った。

 ――はたして。
 軽口を叩く余裕も、挑発を練り回す気力もなく黙りこんだ私に終わりの近さを感じ取ったのか。靴底が鋭く伸びた分いつかより大きくなった歩幅で、王がこちらへの一歩を踏み出した。期待と歓喜に沸き立つ肉体を押し留める。殉教者らしく、最後の瞬間までは王の慈悲を待つ一兵卒とならねばならない。
 爬虫類にも似たゆっくりとした足取りで歩を詰めた男は、手にした槍を片手で無造作に持ちあげて宣言した。
「お前は十分抗った、抑止の守護者。だがこれが世界の総意ということだ。噛み締めてよく死にな」
 黒い泥に沈められたような濁った赤の穂先がピタリと一寸のぶれもなく向けられる。狙いは違わず心の臓。あと数秒もあれば自壊するだろう霊核を穿たんと手向けられた、王の傲慢/王の慈悲だった。
 予備動作はほとんどなく、一歩の踏み込みが静かな穂先を雷光と化す。迫る一撃を目を見開いて視界に捉え、待機させていた剣を無理やり形にしながらこちらも一歩を踏み出した。
 一度くれてやった心臓だ、味を占めたというのならもう一度まではくれてやる。最後にこの剣と、真名を発す言霊だけが残ればいい。
 前進が為すぐに訪れた接触の瞬間は、刺突というより炸裂だった。健気に脈打つ偽りの心臓が、花開くように呆気なく破裂し、霊核に修繕しようもない亀裂が入ったのを感じる。痛みよりも存在が瓦解する喪失感が知覚しているはずの世界を黒塗りして私を追いだそうとする。それでも、敵との距離を測り間違うほど落ちぶれてはいなかった。ひび割れたもう片足を踏み出す。ほとんど千切れかけた左腕を振るい、唱えた。
「……破戒すべき全ての符ルールブレイカー――ッ!」
 霊核が望ましいが、最悪ほんの一太刀でいい。相手がなんであれ、サーヴァントなんてものは突き詰めれば聖杯を用いた降霊儀式の結果に過ぎない。届きさえすれば決するはずだった。そして、最後までイメージを試みた思考は絶対に届くと弾きだしていた。なけなしの魔力が全て真名開放のために注がれる。どうせ霊核は破られたのだから実体化のための魔力など残さなくていいと、求められるがまますべてのエーテルを明け渡した。大丈夫だ、ギリギリ足りる。この不愉快な怪物を、これでこの現世から消し去ってやれると――。


 ――カアン、と音がした。
 握る短剣を横から何かが打った音だった。保持するだけの握力は残っておらず、弾きだされた対魔術宝具は構成を保てず空気にとけた。
 視野も感覚もほとんど残っていない。想定外の空ぶりと下肢の崩壊に倒れ伏したが、質量も密度も失した体には衝撃を感じる機関もなかった。
(何が起きた?)
 ただ、困惑していた。男の突きだす槍の軌道を逆向きになぞって剣を突きだしたのだ、自分の体と武器が邪魔になって男の迎撃は不可能だったはず。いや、何より今の衝撃は真横からやってきた。尾の動きを見逃したか? そんなはずはなかったはずだが、しかし、今のは説明がつかない。
 グルグルと混乱するばかりの思考が晴れたのは、頭上から降ってきた狂王の声のおかげだった。

「一騎打ちだと思っていたか? だったら悪いことしたな」

 ――――――そうか。
 ああ、そうだ、これは私が愚かだった。他の者の姿が見えない空間で、幾千の剣戟を交える内に、これは一騎打ちなのだと、確かに思い込んでいた。
(……馬鹿だな、敵に弓兵の配下がいると知っていただろうに)
 一対一だと、私だけが信じていた。こんな馬鹿げた話があるか? 自嘲したかったが、再現するだけの肉体はもう残されていなかった。ただ、ぽかりと穴を空けた左胸そのままに虚しかった。
「じゃあな、今のは悪くなかったぜ」
 音も何も届かないはずの耳に、男の声だけがなぜか入りこんできた。懐かしい声だ。どこかで聞いたようなことを、楽しくもなさそうな声音で言う。
「――ああ、くそ。だからお前が嫌いなんだ」
 最低な気分だ。何度だって殺してやりたい。
 それが果たせなかったからせめて最期に呟いたつもりだが、多分音にはならなかった。

Comments

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    April 19, 2016
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