(政府の)犬です、よろしくお願いします   作:TE勢残党

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22 最強決定戦

 演習そのものは、つつがなく完了しようとしていた。

 

 最新型兵器(魔法師)の展覧会としての性質を持ちつつも、それぞれの兵士の運用ノウハウを共有するという建前もまた必要な目的である。連携訓練や魔法を併用したCQB、射撃訓練など一通りのプログラムをこなしていく。

 

 重ねて言うが、現代において陸軍と海軍の関係は特段悪くない。業務の被る部分について競うことはあれど、基本的には健全な対抗意識の範疇である。

 

 今回の演習も、外から見れば秘密の特殊部隊同士による極秘作戦であったが、実のところそれなりに盛り上がった。

 

 中でも白熱したのは、全員参加によるスティープルチェース・クロスカントリーである。

 

 この「街」は、軍の森林戦・山岳戦訓練の種目であるスティープルチェース・クロスカントリーの変則コースとしての役割も持っている。

 

 市街のあちこちには、「民兵」や「狙撃手」を想定した自動銃座や自爆ドローン、地雷などが設置されている(流石に非殺傷設定ではあるが)。コースはショッピングモール、放棄された地下道、廃線になった鉄道駅、雑居ビル、荒れた公園、無人のマンションなど、市街戦において想定されるロケーションを効率的に経由する。

 

 通常のスティープルチェースは山道などで木の上に出ない条件で競われるが、このコースでは街中を、周辺で最も高い建物より上に出ない条件で実施される。

 

「30分切りが4人も出るとは」

 

「陸さんも中々の面子を揃えてるねえ」

 

 この手の種目に慣れている江藤と山田は、参加者のレベルの高さを特に実感しているようだ。

 

 なお、本種目でぶっちぎりの最高成績なのは創一朗であり、マルチスコープで進路を確認しながら「鉄槌」を応用した重力場でゴリ押ししてノンストップで走り抜けた結果、17分42秒という妨害ありの不整地とはとても思えないような記録を叩き出している。

 

 次点が模範として出走した風間少佐の21分であり、司波達也がほぼ同スコアでこれに続くことを考慮すれば、この記録は異常なものと言えた。各国の軍が公式記録を出していないため不明だが、非公認ながら世界記録ではないかと目されている。

 

 閑話休題。ここまで丸一日かけて行われた訓練プログラムの数々は、あくまで序章のようなもの。

 

 今回の演習が実施されるに至った最大の理由は、最後に予定されているたった1組の模擬戦に集約されている。

 

「独立魔装大隊 大黒竜也特尉です」

 

 淀みなく名乗るこの少年こそが、本来の「この世界の主人公」。

 

 創一朗がその目で見るのは初めてだが、彼はこの人物を知っている。

 

 今からおよそ2年後、彼が魔法科高校に入学するところからこの世界の物語は幕を開け、そして卒業と同時にいったんの完結を迎えることを知っている。

 

 その間、彼に襲い掛かった数々の敵対者たちは、軒並み彼の圧倒的な力によって粉砕されていったことも。

 

「対魔装特選隊 榊創一朗大尉だ。……この場合、俺の方が階級高いんだよね?」

 

 だから、可能な限り関わりたくないと思っていた。

 

 彼との敵対は死を意味する。そうでなくとも、彼との関わりの中で破滅していく者は多い。これほど会いたくない原作主人公もそうそう居るものではないと、創一朗は原作を知っているからこそよく知っていた。

 

 一方、達也は創一朗に強い興味があった。

 

 沖縄戦で、自分たちの出る幕をなくしてしまった謎の魔法師。その直後に当時未登録だった戦略級魔法「海割り(モーゼス・ストライク)」を繰り出し、大亜連合の艦隊を葬り去った秘匿戦略級魔法師「鉄仮面」。

 

 それらは全て、今達也の目の前で居心地悪そうにしているバイザーの人物であると、彼は確信している。

 

 達也には野望がある。「魔法師が兵器であることを強制されない世界」だ。

 

 彼はただ、妹の成長を見守りながら、どこか静かな場所で研究三昧できればそれでよかった。だが、強すぎる力を持って生まれた彼を、どうあれ世界は放っておかない。

 

 冷静で大人びて見えるが、調整による情動制御のせいで枯れて見えるだけで年相応の視野の狭さを持っている彼は、自分ではなく世界の方を変えることにした。

 

 だから達也は、一度自分の目で見て、知りたかったのだ。

 

 兵器として作り出された魔法師の極致を。

 

 軍事的魔法研究の行き着く先を。

 

 ――自分が逃げ出そうとしている(ESCAPES)「仕事」の何たるかを。

 

 だから達也は、演習中の「精霊の眼(エレメンタル・サイト)」使用解禁を決めていた。「分解」もだ。創一朗の情報収集によって他家との交渉にアドバンテージを得るという名目で、彼は既に真夜の許可を取り付けていた。

 

 もとより、彼は家中でも微妙な立場だ。故あって本家では腫物扱いされている一方で、血筋そのものは当主の直系であり、妹の深雪は四葉家次期当主候補筆頭。

 

 今こうして陸軍の助っ人をやっているのだって、力があるにも拘らず冷遇されていることを軍が見抜いた結果だった。沖縄で「再成」を見せた達也を陸軍は放っておかず、そこから「分解」と、それが齎す極大破壊魔法の存在まで行きつくのにそう時間はかからなかった。

 

 これは、新たな秘匿戦略級魔法師である達也の「戦略級以外の部分」を測り、軍部へ達也のプレゼンスを証明するための戦闘でもある。達也と四葉家には十師族の尖兵になり下がったつもりなどなかったが、軍の人間で達也の事情を知るものの考えは違う。

 

 決戦場となった市街から離れた、監視用のモニタールーム。

 

 「最強決定戦」の観戦席となったそこには、陸海軍の将官クラスや政府高官のほか、十師族・九島家の影の支配者こと九島烈までもが詰めかけていた。

 

 このクラスの人間たちには、達也が四葉家の縁者であることに感づいている者がいくらかいる。

 

 そうでなくとも、海軍特務"M機関"は軍部における反十師族派の総本山だ。その対抗馬として事実上擁立された達也がどういう存在であるか、推し量れない者はこの場にはいなかった。

 

 達也が勝てば、四葉との関係を知る政府高官は「十師族が意地を見せた」と判断するし、そうでなければ、達也は「建前通り」四葉家とは何の関係もない一般人だったことになる。

 

 

 

 二人は挨拶もそこそこに、お互いに設定された開始地点に移動する。指定ポイントは半径10mの円形で、範囲内ならどこに陣取ってスタートしてもよいものとされた。

 

 達也はビルの最上階を選んだ。

 

 創一朗は遮蔽物の少ない道路上を選択。

 

 今回の演習では、二人は約1キロ離れた場所からスタートすることになっていた。お互いに視界範囲内を対象とする超高殺傷力の魔法を保有することから、お互いが見える距離で模擬戦を始めてしまうと西部劇的な早撃ち勝負に終始してしまうためだ。

 

 それでは条件が限定的過ぎて実力を測るに不適切との判断から、彼らは1対1とは思えないほどの距離からスタートすることとなった。

 

 これは達也にとって有利な条件である。正面きっての撃ち合いなら、達也のキャスト・ジャミングや術式解体はあくまで人間の反射神経を土台にしているので、創一朗の鉄槌の方が早い。

 

 一方で、今回の勝負では「最初に撃破判定が出た方の負け」というルールで勝負が行われることになっている。

 

 これは創一朗にとって有利な条件である。達也の本領は「殺されてから」であり、再成連打による千日手に持ち込まれると創一朗の方が先にサイオン切れを起こす。

 

 総じて、今回の条件はある程度対等に近いと言えた。

 

 

 

 模擬戦闘の開始を告げる号砲は、二人のちょうど中間地点に設置された銃座の空砲が撃ち出された瞬間とされた。

 

 二人と銃座はそれぞれ500メートルほど離れているので、本来、空砲の音が二人の耳に届くまでには1秒半ほどの間があるはず。

 

 だというのに銃座が起動した瞬間、達也と創一朗は示し合せたかのように動き出した。お互いに持ち合わせる手段によって、銃座の様子を認識していたのだ。

 

 それは魔法的素養の事前使用という意味でフライングだったが、そのことを指摘するものはここには居なかった。無粋とかそういう話ではなく、外からでは不正を証明できないからだ。

 

 だが、対戦相手の居場所を事前にサーチするとなると相手にバレて不正を指摘される可能性が跳ね上がる。二人は言葉を交わすまでもなく、「開始前に調査するのは号砲の位置まで」という合意を形成していた。

 

 そこから0コンマ数秒の刹那に、いくつかのことが同時に起こった。

 

 まず、創一朗と達也はお互いに自らの知覚手段を用い、周辺地形の調査を始める。

 

 大量の物品に溢れた市街というステージにおいて、情報処理能力に長ける精霊の眼は最大限の性能を発揮する。ただでさえ「自分と銃座を結んだ直線の先に相手がいる」というヒントがあるため、彼は先んじて創一朗の現在地を探し出した。

 

(呆れた力業だが……ここまで大規模にやられたら有効性を認めざるを得ないな。っと、足場が)

 

 しかしその直後、達也は強大な魔法の発生を探知。「分解」の使用を中断し、傾きだしたビルを脱する羽目になる。

 

 創一朗に必要だったのは、遠隔での魔法発動のために地形を観測すること。彼ははじめから、達也の位置を割り出そうとしてなどいない。

 

 ただ、大雑把にアタリを付けた地点周辺の建物を「鉄槌」で無作為に破壊していた。

 

 あとコンマ数秒だけ達也の集中が続いていたら、魔法の出所を特定された上での遠隔術式解散(グラム・ディスパージョン)が間に合っていただろう。しかし無差別爆撃のごとき様相を呈し始めた市街は、達也にその隙を与えなかった。

 

 ほんの半秒ほどで10棟を超えるビルが破砕され、あるいは基礎部分を失って倒壊し始めている。

 

 創一朗はその轟音を遠巻きに聞きながら、崩れていく街の中に小さな熱源を探知。すかさず鉄槌で攻撃するが、破壊されたのはただのマネキンだった。恐らくは「フラッシュ・キャスト」で何らかの魔法を発動し、見かけ上の熱量を誤魔化したのだろう。

 

「だよなぁ」

 

 達也は本質的にはBS魔法師だ。生まれ持った1つの魔法に演算領域の全てが使われ、他の魔法を全く使うことができない。

 

 後天的な調整(人体改造)によって最低限の魔法技能を得られてこそいるが、術式解体や術式解散による対抗手段をわざわざ用意しなければならないことからも分かる通り、達也は干渉装甲が弱いという欠点を抱えている。

 

 それは並の魔法師なら難なく跳ね返せる魔法も、発動を許してしまえば食らうしかないという脆弱性を意味し、翻ってこの戦闘において、「鉄槌」に捕らえられたら即撃破判定になることを意味する。達也が身を隠すのは当然に予想される展開だった。

 

 そこで創一朗は、新たな魔法を発動させる。

 

 崩れつつあったビルがピタリと止まり、夥しい量の瓦礫が巻き上げられ、まるで意思を持った一つの生物のように組みあがってゆく。

 

「視聴者サービスもしとかないとね!」

 

 七草家から極秘に提供された群体制御*1のノウハウ。

 

 魔法大学の俊英・廿楽(つづら)計夫(かずお)の論文から仕入れたポリヒドラ・ハンドル*2

 

 金沢魔法理学研究所(旧・第一研)に掛け合い、加重系PKデータとの交換で入手した数学的連鎖(アリスマティック・チェイン)*3

 

 そして第三研と岬玲から供与されたガトリング・キャストの運用データ。

 

 これらを併用することにより、「鉄槌」で破壊したビルの瓦礫をまるで1個の生物のように自在に操る広範囲質量攻撃が顕現する。現代魔法的アプローチによる、創一朗の新たな攻撃手段であった。

 

 辺りを覆っていた土煙がほんの短い時間だけ晴れ、そこには瓦礫でできた龍のごときシルエットが浮かび上がっていた。

 

「出て来いよ!」

 

 巨大な「龍」は、創一朗の操作に従って市街地に向けて降り注ぎ、周辺地域一帯が轟音と土煙に包まれる――直前。

 

 創一朗の鋭敏な感覚が、市街の中から別の魔法が発動した兆候を読み取った!

 

(……見つけた) 

 

 ほんの一瞬、稲妻のようなサイオンの光が瓦礫を通過すると、まず瓦礫に付与されていた魔法が、次に瓦礫そのものが一気に分解され、目算数万トンの巨大質量塊は即座に砂の塊へと変貌。地面に叩きつけられるより早く空気に溶け、砂のように音もなく降り注いでいく。

 

 光の出所には、銀色に輝くCADを構えて立つ達也の姿があった。

 

 それは紛れもなくシルバーホーンであり、使われた魔法は雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)である。

 

 そして、達也の攻撃はこれでは終わらない。

 

 彼は迎撃と同時に、魔法の出所に対して精霊の眼による観測を開始していた。

 

 達也の眼はイデアに直接アクセスし、その存在に関連するあらゆる情報を読み取ることが可能だ。

 

 これにより、先ほどは朧気に位置を把握するまでが限界だった創一朗の所在が明瞭になると共に、彼を構成するあらゆる情報が達也の中へと流れ込んでくる。

 

(!?)

 

 その中で達也は、一つの興味深い、あるいは不可思議な事象を発見する。

 

 

 

 

 

 

 ――その器には、()()2()()あった。

*1
少なくとも100以上の物体を総体として捉え、1つの生き物のように動かす技術

*2
構造物をごく単純な多面体の集まりとして抽象化し、大規模な構造物の変化を総体的にコントロールする魔法。熟練者なら、今まさに崩れ落ちている瓦礫ひとつひとつを微妙に動かして即席アーチを構築、下敷きになるのを防ぐというような極めて繊細な制御が可能

*3
物体同士の移動・衝突を機械的な演算によって制御・誘導する魔法

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