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ありがとうございます。
今から30年ほど前。
第三次世界大戦も末期に差し掛かった頃、大亜連合の高麗自治軍が日本の対馬へと侵攻した。
当時、守りが手薄だった対馬はあっけなく占領され、住民の大半は死亡、生き残った者は悪名高い捕虜収容所へと拉致された。
……結論から言えば、対馬はすぐに奪還された。拉致されていた島民たちも、それから数ヶ月の間に陸軍の特殊部隊によって収容所が次々に襲撃・解放され帰国することとなる。
だが日本の人々はこの時初めて、対馬に拠点が作られ本土が被害に晒されるかもしれないという具体的な脅威を味わった。当時からこの出来事に関する国民の関心は極めて大きく、現在まで続く国民の武断的性格を決定づけた出来事だったと言われることもある。
一連の紛争では、国防海軍の保有する「事実上の航空母艦」と名高い護衛艦が活躍し、当時既に旧式化していたF-47で敵機を次々撃墜した若き艦載機パイロットが英雄として名を挙げ、ちょっとしたフィーバーが起こったりもした。
対馬侵攻から最後の捕虜収容所が解放されるまで、およそ10ヶ月。戦略的に見れば当時いくらでもあった紛争のひとつであり、結果的に日本の国防態勢には何ら影響をもたらさなかったが、現地の一般人にとって10ヶ月という期間は長かった。
助け出された捕虜達の身元や外見などの情報は、プライバシーの保護を名目として徹底的に隠蔽されることになる。
マスコミを完封する権力の大盤振る舞いは、なにも被害者のためを思って行われた訳ではなかった。
助け出された捕虜達はその殆どが女性であり、そして妊娠していた。この中には、拉致された当時小学6年生だった江藤龍征の母が含まれる。
「明らかに小中学生にしか見えない少女たちが、大きなお腹を抱えて輸送機から降りてくる」。
その絵面は、対大亜連合強硬派に政権を取らせ、せっかく成立していた大亜連合との停戦講和を無に帰すだけの威力がある。少なくとも当時の日本首脳部はそう判断した。
だから隠した。隠し撮りしていた記者を暗殺し、少しでも口を滑らせた人間を冤罪をでっち上げて投獄し、ネットに流出しないか24時間体制で監視した。
大亜連合は、日本がそうすることを知っていた。知っていたから捕虜収容所の襲撃に抵抗しなかったし、兵士のガス抜きと日本への嫌がらせを兼ねて女たちを弄ぶのを許した。
これを公にすれば、大亜連合は国際的に非難されるだろうが、それ以上に日本は大亜連合に攻め込まなければ民意を抑えられなくなる。
一方で、この時点での大亜連合の軍事力は日本の数倍あった。日本が飲み込まれずに済んでいたのは、島国という立地を生かして要塞化した国土に立てこもり、海軍力と空軍力の勝負に徹していたからだ。
日本が攻撃に転じれば、その均衡は崩れる。大亜連合は陸軍の圧倒的物量をもって上陸部隊を圧殺し、疲弊した日本へ逆侵攻をかけるだろう。その時、日本はもはや本土を守りきることができない。
その流れを両国ともに確信していたからこそ、大亜連合側は妊娠した捕虜を用済みとばかりに引き渡し、日本はそれを受け入れざるを得なかった。戦いは最終的に日本有利の結果となったが、政治的には明確に敗北していたのだ。
結果として、国民にその事実は隠し通せた訳だが、それで問題が無くなる訳ではない。
助け出された彼女らは帰国後すぐ病院に担ぎ込まれたが、半分ほどは既に月齢が進みすぎており、もはや産むしかない状況に追いやられた。
政府側は超法規的措置に基づく堕胎――産まれた直後に締めて、死産だったことにする――を提案したが、さらに半分ほどはこれを良しとしなかった。
彼女らが何を思ったかは最早定かでないが、産まれた子供は適切な支援のもとで市井に返され、問題は解決したかに思われた。
だが数年後、首脳部は見立ての甘さを後悔する。
この時産まれた子供達の1人が、魔法適性検査で極めて高い成績を残したのである。
――龍征の母は、拉致されていた当時のことを一切語らなかった。故にこの話は軍でもごく一部の人間にしか知らされていないが、遺伝子情報と龍征が先天的に保有していた魔法から、「胤」の出処については陸軍情報部によって調べが付いている。
大亜連合の保有する特殊工作部隊「八仙」。その構成員が用いるとされる対抗魔法「渾然一体」を、龍征は生まれながらに修得していた。
恐らくそれは欲望に負けた八仙の落ち度だが、結果として極秘の対抗魔法が日本に渡ってしまったのだ。
生い立ちが生い立ちである以上、これが大亜連合に知れたら龍征の確保に乗り出す可能性は極めて高い。暗殺や拉致ならまだよく、彼の身柄保護を名分として再び侵攻を仕掛けてくる可能性すら充分に考えられた。
だから、日本政府はこれも隠した。
親元から離し、軍に囲い込み、その魔法力を研究し極秘に任務をこなす限り生存を許した。
それでも龍征は成長し、父親譲りの身体能力と魔法の実力を併せ持つ立派な工作員となった。彼は公式には夭逝したことになっていて、ほんの小さな時から親元を離れている。
ただ、母親は彼に「龍征」と名付けた。
全ての元凶となった大亜連合への胸の内は、それである程度察することが出来るだろう。
――以上が、俺の知っている対馬侵攻のあらましである。
つまり俺が何を言いたいかというと、はしゃぎすぎた反動で強烈な賢者タイムに陥ってるということだ。これ龍征さんにバレたら裏切っちゃうぞあの人。
俺は存在そのものが人道に対する罪みたいなところがあるので半ば開き直りの境地だし、危うく性癖が歪みそうになるくらいガッツリ楽しんだので何も言う権利がない。出された物は美味しく食べる主義なのだ、俺は。
でもそれは理屈の話であって、同じ隊からも許容できない者は出るだろう。そうしたら、脱落者を処分するのは俺の役目だ。
言い訳するのは簡単だけど、それはそれでダサい気がする。せめて憎みやすい悪役であるべきか。
研究所から基地へ帰る自動運転車の中で、ヒマな時はいつでも通っていいからなと言われながら俺はそんなことを考えていた。
◆ ◆ ◆
都内某所。
いわゆる23区は今でも発展しているが、外縁部になると人口減少に伴って放棄された区画が多くなる。日本はまだ国土が狭いのでマシな方だが、アメリカやユーラシアなどの広い土地では、町ごと放棄されて自然に帰ったような土地も多く存在している。
大きさの割に人気のない駅から車で数十分。県境の川沿いに、老朽化した雑居ビル群を見ることができる。大戦による急激な人口減少と疎開の進行に伴い、この場所を通っていた鉄道が廃線になったのを契機にゴーストタウン化した地域だ。現在の繁華街は、数キロ先を通っている別の私鉄駅に吸収されている。
大戦中に実行された非利用地の接収(外国勢力による拠点構築への対策に関する法律)によって国有化され、以来国が管理している「負の遺産」の一つである。このような廃墟は日本中に点在しており、国は解体費や管理費に悩まされている訳だが、この地域に関してはまだ有効に利用されている方だった。
現在ここは、町まるごと陸軍管轄の訓練施設としてリフォームされている。オフィスビルから風俗店まで街中にありそうな大体の施設や店舗が揃っていたことに目を付け、特殊部隊などの市街戦訓練場として利用されているのだ。
そして今日は、海軍と陸軍の特殊部隊が合同でここを使用する手はずとなっている。
「……」
無人となって久しい広場の中央に、創一朗はいた。
所在なさげに突っ立っているように見えるが、わざと見通しのいい場所に身を晒しつつマルチスコープを用いて索敵中であることは、今回の模擬戦で「敵役」をやっている対魔装特選隊の3人にも分かっている。
創一朗にとって遮蔽物や隠形による隠蔽は意味をなさない。だが両方が重なれば話は別だ。直接視界の中に捉えられない限り、山田の各種古式魔法は創一朗の探知を躱すに十分な練度を有する。
最寄りの安全地帯から創一朗までの距離はおよそ90メートル。自己加速術式で突っ込むとしても、動き出しから到達までの所要時間はおよそ0.3秒。魔法が完成する前に気づかれる可能性が高いので、実際にはもう0.3秒ほど必要だろう。玲の現代魔法の発動スピードは概ね330から340ミリ秒ほどだ。
高レベルの魔法師同士による戦闘では、0.1秒単位の処理能力の差がそのまま生死に直結する。
こと創一朗を相手取るには、0.6秒は長すぎる。
だが、その距離に挑む者が現れた。
「いざ勝負!!」
岬玲だ。
自己加速術式によって飛び出した彼女を、創一朗の視界が捉える。
彼にはわかる。その姿は、光への干渉と錯覚によって作り出された虚像だった。
(
無論、それは彼女自身によるものではなく、どこかで援護しているだろう山田によるものだ。付け加えるなら、それは仮装行列ではなくその原型に当たる「纏衣の逃げ水」に近かった。
どちらにせよ、秘伝のはずのこの術法をどこで学んだのかという疑問を抜きにしても、「原作知識」の中で他人にそれらの対抗魔法を掛けるという離れ業を実現した例はない。
創一朗が虚を突かれ、彼女の本来の居場所を発見するまでおよそ0.3秒。その間に玲はちゃっかり加速と身体強化を完成させた。
その早業に感心しつつ、すぐさま「鉄槌」を起動。人間を超えた速度に追随できるものはなく、実験では
だが、その効果は玲に及ぶことはなく、彼女の前面に展開している障壁によって阻まれる。
これは「鉄槌」の抱える大きな欠点の一つだ。創一朗から本人の間に遮蔽物がある場合、ターゲットがそちらに吸われてしまうのである。
通常はマルチスコープの効果で間の障害物を迂回できるが、これが身体全面を覆う障壁魔法の場合、その内側に視界を入れる手段がないため、障壁は有効に作用する。
ただし、並の障壁では駄目だ。創一朗の鉄槌は大型船舶を一撃で真っ二つにする程度の威力があり、十山の遠隔シールドや桜シリーズの対物障壁すら力ずくで叩き割ってしまう*1。初撃は防げても、0.1秒後に次が飛んできて終わりだ。
つまり、鉄槌を止めるために必要な障壁は「鉄槌の破壊力に耐えうる頑強さ」と「機械的かつ瞬間的に大量生成される玉ねぎ構造」の少なくとも片方を条件として求められる。
現代までに確認されている中で、この条件を満たす障壁魔法は3種類。
十文字家の「ファランクス」は、(オーバークロック込みなら)両方の条件を満たしうる唯一の魔法だ。創一朗を前にしてもなお、首都の最終防壁は破られないと目される。
旧十神家(現・遠上家)の「リアクティブ・アーマー」も後者の条件を満たす。熟練した使い手にとって、リアクティブ・アーマーの最初の1枚は破られることを前提としたデコイみたいなものだ。
それをトリガーとして「到達した魔法の威力計算」と「それを防ぎうる種類・性能の防壁を後出しで張り直す」という処理が機械的に実行されるため、創一朗の処理速度をもってしても間に割り込むことができない。
そして最後の1つは、この岬玲によるガトリング・キャストだった。
「クソッ」
創一朗の悪態は、砕いた傍から次々に展開されていく障壁魔法に向けられている。
三矢家伝統のスピードローダー*2の発展形に当たるこの技術は、ごく単純で負荷の軽い魔法を同時大量展開することに最適化されている。
強力な防御力が必要な場合、複数枚の障壁を連続して張るより、1枚の障壁に強い干渉力を込めた方が強いというのが通説だ。そのため「桜シリーズ」のように単体の障壁を準備するのがセオリーだが、玲の魔法技術ならば非効率さを無視して疑似的な「ファランクス」の再現が可能だった。
無論、「本家本元」と比べて展開できる障壁の種類が少なく、1枚あたりの耐久性ではかなり劣るなど完全にトレースできているわけではなかったが、かのファランクスは劣化コピーでも十分以上の性能を示した。
このような方法で一度に大量生成された障壁は「鉄槌」によって容易に複数枚を巻き込んで破壊可能であるが、破壊された傍から次々追加されていくそれを全て突破するには、創一朗をもってしても相手の演算領域が限界を迎えるのを待つ必要がある。
ガトリング・キャストの欠点は、一度使用し始めると意識的には停止できず、サイオン切れになるか魔法演算領域のオーバーヒートを感じた脳が本能的に停止させるまで止まらないこと。本物のガトリング砲と同様、すぐに弾倉を撃ち尽くしたり銃身が赤熱したりという取り回しの悪さがあった。
障壁魔法の場合、オーバーヒートまでの猶予時間はおよそ6秒。
創一朗の元まで肉薄するには十分な時間だ。
二人が交錯する刹那、創一朗の足元から突如としてサイオンの光が噴き出す。
(しまった、下か!)
――創一朗のマルチスコープは、「PCゲームのカメラ移動みたいな操作感」と表現される。
壁を回り込むことは簡単だが、
その目論見は成功し、現在、創一朗の地下およそ15メートルに掘った横穴には山田と、彼と視界を共有した江藤龍征が隠れている。
魔法は本質的には物質的距離に影響されない。物理的影響を受けているように見えるのは、デバイスである魔法師の方が
だからこそ、壁越しの魔法発動のような直感に反する効果を生み出す場合には、科学的に物事を検証するようになった現代に作られた魔法より、奇跡と神話が「事実」であった時代に成立した古式魔法の方が、この「縛り」を突破するのに都合がよいと言われる。
江藤のサイオンは指向性を保ったまま創一朗の身体を覆い、待機している魔法を溶かしていく。
「
創一朗の鉄槌を完封するにはやや力不足ではあるものの、通常なら0.1秒以下、最速84ミリ秒で発動する鉄槌が、高位の戦闘魔法師なら対処可能な0.4秒ほどにまで鈍化する程度の効果は確認されている。
「ナイス龍征さん!!」
最大の優位である鉄槌を弱体化させられた創一朗は、バイザーの下で苦虫を嚙み潰したような顔をしながら玲を迎え撃つ。
――この状況に持ち込んでなお、玲たちの勝率は6割ほどだ。生化学的・機械工学的強化の最高到達点としての性格も持つ創一朗は、肉体の性能だけでも並の戦闘魔法師を一蹴する性能を発揮しうる。
そして、毎回手を変え品を変え江藤の渾然一体を叩き込み、それで初めて彼らは勝負の土俵に立つことができる。今回は不意打ちの纏衣もあってうまく決まったが、成功率は4割行くかどうかというところ。
この1VS3の模擬戦闘は対魔装特選隊の恒例行事となりつつあったが、玲たちの勝率はトータル25%前後で推移しているのだった。
◆ ◆ ◆
「は~やられたやられた」
結局、今回の勝負は創一朗の撃破判定によって幕を閉じた。
身体に着けていたサイオン検知器(致死性の魔法を検知し、実際に撃たなくても撃破判定を表示してくれる)を片付けながら、創一朗は部活終わりの中学生のようなテンションで発言する。
「あ゛~……ここまでやったんだからもうちょっと疲れてよ~」
横でグロッキーなのは、オーバーヒート寸前の魔法演算領域をアイシングで何とかしようとしている岬玲。ちなみに何とかなる訳もなく、本人曰く「一番ヤバい時の生理痛*3」並みの頭痛・発熱・倦怠感に丸一日ほど襲われることになる。
「はいはい」
「うぅ、創一朗くんが最近冷たい~」
ここ1年ほどの付き合いで玲の言動はよく知っているので、創一朗は適当に受け流しながら一抱えほどもあるタッパーを開封する。彼にとって、戦闘後の栄養補給は必須だった。
「最近、玲ちゃんのあしらい方が急に上達したねぇ」
タッパー満載のから揚げを口に放り込んでいると、普段は遠巻きにニコニコしている山田が珍しく会話に入ってくる。
山田の指摘通り、仕事としての付き合いだった時分より、自覚なく玲との距離は近づいていた。尤も、それは色気のある理由ではなく、玲の扱いが「駄目な姉」という方面にスライドしたことによるものだったが。
「ズバリ、彼女が出来たと見た」
「えっそうなの!?」
山田の発言に、さっきまで具合が悪そうにしていたはずの玲が一瞬で復活する。
その年頃で女性との距離感を修正できるのってそういうことだよねえ、と切り込む山田の言は、ある意味では合っているために質が悪かった。
「あー、まあ、色々あるんスよ」
「はは、悪いことじゃないさ。僕も若い時は随分ヤンチャしたもんだ」
そう言って山田が見せたスマホの画面には、中性的な印象の美少年が映っている。男物の着物を見事に着こなす糸目の少年は、細身ながらしっかり鍛えられていることが筋張った腕から分かり、長い銀髪を後ろにまとめている。総じて、少女漫画からそのまま出てきたような色気を持っていた。
ここで「お相手」については詮索しないのが暗部歴の長い先輩としての気遣いであり、この場に居る人間は全員がそれを分かっていた。
「これが15の時かな。当時はそりゃもうモテてねえ」
「白髪じゃなかったんだ……」
「うわーんまた置いて行かれた! この際年下でもいいやと思ったのに!」
今でこそハンチング帽の似合う糸目のおじさんでしかない山田だが、今に至るまでに随分色々なことを経由したようだ。
一方、さりげなく犯罪的な年齢差に挑もうとしていたことを暴露した玲は勢いのままに暴走を続ける。
「わたしの仲間は龍征さんしかいないんだ! やっぱり龍征さん貰って!」
「……断る。俺は生涯独身で通すと決めてる」
「だよねえ! 前も言われた!!」
基本無口でこの手の会話には参加してこない江藤龍征だが、岬玲(24歳独身・彼氏いない歴=年齢)に攻勢をかけられたことは前にもあるらしい。
そして、その時も結論は同じだったようだ。
「龍征くんは駄目だよ、彼は信念のある童貞だから。僕よりよっぽど聖職者やってるよ」
上が宛がった女の子を無傷で返すこと何百人……と茶化して語る山田だが、その価値観がどういう過去に基づいて形成されたものかは全員の知るところで、その「我儘」を通すために彼がどのくらいの代償を払ったかも皆が知っている。
本来、高位魔法師の生涯独身というのはよほどの理由がない限り許されず、何なら本人が拒否しても人工授精で勝手に親にされることも珍しくない。江藤はあの生い立ちだから、イジられる程度で済んでいるのである。
「いやー! 主婦になりたいー! 子供いっぱい欲しい~!!」
いっぽう、ついに駄々を捏ね始めた玲。彼女の情緒がこんな感じなのはいつものことなので、ほか3人は適当に聞き流している。
自己申告では「実家が数字落ちだから魔法界だと総スカンで見合いが組めない」とのことで、なまじ歴代最高峰の魔法技術を持って生まれた才媛であるために仕事から離れられず、結果プライベートが壊滅しているというのは事実であると創一朗も思っているし、その点かなり同情してもいる。
この思ったこと全部口に出す感じのコミュニケーション方法を改めればいくらでもいい人と出会えるだろうに、というツッコミを口に出すべきか悩んでいると、彼らのもとに近づいて来る装甲車が視界に入った。
「あ、やっと来ましたね」
そう。この日、この施設を利用する予定だったのは海軍と陸軍の特殊部隊だ。対魔装特選隊だけではない。
4人の前に止まった装甲車からは、10人ほどの武装した兵士が降りてくる。
その中には、創一朗にとって非常に見たくない顔ぶれも混ざっていた。
その中の一人が歩み出て、いつの間にか登場していた対魔装特選隊の隊長に向け、手慣れた様子で敬礼をする。
「国防陸軍第101旅団、独立魔装大隊 風間玄信少佐であります。本日は合同演習にお招きいただき、光栄であります」
――そう、彼らは原作にも登場する陸軍の魔法師部隊。
設立間もない彼らにとって、同様の部隊として既に実績を出している対魔装特選隊は秘密部隊としての先輩に当たる。陸軍の佐伯PMを通じて海軍M機関に連絡が行き、秘密裡の合同演習が組まれることは当然の成り行きと言える。
……というのが表向きの話。
「国防海軍特務"M機関" 対魔装特選隊 小野田弘樹大佐だ。こちらこそ、参加に感謝する。軍機を押しての参加であろうに、二つ返事であったと聞いている。……して、彼が?」
「ええ。新たな戦略級魔法師です。特尉、ご挨拶しろ」
「独立魔装大隊所属、大黒竜也特尉であります」
この演習はつまるところ、複雑な政治力が絡み合った結果生まれた、秘匿戦略級魔法師の品評会であった。
それは同時に、陸海軍による最強決定戦でもある。
海軍代表は当然、榊創一朗大尉。陸軍は大黒竜也特尉……もとい、司波達也であった。
分割しようか悩みましたが、これが一番話の進み的にいいかと思ったのでそのままにしています。
4/14追記:岬玲の年齢記載間違いを修正