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ありがとうございます。
川崎での戦いから一夜明け、俺たちには1週間の休暇が与えられた。
と言っても基地から出られる訳ではないので、ベッドでスマホ(今はiPhoneの玄孫世代にあたるシリーズが元気に更新を続けている)をいじるくらいしかすることがない。元々どっちかというまでもなくオタクだから俺は構わないが、軍人やるようなアウトドア派の人間はつらいだろう。
現に山田さんは「クセになってるから」と日の出前からトレーニングルームにいたし、玲さんも魔法の調整をするとかで研究室に籠っている。休みの日はガッツリ休むタイプなのは俺と龍征さんくらいなもんで、他の面々は常在戦場が板についてしまっている。
必要になったら上から事細かな指示出しが来ることを研究所暮らしで学んでしまったため、逆に何も言われないと何もしなくなってしまった気がするな。そういえば昔は暇なとき何してたんだっけ。
そうやって暇を持て余していたところ玲さんに捕まり、話し相手をしながら研究の手伝い(主に荷物持ち)をやることになった。
原作の司波達也と違って、俺はCADや使用する魔法式の調整などは完全に研究所に任せているので、自力では最低限の調整しかできない。
イチから魔法を開発できるレベルの司波達也はともかくとして、多少のアレンジや魔法式の組み換えなんかは自力でできた方がいいのだが……どうも昔から理論的な部分はサッパリだ。
澪さんが教えてくれた形状干渉まわりは最低限の知識を維持しているが、他の所になると完全に感覚だけで動かしている。なまじそれで何とかなってしまうのと、主兵装である鉄槌が「超能力」で詳細な理論建てを必要としていないことがネックになっている。
その点、玲さんはガチガチの現代魔法師なだけあり、普段適当なことしか言ってないのにかなりのインテリだ。彼女の、もとい岬家(分家)の研究内容は魔法演算領域の同調と規格化、それに伴う単純な魔法の同時大量展開だ。本家が数字落ちのドサクサで魔法師を引退してしまったため、現在は研究成果が彼女たち分家に引き継がれているのだという。
原作にこんな家あったっけ……というのが正直な感想だが、少なくとも「三咲」の数字落ちであるということと、相手の合意があれば他人の魔法演算領域を同調できるのは事実だ。
訓練場で試してみたが、同調中は俺の魔法演算領域を玲さんが使える……のだが、超能力と現代魔法は噛み合わせが悪いらしく、現代魔法の部分しか同期できなかったようである。それでも大した技術だ、国産ソーサリー・ブースター作成に一役買っただけのことはある。
玲さんの実家的には、この技術の研究を進めて光の当たる場所に帰りたいらしい。技術としては玲さんの代でオゾンサークルの再発明という領域に達している訳で、多分成果を積み上げるのが逆効果になってると思うのだが……。
ともかく、現代魔法をきちんと使いこなすには、少なくとも専門分野において理系修士レベルの理解度が求められるらしい。こういうところ、魔法は異能ではなく学問なんだなあと実感する。
現代魔法が勉強(研究)と練習を並行し、外から知識を「学んで」いくものである一方、俺のような超能力者・異能者は反復練習のなかで自分の中にある感覚と向き合っていく「修行」に重きを置くのが主流だ。学術的に両者は「技術として体系化されているか否か」で分類されているが、身に着けていく過程は全く異なる。
一応俺も一通りの系統魔法は覚えているが、それは繰り返される実践の中で感覚的に身に着けたものであって、体系的に現代魔法を勉強してきた人間のそれと比べると実は精度面で劣っている。「使える」というのはスペック上のゴリ押しの話で、その点司波達也とは対極にあると言えるだろう。
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自分の抱えている課題が再認識できた頃、食堂のニュースや上司の話などから、俺たちの行動の戦後処理がだいたい終わったらしいことが確認できた。
俺たちが数日ダラダラしている間に、世間では随分な騒ぎが起こっていたようだ。
米国では統合特殊作戦コマンドの司令官から始まり、CIAの東アジア担当部長、大統領次席補佐官2人、ついでにマクシミリアンの日本支社長が立て続けに「拳銃自殺」。真相は何一つとして公開されていないが、その露骨さから日本絡みで何かあったことは国民も知るところとなり、米国内は大騒ぎだ。
それらのニュースで巧みに隠されているが、第三次大戦前後に締結または更新され、日本側に不利な条件で交わされていた条約・密約の数々が片っ端から再編された条約群、通称「第四次日米安保体制」の構築が決まっている。
これまで相互協力の名のもとで罷り通っていた事実上の不平等条項が全て撤廃され、貿易規制や関税などはむしろ米国側不利の条件で再締結される見通しとのことだ。これらはいわゆる「認識の強要」としての性質を有しており、USNAは日本を対等の超大国と認めたことになる。
この米国の「掌返し」を受けてEU各国は反発を強める――と思いきや、英国が真っ先に日本支持を表明したことで意見は割れており、恐らく足並みが揃う前に全ての条約更新は完了すると言われている。EUを脱退してからも、英国はなんだかんだ向こうの諸国にとって無視できない存在であるらしい。
大亜連合は沈黙しているが、これは先の「ドッキリ津波事件」の影響で大きく国威を削がれたためだ。その影響で中央アジアや南アジア方面の反乱の兆候――好機と見たインド・ペルシア連邦が大々的に支援しているとみられる――を潰すため手段を選ばず立ち回っている分、表面上は静かにせざるを得ないとのこと。あの大亜連合をして「手段を選ばない」と強調しなければならないほどの事態が内陸側では起こっているらしい。
そして一番割を食ったのがオーストラリアであり、俺たちに襲撃をかけた実行犯が捕まった上、共犯として唆したはずの米英に尻尾を切られて関与を否定されてしまった。今や彼らは「沖縄海戦のドサクサに紛れて日本に毒ガステロを仕掛けようとした卑劣な犯罪国家」ということになってしまっている。
日本側に侵攻の予定はないが、向こうはそうは思っていまい。実際、ネットの掲示板ではアトランティスに改名しろとか四国こそ真のオーストラリアだとか散々ネタにされていた。スポンジボブに引っ越しの挨拶をしに行くオーストラリア人のミームがバズってるのを見た時は不謹慎だけど笑っちゃったよ。ネット民は何も変わってねえ。
久しぶりに外国と関わった結果がこれでは、もう一生あの国が鎖国を解くことはないだろう。大日本帝国の復活を怖がるあまり自分で開戦事由を作ってしまうあたり、皮肉というか何というか。
一方でしたたかに立ち回っているのが新ソ連で、大亜連合との国境紛争地帯をいくつかちゃっかり確保した後、日本による戦略級魔法使用を形ばかり非難した。
ただしこの時、新ソ連の報道官は日本を「まだ新ソ連の構成国でない小国」でも「西側の盟主たるUSNAの一の家臣」でもなく「USNAと同様の警戒が必要な大勢力」として扱った。この時点で、新ソ連はもはや日本を米国勢力下の大駒ではなく、単独で世界のパワーバランスに影響を及ぼす独立勢力として見ているということだ。
形はともかく、現在の世界における二大勢力から相次いで「承認」を得た日本は、一躍超大国の間に割って入る第三勢力として台頭したのである。元々、ゆるく西側ながらUSNAの傀儡国という訳でもない第三世界の国々から頼られることの多かった日本は、今やれっきとした列強の一角。大亜連合や西EU、インド・ペルシア連邦が争っていた「第三の超大国」の座は日本がかすめ取ることとなった。
これにより世界秩序は一変し、第二次米ソ冷戦と称されていたそれまでの世界秩序は「米ソ日」による三つ巴になっていくと、軍事アナリストたちは予測している。自分でやっといて何だが、たかだか紛争1つと暗闘1つに勝っただけでここまでパワーバランスが動くあたりにこの世界の不安定さがうかがえる。
後で聞いたところによれば、本当はこの後新ソ連への報復攻撃も予定されていたそうだ。
こないだ捕まえたオーストラリアの魔法師、ジャスミンとか言ったっけ、彼女からオゾンサークルの魔法式を引っ張り出し、玲さんの「なんちゃってオゾンサークル」を完全なものにした上でウラジオストクあたりにそれを叩き込む。そういう手はずだったそうだ。
その後、用済みになったジャスミンの死体を現場にわざと残し、英国と豪州に罪をなすりつけ、あわよくば極東ロシアを割譲させる。だが、この案は「上」での協議の結果没になったそうである。
一連の政治バランスの変化は、あの日アンジー・シリウスを解放したことと合わせ、これらの計画……すなわち「暴力」を留保した対価としてもたらされたものらしい。まあ、俺は政治ができるでもなし、上の命令を聞くまでだ。
合わせて、米ソはそれぞれ独自のアプローチで魔法の痕跡を調査し、沖縄戦に用いられた魔法を「
国内(海軍)では「深淵改」を使う調整体・榊創一朗として、海外では「海割り」を使う謎の存在・鉄仮面として知られるようになった俺だが、元々軍の基地で軟禁生活なので何が変わるというでもない。強いて言えば、戦勝の功績で2階級特進を貰い大尉になったことくらいだ。
これ殉職以外で貰えることあるんだ……と思って調べたところ、存命中の2階級特進は一応、旧ソ連のガガーリンに前例があるらしい。まあ、ひとりで国威をぶち上げたって意味では確かに似たようなもんか。ちなみに、俺以外の第1実働小隊の3人も1階級ずつ特進を貰っている。
例外はつかささんだ。彼女は俺とアンジー・シリウスのケンカに際して、彼女はシールドを割られた。「分解」のように優しく解きほぐされるならともかく、障壁が魔法的に成立し、術者から切り離される前に想定を超える威力で強引に破られたことによって、ダメージが魔法演算領域にフィードバックしたらしい。
戦術核に耐えると言われる「十」の障壁も、流石に重金属を一瞬で蒸発させる収束プラズマは耐えきれなかったようだ。いつぞやの「ミーティアライト・フォールを試させられた俺」みたいな状態に陥っていて、横で見ていた隊長さんによると目・耳・鼻・口から流血して目をかっぴらいたまま痙攣してたとか。現在も入院中である。
推定全治1ヵ月。これは今の日本の医療水準に照らすと瀕死の重傷に相当する深刻な事態だが、どちらかというと「魔法演算領域のオーバーヒート」という研究が進んでない部位の損傷のため長めに療養期間を取ったのが理由として大きく、後遺症はないらしい。まあ、申し訳程度にお見舞いだけしとけばいいだろう。
このほか、一時金(ボーナス)として結構な金額と1週間の特別休暇、あとよく分からない勲章をいくつか貰った訳だが、休暇以外は正直使い道がないというか何というか。軟禁の代償として一日六食おやつ夜食に風呂と寝床は全部経費で出してもらっており、通販で変な雑貨を買うか漫画本でも揃えるくらいしか金の使い道がないのだ。
ちなみに、それを何の気なしに話していたところ、上の方にまで伝わったらしく「とっておきのご褒美を用意してある」として本部、つまり俺の「製造」された研究所への呼び出しを貰った。余計なこと言ったかもしれん。行くしかないけど。
ビキニタウンの人口:538(2092)→14,740,538(2093)
みたいなエグいネタがRedditとか4chanでバズり散らかしてる
現代のオーストラリアの人口は2666万くらいなので、世界人口が1/3になって30年後の2092年時点だとその半分くらいだろうという雑な計算によります。
次話投稿:4/11 07:03