(政府の)犬です、よろしくお願いします   作:TE勢残党

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13 沖縄海戦②

 那覇市街は混乱の中にあった。

 

 街中はけたたましいサイレンの音で満ち、大通りは避難民の悲鳴と怒号に満ち溢れている。

 

 第三次大戦中に強化・発展した全国瞬時警報システム(Jアラート)がけたたましく鳴り響き、町中のディスプレイが一斉に書き換わり、避難情報を伝える映像に差し変わっている。

 

 住民たち、そして居合わせてしまった観光客は、島中に張り巡らされた防空シェルターへと我先に避難した。

 

 大戦中、生活を破壊すると称されるほどの増税を代償に行われた国土要塞化政策において、沖縄は最も重点的に強化されたと言っていい。シェルターの容量は、ある程度の観光客が攻撃に巻き込まれる前提で用意されている。

 

 遡れば第二次大戦の時代から戦略拠点として何度も占領されたり戻ったりを繰り返しているこの島は、それゆえ日本の領土では最も戦闘に慣れている土地柄である。見れば混乱しているのは観光客ばかりで、地元住民は大戦経験者である年長者を筆頭にそそくさと避難を済ませているのだった。

 

 この時点ではまだ攻撃は始まっていないが、既に沖合には大型の武装艦が見え始めている。少し遅れて短距離弾道ミサイルの類も飛行を始めており、勝っても負けても市街が火の海になることは避けられないと言ってよい。

 

 そんな中、ビル街の上空を飛行する攻撃ヘリが一機。ステルス機能を有する高級機だ。

 

 魔法の効果で肉眼でも見えないように光の屈折が操作され、何よりヘリコプター特有の轟音が全く出ていない。当然誰にも気づかれることなく、避難の流れを逆行するように市街中心部、県庁舎に向かって移動している。

 

 これが敵国の空挺部隊であれば状況は政府の想定より深刻ということになるが、幸いこれは国防海軍の保有する艦載ヘリだ。

 

 ヘリはそのまま近隣市街で一番高いビルの屋上へ近づくと、着陸することなくすれ違うように屋上スレスレを飛行。床にある程度近づくや否や、搭乗していた兵士4名が次々と飛び降りていく。

 

 降り立った兵士たちは魔法師だが、着地には一切の魔法を用いていない。彼らは魔法戦部隊であると同時に、この手の強襲作戦を得意とする海軍の特殊部隊であった。

 

 役割を果たし飛び去って行くステルスヘリを見送ることなく、4人はビルの中へと踏み込んでいく。彼らの姿は肉眼で捉えられないものだったが、これも魔法によるものではない。

 

 装備庁の要請を受けて国内大手の繊維企業が開発した光学迷彩装備、その試作品である。未だ安定生産にこぎつけておらず国家中枢のごく限られた組織にしか配備されていない最新技術の結晶を装備した4人は、最上階の塔屋のドアを音もなく破壊、非常階段を使って目的の階へと降りていく。

 

 このビルは道州制導入以前の沖縄県庁舎であり、現在も九州府の出張所として同様の業務を果たしている。有事の際攻撃目標となることが想定される建物であり、当然ながら内部にはそれなりの数の軍人と警備員が配備され、米大使館よろしく建物の設計そのものがかなり頑強だ。

 

 既に攻撃を受けている状況下、それらの設備と人員は万全の態勢で稼働している。当然ながら、その中には魔法テロを想定した戦闘魔法師も複数人含まれる。

 

 だが結論から言うと、彼らは戦闘に入るどころか、侵入者に気づくことさえなかった。それは彼らが無能だったと言うより、最新のステルス迷彩と古式魔法で気配を消し、音もなく乗り込んでくる者たちの練度が高すぎたと言うべきであろう。

 

 かくして、県知事クラスの要人が立てこもっている執務室はあっけなく陥落した。

 

 

「おお、やっと来たか!」

 

 音もなく開かれたドアを見た知事の反応はこのようなものだったが、やがて彼らが知事の求める「迎え」でないことを察すると、知事の血色は瞬時に悪化していった。

 

 光学迷彩を解除した4人は、バイザーを装備しており顔が分からないが、背格好はバラバラだ。

 

 代表して、リーダーと思われる大柄な男が問う。

 

「赤嶺知事ですね?」

 

 県知事の権力は、道州制以前と比べるとあまり強くない。かつてと同様選挙で選ばれているものの、州というもっと大きな行政区画が生まれたからだ。

 

 それでも、軍への出動要請や市役所と連携しての避難指示などなど、非常時にやらなければならないことは多い。特に沖縄は、有事の際に本土からの援軍が間に合わない可能性が高いために、例外的に州知事に近いレベルの権限が認められていた。

 

「あ、ああ……私がそうだ」

 

 赤嶺知事はここに現れた4人が味方ではないらしいことを察したが、少なくとも表面上は冷静に答えた。

 

「我々は日本海軍対魔装特選隊の隊員です。貴方には外患誘致の容疑がかけられています。なお戦時特例により、我々にはこの場での処刑が許可されています」

 

 大柄な男が続けた内容は、つまり死刑宣告であった。

 

「ふざ――」

 

 激高しようとした赤嶺は、リーダーの隣に立っている中肉中背の男がこれみよがしにライフルの銃口を向けたのを見て言葉を失う。

 

 それは対魔法師用のハイパワーライフルであり、無防備な人間が撃たれれば身体の半分が血煙になる代物であった。赤嶺は確かに政治家としてそれなりの鉄火場を潜ってきた身だが、本職の軍人から命を狙われたことはこれが初めてだ。

 

「ただし、すべての犯行の自供と証拠の提出があれば、死一等を減ずると通達されています。ご協力いただけますか?」

 

 しかし、脅しならいくらでも受けたことがある。

 

 政治家として交渉事が本領である赤嶺は、こういう自分に有利なカードがない時こそ、言う通りにしたところで待っているのは搾取の果ての死だけだと知っていた。

 

「……言いがかりだ。陰謀論の読みすぎは体に毒だぞ」

 

「はいコレ」

 

 赤嶺が抵抗を試みると、4人組の一人である女が歩み出て、スマホの画面を見せてくる。

 

 動画だ。赤嶺と思われる男と、明らかに不釣り合いな年齢の少女が映っている。隠し撮りらしく、本来あるべき所にモザイクや黒塗りの類が存在していない。いや、被写体の幼さを考えると、一般社会では一発で発禁処分どころか映像データを持っているだけで警察が動く代物である。

 

「この子9歳なんだって? 確かにこういうタイプの報酬は日本じゃ手に入らないもんねえ」

 

 変態やるのも大変だ、と何故か同情的な女の口ぶりとは違い、他3人の殺意は衰えない。

 

「大亜連合軍の手引きと引き換えにあなたが何を得ていたかは、一通り調べが付いています」

 

 補足として追撃した大柄な男を見て、いよいよ観念するしかなくなった――と、普通は考える。

 

「それなら私の処遇より、地下シェルターを調べた方がいいぞ」

 

「避難先に軍を手引きしてんのは知ってんだよ」

 

 さらに悪あがきを試みた赤嶺だったが、部隊の人間は既にこの男の所業を把握している。

 

 大陸からの支援と県内の大亜連合帰順派による後押しを受け、数々の過激な手段と不正を用いて政権を確保していること。

 

 避難シェルターの図面を大亜連合側に流出させていること。

 

 自らの権限を使って避難経路を誘導し、一か所に避難民を集中させて包囲・拉致させようとしていること。

 

 自分たちだけは別口で迎えをよこしてもらい、沖縄が大陸の領土になった後、落ち着いた頃今と同じようなポストに復帰する取り決めだったこと。「今日日珍しいレベルの正統派売国奴」とは、リーダーこと創一朗の言である。

 

「シェルターを包囲する手はずだった現地ゲリラと揚陸部隊は既に殲滅しました」

 

「殲……1個大隊よこすと言ってたんだぞ!?」

 

 赤嶺は軍事について素人だが、特殊部隊は超人集団ではなく、数で勝る相手と正規戦が出来る質じゃないことは知っている。先進国の一個大隊というのはとてもそんな、朝飯多めに食ってきましたくらいのテンションで殲滅していい存在ではない。

 

 赤嶺は高位の魔法戦力なら一人で一個機甲師団なみの戦力を発揮しうると知らなかった。

 

 まして彼らは、現時点で恐らく日本最強の魔法戦部隊である。

 

「ついでに、ここに迎えに来る予定の部隊ですが、明らかに要人回収ではなく殺害を目的に動いてましたよ」

 

 現地協力者(裏切りもの)には信用がない。目的を達成して用済みになれば消すのが当然の流れだ。

 

 彼が生き延びる道は、大亜連合の侵攻が失敗した上で内通の事実を日本政府に隠し通すこと。民意はともかく、日本の司法は非常に甘い。これなら後でバレてもせいぜいが懲役刑で済んだに違いない。

 

「流石にやりすぎ。怒らせちゃいけない人たちを怒らせましたね」

 

 結局のところ、リーダー格の男が言ったように、彼はやりすぎたのだ。

 

 いよいよ観念したか、大人しくなった男を手際よく縛り上げ、仕上げとばかりに大音量で音楽が流れているヘッドホンを付けると、中肉中背の男がボソリとつぶやく。

 

「……こいつ、この後どうなるんスか?」

 

 この部隊では、年齢差が極端なこともあって軍組織としては例外的に言葉遣いが砕けている。

 

「公的にはこの海戦で大亜連合軍に殺されたことになる。裏でどこと繋がってたか精査して、情報を吐き終わったら獄中自殺かなぁ」

 

 答えたのはリーダーではなく、ここまで沈黙を貫いていた細身の男――山田宏文だった。

 

「ケッ、ざまあみろ」

 

 吐き捨てるように悪態をつく龍征。

 

「荒れてんね?」

 

「出自的に、変態系の悪い奴は地雷なんですよ」

 

「なーる、可哀想に」

 

 誰にでも同情的だがどこか真剣みがなくノリが軽い女――岬玲と、年齢の割に大人びていて言動の節々から闇を感じる創一朗は、主に玲が絡んでくる形でつるむことが多い。それと同様に、龍征と山田も師弟関係だった頃があり、別行動の際には自然とこの区分けになることが多かった。

 

 とは言え、創一朗は隊長としてほか3人の来歴などもある程度知っている。仮に龍征がいきなり赤嶺を撃ったとしても、まあ「最悪死体で連れてこい」との命令なので咎めるつもりはなかった。

 

「じゃあ、予定通り地下の脱出口からお暇しましょう」

 

 かつての城塞と同様、この庁舎にも政治家用の緊急脱出口が存在している。

 

 本来ならそこに大亜連合の迎えがくる所だったのだが、彼らが事前に(ステルス輸送機ごと)殲滅したので、代わりに友軍の装甲車が到着している手はずだ。

 

 既に各駐屯地から部隊の緊急展開も始まっており、襲撃の被害は最小限に抑えられることだろう。

 

 そう考え始めていた4人の元へ、次なる指示が伝達された。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ――作戦内容を説明する。

 

 現在、沖縄と佐渡2地点への攻撃に対し、戦局は我が方の優勢と言える。

 

 沖縄の大亜連合艦隊は、我が軍が事前に配備していた艦隊との交戦の結果、上陸を諦め既に敗走を開始している。佐渡についても一条家を筆頭とする義勇軍が戦線を支えている状況だ。

 

 敵が捕虜の確保に失敗し我が方への被害を懸念する必要がなくなったことから、参謀本部は、状況を確定的なものとするため戦略魔法兵器の投入を決定した。

 

 榊創一朗少尉はこれより特選隊本部に帰投。現地のシステム「セイレーン」を使用し、アビスを発動可能な状態で待機せよ。照準地点等については別途指示する。

 

 山田曹長、岬軍曹、江藤伍長については、状況終了まで榊少尉の護衛に当たれ。遠山伍長は通常通り4人の補助。万が一にも攻撃させるな。




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