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12 沖縄海戦①
2092年8月11日。
この日、大亜連合は日本、沖縄への武力攻撃を開始した。
数日前の段階で潜伏させていた潜水艦が民間船に見つかるなど兆候はあったものの、宣戦布告なしで戦端が開かれたこともあり、日本側は奇襲を受けた形となる。
大亜連合はこの時、2方向からの攻撃を計画していた。
一方の主力艦隊は粟国島北方より進軍し、現地の防衛部隊と交戦。これを撃破した後、後続に控える本命の機甲部隊を揚陸させて制圧を狙う。
もう一方は高速艦で固められた小規模艦隊だ。こちらは沖縄の内通者と事前に潜伏させたゲリラ兵を決起させ混乱した港に雪崩込んで制圧、戦線を背後からかき回して援護する手はずとなっている。
なお、今作戦では航空戦力の使用は予定されていない。これは第三次世界大戦中に自然と生み出された「空母や飛行機を持ち出す=全面戦争」という不文律的取り決めに基づく「そこ(全面戦争)までやる気はない」ことの意思表示である。
作戦の性質上、高速艦隊は戦闘状態の中を突っ込むことになる。彼らは危険かつ戦果を期待できる部隊であり、先鋒には戦闘魔法師の姿もあった。
当初の計画では、彼らは混乱に乗じて市街を進軍、沖縄県庁または那覇市庁舎を制圧し、避難民の大量拉致と人質としての活用を狙う……予定だったのだが。
「これは……どういうことだ……!?」
部隊の一員である男の眼前では、友軍艦隊が次々と海の藻屑に変わっていた。
レーダーには何も映っていなかった。警報もなく、目視での脅威確認もされなかった。ただ音もなく、光もなく、友軍から緊急連絡が入る間もなく、気づいた時には衝撃と共に海に放り出されていた。
見れば、自分たちを乗せた高速艇のほか、それを護衛していたはずのミサイル艇や駆逐艦も、既に真っ二つになって沈み始めている。
そう、自分の乗っていた艦もそうだった。一瞬のうちに真っ二つに折れ、そのまま沈み始めたのだ。
男――呂剛虎は、大亜連合対日工作部隊のエース魔法師である。世界でも五指に入ると言われる白兵戦能力の高さを買われ、沖縄戦にて背後を一突きするこの作戦に若くして選抜されていた。
その呂ですら、魔法の兆候を感じ取れなかった。
では何らかの通常兵器か? それこそあり得ない。昔の戦艦ならともかく、船体ど真ん中で機雷が破裂したとしてもこんな上から解体用の鉄球でも叩きつけられたようなへし折れ方はしないはずだ。ならば機械の故障や破壊工作の類か? いや、一隻ならまだしも、次々と連続して船が沈み続けている現状でそれはないだろう。
呂は頭を振って余計な思考を追い出す。結論が出ないものをあれこれ考えても無駄だ。攻撃は止まっていない。今はこの状況を切り抜けることを優先しなければ。
魔法を起動して勢いよく水面を飛び出し、水の上に"道"を描く。彼の得意とする「鋼気功」は五行思想の金行に相当し、水との相性はあまり良くないが、彼にとってこれくらいの芸当は容易かった。
「おい! 誰かいないか!!」
持ち前の大声で呼び掛けると、いくらか反応があった。攻撃は強力だが、幸い、砲撃や爆撃のように大雑把で、乗組員は全滅まではしていないらしい。
とはいえこんな状況では反撃どころではない、無事な船を見つけて撤退を――と考えを進めた瞬間、今度は明確に魔法発動の気配を察知した。
「回避!!」
言いながら、自身も水面を蹴って移動。サイオンの光を見る限り、魔法は水面ギリギリを舐めるように大量展開されている。
それを見るや、呂は空気を蹴って上空へ。ここから水蒸気爆発でも起こされたら全滅を考慮しなければならない、そう考えた呂だったが、事態はより深刻だった。
「がっ……ぐぁ……」
飛び上がったからよくわかる。この時点ではかなりの割合で兵士たちが生存していた。
だが、魔法が発動した瞬間。海面に投げ出された兵士たちが一斉に苦しみはじめ、数秒もせずにだらりと脱力、海に浮かび始めたのだ。
毒ガス。その三文字が脳裏をよぎり、呂は戦慄する。日本軍にそこまでやる覚悟があったのか。
その時、凄まじい衝撃と共に呂の視界が一瞬ブラックアウト。混乱しながらも彼はなんとかバランスを立て直し、かろうじて気絶や墜落はせず踏みとどまり、咄嗟にジグザグな軌道を描いて移動、次弾を回避する。
直後、脳の機能が戻ってきたのかこめかみに激痛を感じ、手を当てるとべったりと血の感触が帰ってくる。
狙撃だ。
呂の鋼気功は重機関銃を正面から防ぐ耐久力がある。それが一瞬意識を飛ばされかけたことは、用いられた「砲」の威力は対魔法師用ハイパワーライフルを大きく凌ぐことを意味していた。
「これ」を何発も撃ち込まれたら自分の耐久性では持たない。そう判断した彼は、一か八か息を止め、ガスの中へ飛び込むことを決断する。
が、一歩遅かった。彼が空中の足場を解除した瞬間、彼をそれまでと比較にならない衝撃が襲い、全身の骨が砕ける感触と共に彼の意識は闇に沈んでいった。
◆ ◆ ◆
「――命中確認」
龍征はスコープ越しに、最後のひとり――呂剛虎が血を噴出しながら墜落していくのを確認した。
海上を、一機のヘリコプターが飛行している。最新鋭のステルス技術を用いて建造されたアメリカ製の戦闘ヘリであり、同盟国たる日本にも主に艦載用として数機だけ配備されている高級品だ。
その機能は確かに大亜連合のレーダー網を欺くものだったが、本来ステルスというのは「レーダーに映らない」という意味であり、当たり前だが肉眼では普通に見えるし音も出る。
それを完璧に隠し通してしまったのは、搭乗者のひとり、山田宏文曹長の用いる「隠れ蓑」の効果だった。
隠れ蓑は天狗術と呼ばれる古式魔法の一種で、厳密には気配などを隠すのではなく「居ることに気づけない」状態を作り出す魔法だ。「こういうコソコソしたのは風間くんより上手いんだよ」とは当人の弁である。
なお本来、山田は仏教系の古式魔法師であり、天狗道は専門外に当たるはずである。彼はこういった不自然なレパートリーの広さを有しており、そのことが実力を測りづらくしていた。
さて、古式魔法由来の隠れ身で完全に見えなくなっている機体には、ガトリング砲の代わりに艦載用からダウングレードされたフレミングランチャー……つまりレールガンが一門装備されている。呂を狙撃したのはこの砲だ。
飛行中のヘリから人を狙撃するのは本来、人間技ではほぼ不可能だが、AIによる照準補正と魔法を使った軌道屈折があればその命中率は「百発百中」と呼んでも過言でないレベルになる。狙撃・砲撃は龍征の専門分野であった。
と言っても、飛び上がった呂に狙撃を当てたのは龍征だが、最後に彼の意識を奪った攻撃は彼でのものではない。
元々、この攻撃は4段階に分かれている。
最初に、ステルスヘリでレーダーを躱しながら有効射程内まで接近し、山田の隠れ身で肉眼や魔法的手段での感知も防ぐ。
第二段階、敵艦が射程に入ったら、創一朗の"鉄槌"で片っ端から撃沈していく。鉄槌は典型的な基礎単一工程の加重系魔法、いわゆるPKであり、発動対象となった船は突如として絶大な加重に晒され、巨人にチョップされたように真っ二つに折れ、そのまま沈むことになる。射程が彼の視界内に限定されることを除き、欠点らしい欠点の存在しない強力な戦術級魔法であった。
第三段階、周辺海域全体をカバーするように、岬玲のガトリング・キャストを使ってオゾン生成魔法(事実上のオゾンサークル)を大量展開し、海に投げ出された生存者を皆殺しにする。海面上数十センチだけ覆えれば問題ないので、玲の魔法力なら全域にわたって即死レベルのオゾン濃度を維持することは容易である。
最終段階、これらの攻撃をかいくぐるには魔法で上空に飛び出すしかないので、飛び出して来た魔法師を待ち構えていた龍征が狙撃して回る。それでも死なない相手には、対艦攻撃に使った「鉄槌」を個人に向けてぶつける。
創一朗の干渉力をもってすれば、呂剛虎クラスの干渉装甲を貫いて彼の身体に直接加重を与えることは容易だ。船舶を一撃で真っ二つにする出力の加重攻撃を受けては、さしもの呂も無事では済まなかったという訳である。どちらにせよ、遮蔽物のない海上に飛び上がった魔法師は最早的でしかない。
このような手順によって、大亜連合の別動隊は組織的抵抗すらままならないうちに殲滅の憂き目に遭った。
『こちら05、目標の無力化を確認しました。そのまま県庁舎へ向かい、予定通り任務を続行してください』
05はオペレーター、つまりつかさの番号だ。作戦室から敵対勢力の消滅を確認した彼女は、ヘリに乗りこんでいる特選隊の4人に次なる指示を与える。
「了解」
隊長である創一朗が代表して答え、ヘリは早速進路を変更、沖縄本島へ戻っていった。
彼らが沖縄海戦に介入しているのは、非常事態に対応できる戦力が彼らくらいしか居なかったことももちろんあるのだが、その実「本命」の任務が別にあり、この掃討は行き掛けの駄賃、ついでであった。
彼らの目標は沖縄県庁舎。
今回の件で大亜連合との内通が決定的となった赤嶺晴貴知事とその一派を、この戦闘のドサクサに紛れて皆殺しにすることだ。大亜連合が国防軍や公安の警備体制を抜いて奇襲を仕掛けられるのはこういうカラクリである。
元来、それこそ大亜連合が今と違う名前だった時代から沖縄には大陸帰順派が一定数おり、本土政府は彼らの過激な活動や政治工作に悩まされてきた。
第三次世界大戦に伴う思想統制と道州制の導入によって一度は沈静化していたものの、ついに今回のような侵攻を誘発するまでに再成長を果たした彼らを、政府はようやく「内憂」だと判断したのである。
既に戦後、外患誘致の責任を取らせる形で大幅な行政改革が行われることが決定している。警察上層部も九州と近畿の各県から引き抜いてきた人材に丸ごと挿げ替えて地元出身者はゼロに、県内の大陸帰順派幹部十数名には三次大戦後初となる外患誘致罪が適用……というストーリーが、既に政府高官の間で合意されていた。
その仕上げ兼開始の合図として、戦闘のドサクサに紛れて大亜連合に「帰還」しようとしている赤嶺知事とその重臣には退場いただく。そのための特選隊であった。
「なんか俺らの仕事、魔法戦少なくない?」
「いつものことだよ」
相変わらず軽いノリで疑問を口にする創一朗。それに対する山田の返答もまた、いつも通り緩いものであった。
――なお、そのまま県庁舎へと飛び去ったので彼らは気づかなかったが、最後に撃破した呂剛虎はこの時、全身骨折に内出血多数ながら鋼気功の作用によって奇跡的に致命傷を免れ、生存していた。
また、一時心肺停止状態に陥ったことが逆に功を奏して致命的なオゾン中毒を回避し、最終的に彼は海岸に流れ着いていたところを発見され捕虜となり、別動隊唯一の生存者としてのちの捕虜交換で帰国を果たしている。
呂剛虎はこの時22歳くらい。
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