総評12000
たくさんの感想
ありがとうございます。
創一朗の懸念通り、つかさは陸軍情報部の人間である。
情報部の黒幕的実力者と十山家は家ぐるみで密約関係にあり、軍の暗部に属する一族として、つかさ自身生まれた時から訓練を積んできた。
彼女の書類上の経歴は平凡なものだが、それらは当然のごとく嘘に塗れている。そもそも、彼女の軍籍上の名前は「遠山つかさ」だ。表向きナンバーズですらないことになっている。情報部では階級以上の権限を持ち、私兵同然の部下を使って様々な超法規的任務をこなす……はずだった。
だが、いざ軍に配属されたつかさに下された命令は、新設された海軍特殊部隊への潜入と監視。
陸軍と海軍の仲が悪かったのは150年前までの話だ。今は少なくとも、対抗意識はあれどお互いに諜報員を送り込むほど敵対的ではなかったはず。つかさは……というか、十山家はそう認識していた。
実際、今回の人員配置も表向きは「SEALs的な全領域対応型特殊部隊の新設に伴い、陸軍からも人材を出向させて協力した」という形になっている。おかげで問題の特殊部隊「海軍対魔装特選隊」は、世界的に見てもほとんど例のない「陸海混成部隊」と化しつつある。
ただ、現状では海軍が管理している――十師族側は公式に否定しているが、海軍側は実質的に管理下と主張している――戦略級魔法師が「五輪澪」以外に現れたかもしれないと言われては、陸情はもちろん十山家としても見逃す訳にはいかず、次善策がてら人員を送って影響力を確保しに行くのは正しいように思われた。そんなわけで彼女は、上層部の伝手をたどって謎に包まれた海軍特殊部隊、「対魔装特選隊」へ潜入したのだ。
そして今、本人の希望通り(そして適性通り)オペレーターとして第一実働小隊を補助する立場に立った彼女は、この部隊が保有する戦力の大きさを把握して――少なくとも、表面上はいつものフレンドリーな態度を崩さなかったが――戦慄した。
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当初の説明では、戦略級魔法師以外の部分は精々が他所で持て余した魔法師の寄せ集めであるとしてノーマークだった。所属組織の怠慢を呪いつつ、つかさはボールペンを走らせて書類の作成を進める。上層部に報告するための、隊員のプロフィールをまとめた資料だ。
ウェアラブル端末や視線などを使った入力補助が高度に発達した――大戦中に植物資源が絶滅レベルで不足し、代替手段を発達させざるを得なくなった――現代では、「紙とペンで文字を書く」という動作はもはや趣味や習い事の中にしか残っていない。しかし一方で、電子媒体の高度化に追随するように、思いもよらぬ方向からのハッキング技術もまた進化し続けている。
陸軍情報部として「思いもよらぬ方向からのハッキング技術」を推進する立場にあるつかさは、結局のところ「紙に書いて直接渡す」よりも高度なセキュリティは原理的に存在し得ないということを嫌というほど知っていた。
(あの分では何も知らないでしょうから、可能な限り詳細にまとめた方がいいですね)
つかさは現在伍長、現在の国防軍では個室が与えられる階級だ。格安ビジネスホテルや企業の独身寮的な、ベッドと椅子と小さな机だけで床面積を使い果たすような狭い部屋だが、こうして悪事を働くには十分だった。
そうして1時間後、机の上にはクリップ止めの紙束が仕上がった。
(念のため、もう一度確認しておきますか)
何も知らないであろう上層部に説明するときのことを考えて、脳内の整理も兼ねて紙束を手に取った。
◆ ◆ ◆
――国防海軍対魔装特選隊(以下、特選隊)は、海軍総隊(※第三次大戦以前の自衛艦隊に相当)直属の特殊部隊である。「敵国からの魔法戦力を用いた工作行為・侵略行為に対抗するため」という建前の元で結成された。
設立に際しては、海軍研究本部副本部長の真砂大輔少将が後ろ盾となっている。真砂少将は海軍の魔法研究を統括する通称「M機関」機関長でもあり、M機関で作成・調達した魔法戦力の実験部隊としての側面も持っていると考えられる。
実態としては、魔法を用いた対破壊工作、対テロ部隊というのは概ね事実であるものの、非合法性の強い任務への投入を多数確認しており自らがテロリスト化している向きがある。
陸軍では未だ検討段階である「魔法装備を主戦力とする実験部隊」の実例と思われるが、陸軍が魔法戦力の体系的運用を目的とするのに対し、海軍は魔法戦力への対抗を目的としている点で思想が異なる。具体的な編成については別表を参照。
装備面は充実。最新型のモジュラーアーマーが全実働隊員に行き渡っている他、対魔法師用ハイパワーライフルと指輪型アンティナイトが標準装備とされている。さらに歩兵携行用対戦車ミサイルや対物レールガン、車載機関砲、偵察・自爆ドローンなども配備されており、特殊部隊としても過剰と言えるほど火力が高い。
現在の戦訓では、平均的な戦闘魔法師の防御力は歩兵戦闘車と同等程度と見積もられているため、隊員の装備は対戦車戦を想定したものを流用していると考えられる。
また、隊員は全員同型の多目的バイザーを装備し、容姿を含む一切の個人情報が軍機扱いにされているため、素顔を確認する機会が極端に少ない。魔法特性を理由として"M機関"幹部構成員および実働第一小隊4名の顔の目視確認には成功したが、顔写真の撮影は目下成功していない。次項からは、判明している隊員の情報について記載する。
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対魔装特選隊隊長。41歳。
海軍幹部候補生学校主席卒業生。経歴上は兵站畑出身ということになっているが、その実陰陽道系の古式魔法師であり、複数の秘密作戦に従事していたことが確認されている。
本来帰属するはずの旧陰陽寮や比叡山などと関係が悪く、その兼ね合いから軍に入隊したと公言して憚らない。また、自らも魔法師でありながら「魔法師嫌い」として知られており、以前から通常兵器による対魔法師部隊の構築を提言していた。
真砂少将直下の海軍内反十師族派、俗に言う「真砂塾三銃士」の一角とされており、少将の政治的右腕と目されている。少将は彼の主張の代案として十師族によらない魔法戦力構築を提案し、彼がそれに乗ったことで、現在の特選隊の雛形が形成されている。
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実働第1分隊隊長。製造年月日:2080年1月1日
調整体「
海軍特務第一特殊戦研究機関、通称「M機関」の開発した調整体魔法師。同シリーズにおけるイレギュラー的傑作と位置付けられる。
肉体強化の影響により、年齢に比して非常に大柄で身体能力が高く、体組織はクラスⅣボディーアーマーに相当する耐久性を有する。また、強化措置の副作用として眼球の増加、複眼化、および周辺皮膚組織の変質が見られるため、視覚や神経系にも何らかの強化措置が施されている可能性が高い。
極めて強力なPK技能を保持するサイキックでありながら、通常の現代魔法も行使可能なハイブリッドである。特に、超能力を調整した加重系基礎単一工程魔法「鉄槌」は速射・連射が容易でありながら一撃で大型艦艇を撃沈せしめる威力を有しており、戦術級魔法として大きな脅威足りうる。
標準的な魔法力だけで見ても十師族水準以上であることから、彼が非公認戦略級魔法師である可能性が最も高い。今後も重点的に調査を行う。
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実働第1分隊隊員。22歳。
海軍特別警備隊出身。「三咲」の数字落ちであり、魔法技能師開発第三研究所にルーツを持つ。中でも彼女は傑作と目され、特選隊配属以前から数々の非合法任務に従事してきた。
岬家は十山家と似て軍との関わりが非常に強い魔法師一族である。第三研時代の「三咲」の研究テーマは同一魔法の大量・連続行使であったが、解決策として複数人での魔法演算領域の同調や規格化を試みていた。結果「発電所のフライホイールを回すためだけの魔法師」のような「部品」としての魔法師が業界標準になってしまうリスクがあるとして、政治闘争の末に師族会議から数字を剥奪された。
一方で、数字落ちが実力不足を理由としたものではなく、軍からはその性能を高く評価されていたため、魔法師コミュニティを排斥後、急速に軍部との関係を強めていった経緯がある。現在でも軍の暗部に人員を供給し続けているが、完全に軍の統制下にある訳ではなく、血族からテロ組織「進人類フロント」のメンバーを輩出する等管理の杜撰さが見られる。
同一のごく単純な魔法を同時に大量展開する「ガトリング・キャスト」と呼ばれる独自技術を有する。障壁の展開・砲撃・化合物の生成等に高い適性を有する一方で、一度魔法の発動を始めると撃ち切るまでの数秒間は中止できず取り回しに難がある。
特記事項として、ガトリング・キャストでオゾンを発生させる魔法を行使することで、短時間に大量のオゾンガスを精製、戦略級魔法「オゾンサークル」を疑似的に再現可能である。発動規模の問題で戦略級の威力までは持たないと思われるが、彼女にも注視する必要がある。
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実働第1分隊隊員。31歳。「M機関」設立初期からのメンバーで、存在を知る者からは真砂少将の一番弟子とも称される。これは「魔法技能を現代兵器の補助に用いる」という真砂少将考案のドクトリンに基づく特別教練プログラムを修了した第一期生であることに因む。
中でも江藤伍長は最優秀者とされ、潜水艦から艦載攻撃機に至るまであらゆる兵器を操縦可能であるほか、非公式ながら1500m級の狙撃を複数回成功させた記録があり、魔法師としては世界最高峰の兵器取り扱い技術を有すると目される。
調整体ではないが、現在に至るまでの経歴が書き換えられている。陸情特務課の協力の元入手した、改変前の経歴は以下。
江藤伍長は母子家庭出身であり、幼少時、全国民が受ける魔法適性検査で極めて高い適性を示した。母親は対馬出身の非魔法師だが、2060年の大亜連による対馬侵攻事件に伴う拉致被害者である。
遺伝子検査と母親への聞き取り調査から、江藤伍長は大亜連合の捕虜収容所にて、中国系戦闘魔法師との間に出来た子と推定された。
彼の存在および魔法力についての情報は厳重に隠蔽されているが、十師族に匹敵する極めて高水準なものである。
さらに特記事項として、「
これは大亜連合の特殊工作部隊「八仙」が得意とする極秘魔法であり、存在が露見した場合に大亜連合側が所有権を主張し、実力行使を含めた国際問題に発展する可能性が懸念される。そのため幼少の段階で超法規的措置として真砂少将が身柄を確保し、以来極秘に軍事訓練を受けさせていた。
表向きには十代前半で病死したことになっているが、同時期から設立直後の「M機関」に所属。あとから合流した山田宏文曹長の下に付き、複数の極秘作戦に従事している。
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実働第1分隊隊員。52歳。
元陸軍軍人。十数年前、特選隊ではなく「M機関」の設立時に陸軍特務機関から出向する形で合流した。
当初、比叡山に所属する仏教系の古式魔法師として修業したが、実力は高かったものの最終的に破門される。なおこの時、詳細な経緯は不明ながら比叡山側と極めて関係を悪化させており、現在でも処刑命令が撤回されていない。
その後第三次世界大戦にて徴兵され従軍。配属先の戦闘魔法師部隊で頭角を現し、戦後も陸軍に残る。
大越紛争時にも出撃し、風間大尉の指揮下で数々の作戦を成功させた。しかし作戦そのものが命令違反であったため彼も連座して表舞台での活躍の場を奪われ、以降は陸軍の暗部に身を投じてスキルを活かす道を選んだ。
その後、数々の特務あるいは極秘部隊、暗殺部隊等を渡り歩き、超法規的任務に従事。最終的に真砂少将率いる「M機関」からスカウトを受ける形で出向し、現在に至る。
経歴と戦果については判明していながら、使用する魔法や技術についての情報が極端に少ない。古式魔法を専門とする潜入・破壊工作のエキスパートであること、現行のサイオン探知機で検知できない魔法を複数習得していることしか把握できておらず、正確な実力は未だ不明。追って調査を継続する。
◆ ◆ ◆
(……現在用意できるのはこんなところですか)
恐らく現行最強のサイキック。戦略級魔法の再現者。生きた戦争の火種。比叡山の都落ち。4人とも、表沙汰にできない技能なり出自なりの持ち主で、その大半はこうして同僚になるまで陸情でも動向を把握しきれていなかった。軍の暗部、その中でも最奥に近いところから呼び出されてきた「軍で一番ヤバい連中」ということだ。
(木乃伊取りが木乃伊とは。我ながら情けない)
表情こそいつもの、文字通り貼り付けたような笑顔だったが、つかさは今にも机を蹴り飛ばしそうな位に機嫌が悪い。
M機関。戦略級魔法。数字落ち。戦災孤児。調整体。国家を揺るがす案件の1つくらいなら掌で転がす自信があるつかさでも、全部いっぺんに降りかかられたら身に余る案件だ。
彼らの存在が表沙汰になれば、幾つの陰謀が芋づる式に列挙されるか分かったものではない。海軍どころか陸軍も防衛大臣もろとも破滅は免れまい。その過程で一体どれだけの血が流れるか、最早つかさ当人にさえわからなかった。つかさはこの極秘部隊を調べているつもりで、必要以上に陰謀を知りすぎてしまったのだ。
かつてカエサルが身の丈を超えて借金をし、貸し倒れをチラつかせて債権者であるはずの商人たちを操ったように。もはやつかさは、望むと望まざるとにかかわらず死ぬ気で部隊のために尽くさねばならなくなった。
いくら暗部に属し生まれながらに訓練をしてきたつかさでも、国の中枢に携わる人間の政治力を前にすれば19歳の小娘に過ぎないということか。
せめて当初の目的だけでも果たさなければ。
目下最有力の戦略級魔法師候補者を監視し続けることを心に決めつつ、つかさは紙束を茶封筒に入れ、慣れた手つきで封を閉じた。
岬玲 →バレたらEU全域とオーストラリアを敵に回す
江藤龍征→ 〃 大亜連合が攻めてくる
山田宏文→ 〃 比叡山のやべー奴らと内戦になる
榊創一朗→ 〃 USNAが武力介入してくる
Wikiにも載ってないカン=フェール(岬寛)のこと誰が覚えてるんだろう
・真砂大輔 少将
海軍研究本部副本部長 兼 海軍特務「M機関」機関長・設立者。56歳。なお、「M機関」は正式名称ではなく、創設者である真砂少将のイニシャルと魔法研究組織であることから来る俗称である。
艦載機パイロット出身であり、第三次世界大戦経験者。短縮課程を経て21歳で前線に配属され、大亜連合軍の対馬侵攻に絡む一連の戦闘に参加。終戦までに撃墜数27を数えた国防海軍のトップエースである。当時は海軍の英雄として喧伝され「和製トップガン」と(誤用だが)呼ばれた。今でも九州を中心に根強いファンがいるなど知名度が高い。
BS魔法師であり、古式に分類される知覚系魔法を先天的に有する。既に衰退した古式魔法師一族の「先祖返り」的存在であり、魔法力そのものは当時の魔法師選抜基準に引っ掛からないほどに微弱なものだったが、その力を照準補助や敵機との位置関係の把握にフル活用して上述の戦績を残すに至った。
戦後は幹部候補生学校に入り直して正規の士官となり、海軍航空隊のテストパイロットやアグレッサーを歴任。しかし「戦闘機乗りの魔法師」という存在は現在にわたって絶無に近い状況が続いており、自分の技術を真似できる魔法師が終ぞ現れなかったことを問題視した彼は独自の戦闘教義を構想。当初は航空戦術だったドクトリンはやがて陸海空を統合した魔法戦術の研究へと拡大していき、志を同じくする派閥の人間と共に「M機関」を設立するに至る。
彼は魔法界全体に蔓延る魔法力至上主義を正面から否定しているため、(本質的には九島烈と同質の思想の持主であるにも関わらず)海軍内で最も過激な反十師族強硬派と目されている。そのことが海軍内から十師族の影響を排除し軍内の結束を保っている一方で、海軍が魔法界そのものから爪弾きにされ戦力が陰り始めた一因だと指摘する声もある。
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