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……ついに俺も(非公認の)戦略級魔法師だ。まだ司波達也が現れていないので、おそらく国内2例目のはず。ただ、あくまでこれは俺の性能に任せた副次効果、「できちゃったからやらせてる」のであって、本来の用途としてはやはり魔法師対策の方らしい。今後は来るべき任務に備えつつ、普段は特殊部隊としての任務をやっててくれ、とのことだ。
俺が今回使った魔法は「
従来型のアビスは、効果範囲の割に周辺被害が極めて小さいことで知られる。
表向き、アビスの効果は「海などの水面を半径数キロメートルに亘って半球状に陥没させる」魔法と表現されるが、実はここの言い方には少し語弊がある。
正確には、「水面の形状に干渉し、半球状に陥没した状態へと改変する」魔法だ。同じじゃないかと思うかもしれないが、この2つは魔法的に動作が異なる。
何が変わるかと言うと、使用後の物理作用、もっと言えば「世界の修正力がどこに掛かるか」だ。
前者の力をかけて変形させるやり方では、「水面にかかっている力を無くさせる」方向に修正力が働くため、単位干渉力あたりの効率が(この概念も理論上のもので、干渉力を単純計算していいかどうかにも議論があるんだが割愛する)あまり良くない。
代わりに、ひとたび水面陥没を実現出来れば、後のことは通常の物理法則に従う。水面が沈んだ分だけ水が大量に押し出され、激流と津波で周辺国の沿岸部は軒並み壊滅だ。うっかり関係ない国を巻き込んだ日には、素直に核を使った方がまだマシなくらい非難されるだろう。
ところが、後者の形状自体を変形させるやり方なら、修正力は「変形した水面を元に戻す」方向に働く。このやり方なら修正力に逆らわず、逆に協力することで水面を「元の姿に戻」し、発生するはずの津波をなかったことにできるのだ。
これにより、艦隊を丸ごと飲み込む威力を保ちつつ、たった数十キロ先の目標まで船に乗って近づき、攻撃できるほどに周辺被害を小さくできる。これが五輪のお家芸である物質形状干渉の秘奥、従来型の「深淵」だ。
一方俺の使った改良型は、干渉力のゴリ押しで水面に力をかけて陥没させた上で、生じる津波を「消波」せず、「制御」する。五輪の物質形状干渉の技術をふんだんに盛り込んでこそいるが、分類上は加重系魔法だ。
わざわざ加重系へと改造された理由は2つ。第一に、俺自身の適性が加速・加重系に偏っているため。加重系だと効率が悪いと言ったが、それを加味してもこうした方が負担が少ない程度に俺は加重系に向きすぎている。それこそ、ただ物体に加重を掛ける(破城槌)だけでビルとか一瞬で粉々になるし……。
そして第二に、加重系を使う場合にネックだった周辺への津波被害に対処の目処が立ったためだ。FAE理論を用いて、生じる津波に指向性を持たせることに成功したのである。1年かけて流体力学やら何やらガチ勉した結論が力業ってのも妙な話だが、行われていること自体は本家アビスと並び立つ程に高度である。
FAE理論(フリー・アフター・エグゼキューション理論)は大雑把に言うと、「魔法で改変された結果として生じる事象は、本来無いはずの事象である故に、改変直後は物理法則が作用し始めるまでにごく短い(1ミリ秒以下)タイムラグが存在する。その間に新たな事象を定義できれば、物理法則=世界の修正力に抗うことなく簡単に定義を追加できる」というものだ。
つまり、アビスの効果で水面を陥没させたその瞬間、それによって起きる波の移動ベクトルを操作して、「特定方向にしか向かわない津波」という物理法則に逆らった現象を低コストで作り出す。規模はデカいが、やってることはアンジー・シリウスの使うブリオネイクと同じことだ。
簡単に言ったが、原作でFAE理論の実証に成功していたのは2096年時点で米国はスターズのみ。日本では机上の存在だった理論の実証ができたので、この実験は学術的にもかなり大発見だ。あまりにも人道的にアレすぎて素直に喜べないけど。
これにより加重系を使った場合の問題点は克服され、俺の適性の偏りを考慮し系統の変更が行われた。アビス改は「超広範囲に亘って水面に加重し、一時的に半球状に陥没させる魔法」で、物質の形状そのものに干渉する本家本元のアビスとはカニとヤシガニくらい違う。
結果、従来の艦隊殲滅力を維持したまま、沿岸部の狙った場所を津波で攻撃できるという陰謀論者もビックリの人工災害兵器が仕上がったのである。ミーティアライト・フォールも大概だったけどこれも相当だぞ。
ついでに言えば、元のアビスは海底の深さを慎重に計算して発動させなければいけなかった(形状変更と海底が干渉すると定義破綻してしまう)が、加重系になったことでその辺雑にぶっ放してもよくなった。
超遠方、超大規模の発動は流石に難しいが、市販の特化型CADでも数キロ先・数百メートルの陥没であれば簡単に実現できる。自国の沿岸地域にたどり着いてしまった艦隊や軍港に停泊中の艦隊を攻撃できるようになった訳だ。十分な水深がなくとも、着底させられるだけで結構な打撃を与えられる。
そして改良型の優位性がもう一つ。従来では数十キロが限界だった射程が、なんと3,000キロ超にまで伸びたのだ。魔法の脅威度が「核爆弾」から「核弾道ミサイル」にランクアップした。
もともと「関東にいたまま沖縄・北海道・佐渡の沖合にやってきた敵艦隊を攻撃できる性能」として、偉い人から射程距離2,000キロを厳命されていたらしい。達成どころか1.5倍にしてしまうあたり、本当に技術力だけなら世界水準なのがなんだかな。結果として東京湾から南はパラオ、北は極東ロシアの一部まで狙えるようになったので、手段を選ばなければ海上防衛は隙なしだ。
超長距離の魔法照準は何気に難題であり、既存の戦略級魔法ですら(これから現れるマテリアル・バーストを除けば)大半が数十キロの射程にとどまる。これは、本来なら魔法に距離の概念はないが、魔法師が人間である以上、目視で見通せないはずの場所=地平線or水平線の向こうに狙いを定めることが本能的に難しいためだと言われている。
実のところ、ミーティアライト・フォールの研究中に生まれた中で一番凄かった技術はこの超遠隔照準だ。原作だとトゥマーン・ボンバが出てきた時に「新ソ連は超遠隔照準システムを開発したのか」って四葉がザワついてたことからも分かる通り、お兄様の「精霊の眼」のようなズルをしないで見えない場所を照準するのは難しい。
ミーティアライト・フォールは宇宙空間の石ころに干渉する前提の魔法。司波達也とか言うイレギュラーを抜きにすれば、その射程距離は劇場版時点でも世界最高水準だった。これを応用することで、アビスは常識を超えた射程距離を獲得したのだ。
さっき言った通り、狙いがかなり大雑把で良くなったのも射程強化に拍車をかけた。マテリアル・バースト並の精密照準が必須だったらこうはいかなかっただろうが、10mくらい狙いがズレても誤差で済むからこそやりようもあった訳である。
最後に、これらを盛り込んだバカみたいに重たい起動式を動かせるだけのCADと術者のスペック。魔法の系統が違うため澪さんですら発動できなくなり、完全に俺専用魔法となってしまった。
先ほどFAE理論で津波を操作できると言ったが、それは理論上の話であって、実際やろうと思ったらとんでもない量の水の塊を一斉に動かさないといけない訳だ。五輪家秘伝の流体操作技術と、本来は小惑星の軌道計算用だったスーパーコンピュータ「計都」による物理演算という魔科両面の最新技術が揃ったからこそ、この魔法は実現したのである。
さらに、機械的な処理が完了したとして、最後は俺が魔法を完成させなければならない。干渉力とサイオン量は問題なく、戦略級魔法なので発動速度は問われない。
だから超遠距離照準と、そもそもの情報量の多さからくる脳の処理能力限界が問題になった。そのままではとても人間に耐えられるものではなく、無理に起動しようとすればAMSから光が逆流した人や無量空処を食らった人よろしく情報量で脳を焼かれる羽目になる。
そこで登場したのがあのえげつない機械、初の国産ソーサリー・ブースターこと「わたつみ」である。「初の国産」って言葉をこんな汚い使い方したの初めてだよ。
ソーサリー・ブースターは原作でノーヘッド・ドラゴンが主に流通させていた生体部品で、ある1つの魔法の発動を補助してくれる道具だ。これを使うと、起動式はもちろん魔法式の構築にも補助が入り、本来の術者の力量を超えて強力な魔法を使うことができる。
この技術は、本来なら敵方の黒幕にしてシリーズ中盤までの大ボス、顧傑(ジード・ヘイグ)の持つ独自の僵尸術によるものだ。その実態は魔法師そのものを改造して作る非人道兵器であり、主部品は魔法師の脳。
他国や組織が実用化できていないのは「中華由来の古式魔法が技術の根幹にあり、顧傑以外のそれは大漢崩壊のドサクサで失伝したから」だと思っていたが、実際には「先進国ならやろうと思えば真似できるけれども、倫理的に表沙汰にできないから」だったようだ。末期戦してる訳じゃなし、思いついても普通やるか?
そして、ソーサリー・ブースターの「特定の1つの魔法を使うために術者を補助する」という性質が、わたつみシリーズに付与された「複数人で協力して1つの魔法を起動する」特性と悪魔合体した結果があの惨状。カレンデバイスならぬここあデバイスである。頭ボンドルドか? アビスってそういうこと?
「見えた」悲鳴から見て、少なくとも4人があの装置に使われている。魔法師の脳みそを4つも載せてるだけあって効果は絶大で、本来の俺の限界を大きく超える3,000kmの射程距離と最大半径10,000mを超える効果範囲、発動スピードの向上、そして発動時の大幅な負担軽減を実現している。
当然、あんな代物の負担を肩代わりしていたら長くは持たないだろう。本場カートリッジよろしく、数発ごとの交換が必要なはずだ。だが、元わたつみシリーズは生き残っているだけでも12人くらいいたらしい。替えの「弾倉」も万全ということだ。
海軍極秘研究所は、これらスパコン、ソーサリー・ブースター、CADからなる「アビス改」発動のためのシステム群に「セイレーン」という名を与えた。姉妹の人数=使われる脳の数が安定してないことと、起動時に独特の楽器みたいな音が出ること、そして敵を海底に引きずり込むことから名づけられたと言う。
ちなみにだが、こないだの発動実験はちゃんと防衛大臣が承認して統合幕僚会議が命令を出した極秘ながら正規のものだ。セーフティ解除と視察のために来ていた海軍の偉い人は階級的に言うと少将、海軍の魔法研究全体を統括している特務機関の機関長だ。俺の出身を含め、一連の研究はこの人の名前と「Magic」から取った「M機関」の管轄下で行われているらしい。ようやく「古巣」とか「極秘研究所」とか言わなくて良くなった。そろそろ指示語が枯渇してたんだ。
その気になれば統合幕僚長クラスの命令なしでも発動できちゃいそうなのがちょっと心配だが、戦略級魔法は核兵器と違って管理が雑な所があるのでまあ、こんなもんか? 戦略級魔法師なんて人型で意志のある核爆弾みたいなもんなので、SCP財団ばりに管理されても困るから何も言わないけど。
前々から思っていたけれど、軍の研究所は手段を選ばなさすぎる。この手のことに抵抗のない俺がそう思うんだから大概だ。これだけ手を汚した手前、今更救われようとも思わないけれど、多分俺もロクな死に方はできないんだろうな。でも結局、俺にできるのは今の環境を楽しく過ごすことだけなんだよな。開き直る訳じゃないけど、まあそれなりにやっていこう。
ただ、流石に得た力がデカいからか、俺が常々存在を疑っていた「裏のエライ人」と直接謁見できることになり、挨拶を済ませてきた。やっぱりいるんじゃねえか黒幕。
ちなみに東道青波あたりが出てくるんじゃないかと思っていたが、案内された先は鎌倉某所、いわゆる四大老ではないけど元老院には席を置いてる「成り上がり者」のおじいちゃんだった。成り上がり者とは言うけれど、少なくとも明治時代には名士だったらしいので元老院の他の人たちがおかしいだけだろう。あの組織、家格と古さが京都の和菓子屋並みにインフレしてるらしいし。
このおじいちゃんは代々防衛関係にパイプが強いフィクサーで、話を聞く限りいわゆる護国の鬼ってやつだった。未だに三次大戦どころか二次大戦当時の米帝への恨みつらみを忘れてないタイプ。三次大戦のドサクサの時政府に働きかけて史上初の改憲を実現し、自衛隊を国防軍と改称させたのが一族の直近の手柄らしいので筋金入りである。
この人が海軍の真砂少将に働きかけて「M機関」を設立させ、その下でマッドサイエンティスト共が隕石爆弾やらリョウメンスクナ計画やら変なことばっかりやっており、その中で生まれたのが俺ということらしい。
ともかく、おじいちゃんは俺の性能にご満悦であり、これからもこき使うけど対価は出すからヨロシク! とのことだ。今までは一介の人間兵器だったのが、「エライ人のお気に入り」にランクアップして人権を得た訳である。
多分俺、ここで働いてる限り一生ろくでもない仕事で生きていくことになるんだろうな。慣れると結構楽しくなってる自分がいるけど、これ本当に慣れていいやつなんだろうか。たまに少しだけ怖くなる。
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