(政府の)犬です、よろしくお願いします   作:TE勢残党

7 / 90
お気に入り5000件
感想100件
評価200票

ありがとうございます。


07 ブラックオプス

 第三次世界大戦後、国際情勢はUSNA、新ソ連、大亜細亜連合、インド・ペルシア連邦の4大地域共同体とその属国たちによるグレートゲームに変わった。

 

 この2092年の世界は、2020年代と比べた時科学力、軍事力はかなり進んでいるが、精神面、特に倫理観はよくて昭和中期、国によっては第一次世界大戦レベルにまで退行していると言われている。

 

 曰く「第二次大戦後に生まれた倫理という建前は第三次大戦で否定された」とされ、各国は政府主導で人体実験やBC兵器攻撃、テロ教唆なんかを(一応隠すが)行い、無政府状態の小国から資源を搾取する。今や戦争は外交手段の一種に過ぎず、かつて持ちえた理性が今も残っているのは、「最初に使った国が世界の敵として必ず死ぬ」というセーフティが辛くも生き残った核兵器関係だけだ。

 

 第三次世界大戦の終戦が宣言されて27年になるが、現在においてもその影響は甚大である。20年間で核兵器が使われなかったことが「人類最大の功績であり、人間の理性が動物的本能を克服した証」だとして神格化される程度には凄惨な戦争であった。

 

 漫画「ヨルムンガンド」で、ココ・ヘクマティアルは「第一次世界大戦で4000万人。第二次は6000万人。第三次では何人死ぬ!?」と問うた。この世界では答えが出ている。60億人だ。当時の世界人口の2/3が死に、人類は種として終わりかけた。

 

 発端は地球環境の急激な寒冷化だった。温帯や熱帯でも真夏に雪が降り、ビニールハウス程度では対処不可能な環境変化によって農業生産が壊滅。海水温の急激な低下によって魚の大量死が世界中で観測された。

 

 記録的な冷夏として耐え忍ぶつもりでいた政府がことの深刻さに気付いたのは、それが数年続いてからだった。

 

 世界全体の食料リソースは突如として激減、先進各国はなりふり構わず他国のリソースを食らい尽くし、それまで世界中で燻っていた戦争の火種が一斉に燃え上がった。同時に世界では人類史上未曾有の大飢饉が起こり、やがて「世界全体の年間食料生産力が消費量を大きく下回っている」という絶望的な事実が明らかになる。

 

 先進国から見れば、スーパーから食料が消え、生鮮食品の値段が200倍になり、政府が慌てて開発・配給し出した合成食料以外の食べ物が嗜好品になる程度の影響。それ以外の国は、文字通り国ごと絶滅する勢いで人口が減った。

 

 第三次大戦におけるエネルギー資源の奪い合いとは、つまるところ「奪われた方の(飢餓と凍死による)全滅」を前提とする核に依らない絶滅戦争だ。降伏だの非戦闘員だのという人間の定めた取り決めは一切通用しない。この戦争の敗者とは、食料や燃料を奪われ餓死・凍死した者だけだ。

 

 非常事態の四文字を合言葉にあらゆる倫理・道徳は無視され、あらゆる小国は蹂躙されるか、人口が減りすぎて他国と合併してかろうじて組織を維持するかという状態に追い込まれた。各国の地域共同体化が急速に進行したのは、この時期に瓦解寸前の国家が近隣の大国になりふり構わず助けを求めた結果だ。

 

 先進国内ですら年間で万単位の餓死者が出ていた危機的状況で、他国の難民に手を差し伸べる余裕など存在しなかった。この時代を生き残る中で「国力を損なう有害な思想」は秘密裡かつ徹底的に取り締まられた。その影響で、世界で一番被害が少なかったと言われる日本ですら、家制度と見合い結婚が基本の昭和以前の感性に逆戻りしている。

 

 原作では、このあたりの過去のことは地の文でチラっと登場するだけで、具体的に触れられることはなかった。読者だった俺としても、そこはあくまで設定の一つで、世界が未だに冷戦構造から脱却できてないことを(もっと言えば、作者の認識が冷戦期からアップデートされていないことを)誤魔化すためのもの位にしか思っていなかった。

 

 だが、今この世界は紛れもなく現実で、第三次世界大戦は既に実在の歴史だ。

 

 欧米勢があれだけポリコレポリコレ言ってた時代の産まれとしては信じがたいが、そういう建前を投げ捨てて国家総力戦体制を組み直せた国だけが現存していると言われては、そう信じるほかにない。

 

 作中の日本がどことなく古い価値観に基づいて動いていたのはそういう理屈だったのだ。そりゃあ、弱腰外交で知られてたはずの日本政府が戦略魔法兵器ぶっぱを即断する訳である。国民はともかく、上層部は大戦中に相当な目に遭わされたのだろう。 

 

 何しろあのコロニー落とし(延べ55億)より死者が多いのである。手段を選んで餓死したものを笑って貪り食う地獄を経験した、あるいはその地獄に相手を叩き込んできた各国が、「勝利」と「生存」のために手段を選ばなくなるのは当たり前だ。少なくとも、それを見てもいない俺に何かを言う権利はないと思う。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 戦略級魔法の習得から数か月。軍では順調に隊員が集まってきた。

 

 対魔装特選隊なんてカッコイイ名前をつけておいて、結成当初は俺と隊長さんと事務方だけ居て実態はスカスカだった訳だが(だから澪さんの所に勉強しに行くヒマがあった)、研究所から新たな兵士が送られてきたことでようやく部隊らしくなってきた。

 

 増員は昔俺と一緒に訓練していた「同期」たちの他に、あちこちの非合法部隊やら基地から厄介払い同然で引き取ってきた調整体や超能力者。それから、厄介者を回収してやった「恩」を振りかざして引き抜いてきた腕利きたちだ。隊長も低レベル魔法師だし、純人間の方が少なくないかこの隊?

 

 その中で俺はと言えば、送られてきた中でも強力な使い手である3人とチームを組んで非合法任務に従事することになった。俺知ってる、ブラックオプスってやつだ。じゃあ最後に俺消されるじゃん。……まああんなの(国産ソーサリーブースター「わたつみ」)の片棒を担いだ以上、当然の末路か。

 

 チームメンバーとして編成された3人は、それぞれかなりの能力を持つスペシャリストである。原作がメイジアン・カンパニーになってから出てきたようなインフレキャラにも負けない強さの持主である一方で、表に出せないだけの事情をきちんと抱えている厄介さんだ(本人の性格はまともなのが救いである)。多分、どっかで司波達也が言ってた「強すぎて軍が処分に困ってる連中」の筆頭格だろう。

 

 隊員になるに当たり一通りの事情を教えてもらったが、3人が3人とも生きてると分かるだけで国内外のどっかしらと戦争になるレベルの何かを背負っている。逆にどうやって集めたのかちょっと尊敬するよ。3人がかりなら俺から撃破判定取れるくらいだから実力は本物だけど。

 

 ともかく、俺は少尉に昇進の上、実質4人しかいない第一実働分隊の分隊長に就任した。ここにオペレーターやら支援要員やらを含めた一個小隊が基本の作戦単位になり、必要に応じて第二以降の小隊人員を追加する運用だ。

 

 明らかに一番年下の俺が隊長なのは、シンプルに俺が一番強いからだ。スターズ総隊長がそういう枠だったのはアメリカ流の脳筋運用というだけでなく、魔法師(特に現代魔法師)全体に自分より魔法力が下の奴を舐めてかかる本能あるいは価値観があるからだと言う。

 

 これは機関長の真砂少将(古式魔法師)の経験則に基づく仮説で科学的根拠とかはないらしいのだが、原作を見てると否定できる要素は全くないと思う。ルーツが兵器だからってあいつらサイヤ人みたいなのばっかだし。

 

 閑話休題。いよいよ実戦での部隊運用が本格化した。

 

 基本的には不都合な誰かを消すとか、どこかの拠点・組織等を襲撃するとか、諸事情で警察や軍隊などの正規の手段で解決できない案件に突っ込んで皆殺しまたはターゲット確保、帰還という流れを繰り返している。テロリストだの、外国の工作員だの、潜伏ゲリラだの、非合法部隊らしさ満載の汚れ仕事がいっぱいだ。最近は移動手段として艦載ステルスヘリなんかが配備されて俄然特殊部隊っぽくなってきている。

 

 うちの隊は人手不足なので(非合法任務への従事者をできるだけ減らしたいからだと思われる)、確保後の「尋問」や「説得」までセットで俺が担当することもある。利用価値がなくなったと判断したら然るべきところへ引き渡しだ。隊員にそういうの超うまい人がいるので俺は見習いだけど。

 

 性質上、万が一にも存在の証拠を残すわけにはいかないので、無力化された段階で自爆する仕組みが俺含めた隊員全員に施されている。スターダストとは別方向の死兵だ。

 

 また、隊員は戦闘時、全員が同じ装甲スーツ、同じ銃、そして同じバイザーを装備する事になっている。スーツには光学迷彩から増加装甲までモジュール化された追加パーツが大量に実装されており、任務の性格に応じて組み換えできるようになっている。ちなみに、フル装備だと全身プロテクターに重機関銃を腰だめ……とか言うどっかの首都特機隊みたいな仕上がりになる。

 

 そして、これらを全部装備すると顔どころか身体のラインすらわからなくなる。部隊そのものが俺の影武者であり、隊員個々人のプロフィールを隠す役割があるという。そのため、隊には戦闘力を見込んでスカウトされた魔法師や調整体以外にも、素性を隠さなければ運用できない訳アリ魔法師がたくさん合流する見込みだ。うーんゴミ箱。

 

 ……合わせて、アビスの勉強のため澪さんのところに出向いていたのも前回までで打ち切りになった。元々、改良型アビスを問題なく使えるとされた段階で通う必要はなくなっていたのだが、澪さんの毒舌を聞かないと週が始まった感じがしなかったので何やかんや言って毎週お邪魔していたのだ。寂しくなるが、お互い想定される仕事の範囲が全く異なるので、もう会うことはないだろう。澪さんにも別れを惜しんでもらえて、ちょっと嬉しかったよ。

 

 入れ替わるように、俺たち第一実働小隊のオペレーターとして新たな人員が追加された。

 

 師補十八家、十山つかさ伍長だ。今後は彼女がオペレーター兼支援要員として後衛を担当してくれるそうだ。確か司波達也が高3=2097年の時点で24歳くらいだったはずなので、今は19歳、高卒新卒1年目か。年齢と階級が合ってないのは俺の言えたことじゃないからいいとして、あなた家ぐるみで陸軍情報部所属じゃなかったっけ?

 

 まあ、陸軍から戦略級魔法師たる俺の監視に来たんだろうなということはわかるし、今のところ真面目に仕事をしてくれている。十代とは思えないクソ度胸と的確な提案をしてくれるので、正直言うととても仕事がやりやすくなった。

 

 今は2092年1月。マテリアル・バーストが陸軍に把握される前だから、陸軍は戦略級魔法師を保有していないのだ。向こうの偉い人が焦っているのだろう。この人特有の不気味な愛想の良さでめっちゃグイグイ来られているので、案外陸軍に引き抜こうとか思っているのかもしれない。

 

 何より、彼女の遠隔シールドは司波達也に通用しなかっただけで常識的には非常に強力だ。対魔法師用ハイパワーライフルはもちろん、来ると分かってれば戦術核すら防げると言われる"十"の防壁が味方に付くのはシンプルに心強い。

 

 原作でろくでもないことばっかりやってたのは知ってるけど、それを裏付けるものはない訳だし、裏切ってると判断されたら消させられるの俺だろうし。その時は責任を持って俺が手を汚そう。

 

 元々、俺の専門は屋内などでの近接戦闘であり、それ用に設計された俺の身体はそれこそ、不意打ちで流星群でも貰わない限り負けはないと言えるレベルにある。スターズ総隊長と同じように、同僚が変な気を起こしたら「後片付け」は俺の仕事だ。

 

 ……また、俺以外の同期や後輩たちは魔法力こそ俺に及ばなかったが、俺と同じく生まれた時から軍事教練を受けているのでその辺の一般兵よりよっぽど練度が高い。包囲や支援、打ち漏らしの掃討に露払いなどなど、手伝いをさせるには十分すぎる戦力である。

 

 彼らの助けもあって今のところは問題なく任務をこなしてる訳だが、この先問題になるのはやはり、8月に迫った沖縄・佐渡侵攻だろう。実のところ、既に俺たちが担当する任務もそれ関連のものが増えてきていた。沖縄で潜伏ゲリラと思われる連中を先んじて暗殺とか、向こうと繋がってるらしい政治家連中をいつ消すか考えたりとか。

 

 公安9課じゃないんだから警察の特殊部隊とかにやらせなよと思うのだが、どうやら情報源が非合法で伝達が難しい(フリズスキャルヴ使ってんじゃないだろうな)ことと、裏に外国の工作員が関わっているのが分かっているため表の部隊にやらせると開戦タイミングをコントロールできなくなるんだとか。

 

 この調子では原作通り沖縄・佐渡への侵攻は起こりそうだ。せめて被害を小さくできるといいんだが。




創一朗以外の隊員の素性については近く開示予定があります。

次回投稿 3/17 7:03
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。