(政府の)犬です、よろしくお願いします   作:TE勢残党

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04 対魔装特選隊

 そういえば、今生での俺の名前は「(さかき)創一朗(そういちろう)」と言うらしい。

 

 始めのうちは通し番号が1番だったことから1号とかイチロウとか呼ばれていたが、「成功作」として軍に身柄が移るにあたり、ちゃんとした名前が与えられることになった。創作物(調整体)で1番だから創一朗とかいう安直なネーミングである。

 

 苗字の榊は神道の考えでは「神と人との境にある木」あるいは「神の依り代」を意味する植物なので、調整体として人の領域から外れたところにいる俺にはピッタリということらしい。

 

 俺のことを正確に表現する場合、計画名「リョウメンスクナ」、調整体「鵺シリーズ」、個体識別番号M-001、名称「榊創一朗」となる。学名か? というか、鵺はまあ(ショッカーみたいな全身改造具合を考えれば)分かるとしてリョウメンスクナってなんだよ。計画名とそれが成功したということしかわからない現状まあまあ怖いんだけど、流石に領域展開はできないぞ俺。

 

 本当に、俺の製造元は一体何と戦ってるんだろうか。人工的に神様作ろうとか絶対後でとんでもないしっぺ返しが来るタイプの自意識じゃん、破滅するなら一人でしてくれよ。

 

 その思いが通じたのか(多分偶然)、戦略級魔法師になりかけてから数か月、ついに研究所を出ることになった。

 

 今の住処は国防海軍の基地である。いよいよ研究所での育成期間は終わり、実戦投入という訳だ。

 

 軍に配属されるにあたり、俺には国防海軍特殊部隊「対魔装特選隊」の隊員としての身分が与えられた。聞いた話だと、非合法性がとても強い(ぶっちゃけエライ人の私兵)ためどこの所轄にするか非常に揉めたらしい。

 

 結局、俺の古巣である海軍の極秘研究所……とその親組織である「M機関」が主導ということで、何周かした後「表向きは海軍の特殊部隊ということにする」ということで決着が付いたそうだ。

 

 そのため、所属こそ海軍で本部も横須賀に置かれることになったものの、中身は要するに「魔法研究の暗黒面」の集合体だ。

 

 俺たち調整体に限らず、軍や政府機関の暗部で持て余した魔法師たちが次々合流というテイで押し付けられており、未だに正確な組織規模がはっきりわからない有様。俺はそういう「陰謀のゴミ箱」的な魔法師部隊に配属されることになった。

 

 俺は軍への身柄移送に伴って海軍曹長の階級が与えられ、この特殊部隊の隊員になるために過去の記録が抹消されたということになっている。もちろん正規の記録には最初から俺の存在などないので、所属と階級は便宜上のものだ。成り立ちが成り立ちなので、俺や同期たち以外の隊員も明らかにヤバそうな奴らばっかりで退屈しないよホント。

 

 真面目な話、この亜人の脅威に対抗できそうな名前の部隊は、有用だが扱いに困って日本中で分散・幽閉されていた魔法師たちを一か所に集め、管理を容易にするのと合わせて表に出せない類の仕事をやらせようという意図があるらしい。

 

 ただ今は出来立てなので、呉の特別警備隊よりさらに少ない40人ほどの人員しかいない。隊の名前は心意気……ではなく、これから数年かけて相応の規模まで充足する予定だから。各地の極秘施設やら研究所に詰め込まれていた連中が相応の政治的取引を経てうちに放り込まれており、魔法戦力には事欠かない。

 

 陸軍の独立魔装大隊に先駆けて設置されたこの部隊だが、その作戦方針は似て非なるものだ。うちはどちらかというとスターズ……もっと言えば冷戦期のCIAに近い。魔法戦力を対テロ戦や非合法の工作任務に投入することを目指す、日本では表沙汰にできない攻性の組織だ。

 

 独立魔装大隊は「十師族に依存しない魔法戦力の確保」を目指して設立された(少し後に設立される)部隊だが、この隊は「敵の魔法戦力を含む重要目標の破壊」を目的としている。「こっちも魔法を使う」ことは、目的ではなく手段に過ぎない。

 

 そういえば以前、あちこちの基地でいろんな種類のスペシャリストと訓練したことがあったが、あの時の軍人たちの大半が隊員として引き抜かれている。あれは顔合わせだったのかと思うのと同時に、彼らの雑多な専門技能に一つの共通点を見出せる。

 

 対魔法戦闘の専門家だ。

 

 「魔法師として戦った経験」ではなく、「魔法師と戦った経験」が豊富な人材。

 

 海軍が用意できる範囲で、そういう人材がかき集められていたらしい。

 

 隊員はそういうプロが半分、訳アリ魔法師が半分といった感じだが、軍事物資であるアンティナイトが常備され、何なら魔法を発動させられない程度の魔法素質持ちを「アンティナイト要員」として利用する戦術も考案しているあたり、少なくとも殺意は一貫しているようである。

 

 また、この部隊は独立魔装大隊と違い、表向き存在しないことになっている完全非合法部隊だ。時に正規の手続きを経ずに命令が下ることがあるし、「バレたらタダじゃ済まないだろこれ」みたいな案件が回ってくることもある。まあ俺の存在そのものが人道に対する罪みたいな所あるし、当然っちゃ当然である。

 

 隊長曰く、日本は先の大戦でも本土が戦火に晒されることがほぼなかった。島国という国土の性質上敵勢力の上陸が難しく、上陸できたとしても橋頭堡の作成は更に難しいためだ。

 

 ゆえに日本本土への攻撃として最も現実的なリスクは、魔法戦力を用いた少数による奇襲、ゲリラ戦、それらに伴う沿岸部への被害である。この部隊は、そういった卑劣な魔法攻撃を防ぐため、敵性魔法戦力の速やかな撃滅を目的に設立された。

 

 建前や話し合いが通じる相手ばかりならいいが、そうでない獣に道理を説いても意味はなく、そういう相手からの被害を最小限に抑えるためには、誰かが獣に堕ちてこれを屠らなければならない……という建付けである。

 

 

 ――大した先見の明だ。実際この直後に沖縄と佐渡に侵攻されるし、3年後には横浜に上陸されるし、その後USNAやらオーストラリアやらの魔法師が工作員として入ってくるし、新ソ連に戦略級魔法ぶっ放されるしで未来の日本は散々な目に遭う訳だが、それをある程度予期できている。

 

 俺がそれらを教えたところでロクなことにならなそうなので黙っているが、この人(と、裏で糸を引いてるであろうエライ人)はその辺分かっているのだ。こんな部隊は原作にはなかったはずだが、俺が生まれたことで生じた歯車のズレは、いい方向に進んでいることを願う。

 

 

 

 部隊設立のドサクサから息つく間もなく、今度は愛媛の第五研究所に出向だ。トップクラスに影の薄い十師族こと五輪さん家のおひざ元である。

 

 今の俺は特殊部隊隊員の身分はあれど、散発的に殺しを命じられるくらいで長期の任務が割り振られているわけでも、実働小隊の管理を任されているわけでもないので、実質的に遊兵だ。待機と訓練だけではなく、研究所時代と同様にあちこち出向いて魔法の勉強をしろというお達しが出ている。

 

 意外と話のわかる隊長さん(40歳にして海軍大佐、超エリートである)によると、俺たちの上にいる誰かさんは俺とあと特選隊でも突出してる何人かを選抜してレインボーシックスみたいなチームを編成し、それを私兵として便利に使いたいらしい。だが、以前の極秘研究所での成績を聞いてウキウキになり、まずは俺を非公認の戦略級魔法師として使えるようにする方針ということだ。スポンサーが嬉しそうで何よりだよ。

 

 特選隊のほうは非公式部隊ということもあり、俺以外の兵士やら装備やらの充足に今年度いっぱいくらいかかるらしいので、本格稼働は来年度から、それまでは準備期間といったところか。

 

 そんなわけで、第五研で「アビス」の前の使い手こと五輪澪さんと顔合わせを済ませた後は、定期的に澪さんの所に出向いて研修を受ける。何しろ今の日本で戦略級魔法を使ったことあるのはこの人だけ(今は原作追憶編より1年くらい前)なので、感覚的な部分とか色々アドバイスを聞いて魔法の精度を高める狙いだ。

 

 極秘部隊の人間が頻繁に人に会ってて大丈夫なのかな……と思わんでもないが、実際これのおかげでメキメキ上達してるので利益の方がデカいのは確かだ。虚弱な澪さんの住居に出向く形を取らざるを得ない関係上、多分気づく人は気づいてるんじゃないかなあと思いつつ通っている。

 

 しかし澪さん、なんというか凄く幸薄そうと思いきや結構愉快な人だ。親父さんはタケシみたいなのに本人は凄い美人だし。原作を読んで知ってたのは「身体が弱くて車椅子に乗っている」というくらいだったが、儚げで美しい深窓の令嬢みたいな(本当にお嬢様だけど)見た目と態度から毒を吐きまくるのが新鮮で仕方ない。この人も苦労してんだなあ。

 

 そして、ゴツい俺からすると触っただけで折れそうなくらい細い身体をしてる(なお、向こうの方が10コくらい年上のはず)が、その魔法力は本物だ。特にお家芸の形状干渉には独自のコツや技術の数々があるようで明確に俺より精度が高い。この人生で初めて師と呼べる人に会った気がする。

 

 自慢じゃないが研究所(地元)じゃ負け知らず、だいたいの訓練カリキュラムを感覚だけでこなして来た才能マンの自覚がある。教官も設備も理論も出来る限りのものが揃えられていたが、かなり早い段階で能力が教官を追い越していたので実質独学みたいな所があった。

 

 そのため、ちゃんとした理屈と分野次第では俺を圧倒するだけの才能を持った先達からの教えはとてもためになるし、同じ「天才」の視座から話をしてくれる。

 

 ただ、俺はこちらの世界では12歳。前世で下駄履いてるからいいものの、それがなかったら普通に知識量が不足しすぎている。

 

 俺は戦士として育成されてるので教わった知識も軍事方面ばっかりだが、澪さんは研究者だ。津波を起こしたり船を沈めたりはあくまでアビスの軍事的側面に過ぎず、平時はむしろ第五研の物質形状に干渉する魔法の数々を使って天変地異に対抗する方法を考えてるゴリゴリの流体力学者なのである。

 

 当然、「引き継ぎ作業」は魔法行使ではなく座学の詰め込みから始まった。あと澪さんの車椅子押し係。今のご時世都市部のバリアフリーは完璧に行き届いているが、澪さんの実家はよりによって四国の片田舎だ。普段は東京で暮らしてるというのはその辺の利便性を考えた結果でもあるのだろう。今は俺が車椅子ごとヒョイっと行けるからいいけど。

 

 勉強の方だが、前世の下駄があるとはいえ、知識のほとんどは旧式化して役に立たなくなっており、正直今生で一番苦戦してるかもしれない。だいたい、昔の俺はただの設計屋であって、CADと睨めっこしながら回路図を弄り回すのが本業で純理論的な力学どうこうは専門外だ。手に職付けたかったから理系に行ったけど別に算数が得意だった訳では……。

 

 ともかく、今まで感覚だけでぶっ放してた魔法にちゃんとした学術的根拠を付ける訓練が訓練時間の大半を占めている。勉強が芳しくないのが上にバレたからか当分は愛媛に張り付いてろと言われてしまったし、もうしばらく詰め込み教育が続きそうである。

 

 正直今の段階でも専門分野周りだけなら大学卒業レベルだと思うのだが、何しろ使おうとしているのが戦略級魔法なので、最先端の論文やら実験データやらを頭に叩き込まなければならない。現代魔法はプログラミングみたいなやり方で事象を改変するので、考えてみれば当たり前だ。魔法はなんとなくでも使える(俺が得意なPK周りは特に)が、威力や精度を上げようと思ったら勉強が避けては通れないのである。

 

 という訳で凄いスピードで進んでいく講義に死ぬ気で付いて行っていると、あるいはついて行けちゃうからいい気になられて、話がどんどんヒートアップしてる気がする。この人専門分野が流体力学とかだから原作には出てこなかっただけで、どっちかというと司波達也とか中条あずさタイプのオタクだよ。

 

 ただ自分で言うのもなんだが、常に顔面バイザーで怪しさしかない俺に、澪さんは親身になって魔法を教えてくれていると思う。本人曰く、自分しか使えない魔法を人に教えるのが結構楽しいんだとか。

 

 見るからに仕事だからという以上にイキイキしてるので、多分嘘ではないのだろう。まあ楽しんでくれるに越したことはないな。俺の事年上だと思ってるフシがあるのは騙してるようで気が引けるけども。




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