(政府の)犬です、よろしくお願いします   作:TE勢残党

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02 人の心とかない連中

 ――第二次成長が始まるくらいの歳まで「約束のネバーランド」方式の訓練を受け続けていた訳だが、この頃俺は個別に訓練を受けるようになっていた。

 

 俺と2位以下の性能が隔絶したものだったのはここ数年の常だったが、研究者たちはついに俺より下の同期たちに見切りをつけ、それぞれ別の使い道を検討することにしたらしい。

 

 現在俺は研究所内の最奥の区画に広め(一般的な社員寮や学生寮の2人部屋を一人で使ってるくらい)の個室が与えられ、そこから訓練施設に「通勤」している。

 

 近頃の訓練はより実戦に近いものとなり、どこからか調達されてきた戦闘魔法師と戦ったり、実弾の出る自動銃座が張り巡らされたコースを走り抜け、標的のマネキンを破壊したりしている。

 

 開発元は俺を暗殺者にでも仕立てたいのだろうか? まあ、こんな施設に監禁されている手前俺に否はないけども……現に、殺人やら拷問やら、訓練なんだか実戦なんだか分からん命令も既に複数こなしている。殺っておいてなんだけれども、案外何か変わった感じはしない。確かにこの余韻は童貞を捨てた時に似てるな。

 

 しかし、俺はこんなに血も涙もないやつだっただろうか。前世の頃からやれ薄情者だの人の気持ちも知らないでだのと言われる方ではあったけれど、流石に人を殺してなんともない程じゃなかったはずだ。この身体に引っ張られているのか、心のどこかで現実感がないせいか、研究所暮らしで性格が悪くなったのか……まあいいや、考えても仕方ない。

 

 ああそういえば、俺の「同期」にあたる子供たちは皆に似たような体格と顔立ちをしていた。違うのは性別だけ、同じ背格好・同じ顔立ち(目元以外)の男子十数人と、同じ背格好・同じ顔立ちの女子十数人だ。多少話してみる限り性格までどことなく俺に似ていてちょっとキモいなと思ったのを覚えている。

 

 流石に俺以外で「前世」の記憶がありそうな奴はいなかったのでそこの差はあれど、まるでよく似た兄弟姉妹のようで、元になった遺伝子がよっぽど近いんだろうと推測できた。やっぱり試験管ベビーとかなんだろうな。

 

 そんな俺以外の同期たちには、身体の一部が異形化しているものが俺の他にもいくらか存在した。

 

 耳だったり肌だったり、ところどころ人間からかけ離れている者もいて、それぞれ特異な能力を持っていたものだ。どうやら誕生以前、遺伝子操作の段階でヒトではないあれこれを混ぜ込んで調整したらしい。

 

 俺の場合、この特異性は「目」と「神経系」に現れている。

 

 この身体は視力が悪いと思っていたが、どうやら正確には「見えすぎる」状態だった。そのままでは脳に負荷がかかるので、身体が無意識にリミッターをかけていた結果「普通の近眼」レベルに収まっていたらしい。

 

 ちなみに、みかけ複眼ではあるが視覚情報が脳に入ってくる時にいい感じにまとめられるらしく、俺から見える景色は前世と変わりない。

 

 閑話休題、俺の目本来の性能に研究員が気づいて数年、俺の日常には投薬と暗示で「意識してリミッターを外せる」ようにする行程が追加された。

 

 自前での発達もそうだが、生化学的強化と外科的施術の成功により、見た目こそ変わらなかったが当初よりはるかにこの身体のスペックを引き出せるようになってきている。今では1日に30分くらいなら無理なく本来の性能を引き出すことが可能だ(それ以上になると酷い船酔いみたいな症状が出だすが)。

 

 そんな俺の目が本気を出した時は、望遠鏡のようにキロ単位で遠くの人間の顔を見分け、かと思えば㎛単位のごく小さな模様や形状を見分け、時間分解能およそ3ミリ秒、色分解能2億色、異常な知覚器官の存在、色覚共感覚、一部の知覚系魔法への適性、そして霊子放射光過敏症。平たく言うと、全体的に常人の約20倍の性能を誇っている。

 

 人間にはない感覚器が存在することで、不可視光や電波、サイオンにプシオンまで見分けられる。原作の柴田美月ほどじゃないにしろ霊子が見えるのだ。

 

 Wi-fiの強弱や放射線危険地帯が見てわかるという宴会芸的な特技に限らず、纏うサイオンの質で魔法師を見分けたり、サイオンの流れから魔法の出処や精霊の居所を確認したり、霊子の活性具合から相手の体調を見極めるなんてことも出来る。キング・ブラッドレイもビックリだ。

 

 さらに副次効果として、先天的な才能が必要といわれるマルチスコープに適性を持っていることも分かった。発動中は多元レーダー的な視覚を得て、文字通り後ろにも目が付くということだ。視認することが重要なファクターになりやすい魔法の世界では極めて大きなアドバンテージである。

 

 そして、目からもたらされる膨大な視覚情報を処理できるよう、神経系にも異常な発達が認められる。この辺は一色家由来の研究成果が金沢の研究所を経由して盛り込まれてるとかなんとか。二十八家のルーツになった研究所は元をたどれば陸軍の魔法研究機関であるためか、研究成果の一部は今でも軍の耳に入ってくるらしい。

 

 そんな訳で、普通に生活している分にはあまり自覚がないのだが、俺の神経伝達速度は人間のソレをはるかに超越していると言う。

 

 普通の人間は、音や刺激に反応するのに0.1秒、いわゆる反射神経を鍛える限界は0.2秒、意識的な行動を起こすには0.3秒程度かかると考えられている。

 

 魔法を使う場合もこの神経伝達の限界が邪魔をして、どんなに発動の速い魔法であっても(CADを必要としない超能力ですら)発動まで0.2秒前後が限界というのが通説だ。ところが。

 

 109ミリ秒。

 

 俺の一番得意とするPKの発動速度である。原作で司波深雪が叩き出した記録が280とかだったのを考えると、明確に人間の限界を逸脱しているのが分かる。もともとは180程度だったが、大した練習もせずにその数字を叩き出したことでちょっと楽しくなって隙あらば鍛えまくった結果こうなった。

 

 これと「目」の性能を合わせれば、正面きっての魔法の早撃ちでは絶対に負けないと言える。ある意味では現代戦闘魔法師の完成系だろう。

 

 ただし全系統このレベルという訳ではなくて、得意分野以外の「普通の魔法」の発動速度はせいぜい300ミリ秒前半あたりだ。干渉力や精密性などにおいても、いわゆるPKと称される加重・加速系統の単純な魔法だけが異常なほどの記録を残し、ほかは十師族にならままいるレベルにとどまる。

 

 研究員たちの反応や会話から断片的に得られた情報をまとめると、俺はPK(と、それを先祖とする加速・加重系統の現代魔法)を主体とする超能力と、通常の魔法師としての汎用性を併せ持った存在を目指して作り上げられた調整体であるらしい。

 

 原作ではBS魔法などの超能力と普通の魔法は原則として両立不可能とされ、マルチスコープと現代魔法を両立した七草真由美はイレギュラーな存在と語られていた。俺はそのイレギュラーになってほしくて作られたようだ。

 

 結果、異常な視覚能力、マルチスコープ、クソ強い超能力(PK)、十師族並みの現代魔法適性を並立した俺は文字通りの最高傑作ということになる。個別で訓練メニューを組まれるようになるのも妥当か。

 

 努力して身に着けた訳ではないからあまり実感はないが、得意分野なおかげで練習が苦にならないのはとても助かっている。

 

 俺以外の同期たちにもPK持ちの超能力者がやたら多かったのは、そういう風に調整された結果だろう。と言っても、同期たちは神経系の強化措置が上手く行っていなかったり魔法力が追いつかなかったりで、人間の限界までは越えられなかったようだが。

 

 またこの頃から、研究所を出て外部の訓練などに参加することが増えた。

 

 今まではほぼ監禁状態だった訳だが、俺ひとりになって監視がしやすくなったからか、成長して妙な気は起こさないと判断されたのか。

 

 とにかく、白衣の研究員たちと護衛兼監視役の戦闘魔法師(ヘルメット含むフル装備なので確信はないが、同年代から少し年上くらいに見える)に連れられてあちこち出向くようになった。

 

 行先は主に軍の施設だ。特に海軍の施設が多く、どうやら俺のいる研究所は国防海軍の管轄らしいことが分かる。悪名高い星を呼ぶ少女と同僚ということで、人の心を感じられない仕打ちの数々にも納得が行くというものだ。

 

 もともと水上戦闘から水中工作までそれらしい訓練はいろいろ受けていたものの、ここにきて船や潜水艦に乗る訓練も増えたので、上役は俺を特殊部隊にでも入れて使いたいのだろう。海軍なのに輸送機の操縦からラペリングにパラシュート降下まで、とてもネイビーシールズを感じた。

 

 軍の訓練では、ほかの兵士たちに混ざって軍隊格闘やら集団行動やら、肉体面、知識面の教育を詰め込み式で受けている。

 

 俺の訓練を担当している部隊の人はその時々で魔法師だったり非魔法師だったり様々だが、何かしら凄まじい技術を持ったスペシャリストばかりで非常に勉強になる。皆明らかに普通の兵隊さんとは一線を画すレベルの高さだが、どういう伝手で集めたんだか。

 

 そうして鍛えられて分かるのが、俺の身体面の性能の高さ。こちらも遺伝的・生化学的・機械的に3重の強化措置を受けており、当然ながら運動能力も人間の域を逸脱している。オリンピックに出れば金メダルでオセロができる仕上がりだ。まあ、今の世の中特殊部隊員や諜報員の上澄みは皆強化人間か魔法師らしいのでこれくらいでは優位性とも言えないのかもしれないが。

 

 筋力や走力、投擲力などもそうだが、特にヤバいのは身体強度の高さだ。

 

 研究員が言うには毒劇物やBC兵器への極めて強い耐性のほか、体組織のダイラタンシー化、骨格強化、筋繊維の密度と強度強化に一部器官の機械化・装甲化と外骨格の形成までやってるそうで、俺の体格の良さは骨とは別で皮下組織に外骨格が埋まってることによるものらしい。そこまでやって良く人の形を保っているもんである。国防海軍の科学は世界一。道徳は赤点。

 

 これら最先端の人体強化技術が全盛りされているため、計算上は拳銃弾くらいなら素で耐えられる強度を獲得するに至っている。だが、だからと言って本当に腕を実弾で撃って試すのは辞めてほしかった。SCAR-Hの子孫みたいな銃の7.62mm弾はギリ耐えたが、M2(まだ現役なのかよ)が出てきた段階で貫通したし。本当にクソ痛かったのでもう二度とやらないで欲しい。脱走するぞ。

 

 ついでに、その時受けた傷が異常な速度で回復したことで自然治癒力も強化されてることがわかった。デッドプールか?

 

 ちなみに、動けるようになってから一貫して「いい子」でいたのが功を奏したのか俺の研究員たちからの評価は非常に高く、最近はバイザーさえつけていれば研究所の敷地内限定で外出も認められるようになった。まあ、外に出たところでトレーニングルームを勝手に使うかその辺を走るくらいしかできることはないが……。

 

 ある日、いつもの「お出かけ」で南方のとある研究所に出向くことになった。

 

 大戦期に稼働し最近まで封印されていた極秘の魔法研究所という話だが、わざわざ保全されるだけあって設備やら何やらウチと同等レベルのものが揃っており、かなり金がかかっているらしいことが分かった。聞くところによると、俺の産まれた研究所と別組織だが、上の方でつながっているらしい。同グループ内の他社みたいな感じか?

 

 当時の人員をある程度は呼び戻しているようだったが、ここの設備と計画はウチの研究所が吸収する形での統合が決まり、元々ここで研究されていた案件は完全に廃案が決まったそうだ。

 

 いまいち結果が出ていなかったらしいので、俺という成功例がトドメをさしてしまったか。作ってるものは人の心がない割に、こういう所は常識的なのが軍らしさというか、なんというか。

 

 ともかく、今回俺が出張させられたのは、この研究所に備えられている巨大なCADを利用できるか試すため、とのことだ。

 

 そして機械を見て察した。これ隕石爆弾のやつじゃん。

 

 劇場版特有のインフレによってとんでもない性能を見せつけた戦略級魔法、ミーティアライト・フォール用のCADそのものである。専用の調整体を12人も使い潰すバカみたいな消耗の魔法を俺ひとりで使えと?

 

 だが嫌だと言ったら辞めてくれるわけでもなく、仕方なく指示役の研究員が示す通りCADに乗り込み(乗り込むという表現が似合うレベルの大きさ)、搭載されている2つの魔法式を使ってみる。

 

 1つ目の式は異様なほど処理が重く、途中で制御が追いつかなくなり起動に失敗した。というか、危うく魔法演算領域の過負荷で頭爆発するかと思った。

 

 ヘッドギア外した時には目鼻耳から血ダラダラになっててICU送り。過負荷で脳みそがバグったのか2日ほど片目失明するわ片麻痺になるわ散々な目に遭った。俺が調整体だったから三日月・オーガス体験コースで済んだものの、並の人間だったら廃人一直線だぞ。調整体だからこんな無茶させられるんだけども。

 

 あれは明らかに人間業のスケールじゃない。今まで見てきた中で一番規模の大きな魔法で、場内アナウンスで思いっきり「ミーティアライト・フォール」と言ってたので確定で戦略級魔法である。調整体12人を使い潰すだけのことはある訳だ。

 

 ただ、起動に失敗したというのに研究員たちは「流石に駄目か」みたいな空気だったので、まあダメ元で一応試すか……みたいなノリで使わせてみたらしい。こっちは廃棄処分をチラつかされてガチガチの本気だってのに気楽なもんだ。

 

 3日ほど休養を取った後、気を取り直して2つ目、これもかなり大規模なものだったが問題なく読み込みを完了。何となく脳に馴染む感じがしたので加重系かな……と思っていたら、研究員の口から「アビス改」なる単語が出てきてひっくり返るかと思った。そりゃ原作の五輪澪も海軍と繋がり深そうだったから術式持っててもおかしくないけども。

 

 なお、魔法の方は俺の心配をよそに順調に進行、特に負担を感じることもなかった。しかし目標設定が遠方すぎて照準が定まらず、そのままでは発動できないという結果に終わる。俺の魔法適性は近接戦闘に偏っているので、マルチスコープによる補助を含めても10キロ単位で先の目標を直接照準するのは無理だ。

 

 射程だけ短くすれば発動できそうという旨を研究員に説明すると、研究員の歓喜と少しのドン引きを感じる。特に元からこっちに居た研究員たちは「キッショ、何で使えんだよ」感が強かった。使えって言ったのそっちだろ。

 

 ともかく、俺の感想と得られたデータをもとに設備を改良して再挑戦するらしいので、半年後くらいにまた来ることになった。いよいよ俺も戦略級魔法師か、昔考えてた説も案外マジかもしれないな。

 

 正直アビスはともかくミーティアライト・フォールはダイレクトに命を削ってる感覚あるからもう撃ちたくないんだが、あいにく仕事を選べる身分ではないのでやれと言われたらやるしかない。CADから光が逆流してくる光景何日か夢に出てきたからねマジで。




戦闘教官:若宮刃鉄
 この世界では脱走せず、術式解体に目を付けられて調整体の監視と教練の任に就く。
 主人公以外の調整体の中にも、真面目に作戦立てれば彼と自動銃座をかいくぐって反乱を成功させられる実力者はけっこういるが、成績優秀な奴に限って上役に従順なので今のところ秩序は保たれている。
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