(政府の)犬です、よろしくお願いします   作:TE勢残党

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誕生編
01 陰謀論が現実になる世界


 目を覚ました時、俺は何やら液体の中に居た。

 

 俺にはさっきまで一社会人として暮らしていた記憶がある。けれど今は、この謎の液体の中で浮かぶばかりだ。手足も自由に動かず、なぜか息ができる……いや、息をしなくても苦しくならない。不思議な感覚だった。

 

 この状況は、つまり異世界転生とか呼ばれるようなものなのか。もしそうなら、今の俺は胎児なのか。

 

 考えても答えは出ず、結局俺は漂っていることしかできなかった。

 

 

 

 ――それからしばらく。

 

 今の体は長くものを考えるのに向いていないのか、ダイジェストのようにすこし考えては眠るように意識を失うことを繰り返している。

 

 だが最近、少しだが目が見えるようになってきた。今までは目を開けても何も感じられなかったが、近頃はうっすらと外の様子を知覚できている。

 

 とは言っても俺は色のついた液体の中にいるようで、見える景色はその液体越しのぼんやりとしたものだけだ。

 

 時々、そのぼんやりとした景色にシルエットが映ることがある。シルエットはヒト型で、一人か二人が俺の周りに存在しているようだ。俺は今、てっきり母親の羊水の中にいるもんだと思っていたが、実は違うのかもしれない。

 

 

 

「呼吸確認。体温・脈拍正常。問題ありません」

 

 ――また眠っていたのか。

 

 次に気づいた時、息が苦しくて、俺は力いっぱい泣いていた。

 

 それが産声だったんだと気づいたのはしばらく後のことで、いつの間にか俺は液体から出て身体を洗われ、ベッドに寝かされていた。

 

 やはり俺は赤ん坊に戻っているようだ。自力じゃ寝返りもできない暮らしはそれなりにしんどかったが、なんだかんだでそのうち慣れた。

 

 世話をしてくれる女性がアンドロイドだと気づいた時は驚いたが、むしろ粛々と世話してくれる分気が楽だったかもしれない。

 

 自分のいる部屋も真っ白で殺風景な所だし、なんだかSFチックな所に生まれなおしちゃったなと思った。普通こういう時って中世風の世界に行くもんじゃないのか?

 

 

 

 ――しばらくの間はただ世話をされるだけの暮らしが続いた。世話は全て部屋に用意されていたアンドロイド……女性型のものはガイノイドって言うんだっけ……が担当してくれた。

 

 ロボットが普通に人間の姿をして二本足で歩いているのもそうだが、家事全般どころか乳首からミルクが出る機能まで搭載しているあたり、やっぱりここは相当科学力の進んだ世界だろうと思う。「生まれる前」に俺は水の中にいた訳だが、きっとあれは人工子宮か何かだったんだ。そう思った。

 

 今の俺が住んでいる部屋は広く、30台ほどのベビーベッドが等間隔に置かれている。そのうち7割ほどには俺と同じ時期に生まれたらしい赤ん坊が寝かされていて、病院の新生児室のようだった。

 

 ただ、実際に近づいた訳ではないので細かいところは分からない。どうやらこの身体は生まれつき目が悪いらしく、遠くのものはぼんやりとしか見えなかった。

 

 ガイノイドは4台が交代で巡回しており、適宜授乳したりオムツを替えたりしていたが、親どころか人の気配すらほとんどしないのが不穏さを感じさせた。

 

 やがて首がすわり、ハイハイができるようになると隣の部屋に移されたが、ガイノイドに世話をされる暮らしは続いた。

 

 今度の部屋は見かけ上は保育園の大部屋のようだったが、ベッドとガイノイド用の充電台座、申し訳程度のおもちゃ箱、天井灯、エアコン、あとは監視カメラくらいしかモノがなくやはり殺風景だ。

 

 壁のうち一面が大きな窓になっているが、外の様子として映し出されているものは美麗な映像だった。照明とエアコンは外部から操作されていて、わざと暑い日や寒い日を作って一般的な家庭内の気温を再現しているらしかった。

 

 そして、窓の映像と照明は日の出と日の入りに合わせて明るくなったり暗くなったりする。この照明ひとつ取ってもただのLEDではなく太陽光っぽい暖かさがあったりと、可能な限り外の環境と同じものが作られているらしい。

 

 そこまでするなら普通に外に出せばいいのに……と思っていると、部屋の片隅に置かれているテレビが唐突に起動し、幼児向けの教育番組を放映し出した。

 

 日に2~3時間ほど、このテレビは勝手に(恐らくは、外部からの操作によって)起動し、幼児向け番組やアニメなどを放送する。この何もない部屋唯一の娯楽として、同室の子供たちは我先にとテレビに集結し、近づきすぎた者はガイノイドたちに押し返されている。

 

 俺は遠巻きにそれを見ているが、正直退屈というか、仮にも一度成人して働いてた記憶がある身でこういうものを見るのはなんだかいたたまれない。

 

 しかしそんなことより、今の俺には気になることがあった。

 

 初日にテレビが消えた時、俺は液晶に映った「自分の姿」を産まれて初めて見た。

 

 そこには確かに人間の子供が映っていたが、顔の上半分、目元というか、眼球の形状が明らかにおかしかった。今の俺の目は、昆虫のような複眼だったのだ。

 

 部屋の隅に存在する監視カメラのことを思い出して何とか平静を装ったが、いよいよ今生の俺がどういう存在なのかわからなくなってきていた。

 

 

 

 ――それからどのくらい経ったか、俺を含む同室の7割ほどの子供が立って歩けるようになった頃、白衣を来た人間が何人か部屋に入ってくるようになった。よかった、人類は滅んでいるとか言われたらどうしようかと思った。

 

 それと同時に一人ずつ白衣の人間に連れられて部屋の外へ出ていくようになった。脳裏に「メイドインアビス」のワンシーンが過ったが、今までの期間でこの施設の厳重さはよく知っている。幼児の身体で逃げ出せるとはとても思えず、観念して白衣の人間に付いていくと、近未来的な機械の並んだ部屋で何やら検査を受けることになった。

 

 横で何やら数値を計測している研究員の言っていることは半分も理解できなかったが、聞き取れた単語はいくつかあった。

 

 「魔法演算領域」。「調整体」。「CAD」。

 

 すぐにピンときた。「魔法科高校の劣等生」だ。学生時代、かなりハマってた時期がある。

 

 そりゃあ、近未来な機器が並んでいる訳だ。確か作中年代は2095年とかだったはず。技術力は現代以上だろう。

 

 そして魔法どうこうの話が出たところから推測するに、俺はいわゆる調整体魔法師として生まれた試験管ベビーということ。目元の異常さから考えるに、四葉や九島が作ったような比較的「まとも」なものではなく、ブルグ=フォルゲの初期型や軍の基地に幽閉されていたようなガチガチの強化人間だろう。段々思い出して来た。

 

 ……ろくでもないな、と思った。

 

 確か作中だと、調整体は寿命が不安定で、常に突然死のリスクを背負っているという設定があった。俺もその例に漏れないとすると、今度の人生もあまり長生きは出来ないかもしれない。

 

 しかし同時に、不思議とそれを受け入れている自分がいるのに気付いた。身体が異形で寿命も短そうだというのにあまり悲観的になる感じがせず、どこか他人事のような気がしている。

 

 これは今度の身体が生まれ持った性質か、それとも一度転生を経たことでそうなったのか。ともかく、必要以上に悲観しないで済んだのはありがたかった。この環境で隙を見せたら、どういう扱いになるかわからない。

 

 合わせて、この検査から帰ってきた幼児は元の半分以下くらいで、暮らしていた部屋が少し広くなった。どうやら俺は「適格」だったようだが、「不適格」だった者がどうなったかは考えないことにした。都合の悪いことからは目を背けるのが、人生楽しく生きていく秘訣だ。

 

 

 

 ――幼稚園に入るくらいの年齢になると、運動と魔法使用の訓練が始まった。

 

 こっちは幼児だというのに訓練は容赦がなく、運動量こそ成長を阻害しない程度に調整されているようだが、それ以外は明確に軍事教練だった。正直中身が大人だから割と楽だったが、年相応だったら耐えられなかったかもしれない。

 

 実際耐えられなかった同期(同期という呼び方でいいのか?)の幼児たちが泣いてもわめいても練習量が減るようなことは一切なく、必要と見れば容赦なく体罰が待っている(ちなみに殴る蹴るではなく、電撃棒)。数か月もすると本格的に付いていけなくなる者が出始め、そういう子は翌日にはどこかへ消えていた。

 

 一方で、どうやら俺は「成功作」のようだ。この訓練ペースに付いていくことが白衣の人間たちの定義する「所定の性能」だとすると、俺はそれを大きく超越する魔法力を持っているらしい。自分でも引くくらいの干渉力がこもった魔法を引くくらいのスピードで発動させ、所定の合格ラインをぶっちぎって研究員を戦慄させる……みたいなことがしょっちゅう起こった。

 

 結果として魔法の訓練は俺にとって休憩時間も同然になり、ほかの同期たちが血反吐を吐いて魔法の練習をしている横でサボり倒していても問題なかった。

 

 しかし研究員側も負けじと経験や試行回数が必要な課題をバンバン出してくるようになり、俺のお気楽サボりライフは3日で終わりを告げる。以降は代わりに反復練習や形稽古が増えた。

 

 ともかく、俺は大した苦労をすることもなく、訓練を乗り越えていった。

 

 

 

 ――小学校に上がる歳になる頃には、同部屋出身の「同期」は10人を切っていた。

 

 訓練が始まってすぐの頃は、根本的に身体や精神に欠陥があったり、そもそも魔法力がなかったりで同期たちはどんどん脱落していったが、今の8人になってから脱落は止まっている。

 

 人数が減ったことで、別の場所で育てられていたらしい同世代の子供15人が追加で投入され、23人体制になった。この子たちも同様の試験管ベビーだとすると、ずいぶん予算が潤沢だなと思う。この施設自体完全に隔絶された場所にあるようだが、そのくせ機器はハイテクだし、研究員たちは私語ひとつしないで粛々と職務に邁進するプロばかり。

 

 一度、耐えかねた同期が研究員に向けて魔法を使用したことがあったが、発動する前に研究員の装備したアンティナイトと教官(戦闘魔法師)の術式解体で魔法を封じられ、即時に自動銃座でハチの巣にされていた。

 

 あの動きの無駄のなさからするに、少なくとも現場にいる人間は全員、学識だけでなく戦闘訓練を受けたプロだ。術式解体を実戦で使えるレベルの戦闘魔法師を用意できていることも考えると、恐らくここは軍の研究所だろう。政府関係にしては人員が過剰戦力すぎる。

 

 

 

 ――小学校も高学年くらいの時期になっても、俺はランキング形式で発表される訓練成績の1位に君臨した。

 

 成績下位の連中は連携訓練のカリキュラムが、俺を筆頭とする上位者は引き続き個人技を磨く方向で鍛えられている。

 

 どうやらここの研究所が目指している「所定の性能」は、どちらかと言えば単体性能の高さを指すらしい。そして、その基準だと俺は極めて「優等生」であるらしかった。

 

 さっきも言ったが、生まれついての魔法演算領域の性能が俺は物凄く高いらしく、今のところ研究所から出される課題には特に苦労することもなく満点ないし向こうの想定を超えたスコアを取り続けている。

 

 身体訓練についても、この身体は視力こそ悪いが反射神経がかなり良く、基礎体力は中の上くらいだが格闘訓練では圧倒的、魔法アリの実践訓練でも無敗を誇っている。

 

 俺は研究所的に最高傑作とされる一方、想定を超える性能のため持て余され始めており、将来的に課される予定の「任務」は方向性の変更が検討されていると言う。

 

 その言いぐさを聞いて、もしかしてある1つの重要任務のためだけにこんな大がかりなことをやってるのかと思い至る。

 

 イチからそれ用の調整体を作るレベルの重要任務って何だよ……と普通なら思う所だが、この世界が魔法科高校の劣等生だと知っている俺にはいくらか思い当たる節があった。

 

 今一番ありそうだと考えているのは、何らかの戦略級魔法の使い手を育成・選抜しているという説だ。

 

 魔法だけできてしまって使い手不在の戦略級魔法をこの研究所の母体……恐らく軍が保有していて、使い手が見つけられなかったので作ろうと考えた……というのは辻褄が合う話だし、現に原作の海軍に「わたつみシリーズ」という前科がある。

 

 ただ、それにしては求められる魔法力が対人戦闘寄りに思える。俺の場合念動力(PK)を含む加速・加重系魔法を使った近接戦闘が一番の得意技で、同期たちも半分ほどは同じ系統を得意とするサイキックだ。

 

 訓練課程も長距離射撃とかより白兵戦・肉弾戦に偏っていて、得意分野に合わせて訓練カリキュラムが組まれているようになった。戦略級魔法に必要なのは超長距離照準と魔法式の規模、そしてサイオン量。それらが重視される様子は(今のところ)ない。

 

 次に考えたのは司波達也関連説。俺が読んだ記憶のある範囲でも、四葉一族の上にはスポンサーがいるらしいと書いてあった。そのあたりから司波達也の能力が伝わっていて、それを危険視した何者か有力者が対抗できる魔法師または魔法師部隊を作ろうとしているとか。

 

 だがこれは「原作知識」以外に何の根拠もない憶測なので何とも言えない。

 

 何しろここは「魔法科高校の劣等生」、素人考えの陰謀論が結構な割合で現実になる世界だ。今置かれている状況だってどこかの都市伝説サイトが書いていそうな状態な訳で、結局今出来ることはない。この研究所の目的は分からず終いである。

原作の履修度合いを教えてください

  • ネットのネタくらいは知ってる
  • アニメ1期は見た(横浜まで)
  • 来訪者編までは見た
  • アニメの範囲は見た(古都内乱まで)
  • 本編は全部見た
  • 外伝・続編まで追ってる
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