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夕焼け→小妬け(槍弓)/Novel by 湯屋

夕焼け→小妬け(槍弓)

4,764 character(s)9 mins

支部にweb拍手とか設置出来たんでしたっけ…?全然記憶にないのですが、支部のweb拍手お礼として発掘したものです。
恐らく2番目に書いた槍弓小説なのでは?と思います。いつ書いたのは全く記憶にないのですが。
相変わらず両片思いの槍弓が好きなようです。趣旨趣向は変わらないみたいで安心しました。

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夕焼け→小妬け



『     』

不意に名前を呼ばれた。何故かそれに違和感を覚えつつも、振り返るとそこには宝石のような紅玉。甘く柔らかく、まるで飴玉みたいにとろけてる。
細められたその瞳には、自分の茫然とした表情が映りこんでいた。透き通るような、美しく綺麗な矛盾。茫然自失の私に、彼は苦笑を向ける。
仕方ないなぁ、って。呆れたように笑いながら、それでも嘲笑ったりしない。心底、愛しさを込めるようにして。確かめるように、名前を呼ぶ。

『     』
(――あぁ、そう何度も呼ばずとも分かっている。なんだね?)

口から発する言葉は、音となり声として存在しているのだろうか。確かに発したはずの言葉は、まるで人魚姫の泡のように泡沫と消えていく。
それでも彼には届いているようだった。彼からの言葉も、音として存在しているか不安で。それでも彼が、私の名前を呼んでいると分かるのだ。
どうしてか、不思議だったけれど。らしくなく、何度も、何度も。彼は私の名前を呼ぶ。それがどうしてか、こんなにもくすぐったくて、慣れない。
その表情があまりに恥ずかしすぎるからだ。愛しい誰かに向けるような、とろけるような笑みを。見つめられる度泣きたくなるのは何故だろう。

『     』
(…、………あぁ、分かってはいる。分かっては、いるんだが……私には、その一歩がとてつもなく、痛いんだ)

何度も、何度も。優しく、甘く。あまりに純粋な笑みだから、皮肉も軽口も返せない。そしてそれが、促すための笑みだと理解してしまうのだ。
柔らかく、ゆっくりと。ほら、と促される。彼は甘い笑みを浮かべながら、両手を広げる。待っている、私が近づくのを。
傍へ寄るための一歩が、私にとってとてつもなく重いと知っていながら。私は困ったように、時が流れるのを待つしかない。

『     』
(…何度、呼ばれようとも…私などが君には近づけないんだ…ランサー)

己の手を見つめる。彼とは違い、何も救うことのなかった血塗れの手だ。本当なら、こうして向かい合わせで会話することすらおこがましい。
ただの守護者崩れが、光の御子たる英雄と。話すことも、目を合わせることも。本来ならば許されるはずがない。だからそもそもが奇跡の祝福で。
なのに彼は、それ以上を求めよと私に告げるのか。その雄弁な視線で。その手を伸ばせと、ただ名前を呼ぶだけで私に告げるのか。

『     』
(…勘弁してくれ、頼むよ…懇願しよう、許してくれ)

命令されれば、何でも応えよう。この身にできることならなんだって、叶えてみせると誓うから。だからどうか、それだけは許してくれ。
手を伸ばし、君を求めるなどと。それだけは祈れない、許されない、願えない、叶えられない。自ら触れることは、許されない。
無理だ、と首を振れば。彼は途端、眉を下げ哀しそうな顔をする。それでも笑みは浮かべられたまま。いつまでもいつまでも、私を待っている。
私の軟弱な性格を知りながら、それでも笑顔で待ってくれている。どうしたらいい、どうすればいい。許されないと、分かっても、尚。


(――求めよというのか、この私に…許されないと、知っていながら…?罰が下ると、分かっていながら…?)


惹かれている、焦がれている。この想い自体が罪で、叶わぬこと自体が罰だったというのに。これ以上の罪を重ね、罰を受けろというのか。
ならばいっそ、この身を焼いて消してくれたらいいのに。そうすればこんな、愚かな願いを持たずに済むのに。我ながら愚かすぎて涙が出そうだ。
彼の導くまま、促すまま。ゆっくりと腕を伸ばして、震える手を伸ばす。求め、焦がれ。その眩い笑みに誘われるまま、呼び慣れた名前を呼ぶ。


珍しいこともあるもんだと、彼の部屋へ向かいながら槍兵はそう思った。マスターからそう頼まれたのだから、足が重くとも行くしかない。
いわく、今日は食材調達のためのレイシフトだというので。あの赤い弓兵の力が必要なのだが、時間になっても起きてこないのだと。
ならば自ら起こしに行けばいいのに、わざわざ俺に頼むということは。きっと自分の彼への思いが、筒抜けになってしまっているからなんだろう。

(んな変な気回されても、逆に困るっつうか…あー)

がしがしと罰が悪そうに頭をかきながら。外見は面倒くささを装って。内心は心臓がうるさいくらい暴れていて。彼の部屋を訪れるなどと。
寝坊して遅刻してる弓兵を叩き起こすためだけだ、マスターにそう頼まれたからだ。そう言い訳して、いや言い訳でも何でもないのだが。
とうとう辿りついてしまった彼の部屋の前で深呼吸。覚悟を決めて、こんこんと。いかにもいつも通りを装って、唾を呑み込み乾いた喉を潤す。

「――おーい、アーチャー」

どうやら上手く普段通りを繕えたようだ。何でもないように彼の名前を呼んで、扉を叩いて。何でもないように、気怠そうに、面倒くさそうに。
緊張や嬉しさを隠して、珍しく寝坊などしている弓兵へ問いかける。しかしどれだけ待っても、その扉が開く気配はなくて。

「…アーチャー?」

不思議に思い、扉を叩く。それでも出てこないのだから、仕方ないと言い訳して。その部屋の中に入る。静かな部屋に、寝息が一つ。
ベッドに近づけば、すやすやと眠るその姿。いつもと違い髪は降ろされ、あどけない幼い寝顔に。思わず心拍数を上昇させる。
悪事だと分かっていながら、誘われるまま近づくのを止められない。ぎしり、とベッドは軋んで。覗き込むように、その寝顔を堪能する。

(あー………)

ベッドに腰かけて、手をついて、覗き込んで。許されるぎりぎりの範囲まで近づいて。許されないと分かっているから触れることは決してしない。
一度触れてしまったら、それこそ止められなくなると分かっているからだ。理性を留めておけると思えない。例えこんなに、目の先にあったとしてもだ。
安らかな寝顔に引き寄せられていたら、ふと。その睫毛が震えていることに気付く。長く白い睫毛は、次第にゆっくりと瞬き始め。
ゆっくりと、開かれる瞳。寝ぼけ眼で蕩けた視線は、それだけでも射貫くのに十分で。だというのに、時が止まるような遅さで。伸ばされた掌。


「――らんさぁ、」


甘く柔らかく優しく、ついぞ聞いたことのない声音で。彼は名前を呼んだ。愛しくて堪らないと、たった一言で全てを伝えるかのように。
目を見開いて、硬直。唖然として、茫然。心臓が止まってしまったかのように動けずにいれば、ゆっくりと覚醒していく弓兵の意識。

「――…ッ、」
「――…、……っ、――すまない、間違えた」

指先が頬に触れようとする、その寸前で。弓兵は覚醒する。それは夢ではない、現実だと。驚かれるように見開いた槍兵の眼が事実を物語っている。
急激に冷めていく熱、覚醒する意識。もうそこは夢の中ではない、紛れもない弓兵の自室で寝台の上だった。見間違うはずのない現在だった。
槍兵が、どうして部屋にいるかは分からないけれど。それが現実であることさえ分かってしまえば、弓兵の覚醒は驚くほど速かった。

「どうして君がここに…?…あぁ、もしかして、マスターに起こしてこいとでも頼まれたのか?」
「――…」
「それならすまなかった。早急にマスターの元へ…ッ!?」

そうだ、分かっていたことじゃないか、と弓兵は意識を切り替える。あんなのは夢でしかない。自分に都合のいい、優しく甘い愚かな夢想だ。
目の前にいる、硬直している彼こそ信じる。ならば普段通りに戻らなければ、現実不可能な夢など忘れなければ。そう降りた髪を後ろへ撫でつけ。
動揺を悟られないよう、いつもの自分自身へ戻ろうと取り繕う。だがそれは一瞬にして崩れ去る。隙だらけの弓兵を、渾身の力で槍兵が縫い付ける。

「っ、ランサー!?」
「――誰だ」
「はっ!?」
「誰と――間違えやがった、弓兵ッ…!!」

そればかりは許せない、とばかりに槍兵は吠える。起き上がりかけた弓兵の身を、再びベッドへ沈め縫い付けながら。決してその拘束は解かせない。
叶わぬ想いを抱いていると自覚しつつも。それでも、それが許せない。あんなに愛しそうに、誰かを呼び求める弓兵を槍兵は受け入れられない。

「っ、まち、がえる…?」
「あぁ、どの“槍兵”と間違えやがった…?」
「――…」

その彼の怒りが全く理解できない弓兵だった。今の自分の、寝ぼけて取ってしまった行動が。槍兵を不快にさせてしまったとしたのなら、素直に謝れた。
だが彼は、そうではない。自分が誰かと間違えられたことに怒っている。このカルデアならではの事情、槍兵のたくさん溢れているという現状で。
弓兵の呼んだ名前を、ただのクラス名でしかないと思い込んでいる。自分でないと思い込んでいる。弓兵から思いを注がれているとは思ってもみない。
それは酷く見込みのない事実だと、弓兵は自嘲する。最初から分かってはいたことだ。誤解してくれて、助かったということにもなるのだろうが。

「――間違えて、すまなかった。それだけでいいだろう、離せ、私は急ぐ」
「ッ、だからどの“ランサー”を呼びやがったんだよ、てめぇは…!」
「しつこいな、君も…関係ないだろう、私が誰を呼ぼうが」
「関係ねぇわけあるか…!あんな顔して呼びやがったんだ、せめて相手くらい吐きやがれッ!!」

素早く身を捩り、槍兵の檻から弓兵は逃げ出す。普段なら逃がすなんて愚行を犯すはずがなかったのだが、それほど槍兵は動揺していた。
あんなにも愛しそうに名を呼ぶ相手が、弓兵にはいたという事実。例え叶わぬ想いだったとしても、それでも相手くらいは知っておきたい。
付け入る隙はあるのか、算段は、確率は、勝算は。ぐるぐるとそんなことばかりが過って、みっともなく弓兵に纏わりつくしかない。
いつも以上にしつこく、また全然諦める様子がない槍兵を。軽くかわし続け、それでも食い下がらない物だから。とうとう弓兵がキレて吠えかける。


「――ッ、だから!夢と現実を間違えたんだ!私は!」


何をどうして、そんなにも答えを求められているのか弓兵には分からない。自分と同じ思いを、槍兵が抱いているとは露にも思わない。
どうせ事実を言っても伝わらないだろうと、油断してつい墓穴を掘る。吐息が聞こえてしまいそうなほど、顔を近づけてしまったと自覚せずに。


「――………は?」
「…、……いや、なんでもない。もう私は行くぞ、目覚ましご苦労!」

2人して、硬直する。その事実を呑み込めない槍兵と、その事実をどうして告げてしまったのか分からない弓兵と。同じ唖然とした表情で。
動揺したまま、それでも先に行動したのは弓兵だった。己の発言を自覚しているからこそ、今すぐにでもこの場を逃げ出さなければと必死だったのだ。
逃げ出す弓兵を確保できないまま、追いかけもせずに。その弓兵の素直じゃない答えを、何度も何度も噛みしめて。槍兵は震えだす。


(ええええええええ!?!?!?)

(ああああああああ!!!!!!)
 


青い槍兵は知らない。赤い弓兵が“ランサー”と呼ぶのは、ただ一人クー・フーリンだけであること。他の槍兵を、皆愛称や名前で呼ぼうとも。
弓兵にとっての“ランサー”は、彼一人であるという特別さを。だから間違いがあるならば、夢だと思って呼んだのが。現実にも届いてしまったことぐらい。
興奮に耐え切れず空を仰ぐ槍兵は、両手で赤く染まった顔を覆い。その扉の向こうでしゃがみ込み俯いて、青く染まった顔を両手で覆う弓兵がいた――


Comments

  • 鴉八丸
    January 21, 2024
  • サポニン
    May 14, 2019
  • 青犬

    顔のニヤけが収まりません…ありがとうございますありがとうございますありがとうございますっ!!!

    May 13, 2019
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