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【女体化】うちにヒモがおりまして/Novel by 象牙

【女体化】うちにヒモがおりまして

9,208 character(s)18 mins

■Twitterで一日ブツブツ言っていたネタ
■アーチャーさんが女性の現パロです
■兄貴がヒモです
■なんだこのネタは
■なんなんだこのネタは
■ちょっと怪我表現とかはあります
■なんでも大丈夫な方だけどうぞ
■なんだこのネタは

■背景素材元さまillust/54519796

■2016年09月24日付の[小説] デイリーランキング 91 位
■2016年09月24日付の[小説] 女子に人気ランキング 75 位
■2016年09月25日付の[小説] デイリーランキング 71 位   だそうです
■めっちゃありがとうございます
■みなさんベージュのブラパンツの弓子が大好きなんだなって思いました 私も大好きです

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8/25

来月分の家賃を持って大家さんの家に行く。
行くと言っても大家さんは我が家の隣に住んでいる。私と猫のイリヤと、それからヒモが一体住んでいる我が家は大変こじんまりとしているので、サンダルをつっかけ庭を横切り道路に出て大家さんの家に行くまで一分もかからない。
いつもの通りの金額を包んだ茶封筒を差し出すと、大家さんの奥さんは人好きする笑顔のまま封筒を開いて、並ぶ諭吉を数枚取り出して私に返してきた。
「来月から母屋の方をリフォームしようと思っててね。お隣、結構音響いちゃうと思うから、お詫びにちょっとだけお返しするわね」
今月は子猫さんのイリヤが来たり、いつもの通りヒモがゴロゴロしていたりと色々あった我が家なので、お金が浮くのはとてもありがたい。ちょっとガッツポーズとかしかけた。
足取り軽く我が家に帰ると、縁側でヒモが寝ていた。見た目だけは良い男だがパンツ一丁なのでただの変質者だ。しかもこの男、今までどういう生活をしてきたのか刺青だの傷跡だのが体表でカーニバルをしている。近所で不審がられるから人目のあるところで服を脱ぐなと何度言えばわかるのだろうか。とりあえずよろこびのステップのまま蹴り起こす。
「来月の家賃がちょっと浮いたぞ」
「おう、良かったなぁ」
なんだその始めから知ってたみたいな反応。
感情が死んでいるとしか思えないヒモは捨て置いて、今日も可愛いイリヤを抱きしめて喜びを分かち合った。今日は美味しいごはんにしようなぁ、と文字通り猫撫で声を出していると、縁側のヒモが「ステーキがいい」と主張だけは一丁前だった。夕食はとんかつにした。


8/30

世の中では夏休みが終わりに近づいているが、毎日がエブリディな社会人である私とは何ら関係なく、更に毎日がホリディなヒモや猫さんにも何ら関係なく、我が家はいつも通りに回っている。
今日は珍しく仕事が早く終わったので、夕方に帰り明るいうちにヒモと買い物に出ることにした。
夕食のメニューがブリの照り焼きかバンバンジーかで言い争いになった。
夕方のスーパーの鮮魚売り場にて。二十も半ばを超えた男女が。夕食のメニューで言い争う。
これがこの世の地獄かと思ったのでヒモをローキックで黙らせ、間を取って鶏の照り焼きにした。カロリーや予算的に間を取れているかは微妙な所だが、譲ってやるという姿勢を見せることは大事だ。帰り道、ヒモに買い物袋を奪われそうになったので全力で阻止する。結果一つの袋を二人で持つとかいう珍妙な光景になってしまった。これがこの世の地獄か。
夜は久しぶりに近所の銭湯に行くことにした。うちのヒモはいつの若気の至りだか知らないが刺青が入っているので、通常の銭湯や温泉には入れない。しかし昔ながらの銭湯の一部ではボディタトゥーや刺青のある者も入浴が認められているので、ヒモが来てからは時々利用している。そういう銭湯だけあって背中がカラフルな方々が多分に利用しているようだが、ヒモは大変コミュニティー能力に長けるヒモであるため肩身の狭い思いはしていないようだった。風呂場でくらい肩身の狭い思いをしておけとおもう。出た後でフルーツ牛乳を手渡された。ヒモのおごりかと思いきや中のカラフルなおじさまからのおごりだったらしい。ヒモはいちご牛乳を飲んでいた。女児か。
帰り道。近所で子猫さんの鳴き声がしている。どこの子猫さんだろう。


9/3

会社帰り、ひどい雨のなかで猫さんを拾った。うちにいるイリヤと同じくらいの子猫さんだ。びしょびしょに濡れた黒い毛の彼女を夜道で見つけられたのは僥倖だと思う。どんな動物であれ、子供はささいなことで命を落とす。通勤用の上着が泥で汚れたが仕方ない。
家に帰るとヒモとイリヤが夕食を済ませてテレビの前でくつろいでいる所だった。
万一何か感染症を持っているといけないため、黒猫さんを私の部屋に入れ、イリヤと接触させないように措置する。
私は何を手伝うでもなくぼんやり眺めているヒモとイリヤに向かって「今晩泊めるだけだ」と言った。先月、知り合いの家から我が家に引き取られたばかりのイリヤはヒモに抱かれながら釈明じみたことを言う私をきょとんと見ていた。とても可愛い。愛らしさの化身のようなイリヤを抱いている我が家のヒモは、ニヤニヤしながら「俺も最初は一晩のはずだったよな」と言った。
追い出してやろうかと思ったが、部屋に入れてあげられないイリヤに一人寝させるのは忍びない。我慢する。


9/4

黒猫さんがくしゃみをしている。もしかしたら風邪をひいているのかもしれない。症状が落ち着くまで泊まっていくように言った。言っているところをヒモに見られた。ニヤニヤされたのが大変むかついたのでローキックを入れておいた。
明日仕事を早退して動物病院に連れていこう。ヒモがイリヤを見てくれているのでこういう時だけは助かる。こいつを拾ってよかった。
そんな気持ちも込めて晩御飯をカレーにしてやる。ヒモはカレーとかハンバーグとかステーキとか、とにかく子供っぽい食べ物がやたらと好きだ。夕飯のリクエストとか聞くとそれしか覚えがないように肉の二文字を繰り返す機械と化す。働かずに食う飯は今日も旨いらしい。
うまい! と笑う、ヒモの笑顔が無駄に眩しい。


9/5

どうしても仕事を早退できそうになかったので、ヒモに幾らか握らせて黒猫さんを動物病院に連れていかせることにする。
「イリヤのキャリーは使えないから、このランチバックを使え」
「おう」
「お金はこの封筒に入っているが、もしも足りなかったらきちんと謝って免許証を置いて取りに戻ってくるように。いつもの戸棚にこの前の家賃の残りがあるから」
「おう」
「きちんと服は着ていくんだぞ」
そこまで言い含めるとヒモはちょっとむっとなった。俺は子供じゃないぞと赤い瞳が主張する。しかし視線を下せばヒモはパンイチである。赤い視線にも説得力がない。そろそろ夏も終わるのだから服を着てほしい。出来れば長袖長ズボンがモアベターである(ヒモは胸から腕にかけての入れ墨と色んな場所の傷跡の威圧感が大変市井に悪い人間だ)。そう言うと「ハイキングに行く小学生か?」と聞かれた。なるほど、日差しはまだまだ厳しい。帽子をかぶるなら先月買ってきた麦わら帽子はやめておけと伝える。あれはあれで、庭仕事をしているならまだしも町中で成人男性がかぶっているとなかなか怪しい。ヒモは今度こそなにも言わなかった。
気もそぞろで仕事を終わらせた。あまりにそぞろな様子が出ていたらしく、職場の同僚に心配された。
慌てて帰ると黒猫さんはヒモが抱いたランチバックの中ですっかり眠っていた。一日中家にいるヒモに珍しく構ってもらえなかったからかイリヤが拗ねていたので、ちょっといいおやつをあげた。可愛い。
黒猫さんのくしゃみは、冷えて体が弱っているだけだろうとの事だ。暖かくして沢山食べること。一応抵抗力を上げるくすりをもらってきたとヒモが粉薬を見せた。くしゃみが止まったら予防接種にきてくださいねと言われたらしい。病気の類いは無いとのことなので、目を覚ましてからイリヤと対面させてみる。探り探りで対面する子猫さん二匹の可愛さに私の理性が熔けかけて、狂ったように激写しているところをヒモにドン引きで見られた。ローキックをかましておいた。
子猫さんたちはとりあえず喧嘩はしていない。お互い良い距離を探り合っているような雰囲気だ。相性は悪くないらしい。良かった。


9/7

一昨日医者に栄養のあるものをと言われたのを覚えていたのか、ヒモがイリヤとクロエに猫缶を買ってきた。特売になってない、ちょっと良い奴だ。
このランサーというヒモ男は、光熱費もネット代も払わないが猫のエサだけは律儀に毎回無くなる三日前には買ってくる。
普段のカリカリよりグレードの高い猫缶は大層美味しかったらしく、ヒモは食後一気にモテモテになっていた。膝に乗ったり肩に駆け上られたりと完全にアスレチック扱いで戯れる様を眺めていると、ヒモは何故か私に向かって腕を広げてきた。
「……ん」
「ン?」
「ん!」
エエ顔しているがパンイチの男の胸に飛び込む趣味はない。 別に猫さんたちが羨ましかったわけではない。
ちなみにヒモは猫さんたちに爪を立てられて傷だらけになっていた。いい気味だ。


9/9

夜、ヒモが近所の雑貨屋で買ってきたリボンを御揃いでイリヤとクロエに付ける。白猫のイリヤにはピンク、黒猫のクロエには赤が良く映えている。こういうセンスは中々いいのだ、このヒモ。
私が子猫さんたちの写真を撮る機械と化していると、不意打ちでヒモに髪を触られた。私としたことがヒモに背後を許すとは、油断していたとしか言いようがない。
動くな動くなとうるさいので黙って触らせていると、どうやらヒモは子猫さんたちだけではなく私にも髪ゴムを買ってきたようだった。解放されて五秒で外して見ると、生成りの生地のリボンのついたものだった。
「いつも色気ねぇゴムで留めてんなと思ったから」とのことだった。とてつもなく余計なお世話である。こんなものを買うくらいなら光熱費を払ってほしい。
まぁ買ってきてしまったものは仕方がないので明日から使うことにした。悔しいがこういうセンスは中々いいのだ、このヒモ。
どうでもいいが雑貨店ででかい男がリボンだのヘアゴムだの買っていく様子はとても怪しいなと思った。今度行くときは私に声を掛けるように言っておく。女が一人いるのと居ないのとでは不審者具合が違うだろう。
何を勘違いしたのかヒモがデートかそうかそうかと言い出すので、とりあえずローキックをお見舞いしておいた。


9/10

朝食を食べていると、ヒモが「今日オレ出かけるから」と言う。
日長一日猫と戯れたりゴロゴロしているのが定職でございという顔をしている人間にしては珍しい発言だったので、きちんと服を着てから家を出るようにと言い含めた。ヒモはやっぱり不満げな表情をしていたが、黙って朝食を平らげていた。
仕事に出てからそういえば何時に帰るのかというのを聞かなかったと思いついた。夕方までには帰るのか。夕食は食べるのか。きちんと確認しておけば良かった、と思いながら残業して帰る。夕食は一応二人分作ることにしてスーパーに寄った。最悪、明日の昼食か、私の弁当のおかずにでもすればいい。
帰ってくるとヒモの姿はまだなかった。夕食の用意をして暫く待ってみたが、日付が変わる前に自分の分だけ夕食を食べて眠ることにした。泊まりなら泊まりと言えとメールの一つでも送ってやろうと思って、気付いた。そういえば私はヒモのメールアドレスを知らない。そもそもメールという手段があるなら夕食の用意もそれで聞く。というかあの男は携帯だとかいうものを持っているのだろうか。奴の分まで携帯料金を払った覚えはないので、持っていないのだろうと思う。
眠る前に布団の中で携帯の契約について改めて調べる。出費が増えそうでため息が出た。
まだ本格的に寒くなる気配はないが、イリヤとクロエが布団の近くで眠るようになった。とてもかわいい。
そろそろ秋用の布団を用意しようと思う。


9/15

ヒモが帰ってこない。
あの男が出かけてから今日で五日になるらしい。久々にしっかりとした休日だったので、午前中に溜まっていた家事を一通りこなす。二人分の布団を干すのはやはり骨だ。こんなときこそはヒモに手伝ってもらおう、と部屋に呼びかけて、居ないことを思い出した。どこをほっつき歩いているんだあの男は。
午後は買い物に出かけた。猫さんたちのエサが切れたので、それも買いに行く。中々の重量になってしまって骨が折れた。そういえば普段はヒモが彼女らのエサを買っていたのだ。猫さんたちの夕食もヒモが与えていた。
私の帰りが遅くなるとイリヤもクロエも玄関で待ち構えているようになった。ちょっとかわいそうだが、玄関マットでころころしている子猫さん二人は震えあがるほど可愛い。
これがヒモが居る時だとパンツ一丁の男が出迎えだったりするわけで、どちらが一日の疲れをいやすかなんて言うともう格段に前者なのだった。
しかし本当にどこをうろついているのだろうあの男は。きちんと服を着て行ったのか。公序風俗に反していないか。それだけが心配である。


9/17

ヒモはまだ帰ってこない。
さすがに、まともな服を着て行かなかったせいで公僕のお世話になっているのではとか、我が家に居る感覚でパンイチになって公僕のお世話になっているのではとか、そうでなくても死んでいるのではとか若干心配になってきたが、良い歳をした、家族でもない男の捜索願を出すというのもなんとなく馬鹿らしい。馬鹿らしいし、やり方もわからない。捜索願というのは出されたことこそあれど出したことというのは無い。
というか捜索願は他人でも出せるのだろうか。軽く調べてみたら保護者、配偶者、その他の親族、または監護人に限るらしい。ヒモと私は無論結婚していないので、配偶者ではない。親族でもない。無理じゃないかと思ったが、保護者という観点はどうだろうか。私はものすごくヒモを保護していると思う(金銭的に)。ここをごり押せば行ける気がする。
一応二人分作った夕食にラップを掛けながら、あるいは出て行ったのかもしれないな、とぼんやり思った。随分前からちゃぶ台に置いたままになっていたヒモへの置手紙が風で床に落ちたらしく、子猫さんたちのおもちゃになっていたので新しく書き直す。「おなかが減ったら冷蔵庫にごはんがあるのでチンして食べること」
最近雨が続いて少し寒い。イリヤとクロエを布団に連れ込んで一緒に眠ることにする。


9/25

ヒモ、襲来。人が風呂に入ろうと油断してヒモよろしく下着姿で廊下を歩いている時に限って帰宅するのがこの男である。いい加減にしてほしい。私が普段から下着姿でうろつく女みたいなレッテルを貼らないでほしい。
「ただいま」
「おかえり」
そういえばヒモにおかえりを言ったのは初めてだったなと思った。大体この男は私が仕事から帰ってくるとパンツ一丁で私を出迎える。今日はパンツとブラジャーで私がこの男を出迎えた訳で、普段と真逆だと思うとなんだか不思議な心持だった。
ヒモは私の手のひらほどの裂傷と脇腹に風穴をこさえて帰ってきた。帰ってくるなり汗まみれだわ火薬臭いわ何事かと思ったら汗まみれどころか血まみれなのだった。いい加減にしてほしい。お前が汚したこの玄関マットはイリヤのお気に入りだぞ。畳の部屋(我が家は日本家屋だ)に通して畳を悪くされると困るので、とりあえずヒモを三和土で待機させて、廊下にビニールシートを敷いて迎え入れた。文句を言うかと思ったがヒモは唯々諾々と三和土で突っ立っていた。そういうところが素直なのは美点だなと思った。
ついでに言うと、帰ってきたヒモはそこそこ仕立てのよさそうなスーツも身に纏っていた(風穴や血ぼこりの汚れを除く)。服を着ていた! というかこんなにフォーマルな服があるのなら普段からきちんと着ていてほしい。いや普段からスーツで居られるのも嫌だが、こういう格好のこいつとなら、時々ヒモがほざく通り、ちょっと良いイタリアンとか行ってみてもいいかもしれない、と思わせられた。何度も言うようだが、見た目だけは良い男なのだ、このヒモは。
それはともかくとして腹の風穴と切り傷をどうにかしなくてはならない。病院は? と聞く。行きたくないという。警察は? と聞く。もっとやだとだだをこねる。子供か。
このままヒモの開きをパカパカさせておくわけにもいかないので、とりあえず裁縫道具などで応急処置することにした。
「お前良い女だなぁ」と青い顔のヒモが汚れた手で私の髪を撫でた。当たり前だ。私はお前を拾ったんだ。責任もって傷の手当てくらい、する。
そんな風になんかエエ感じのラブシーンをやってはみたが私は下着姿なのである。しかもベージュの下着姿なのである。ヒモが居ないからとかではないが、下着に気を抜いていた。ベージュのババ臭い下着姿の女に向かって愛を囁く瀕死の男がそのまま意識を失ったので、ビニールシートを駆使しつつ布団に寝かせることにする。まさか成人男性を担ぐ日が来るとは思わなかった。やればできるものだ。
とりあえず脱がせたジャケットからベレッタM84が出てきた。流出品かなと思う。昔父から教わったのを思い出しながらメンテナンスして、子猫さんたちがおもちゃにしないように戸棚の中にしまっておく。スーツはどう見ても家で洗えるようなグレードのものではないのでクリーニングだが、風穴が空き血の付いたシャツやスーツを持ち込むのはどうなのだろう。悩む。


9/26

ヒモが布団で死んでいる。いや一応生きてはいるが三分の二くらいは多分死んでいる。傷のせいで熱が酷いのだ。
人間の体は風穴とか切り傷を残したまま生きていけるようにはあまりできていない。感染症の疑いがある。血だって止まっていない。そういうことを伝えると傷口を焼いてくれと言われた。お前の肋骨はスペアリブ気取りか? ハリウッドだって最近そんなグロ治療をしないというのにこいつは何を言い出すんだと思った。
このままだと残りの三分の一も死にかねないので、死ぬ前に病院に行くように説得する。治療費くらいは出せると言ったが聞かない。
言い争う内に熱で錯乱したのか急に盛られたのでボディーブローで鎮める。ヒモの生き残っていた三分の一のうち二分の一くらいが死んだと思う。ヒモの命、残り六分の一。この六分の一をなんとか守らねばならない。


9/27

今日こそはヒモを救命救急に担ぎ込もうと決心する。
だいたい、今日で二欠勤なのだ。いくら余っている有給にしておくと上司が言ってくれているとはいえ、このままの調子では払える治療費も払えなくなる。
気を抜くとすぐに動き出そうとする迷惑なけが人を見張るようにイリヤとクロエに頼んで(胸の上で眠ってもらった。これで動ける人間などおるまい)別室で119をダイアルしているところで、来客があった。
玄関を開けると角の屋敷のあたりで見かけたことのあるドえらいイケメンが我が家の玄関先に立っていた。なんの蜃気楼かと思ったが本物だった。
このイケメン、近所の奥様会議でもたびたび口頭に上る。ハリウッド俳優も卒倒するようなイケメンなのだが常ダークスーツの襟一つ乱さず黒塗りの長い車から颯爽と降りることで有名だ。そんなイケメンがなぜ我が家に。
「ここにランサー殿はおられますか」
ランサーというのはヒモの名前である。居る。居るが、あからさまに怪しいこのイケメンにうちのヒモの存在を明かしていいものか? あからさまに怪しいのはうちのヒモも良い勝負だが、怪しいとはいえヒモはうちのヒモである。
私が大変迷っていると、背後からヒモの声がした。おういるぜとかそういうことを言いたかったようだが掠れていてなんだかよくわからない事を言っていた。振り向くとヒモは壁に寄りかかって立っている。パンツ一丁で。いや、これは一昨日スーツを脱がせてから体を拭くときに横着して服を着せなかった私が悪い。
しかしこいつ、イリヤとクロエの完璧な寝かしつけを跳ねのけここまで来たというのか。化け物か、と私が戦いていると、
「いや、あいつら勝手に起きてどっかいったぞ」
見れば廊下の奥で餌皿のある居間へ向かうクロエの姿が見えた。
「なるほど、おやつの時間か……!」
「御子、大変お待たせしました。準備が整いましたのでこちらへ」
「おう、待て、服だけ着てくる」
イケメンがヒモを引き取っていった。イケメンがご心配をおかけしましたと差し出してきた茶封筒を叩き返した私をヒモは笑った。
私の髪を撫でて、心配すんな、絶対連絡する、帰ってくるとヒモは言った。いや別に帰ってこなくていいし、帰ってくるなら光熱費を払えと返した。上手に平静を装えた自信がない。イケメンに半ばのっかかるようにしてヒモが出て行った玄関でしばし佇んだ。外からは車の発進音がして、どこかへ行くのだろうと思った。
イリヤとクロエが心配そうに私の足元にすり寄ってきた。可愛かった。
玄関マットには一昨日のヒモの血がついている。新しいのを買わなければと思った。


10/5

ヒモ、襲来。職場にて。
もう殺すしかないと思った。先々週、何とかしてこの六分の一を守らねばと静かに決意していた私に告ぐ。今すぐその男の傷口に指とか突っ込んでおけ。
また一週間近く音信不通になったかと思えば、急に職場に現れて、受付嬢を口説いている。殺そう。はやく殺そう。その間桐嬢には高校時代から連れ添った恋人がいる上に彼女のおじいさまは地元でも有数の地主さんだ。ついでにいうと姉は物理的にもとても強い。握りつぶされたくなければやめておけ。
襟首をつかんで間桐嬢から引き離し、何をしに来たいつの間に戻ってきた連絡をするとかいっていた口はどこに忘れてきたとかいう不満をぶちまけようとした所、それよりも先にヒモが全力で私の肩をゆさぶった。
「お前何でオレの電話着拒してやがる!」
覚えがない。
「覚えがないじゃねぇよ、ここんとこちょいちょい掛けてたのにお前毎回毎回……!」
余り揺らされると胸が揺れて痛いのでやめてほしかった。考えてみるとここ三日ほど未登録の番号から執拗に電話が掛かってきていたのを思い出した。昨日の夜、またかかってきていたのを見て流石に着信拒否したのだったか。
ヒモはとうとう着信拒否されたのを儚んで入院先から外出許可をもぎ取って乗り込んだとのことだった。何処に行っても迷惑なけが人である。
とりあえず着信拒否を解除して番号をヒモで登録した。ヒモの退院の予定はまだしばらく先らしいので、近いうちにテレビカードでも持って見舞いに行ってやろうかな、とは思った。

Comments

  • 幽霊のお化け
    Jan 13th
  • わんわんお
    September 20, 2024
  • August 3, 2022
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