世界から遅れる日本の性教育 学習指導要領の「歯止め規定」維持へ
日本の性教育は遅れていると言われて久しい。授業で性交や避妊について教える小中学校は少なく、これが性被害に対する正しい知識の取得を妨げているとの指摘がある。教える内容を定めた学習指導要領に「受精」や「性交」について授業で扱わないとする「歯止め規定」があり、多くの教員と学校に長らく二の足を踏ませる要因となっている。
指導要領はいま10年に1度の改定作業中だが、この規定を維持するか否かは議論のテーブルにすら上がっていない。
指導要領の中身を議論する有識者会議の複数の委員は毎日新聞の取材に「今後も議題には上がらないだろう」と話しており、規定は次期指導要領でも維持される可能性が高い。
歯止め規定は1998年に設けられた。小5理科の「動物の誕生」を教える際に「人の受精に至る過程」について、また中1保健体育の生殖に関する項目で「妊娠の経過(性交)」についてはそれぞれ「取り扱わない」と明示されている。
文部科学省は指導要領を超える内容でも教室での一斉指導ではなく、少人数の個別指導なら教えていいとの立場だ。
ただ、個別指導が必要な児童生徒の選別から教える内容まで学校現場に委ねるのは負担が大きい。家庭で教えるべきだとの意見も根強いが、保護者が等しく正しい知識を持っているわけではない。
歯止め規定が導入を妨げているとされるのが「包括的性教育」だ。男女の生殖器の仕組みなどにとどまる現行の性教育に対し、人権を基盤に人間関係や性の多様性、ジェンダー平等を幅広く体系的に学ぶ。
具体的には、幼少期から下着で隠れる部位などは他人に見せたり触らせたりしないことや性交により妊娠に至る人体の仕組みのほか、同意のない性行為は性暴力であることや、望まない妊娠を防ぐ手段について科学的な知識を教える事例がある。
性被害防止につながるとして、包括的性教育の充実を訴える声は根強い。性に対する理解が不足したままSNSを介して性暴力に遭って望まない妊娠をしたり、性感染症に罹患(りかん)したりするケースがある。海外では早期に包括的性教育を実施することで、若者が性行動に慎重になるという研究結果もある。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)などが2009年に発表した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」に基づく包括的性教育では、性交や避妊法などは9~12歳の内容に位置づけている。国内の義務教育で「歯止め」されている内容が、国際基準では小学校中・高学年段階に当たると分類されていることになる。
教員らでつくる一般社団法人「“人間と性”教育研究協議会」(性教協)などは歯止め規定の撤廃を求めて署名活動をしており、2月末時点で約4万5000筆が集まっている。
星野恵代表幹事は「現行の指導要領は教育現場の実態にまるで合わない。あと10年続くと、多くの子どもから性を学ぶ権利が奪われる」と訴える。【西本紗保美】
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