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【槍弓】帰ろう、【全文公開】/Novel by 八門

【槍弓】帰ろう、【全文公開】

23,886 character(s)47 mins

1/28 第11次 ROOT4to5にて無料配布いたしました、拙作
「アジの南蛮漬けが、冷蔵庫の中にあったのに、(novel/8932942)」の
ランサー視点+後日談です。

多数のご要望、本当にありがとうございます。
イベントが終了いたしましたので全文公開いたします。

イベントに置きましては多数のお運びありがとうございました。
もろもろの不手際申し訳ございません(主に部数的な意味で)。
新刊につきましては通販を準備中ですので、もし機会がございましたら
お手に取っていただけますと幸甚です。

1
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惚れた男に抱かれたその夜。
自分の喉をかっさばいて
死んだ女を知っている。

それは、吟遊詩人の歌にもならぬ
悲しく無様な、あいのうた。


赤枝の騎士団の名において
行軍し、そしてその道中に
立ち寄った、ある貧しい
村の夜のこと。

「我が娘を妻にして下さい。
 貴方がたの勇名は、この
 貧しい村にすら届く。
 勇ましき勇士の話を聞いて
 いかばかりかこの小さな
 胸を高ぶらせたか」


そう言って、貧しい老夫婦が
騎士団の若い勇士に差し出した
一人娘は、お世辞にも見目良いとは
言えない女であった。

日々のいとなみに、その頬は
かさついていた。
野に出て野菜を育てる日々に。
それを売り歩く日々に。

肌はこんがり焼け、まつげも
抜け落ちていた。


勇士は当然のように唾棄した。
こんな女を抱くくらいならば
冷たい褥での一人寝の方が
よほどましだとさえ言った。

娘は涙を目にいっぱいに浮かべ、
ただその罵詈雑言を聞いていた。

憧れた、大好きな名にし負う
男が、自分をこき下ろすのを
ただこうべをたれて聞いていた。


「それでも、まあ。
 この俺から一夜の情けが
 どうしても欲しいというならば。

 すっかりすべての灯りをおとし。
 この家で最も上等の毛皮に
 その腰より上をすっかりくるんで
 寝屋で待っているといい。
 
 そうすればお前を抱いてやる」

お前が俺を誰を抱いているのかも
分からないほどに装えば
そのくだらん片恋をなぐさみにして
やらんこともない。

そう、宣告したのである。

乙女は目に涙をいっぱいに
浮かべて、ただ答えた。

――――「わかりました」と。

次の朝、彼女は死んだ。
その貧しい家に、一本きりの
包丁で、喉を突いて。

泣き叫び、地の土をつかんで、
ひとごろし、この外道と泣き叫ぶ
彼女の両親に、何が言えよう。
なんと、言い訳できよう。

それが、戦場の兵士にはよくある
事であったとは、言え。

わが部隊の兵が、一人。
いたいけな乙女を辱め。穢し。
そして、死を選ばせた。

「そなたらの娘を、この男の
 先祖代々の墓に葬らせよう。
 妻として、だ」

声を、はりあげた。

「吟遊詩人たちに、この光の御子が
 頭を下げて頼み歩こう!
 そなたたちの娘を、この男の
 妻として歌い継ぐようにと!
 ――――それでは、だめか。
 それでは、許されないか」


だが。
その娘の父と母は涙ぐんで
首をゆっくり横に振った。

「光の御子よ。どうか、ご容赦を。
 私たちの娘は、乙女のまま死んだ」

――――清らな体のまま死んだのです。

我らの謝罪は受け入れられなかった。
精錬な乙女は、そうして歴史のはざまに
葬られたのである。


「――――なんて悲しい話なの」
「……やはりそう思うか。
 我が寵姫。我が愛よ。
 聡明なるエメル姫よ。
 お前はやはり、この話を
 生々しい悲しみとし
 とらえるのだな」
「……誰を抱いているのかも
 分からぬような、褥でもいい。
 それでもいい、偽物でもいい、
 その人のぬくもりがほしい。
 その気持ち、痛いほどわかります。」
「そうか、やはりお前は優しいな」
「私が優しいのではありません。
 世界がむごたらしすぎるのです」
「それでもお前は世界を愛する」
「ええ。私が私である限り。
 私は貴方が、愛を注いでくれたら
 どこへでもあるいていけるんだ
 ――――ああ、らんさー」


Comments

  • Mo ghaol ort!
    Jan 9th
  • Yellink
    October 5, 2025
  • かきピー
    September 2, 2025
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